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シン・レッド・ライン

映画:シン・レッド・ライン あらすじ
※レビュー部分はネタバレあり

 アカデミー賞作品賞をはじめとした様々な賞を受賞し、国際的にも高い評価を得た作品。ベルリン国際映画祭で金熊賞を受賞した。

 1942年。太平洋戦争の激戦地、ガダルカナル島。
 そこに駐留する日本軍が航空基地を建設しているとの情報がアメリカ軍にもたらされる。仮に日本軍の基地が完成すればアメリカ軍の制空権が危うくなる恐れがあった。
 そのため、ガダルカナルへの上陸作戦が決行されることになる。

 上陸後にまず命じられたのは、日本軍の占領する高台の奪取。思いがけない激しい機銃掃射に遭い、後退を余儀なくされる。しかし、下された上官の命令は突撃であった…。



【映画データ】
1998年 アメリカ

ベルリン国際映画祭金熊賞受賞
アカデミー賞作品賞受賞

監督 テレンス・マリック
出演 ショーン・ペン、ニック・ノルティ、ジム・カヴィーゼル、ジョン・トラボルタ、エイドリアン・ブロディ、ウッディ・ハレルソン、ジョン・キューザック、ジョージ・クルーニー



シン・レッド・ライン
↑アメリカの第二次世界大戦の戦没者メモリアル


映画:シン・レッド・ライン 解説とレビュー
※以下、ネタバレあり

★他視点から見る戦争映画

 美しい太平洋の孤島、ガダルカナル。
 
 遠景の山々、広がる草原、丘陵のうねるように滑らかな緑の起伏。そしてなめるように吹き抜ける優しい風。黄緑色の草が風になびいて爽やかな音をたてている…。美しすぎる情景で空気を切り裂く弾丸。一歩足を踏み入れたその場所はやはり戦場でした。

 これまでの戦争映画の視点をつき破った異色の戦争映画。
 折々にふと映し出される現地の人々、色鮮やかな鳥たち。戦争の地である一方で、やはりそこには現地の人々の生活がありました。
 そして、そのひとコマが戦争をしている兵士たちをふと我に返らせるのです。

 そんな兵士たちが感じるのは生死の間際で戦っている自分と普通の生活をしていた頃の自分。その落差に悩む兵士が選んだのは部隊からの逃避でした。

 部隊に復帰した後、逃走兵として懲罰部隊に配属され、最前線に配置されることが分かっていても、つかの間の休息を求めて逃げ出さずにはいられない兵士たち。

 戦争映画に特有の息苦しさや熱気・切迫感ではなく、一歩引いた、醒めた視点で、米軍の兵士ひとりひとりの戦争を内面に迫って描く群衆劇です。

シン・レッド・ライン


 この作品は戦争映画のジャンルに分類されるとはいえ、既成の映画とは異なる視点を提供してくれる戦争映画だと思います。

 この映画は、戦争をよりドラマティックに、英雄譚として描く『プライベート・ライアン』(1998)もしくは『バンド・オブ・ブラザーズ』(2001)などと異なり、ただ淡々と、個々の兵士に起きた平凡な戦争の現実を綴っていきます。 

 これを象徴する場面があります。
 
 上官と対立し、不本意にもアメリカへの送還を告げられた者がそれに抗うことなく去っていくシーン。部下たちが上官に本国送還を思いとどまるように訴えると息巻くのですが、当人は冷静にこう告げます。

 「本国に帰って、妻や子供と静かに過ごしたい」と。ここでは、本国送還に徹底して反抗するか、せめて戦地にいられず、残念だという気持ちを表すのがある意味、戦争映画のセオリーになっているはずです。
 
 しかし、彼はそんな「勇気」ある行動をとることはありません。  
 
 戦争という究極的な場面で、人間は戦争に飲み込まれ、いつしか視野が狭くなっていきます。そして、戦争という状況下では不本意な本国送還には断固拒否の姿勢をとるべきで、それが英雄的行為であるとみなされるような価値判断がされるようになっていきます。

シン・レッド・ライン


 ガダルカナルという島は、戦場であるけれど、他方では現地の人々の生活があります。同様に、自分にとって戦争は人生の一面にすぎないことにも気がつかない。
 そんな中で、絶対に忘れないはずの祖国の記憶も、戦争という極限の状況下で麻痺した意識の下に追いやられていく。生死を賭けて戦う前線では生き残ること以外は考えていられないからです。

 そして、気がつかぬうちに、いつの間にか戦争が全ての判断基準になっていくのです。

 本国送還になった兵士はその通知を受け取ったことで、忘れかけていた自分を取り戻し、戦争のループから自分を追い出すことに成功したのです。
 
 彼にとっての「勇気」とは生きて祖国に帰ることでした。

 大ヒットを狙える作品ではありませんが、「人間」というものの存在を戦争というフィルターを通して表現した作品として、こういった戦争映画もあっていいと思います。

シン・レッド・ライン


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