※レビュー部分はネタバレあり
アル・パチーノ主演。野心に溢れた若き青年がギャングの帝王にまで登りつめた末に迎える結末を描く一大ピカレスクロマン。
しびれる映画。それがスカーフェイス。
1980年、キューバからフロリダ州マイアミにやってきた青年トニー・モンタナ。
移民収容所での殺人依頼を受けたことをきっかけにしてアメリカ裏社会に入ることになる。
最初は下働きとして組織の仕事をするトニーだったが、次第にのし上がり、ついにはマイアミの麻薬密売網を押さえて権力と富を手にすることに。そして、その後にトニーを待ち受ける運命を描く。
アル・パチーノを観る作品。オリバー・ストーンの脚本も手堅いが、アル・パチーノが演じなければ忘れられ、埋もれてしまう作品の一つになったろう。
特に後半のシーンは、場合によっては急に安っぽいアクションになり下がる危険のあるシーン。これを見事演じ切って、栄華を極めたギャングのボスとしての貫録を見せたアル・パチーノの演技力に脱帽。
【映画データ】
1983年 アメリカ
ゴールデン・グローブ賞3部門ノミネート
監督 ブライアン・デ・パルマ
出演 アル・パチーノ、スティーブン・バウアー
映画:スカーフェイス 解説とレビュー
※以下、ネタバレあり
★失敗作?
公開当時はヒットせず、失敗作といわれたこの作品。
それでも、やはり失敗作ではないと思います。
それは、前半の野望と自信にみなぎったトニーのエネルギッシュな生き方。
これに対比するかのように、警戒心の解けない危険な生活から人を信用することを忘れ、ドラッグに溺れ、狭量で独りよがりな生き方によって自滅していく男。
この一大詩が観客にロマンを感じさせる映画になっているからです。
★アル・パチーノ
本作でトニー・モンタナに扮したアル・パチーノはそのキャリアの中で多くのマフィアやギャングの役を演じています。
代表作『ゴッド・ファーザー』(1972,74,90)ではマフィアのドンの家に生まれ、教養もあり、オペラを楽しむ頭脳明晰なイタリア系紳士としてマフィアのドンの一生を演じ、『フェイク』(1997)では一転して、長年組織に忠実に仕えてきたのに昇格できない、組織のさえない一構成員を人間味と哀愁の漂う役柄として演じました。
本作ではキューバからやってきた、粗暴だが、ギャングとしての鋭い嗅覚で、一気にのし上がった野心家の麻薬王を見事に演じ切っています。まさに三者三様、それぞれがまとう空気感までが違って見えるようです。
★トニー・モンタナの死
今回の役柄ならではの場面がラストのアクション・シーンでしょう。
自宅の豪邸で吹抜けのバルコニーに立ち、襲撃者たちに向かって銃を乱射するクライマックス。撃たれているのにまた立ち上がり、体を傾かせながら命が尽きるまで銃撃戦で対抗するトニー。
急に映画が変わったかと思うような唐突ささえ感じさせる見せ場のシーンですが、「あり得ない」展開として観客を白けさせません。
それは、観客がトニーのアグレッシブな生きざまと壊滅的な精神状態を見てきているから。トニーならこうするだろうという説得力がそれまでの経過にあるからです。
さらに決定的なのは、トニーが目玉をぎょろつかせながら狂ったように銃を撃ちまくる姿。その鬼気迫る目つきに引き込まれて、他が見えなくなってしまうほどです。
味方は全員死に、もう自分しかいません。圧倒的に不利な状況下であるにもかかわらず、不思議と無駄な抵抗には思えないのです。トニーの存在感は一人で十分な迫力を備えて観る者に迫ってきます。
たとえ、襲撃がなかったとしても、このときのトニーの最期はもう破滅しかありえませんでした。
裏社会の数々の陰謀や姦計、そして裏切りにもあの手この手の方策と豪胆な態度で乗り切ってきたトニー。 しかし、キューバ時代からの友人を自分の手で殺してしまい、最愛の家族であった妹も死にました。部下の人心は離れていき、当の本人は重度の薬物依存に陥っています。 彼のこの絶望的な状況と破滅的な精神状態が生み出した最後の華。
それがラストの銃撃戦であり、トニー・モンタナが考える、彼にふさわしい死であったのです。
★トニー・モンタナという生き方
方法はなんであれ、そう、たとえそれが違法な取引であったとしても、トニーは金持ちになるという目標のためにがむしゃらに生きた人でした。
結局、金はトニーを幸せにしなかったし、ドラッグの密売はトニーの命取りになりました。トニーが目標に近づこうとすればするほど、手に入れたいものは遠のいていったのです。
しかし、トニーのしたことやその目的の是非はともかく、その生き方になぜか憧憬を覚えるのは彼がとにかく目的のために最初から最後まで懸命で迷いがなかったというその事実。
いったい、どれだけの人が自分の信じるものと目標のためにあれだけ必死になれるでしょうか。
『スカーフェイス』とは属するジャンルが全く似ても似つかぬ作品だけれど、『遠い空の向こうに』(1999)というロケットに夢をかける高校生たちの映画と同じ感覚を味わうのです。
もうちょっと、自分の目標のために粘ってみてもいいじゃないか、と。