※レビュー部分はネタバレあり
砂と霧の家。みなが欲しがった家は本当にそこにあったのだろうか。
ジェニファー・コネリーにベン・キングスレーの競演で魅せる、一軒の家を巡る人間たちの運命のドラマ。
亡き父親から受け継いだ海の見える一軒家。キャシーは夫に出ていかれ、その一軒家で無気力な毎日を送っていた。ところが、郡から税金滞納で差押えを受け、彼女は家を追い出されてしまう。
あわてた彼女は弁護士に相談したところ、郡の手違いで、本来、差押えはされるべきでなかったことが明らかになるが、家は既に競売にかけられて人手に渡っていたのであった。
郡からの賠償金を拒み、家の返還を請求したいキャシーはかつて自分のものであった家に向かう。父の遺産である家は彼女にとって大切な場所であり、人手に渡すべき家ではなかった。 一方、現在そこに住んでいるのはイラクを追われ、家族ともどもアメリカに亡命してきたベラーニ大佐の一家であった。
海の見える一軒家は故郷の別荘を思い出す場所。やむなく故国を捨てた一家にとってもまたこの家は心の拠りどころになっていたのであった。
『砂と霧の家』というタイトルがよび起すのはざらついた感触としっとりとした水の感覚。そして、砂と霧のどちらにもかたちはない。
キャシーとベラーニ大佐の見た家=「Home」 はどこにあったのだろうか。
【映画データ】
砂と霧の家
2003年 アメリカ
監督 ヴァディム・パールマン
出演 ジェニファー・コネリー,ベン・キングスレー,ショーレー・アグダジュル
映画:砂と霧の家 解説とレビュー
※以下、ネタバレしています
★砂と霧の家 -「Home」-
いろいろな意味を持つ「Home」という言葉。家、故郷、家族。
それぞれが「Home」、すなわち、家を求めた末の悲劇。
キャシーも、ベラーニ大佐も、誰もが家を求めていました。
そして、最後になって、それぞれが悟る自分の家。
それは「家族」。
ある者は家族が何かを悟り、ある者は家族を再発見し、ある者は家族を取り戻そうとします。それは、もう遅すぎた真実だったのだけれど。
砂と霧の家はそれぞれの「Home」発見のドラマなのです。
★砂と霧の家 -それぞれの思い-
キャシーは夫に出ていかれ、孤独に耐えきれない毎日。毎日の生活も乱れ、税金の督促状にも気がつかない始末。
一方、ベラーニ大佐は妻と息子の3人家族。一見幸せな家族にみえますが、彼は亡命中の身でした。故郷を捨てざるをえなかった彼は再出発の起点に偶然、競売に出ていたキャシーの家を選びます。
何かにつけて思い出す、忘れられない故郷。故郷に似た懐かしい景色を見るために家を改築してベランダまで付けることに。
ところが、キャシーにとっては父から相続した大事な家。物理的に住む家であるだけでなく、精神的な拠りどころでもありました。その家を失った上、他人に勝手に改造されることに心を踏みにじられる思いでした。
キャシーは保安官のレスターと暮らし、一時の安定を得たつもりでしたが、彼には妻子がいました。
レスターが妻子の元に戻っていったとたんに押し寄せる怒りと悔しさ。その感情は、今はベラーニ大佐の所有となっている、かつての自分の家に足を向けさせました。
彼女の感情はベラーニ大佐への怒りとなって表出されます。でも、実は彼女の感情は怒りではありません。彼女の怒りは寂しさの裏返しでした。
高熱をだした彼女を介抱したベラーニ大佐の家族はキャシーに対して丁寧に、親切に接してくれます。
思わぬところでふれた優しさと温かさ。その好意を受けたキャシーは自分が欲しいものが何であったのかを悟るのでした。
彼女が欲しかったのは今あるこの空気。家族という温かさだったのだ、ということを。
★砂と霧の家 -悲劇の連鎖-
ベラーニ大佐の一家はこの家をキャシーに返そうと真剣に考え始めます。その矢先に起きたレスターによる大佐一家の監禁とベラーニ大佐の息子の死。
ベラーニ大佐はこのときになって悟ります。本当に大事なものは家族なのだと。
故郷を離れてアメリカで再出発を決めた一番の動機は息子。
息子の未来を夢見て故郷を捨ててきたのに…。その息子を失った上に、もはやなつかしい故郷にも帰れないという現実。
愛する故郷と、そして何より大切な息子。二つの家を失った大佐に残されたのは絶望でした。
そして、刑務所に入れられたレスターは初めて、自分が捨ててしまった妻と子供たちの存在の大きさを悟ります。彼も、また家族という存在を見失っていた一人でした。
★砂と霧の家 -最後に-
キャシーが求めていたのは家族。
ベラーニ大佐が求めていたのは故郷と息子の将来。
それぞれが家族と故郷を一軒の家に見ました。
そして、事件を経て悟ったこと。それは、一軒の家はただの入れ物でしかないということ。
ベラーニ大佐とキャシー、そして恋人のレスターが本当に求め、大事にしたかったものは、「家族」であったのです。