※レビュー部分はネタバレあり
ジュール・ベルヌの原作をもとに映画化されたタイムマシン。時を超えたタイムマシンでの時間旅行の先にあるものとは…。
1890年代のNY。アレクサンダーは大学教授として研究に没頭する傍ら、恋人のエマもいて、充実した毎日を送っていた。しかし、ある日、強盗に襲われたエマはあっけなく命を奪われてしまう。
悲しみにくれるアレクサンダーであったが、研究を重ね、ある計画を実行に移すことにする。そう、タイムマシンで時間を移動してエマの命を救うのだ…。
果たして運命は変えられるのか。アレクサンダーの時間旅行が始まる。
【映画データ】
タイムマシン
2002年 アメリカ
監督 サイモン・ウェルズ
出演 ガイ・ピアース、サマンサ・ムンバ、ジェレミー・アイアンズ
映画:タイムマシン 解説とレビュー
※以下、ネタバレしています
★タイムマシンという映画、原作はベルヌ。
幸せだった二人が引き裂かれ、それからというもの、狂ったように研究に打ち込むアレクサンダー。それでも救えない最愛の人、エマ。
前半のストーリの運び、80年代のニューヨークの映像の雰囲気の良さに良作の予感を感じて見始めました。
しかし、後半の急展開にけむにまかれてしまいました。
タイムマシンの爆発・格闘シーンと派手なアクションになり、モーロック(地底人)を一人残らず殺して新しい恋人と幸福に暮した、というあまりに強引な筋運び。
ジュール・ベルヌの原作が好きで公開当時、見に行きたかった記憶がある映画なのですが。
原作タイムマシンと比較して似ている、違うといって映画のタイムマシンを見るのも面白いのです。
特に、ベルヌの原作タイムマシンは本当に面白いし、奥の深い小説なのでそう思うところはあります。
が、映画は映画として、小説のタイムマシンとは切り離して見るべきだと思っています。
タイムマシンを映画館に見に来る人は、映画を見に来るわけで、タイムマシンという映画そのものが、評価できるかできないかが重要です。
従って、映画レビューの作法として、原作と違うとか、改変されすぎているとかいうのは評価の基準にすべきではないでしょう。
★2030年、未来の人類が遂げた進化。
さて、本題に戻って、それでもこの映画は、特に後半が、かなり評価の困難な作品です。
エマを助ける方法、過去を変える方法を聞きに未来へ行ったはずなのに、「未来を変える」と突如としてモーロックに対する攻撃に出る主人公。
そして、タイムマシンを自ら放棄してしまう。
なぜなら、それはエロイたちを助けるため、なのですが、そこに至る心理描写が弱いので、説得力に欠けるのです。
アレクサンダーがあれだけエマに執着心を燃やし、家に引きこもって友人さえ寄せ付けず、研究に研究を重ね、死後4年もかけてタイムマシンを造った割にはあっさり心変わりしたようにみえます。
彼は一度、過去に戻った時にエマを救えませんでした。そこで、未来に行っても過去を変える方法はないと悟り、女性とのの新しい人生を選んだ、という筋は分かります。
それなら、その間の彼の心情表現を重視すべきでした。
タイムマシンを造って殺された恋人を救う、というその目標のために思いつめた表情で必死になっていたアレクサンダーが、それでも恋人を救えないと分かったときの苦悶や悔しさは、どのように未来で生きる希望へと転化していったのか。
タイムマシンの研究に励み、それでも恋人を救えなかった彼が、未来で失った恋人に匹敵する女性に出会い、ついに人生の分岐を選択する決心をするという心境変化には描くべきところがたくさんあります。
一番納得できないのは地底人=野蛮人モーロックと地上人=善人エロイの善悪二元論に帰着させる脚本の浅はかさ。そもそも、もとは同じ人間だった者たちが善と悪に分かれて進化する、という発想自体にあまりに単純な二元論があります。
人間は善と悪で区切れるほど、単純な生き物でしょうか。
そんな簡単な世界は子供だましの極論で、ありえません。
後半のアレクサンダーの大活劇はモーロックが絶対悪であることが前提で許される元・人間同士の殺し合いなわけで、善であるエロイが勝利し、平和を手に入れることになります。
野蛮なモーロックから、弱いエロイをアレクサンダーが命を投げ出して救うという構図。アメリカの視点から見た、現実の国際関係の縮図に見えます。
★そして、現在と未来のそれぞれ。
家政婦の女性がアレクサンダーの部屋から出ようとして、名残惜しいように佇むシーン。最後の友人が悟ったように振り返るシーン。
そして、スクリーン上で融合する未来と過去の並行世界。
アレクサンダーが熱中していたタイムマシンが何らかの成功を得て、もう戻ってこないことを悟り、友人たちは寂しさを感じながらも、彼の幸せを祈っています。
そして、未来ではアレクサンダーの掴んだ幸せな生活。ようやく落ち着くことができた、その幸福感が胸にしみる秀逸な描写でした。
こういう表現ができるのか、と感銘を受けたラストでした。タイムトラベル物のなかでも指折りの名シーンだと思います。