※レビュー部分はネタバレあり
バニラ・スカイ。この映画では、トム・クルーズがマンハッタンに住み、フェラーリを乗り回すプレイボーイのハマり役で主演。『宇宙戦争』で見せた中途半端な労働者役は頂けなかったが。
ぺネロぺ・クルスの可憐さ、愛くるしい、という言葉がぴったりのかわいらしさ。そして、女の激情を見せるキャメロン・ディアスの2人の女優がきっちりと脇を固めている。
バニラ・スカイはスペイン映画、オープン・ユア・アイズ(1997年)のリメイク版。ぺネロぺ・クルスはリメイク前の『オープン・ユア・アイズ』でもバニラ・スカイと同じ配役を務めている。
バニラ・スカイの解説とレビューでは、ラストまでの流れを解説、バニラ・スカイに込められた意味まで明かします。
↑バニラ・スカイというと、こういう色の空をいう.
父の出版会社を継ぎ、富も名声も得たディヴィッド。端麗な容姿が自慢の彼はつきあう女性には事欠かない。今、つきあっているジュリーも美人だが、彼は遊びだと割り切っている。
そんなある日、ディヴィッドは一人の女性、ソフィアに一目惚れしてしまう。彼女はブライアンの紹介でパーティに来たのだった。
しかし、その心変わりをジュリーが見抜くのは早かった。ディヴィッドを隣に乗せ、怒りにまかせて運転するジュリーの車が暴走し、ついに事故を起こしてしまう。
ディヴィッドは辛くも一命を取り留めるものの、顔に大きな傷跡が残ってしまった。
衝撃を受けるディヴィッド。そして、次第に夢と現実を彷徨うように。彼のなかでその境が曖昧になっていく。
【映画データ】
バニラ・スカイ
2001年・アメリカ
監督 キャメロン・クロウ
出演 トム・クルーズ,ぺネロぺ・クルス,キャメロン・ディアス
映画:バニラ・スカイ 解説とレビュー
※以下、ネタバレあり
★バニラ・スカイのラスト
まず、ディヴィッドは事故の後、その当時できる限りの整形手術を受けます。しかし、その手術にも限度が。
ついに彼はかつての顔を取り戻せないことを知ります。
そこで、彼は顔の整形手術ができるようになる未来まで自分を低温保存する契約をLE社と結びました。さらに、低温保存中には夢を見させるオプション契約をしています。
そして、そのあと、低温保存され、150年後に目を覚ましました。
したがって、最後にOpen your eyes…といって起こす女性はソフィアでもジュリーでもありません。ジュリーは事故で死亡しましたし、ソフィアも150年後には存命ではないでしょう。
LE社の人間か、150年後に受けた整形手術先の看護師か、それとも新しい恋人か。
ディヴィッドとソフィアが現実に会ったのは、3人でクラブで飲み、帰宅途中に別れたのが最後でした。
ソフィアを失った悲しみとブライアンへの嫉妬から絶望したディヴィッドは深夜の街の路肩で倒れ込みます。その後、ディヴィッドは低温保存され、それ以降は会社が夢をディヴィッドに見させた、ということになります。
精神科医は実在しません。精神科医には家族がいる設定でありながら、名前が出てこないのは夢の中の人物である証拠です。
この精神科医は狂言回し、話の進行役でしょう。ただし、重要なのは精神科医はディヴィッドの過去を思い出させる役回りを果たしていること。
彼がディヴィッドに語らせたのはソフィアへの真実の愛でした。
女性との付き合いを遊びでしか捉えられなかったディヴィッドが知ったのは愛というもの。夢から目覚めたディヴィッドは眠りに就いた150年前の彼とは何かが変わったはず。
恐らく、150年後の世界では手術は可能になっているでしょう。これから始まる未来の世界で、彼は今度こそ幸せを掴めるでしょうか。
と、ここまでが模範解答的な解説。公式見解的な解説だと思います。
↑タイムズ・スクエア. 映画の冒頭でトム・クルーズが無人のタイムズ・スクエアを疾走していました. かなり印象的なシーン.。
★もう一つのバニラ・スカイ、ディヴィッドが失ったもの。
バニラ・スカイ。ソフィアとディヴィッドの幸せは夢のなかのひとときだったという実に切ない恋であるわけです。
が、ひとつ、気になることがあります。
ディヴィッドは外見、とりわけ自分の顔が何より大事な男です。
ディヴィッドは低温保存されて夢を見ていたわけですが、そのディヴィッドは、元通りになったはずの顔が崩れることを始終気にしていますし、鏡に映った自分が事故後のめちゃめちゃになった顔になっているのを見て取り乱すこともしばしば。
そもそもが、150年もの間、自分を低温保存するようにLE社と契約したのも、将来に整形手術を受けてかつての容姿を取り戻すため。
さらに、現実の世界に戻るためにビルの屋上から飛び下りるディヴィッドは、顔が崩れたままなのですが、飛び降りた先は150年後に目覚める自分。そして、彼は発達した整形手術で自分の顔を取り戻せるでしょう。
ディヴィッドが自分の外見に絶対の重きを置く価値観は事故前とビルから飛び降りた後と比べても、結局変わっていません。
彼は会社の支配権を失い、友人を失い、ソフィアを失う。
ディヴィッドがそれらを失ったのは友人やソフィアが彼に対する態度を変えてしまったせいでしょうか。彼は、周りの人間が変わってしまったと思ったかもしれませんが、それは違う。
ディヴィッドがそれらを失ったのは彼自身が変わってしまったからです。
ソフィアはディヴィッドの顔が事故の後遺症で歪んだから急に態度が変わったわけではありません。そもそも、ディヴィッドとソフィアは事故前に数えるほどしか会っていないのです。
デートにブライアンと共に来たのも別にディヴィッドを嫌ったからではありません。ほとんど会ったことのないディヴィッドの誘いだったから、3人の共通の友人でディヴィッドの親友であるブライアンを連れて来ただけのこと。
かつてのディヴィッドなら一度で女性を虜にできたのでしょう、しかし、今の彼は違います。つまらなそうに酒を飲み、ダンスフロアで踊るソフィアを眩しそうに眺めるディヴィッド。
ソフィアの態度を曲解してしまったディヴィッドはブライアンに辛くあたりました。こんなとき、ソフィアが一緒にいて楽しいのは残念ながら、ディヴィッドではなく、ブライアンです。
ソフィアとブライアンの仲が深まっていくのを感じたディヴィッドは激しい嫉妬を感じました。そして、この後、LE社に低温保存され、夢に落ちていくのです。
ディヴィッドが事故によって失ったのは、完璧なルックス。
ところが、自分の顔に絶対のプライオリティを置くディヴィッドにとって、あのルックスを失うことは人生を失うと同じ。
完璧だった顔を失った彼はたちまち自信をなくし、自分の殻に引きこもってしまいます。女性たちから賞賛のまなざしを浴びたかつての顔はもうなく、代わりにあるのは人目を引く好奇のまなざしを集める崩れた顔。
外見に対する周囲の目を気にするあまり、偏屈になっていくディヴィッドはガードを固め、自分の外見のために自ら心を閉ざしていきました。そして、頑固で偏屈になっていくディヴィッドから次第に周囲の人々が離れていきます。
そんな人心を失った彼を会社から追い出すことは造作もないこと、ブライアンとソフィアは2人の道を選びました。
↑早朝のニューヨーク,マンハッタン
★ディヴィッドに必要なもの
ディヴィッドは、事故が起きたことに責任が全くないとは言えません。
ジュリーが起こした事故はもちろん、彼女に大きな責任があります。しかし、事故前のディヴィッドはジュリーをまったく思いやる気持ちがありませんでした。ディヴィッドを愛していたジュリーを遊びだと割り切ってつきあっていたためにジュリーは酷く傷つきました。
ジュリーは、父から継いだ会社の社長の地位、金、たぐいまれな容姿、と何でも持っていた完璧なディヴィッドの「美人のガールフレンド」というアイテムの一つに過ぎなかったのです。
ディヴィッドのなかではジュリーはいつでも誰とでも交換可能なアクセサリー。ジュリーはディヴィッドのステイタスを支える「物」にすぎませんでした。
ディヴィッドの心ない自己中心的な振舞いがジュリーの暴走につながりました。あの事故はディヴィッドの自業自得という一面があります。
なのに、夢のなかに出てくるジュリーは完全にディヴィッドの幸せを邪魔する悪魔のような扱い。
ジュリーの存在はディヴィッドに、自分の顔がめちゃめちゃになった過去を思い出させるトラウマ的な存在に映っているように見えます。ディヴィッドにとって、ジュリーは罪悪感の対象でもあるかもしれませんが、同時に恐怖の存在になってしまっているのです。
ジュリーを見て、畏怖している間はディヴィッドはまだ、自分というものが見えていません。
自分の人生をめちゃめちゃにし、顔を傷つけた女、としてジュリーを見る気持ちが先に立つためにディヴィッドはジュリーに萎縮してしまうのです。
ディヴィッドには最後まで、ジュリーに真正面から向きあう時間がありませんでした。ジュリーと向き合うということ、それはひいては、自分自身の今までの生き方に向き合うということでもあったはずなのですが。
ジュリーという女性は事故以前のディヴィッドの生き方を象徴する人でもありました。彼女と決別し、かつ、その存在を過去の自分として受容することでディヴィッドはもう一つ成長することができたはずです。
ジュリーとディヴィッドの和解を綺麗に描けなかったことはバニラ・スカイの最大の欠点になっています。
このまま、150年後の将来の世界で目を覚まして完璧な顔を取り戻す人生。または、目を覚ました先が自分のベッドの上で、LE社も低温保存も夢。ディヴィッドのいるのは現在の世界のままで、顔も傷ついたままかもしれません。
いずれにしても、今のディヴィッドに本当に必要なのは、人の羨む完璧なルックスではないでしょう。
↑バニラ・ビーンズ. 天然由来のもっともポピュラーな香料だ. ラン科の植物バニラが原料. バニラの香りを濃縮した物がエッセンスやオイルになる.
★バニラ・スカイの意味とディヴィッドのラスト
バニラ・スカイ。バニラ=Vanilla の意味はいろいろです。
純粋な恋愛感情、まっさらでなにもないこと、そして、香りづけのバニラ。
純粋な愛はソフィアへの恋愛感情のこと、そして、まっさらで何もない空はこれから始まる無限の可能性のあるディヴィッドの人生。
そして、香りづけで使われるバニラの意味は?
舐めてみたことありますか?バニラ・エッセンスやバニラ・オイル。
とても、甘美な香りです。ふんわり甘くて、うっとりさせる匂い。でも、舐めると苦い。とてもいい味とは言えません。
幼いころに興味半分、キッチンに入りこんで舐めてみたんですが、とても苦かった。それ以来、バニラ・エッセンスというと、あの甘い匂いとともにかすかな苦みを舌に覚えます。
甘美な恋には苦い思い出がつきもの。これは、ディヴィッドのソフィアとのつかの間の愛とその別れのこと。真実の愛は、ときにお互いを傷つけるもの。
痛みを感じない一方通行の恋愛しかしてこなかったディヴィッドが知ったのは、ほろ苦さをもった、真実の愛、というわけです。
今のディヴィッドに必要なのは、本当の愛というもの。ビルから飛び降りた先に何があるのか、もしかしたら、また夢の世界かも。人生は夢から醒めた夢なのかもしれません。
この世が夢か現実か定かでなかったとしても、ディヴィッドという人生を生きるのはディヴィッド。そして、彼の上に広がるのはバニラ・スカイ = これから始まる新しい人生なのだから。
順序どおり50音順で下って来て、ようやく『な』に到達しました。見てくださる皆さま、本当にありがとうございました。励みになります。
いったん、あ行に戻りまして、スティーブン・キング原作のホラー『1408号室』を取り上げたいと思います。
追記:1408号室アップしました。こちら
100万回死んだネコを思い出しました。
「バニラ・スカイ」、ずいぶんときが経ってしまいましたが、今見返しても、ストーリーが素晴らしいですね。
また、このような映画に出会えたら良いなと思います。
ご訪問ありがとうございました。また、感想等ありましたら、お気軽にお寄せください。
すごくわかりにくい映画でした…
どこまでが夢で、どこからが現実なのか。
ペネロペ・クルス、かわいいですね。
オリジナルの「オープン・ユア・アイズ」も見ました。
こちらにも、コメントいただいたようで、本当にコメントありがとうございます。
夢と現実、鏡の裏表のような関係にある2つの世界。現実のことだと思って、目が覚めたら夢だった、というのはよくあることのように思います。
ぺネロペ・クルスは本当に美人さんですね。個人的には「ボルベール―帰郷―」のぺネロペ・クルスもかなりいいと思います。赤い色が印象的に配された画面が多く、情熱的な彼女の顔立ちにぴったりです。
また、お越しください。ご訪問ありがとうございました。
BGMのようにかけるほど
大好きです
3人がクラブで会い、
トムクルーズが、パトロンを浴びるほど飲み、
泥酔していくシーンが
大好きです
昔見た時はトムクルーズのカッコ良さだけに
捕らわれていて
深さや奥行きなんて
感じなかったのに、
最近は、奥行きを知ってしまい、今になってはまってます。
こちらの書き込みをみてバニラスカイの題名の意味を解説していただいて更に、納得!
人生は甘さと苦さ
ホントに納得!
こんにちは。コメントありがとうございました。
「バニラ・スカイ」のトム・クルーズとキャメロン・ディアスが「ナイト&デイ」で再び、共演していましたね。あの組み合わせを見るとどうしても、「バニラ・スカイ」を思い出してしまいます。
トム・クルーズのカッコよさはもちろん、ストーリーも抜群に良くできているこの映画、公開されてからずいぶん経ちますが、コメントを見ていると、本当にこの映画を好きな人が多いのだなあと改めて感じます。
トム・クルーズが泥酔していくシーンがお好きとのこと、いいところをつかれますね・あの場面はストーリ展開上、重要なシーンです。あのときを境に現実と夢の狭間へと落ちていく。
「バニラ・スカイ」、死ぬまでに観ておきたい映画のひとつですね。
また、お越しください。お待ちしております。