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ハピネス

映画:ハピネス あらすじ
※レビュー部分はネタバレあり

 初めてみたときは度肝を抜かれた。あらすじも見ず、タイトルから甘いラブ・コメディでも想像したから余計に。
 ハピネスの冒頭は一見、恋愛映画要素たっぷり。でもその冒頭エピソードの落ちだけでもこの映画が普通じゃないことにピンとくるはず。 

ニュージャージー州に住むトリッシュは精神科医の夫ビルと息子の3人暮らし。平凡だが幸せな生活を送っている。ヘレンは流行作家だが、最近はスランプ中。一番下の妹ジョーイは移民が通うクラスで英語を教える仕事をしながら暮らす独身の女性。

 三姉妹は一見、何ごともなく毎日を送っている。しかし、そこにはそれぞれが気がつかないほころびがあったのだった。

ハピネス


 ハピネスは人間の抱えるさまざまな問題を扱っているが、中でも中心的に取り上げられるのは小児性愛、ぺドフィリア。

このテーマ自体は、アカデミー賞作品賞受賞作『アメリカン・ビューティー』(1999年)でも取り上げられている。アメリカン・ビューティーでは幼い少女に欲望を抱く男、そしてアメリカ中流家庭の崩壊が描かれていた。

 ただし、ハピネスはアメリカンビューティーの1年前に公開されている。アメリカン・ビューティーと扱うテーマに共通性はあっても、ハピネスは極限を行くストーリー展開が恐ろしいほど面白い。ハピネスはアメリカン・ビューティーよりもかなりエッジの利いたストーリー展開なのだ。その割には観終わった後の何とも言えない満足感が心憎い。

 ちなみに最後に流れるのは「ハピネス」のメロディ。マイケル・スタイブとレイン・フェニックスらによる「ハピネス・バンド」による素敵な曲だ。

 フィリップ・シーモア・ホフマンが欲求不満でイタズラ電話がやめられないの屈折した男を演じているのにも注目。ホフマンは『カポーティ』(2005)でアカデミー主演男優賞を受賞した実力派俳優ですが、ハピネスでは嫌悪感を感じてしまうほどの役にどっぷりはまった演技を披露。



【映画データ】
ハピネス
1998年・アメリカ
監督 トッド・ソロンズ
出演 シンシア・スティーヴンソン,ジェーン・アダムス,フィリップ・シーモア・ホフマン,ディラン・ベイカー
カンヌ国際映画祭 国際批評家賞



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映画:ハピネス 解説とレビュー
※以下、ネタバレあり

 アメリカ社会風刺を指向する映画はもはや珍しくない。目新しさがなくなってくる中でも一つ抜けた存在感を放つ映画、それがハピネス。カンヌ国際映画祭で賞を受賞していることを後から知って、ちょっとびっくり、そして納得でした。

 ハピネスが異色のブラックコメディであることには間違いありません。ハピネスを超える出色の映画にはなかなか出合えないでしょう。映画としての完成度も高く、レイプ願望や小児性愛など、映画で面と向かって扱いにくい素材をうまく料理していると思います。                                
 ハピネスは3姉妹を中心にしながら話が展開していきますが、本当にいろいろな人たちが出てきます。

ハピネス


★精神科医のビルとカウンセリング

 冒頭のシーン。やる気が無さそうに患者の話を聞き流しているカウンセリング中のビル。トリッシュの夫でもあるビルは精神科医です。が、実は小児性愛者(ぺドフィリア、特にこの場合は少年性愛でしょうか)。

 カウンセリングをする側の精神科医ビルが、実は自分がカウンセリングを受けるべき患者の立場にあるのは皮肉なことですね。
カウンセリングが多用されるアメリカの事情も反映して、ビルの職業が精神科医になっているのでしょう。

 さて、ビルは息子の同級生を次々にレイプし、ついに警察が家までやってきます。ビルの逮捕も間近い夜、ビルは息子とリビングで二人きりで話をします。

 このとき、ビルは自分の犯した犯罪、そして自分の中にある欲望に初めて真正面から向き合うことになりました。それまでのビルは自分の欲望を満たすことに夢中になっていて、自分のしたことをまともに考えたことはありませんでした。

 ビルはもちろん、自分のしたことが社会的に許されないものであることを知っています。しかし、罪を重ねているうちは、その罪から自分を精神的に逃がそうとします。自分のしていることをまともに考えたら、罪悪感でいっぱいになってしまうからです。

ハピネス


 そうならないために、ビルは自分の犯した罪をできるだけ考えないように、罪を犯すことで得られる快楽だけを追求していたのでしょう。

 ビルが息子に向かって口にしたのは父が少年性愛者であるという事実でした。彼は自分が少年性愛者であることをひた隠しにしてきました。

 ビルが自分の性的嗜好を誰かに打ち明けたのはこれが初めて。ビルは息子に向かってショッキングな事実を次々に洗いざらいさらけ出します。

 息子の友達をレイプしたのは自分であるということ。1人だけでなく、2人もレイプしたこと。そして、その行為から快感を得られたこと。
 さらに、息子までも少年性愛の対象であったことも話しています。

 なぜ、ビルはここまで息子に話したのでしょうか。自分の息子にここまで言わなくても、と思った人も多かったでしょう。これはハピネスというこのブラック・コメディをもっと衝撃的な映画にするための演出でしょうか?

ハピネス


★ビルの告白と再起への希望

 この告白シーンはハピネスの名シーンだと思います。このインパクトの強さ、生々しさは他に類がありません。

 ただし、もちろんそれだけのシーンではありません。まず、息子の質問に父として真摯に応えようとした、ということがあるでしょう。

 ビルは、息子の2人の友達をレイプするというひどい裏切りをしてしまいました。彼は息子と父の間に秘密を無くして親子の絆をどうにか保とうとしたのです。

 そして、それよりももっと大きな理由がありました。ビルに自覚があったかどうか、定かではありませんが、本当の自分をさらけ出すということ、これは、何よりもビル自身の再生のための第一歩でした。

 頭の中で思っているということと、それを口に出して話すことでは、自分に対して与える影響に天と地の差があります。自分自身を言葉で表現する、それは自分を改めて構築するということです。

 自分について頭の中でぼんやりと思うだけではなく、自分の口でそれを話すということ。ビルは自らの性的嗜好を洗いざらい息子に打ち明けることで、ビル自身を見つめ直すきっかけを得ようとしていました。

ハピネス


 この場合、精神科医のビルは息子に精神科医の役割をしてもらっています。カウンセリングは相手に自分のことについて話すというよりは、実は自分に対して自分自身を語るという関係にあるのです。

 何らかの方法で、思っていること、考えていることを外に出すことは自分が思う以上に効果的。もし、今の自分に悩んでいたり、自分がよく分からなくなっているときはその思いを外に出してみることが大事なのです。
 けれど、そんな話をできる相手というのはそうそういませんので、日記を書く、などというのも一つの方法ですね。

 ビルには自分を見つめ直す時間が必要でした。ビルがずっと隠してきた秘密に自ら向き合うことができるならば、ビルにはこれからの希望がきっと見えることでしょう。

ハピネス


★希薄な人間関係 会社員アレンの場合。

 同じマンションに住む隣室のヘレンに恋愛感情を募らせ、満たされない欲望から見知らぬ女性たちにいたずら電話を掛けまくる会社員のアレン。
 彼は孤独と寂しさと一方的な恋愛感情をごちゃまぜにして、精神的に危うい状態です。

 結局ヘレンをあきらめて、アレンに好意を寄せるクリスティーナと仲良くなるアレン。ところが、クリスティーナに管理人が殺されたと聞くまで、アレンは殺人がマンションであったことすら知りません。

 これは事件が発覚していないのか、それともアレンが知らなかっただけなのか。

 殺人という事件がマンション内で起きても、発覚していないとすれば、マンションの管理人がいなくなったことに住人は誰ひとり気が付いていないということ。

 そして、仮に、殺人事件をアレンが知らなかっただけだとしても、このエピソードが伝えるのは、マンション内の人間関係がとても希薄で互いに無関心だということ。

ハピネス


 マンションという場所は現代の希薄な人間関係の縮図のような場所です。多くの人が壁一枚を隔てて住んでいるのに、実は両隣りに誰が住んでいるのかすら知りません。出入りも激しくて、ちょっと、顔見知りになってもあっという間に引っ越していきます。顔を見ても、同じマンションの住人かどうかすら分からない人もいるでしょう。

 挨拶するからと言って、その人を知っている、というわけでもありません。お互いが干渉しないように、お互いに深く入り込まないように気をつけているのが現代の近所付き合い。
 マンションは仕事から帰ってきて、寝て、また出ていく場所。隣に誰が住んでいようが構いやしませんし、興味もありません。

 本当に、希薄な人間関係。
 それはアレンとヘレン、クリスティーナがお互いを認識していないことからも明らかです。

 アレンはヘレンに一目ぼれだったので、ヘレンのことは知っています。ところがヘレンは電話でアレンの声を聞いても彼だとは気がつきません。
 一方、クリスティーナはアレンを気に入っていたので、アレンを知っています。ところが、アレンは自室に近い部屋に住むクリスティーナのことを知りません。

 極めつけは、アレンがせっかく仲良くなったクリスティーナはマンション管理人を殺した殺人犯だったということでした。

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★こんなにも皆が求めるハピネスは今どこに?

 ハピネスという映画を決定づけているのは、ハピネスの個性豊かな3姉妹です。

 ハピネスの3姉妹が遭遇する出来事は、おかしくて、こっけいで、ちょっと変わったことばかり。それらの経験は彼女たちを傷つけ、かき回し、落胆させる。

 そして、彼女たちも完ぺきではなくて、トリッシュは夫がレイプ犯であることに気がつかないし、ヘレンはスランプに悩むあまりにレイプ願望を持ってしまうし、ジョーイは勤務先で出会ったロシア系の男にあっさり騙される。

 それでもただ一つ確かなのは、彼女たちが心から自分の幸せを求めているということ。

 三姉妹はハピネスの感触を一度は知っています。
 夫が逮捕されるまでのトリッシュの幸せな家庭生活。流行作家としてもてはやされ、充実したときを経験したヘレン。恋人と幸せだった時を過ごしたジョイ。

 彼女らは一度はハピネスを手に入れました。やっと掴んだと思った瞬間にするりと手のなかから抜けて行ったあの温かい感触を求めて、三姉妹はこれからもハピネスを追うのでしょう。

 彼女たちはそれぞれが懸命に生きています。ただ、ちょっとずつ、歯車が狂っているだけ。あと少しでハピネスが手に入るかもしれないのですが。

 いえ、あと少しでハピネスが手に入れられると思うから、ハピネスを求め続けるのかもしれません。

ハピネス


 ハピネス= 幸せとは何でしょうか。

 人が本当に求めている幸せとは自分の居場所であるような気がします。自分がそこにあるべきと思える場所、そこに安心を求められる場所。

 人は皆、ハピネスを求め、追いかける者。誰もが自分の居心地のよい場所を探し続けています。どこにその居場所を求めるかは人それぞれ。
 そして、もし、今その場所が自分にあるならば、それはとても幸運なこと。

 3姉妹のハピネスはもしかしたら、ヘレンやジョイ、トリッシュがいるということ、そして何があったとしても変わらずに3人で笑って話ができるということ、これこそがハピネスなのかもしれません。

 たぶん、いいところも悪いところも全部本当の人間の姿なのでしょう。ハピネスは全部が幸せ色ではなくて、ダークな部分を併せ持ったところにハピネスがある。悪いときを知っているから、幸せを感じるのでしょう。

 だから、ほら、ラストで大きなテーブルを囲むトリッシュやヘレンやジョイは皆笑顔なんです。
 
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