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バンド・オブ・ブラザーズ

ドラマ: バンド・オブ・ブラザーズ あらすじ
※レビュー部分はネタバレあり

各話あらすじはこちら→ここ

 バンド・オブ・ブラザーズは、スティーブン・スピルバーグとトム・ハンクスが製作サイドでタッグを組み、アメリカ民間ケーブルテレビ局HBOで放送された一大戦争ドラマ。

 第2次世界大戦、対ナチス=ドイツ戦線が舞台だ。アメリカ陸軍第101空挺師団第506パラシュート歩兵連隊第2大隊E中隊(通称:イージーカンパニー)の人間関係を軸に、前線に投下されてから彼らの終戦までの3年間を元隊員らの証言をもとに描く。

 バンド・オブ・ブラザーズは全10話。製作費120億円をかけ、映画に勝るとも劣らないクオリティの作品に仕上がっている。

バンド・オブ・ブラザーズ

↑アメリカ空軍.なお,バンド・オブ・ブラザーズの主役第101空挺師団はアメリカ陸軍.アメリカ軍・軍事情報センター提供.

 バンド・オブ・ブラザーズの登場人物は全て実名。
 リアリティを出すため、あえて無名の役者を用い、元隊員の証言がドラマの先後に挟まれているなど、ドキュメンタリータッチのノンフィクション戦争ドラマとしての要素を強くしている。

 特に、バンド・オブ・ブラザーズ全話ではないが、ある特定の人物にフォーカスし、その人物の視点を通して描かれているなど、終始、戦場にいる一人の兵士の視線を通した第二次世界大戦を軸に描こうとする点が興味深い。

 バンド・オブ・ブラザーズ製作に当たっては、毎日16時間×2週間の練兵訓練を役者に施し、寝泊まりも軍舎のなかという徹底的な役者のトレーニングをし、撮影は9カ月、製作期間は1年半に及んだという。

 元隊員の証言によるエピソードにより構成されており、当時のアメリカ陸軍第101空挺師団第506パラシュート歩兵連隊第2大隊E中隊(イージーカンパニー)の活躍を描くものとして史上空前の規模の大作になっている。

バンド・オブ・ブラザーズ

↑イラク国内アメリカ軍駐留地上空より アメリカ軍・軍事情報センター提供


 日本のテレビ局でもたまにドキュメンタリードラマをやるが、比較対象にすらならないくらい完成度が高い。

 映画では時間的・題材的に描かれないだろうバンド・オブ・ブラザーズならではの描写が、ドラマに深い奥行きを与えている。
 詳細な感情描写ができるのは尺の長いドラマならではの魅力だ。

 バンド・オブ・ブラザーズは1話ごとにそこそこ完結したストーリー展開をとる。そして、各回ごとに監督は異なるが、第5話はトム・ハンクスが監督をしている。息子コリン・ハンクスが出ている回もあり、父トム・ハンクスの面影があるのですぐ分かる。

 コリン・ハンクスは小中規模のハリウッド作品に脇役なんかでたまに見かける俳優。「ブラック・サイト」という映画では技術者系のFBI捜査官の役で見かけました。

 2世ということで有利な点もあれば、苦労もあるのではなかろうか。今作では士官学校上がりの真面目で初々しさのある新任将校の役を好演。



【ドラマデータ】
バンド・オブ・ブラザーズ
2001年・アメリカ

製作・総指揮 スティーヴン・スピルバーグ、トム・ハンクス
監督 トム・ハンクス、デヴィッド・リーランド、デヴィッド・フランケル、トニー・トー、ミカエル ・サロモン他全8名
出演 ダミアン・ルイス,ロン・リビングストン,ドニー・ウォルバーグ,スコット・グライムス,マシュー・セトル他

エミー賞作品賞、ゴールデングローブ賞TVドラマ部門最優秀賞



バンド・オブ・ブラザーズ

↑イラク駐留アメリカ軍の一兵士 アメリカ軍・軍事情報センター提供


ドラマ: バンド・オブ・ブラザーズ 解説とレビュー
※以下、ネタバレあり

★総合評価

 バンド・オブ・ブラザーズの始まりは、意地悪な上官、仲間との人間関係、ノルマンディー作戦の降下作戦と戦争ドラマの鉄則的展開を押さえる見やすい展開。

 その後の連合軍の進撃についても、有名な戦闘を要所要所で押さえつつ、ドイツ侵攻、終戦まで特定の兵士にフォーカスした視点で進行していきます。

 出世に懸命な上官、無能で生き残ることしか考えておらず、部下を危険にさらす上官、責任感の強さから思い悩む上官、練兵訓練以来からのメンバーと新規補充兵の上下関係、次第に変化していく戦況と戦闘に対する意識の違い…。

 長時間に及ぶドラマで中だるみするかと思いましたが、後半に向かってはまた新たな展開があって、見飽きません。

バンド・オブ・ブラザーズ

↑イラク国内で作戦遂行中のアメリカ軍 アメリカ軍・軍事情報センター提供


★バンド・オブ・ブラザーズは愛国的か?

 アメリカ万歳の愛国心丸出しのドラマという評価がありますが、これは避けられないでしょう。

 主役級の兵士は勇敢で、ひるみもせず、もちろん逃げもしないように描かれていることが多い。一方、ドイツ軍兵士の描写はほぼゼロに近く、妙に無個性的で、人形のようにバタバタ倒されるシーンもあります。

 ただ、このドラマは個人の証言によるものなので、基本的に焦点があてられる人物は復員後に証言をし、現在も生存している方です。

 なので、その方の立場からすると、大半の戦闘が顔の見えない敵に向かって射撃や砲撃によって戦うものであり、白兵戦はそれに比べては少ないことを考慮すれば、ドイツ軍側の描写が遠景にとどまることは当然かもしれません。

 戦争を現地で戦う兵士は相手のことをリアルに想像して「敵も人間なんだ」と思ったとたんに戦意が低下するものです。
 ドイツ軍兵士を悪魔のように考え、また教育されていたことでしょう。

 その当時、アメリカ陸軍兵士だった方の当時の立場や当時の思考に立って見れば、ドイツ軍兵士もこういう風に見えていたのかと理解できます。

 証言による再現ドラマであり、第2次世界大戦の主観的な見方の一つであるという理解でいいのではないでしょうか。          

 また、そんなに弾が当たらないのか、主人公補正かと思うような場面がありますが、本人は無傷で生還しており、証言しているわけですから、その通りだったのでしょう。

 事実は小説より奇なり、といいますが、その通りのときもあったのでしょう。

バンド・オブ・ブラザーズ

↑イラク駐留アメリカ軍の一兵士 アメリカ軍・軍事情報センター提供


★暴かれる戦争犯罪

 旧ナチス領の各国ではナチスに協力した者に報復行動にでる一般市民、そして公になるユダヤ人強制収容所の実態が映されます。

 破壊される街並み、奪われた平穏な生活、解放されても市民同士に残る、埋まらない戦争の傷跡。

 戦争が終わっていくにつれて知るのは失ったものが目に見えるものだけではない、ということです。
 
 こういった戦争犯罪に当たるような行為については、まさに戦争の暗部の暗部であるとしか言いようがありません。

 こういった行為が現実にあったのか、なかったのか、そういう議論は今となってはもはや水掛け論でしかありません。

 しかし、だからと言って、そういった戦争犯罪が全くなかったということはできないでしょう。

 少なくとも、バンド・オブ・ブラザースで描かれている戦争犯罪のうち、ユダヤ人収容所の存在など、客観的にその行為の証拠があるものについては、そういった忌むべき行為がされたということを否定してはならないでしょう。

バンド・オブ・ブラザーズ

↑アウシュビッツ強制収容所,正面からのポピュラーなショット.なおバンド・オブ・ブラザーズで出てきた強制収容所はアウシュビッツではありません.

 犠牲者の数や、収容所での実際の待遇など、死亡者数や収容状況が誇張されている、と主張されることもあります。
 それが間違っているという根拠はありませんので、その主張を否定はしません。

 しかし、誇張されているにしろ、そうでないにしろ、相当数の方が収容所で命を落としたという事実、そのことを忘れて議論をしてはならないと思います。

 強制収容所の問題について議論するとき、問題にすべきはその虐殺の規模や収容状況の良しあしではありません。

 そういう忌むべき行為がなぜされたのか、なぜその行為が社会的に黙認されてしまったのか、そういう根幹的な部分を問題にするべきです。

 また、ユダヤ人が主にナチス=ドイツ政権下で迫害の対象になりました。
 しかし、これはユダヤ人に対して世界があの時はすまないことをした、と謝り続ければいい、という話ではありません。

 あのときはユダヤ人でした。次は誰でしょうか。
 人種迫害という問題は人類全体に普遍化できる問題なのです。

バンド・オブ・ブラザーズ

↑アウシュビッツのバラック.江戸長屋のように同じ形のバラックが収容所内部に立ち並ぶ.バラック内部は収容者の作業場や寝る場所になっていた.

 今も各地で起きている紛争に人種迫害のない紛争というものはありません。

 少し前ならコソボ紛争やルワンダ紛争、インド=パキスタン紛争、イスラエル=パレスチナ紛争。イラク戦争でイラクは大混乱していますが、イラク国内にも主にイスラム教宗派に起因する民族対立構造があります。

 歴史を見渡しても、大なり小なり、人種間対立が戦争や地域紛争の引き金を引いてきました。

 人種というのは実に難しい問題です。昨日まで仲良く話していた隣人が次の日には迫害者になっていたという1対1の個人レベルで起こる問題なのです。
 人種というのは必ずしも国籍や科学分析で決まるものではありません。

 生物学的には同じ人種といってよくても、科学的要素以外に文化的要素が非常に大きく人種アイデンティティに作用します。
 すなわち、人種は血統や肌の色だけでは決まりません。

バンド・オブ・ブラザーズ

 
↑アウシュビッツのバラック内部.最高で3人まで寝られる.三段「ベッド」とは言いがたい粗末な木の棚.
 


 親の人種アイデンティティ(親が自分がどの人種と思っているか)や、宗教、同一宗教でもどの宗派に属しているか、生まれた場所はどこか、住んでいる場所の地理的位置(北か南か東か西か)、社会的地位、育ってきた環境、経済力など、さまざまな社会的要素や個人的理由が入り混じってその人の人種帰属意識を決定します。

 本当に人種の差というものはその人一人ひとりの意識の差に過ぎないと言っていいもの。
 しかし、そのわずかな差が生みだしてきたのは、あまりにも多くの悲劇でした。

 ユダヤ人強制収容所の悲劇を単なるユダヤ人差別の歴史に押し込んで理解するだけではその悲劇から何も学ぶことはできません。
 何も学ばなければ、人間は知らず知らず、今度は自分が加害者になるかもしれません。

 人種差別に端を発する紛争や、戦争のなかで起こる人種迫害・大量虐殺は実に些細なきっかけでも起きうるということ。
 それを忘れてはならないでしょう。

バンド・オブ・ブラザーズ

↑アウシュビッツ強収容所の内部.内部の施設や部屋については、いまだ何に使われていたか,分かっていないところもある.ポーランドにある恐らく最も有名な収容所,現在は誰でも観光客として訪れることが可能です.

★バンド・オブ・ブラザーズは戦争賛美か?

 バンド・オブ・ブラザーズは生存者の証言に基づいて、それぞれが体験した「証言者の戦争」をリレーする形である視点による第2次世界大戦を再構成してみせました。

 新しい戦争作品の境地を開いたものといえ、時間をかけても視聴する価値はあるでしょう。

 ただ、バンド・オブ・ブラザーズはあくまで、アメリカ側の証言という意味で作られたドラマです。 一つの視点に立ち、そこからの掘り下げができるドラマではありますが、それゆえの限界はあります。

 このドラマが戦意高揚ドラマだとか、で、偏って戦争を好意的に見るドラマだとか、と批判することは簡単です。
 なおさら、戦勝国のアメリカが作るドラマでは戦争に肯定的な立場が取りやすいので、その要素が強いかもしれません。

 しかし、バンド・オブ・ブラザーズを始めとするアメリカのドラマやハリウッド映画に限らず、映画やドラマで戦争を描こうとすれば、少なからずどちらかの立場によらずにはいられません。

 全くの無色透明の立場というのはあり得ない。

バンド・オブ・ブラザーズ

↑イラク,バグダッドにて アメリカ軍・軍事情報センター提供


 ただ一つ、このドラマの内容や元隊員たちの証言を見て、戦争を賛美していると考えるべきか、といえばそれは否でしょう。

 訓練を共にしたかつての仲間は目に見えて減っていく。前線膠着の場面に至っては一身一退の攻防に疲れ果て、低下していく士気。 

 最初のエピソードでは意欲満々で戦争に対する自らの活躍に胸をはせていた兵士たちが、実際に前線に配置されてからは過酷な現実を知り、終戦に向けて次第に疲労していくのは明らかです。

 休暇で兵士たちの士気が目に見えて回復したり、連戦に次ぐ連戦で沈鬱な雰囲気になっていったり、終戦を目前にして危険な作戦に躊躇する様子。
 
 米国軍兵士が美化されている部分がないとはいえないものの、必ずしも無欠のヒーローとして正当化されているとは言い切れません。

 また、描かれているのはイージーカンパニーの仲間たちだけではありません。

 アメリカ軍兵士やフランス人によるドイツ人捕虜の殺害、占領先での略奪行為など、要所要所に戦争の狭間で起きる問題が描写されています。

 このような描写を入れれば、証言をしたイージーカンパニーの生存者からはもちろん、米国民の一定の視聴者層からは非難が出ることは容易に予想できたでしょう。

 それにも関わらず、こういったシーンを入れたのはスティーブン・スピルバーグやトム・ハンクスといった製作サイドがこのドラマをイージーカンパニーの単なる再現ドラマを作ろうと考えたわけではないことの証です。

 ひるがえしていえば、戦争の現実を描こうとする意識の表われだと言えます。

バンド・オブ・ブラザーズ

↑イラクの市街で指名手配している旧フセイン政権関係者のポスターを張る駐留米兵 アメリカ軍・軍事情報センター提供

★戦争映画のススメ

 多面的な視点で戦争を見てみたい場合は各国の戦争映画をいろいろと見るのが面白いでしょう。

 各国が独自の視点に立って個性的な戦争映画を作っています。イタリア・ドイツ・フィンランドなどなど。

 特に、ムッソリーニが枢軸国側として賛歌したイタリアはムッソリーニ政権の崩壊後、内戦状態に近い状態を味わい、他国の戦争事情とはかなり違う特殊な事情を抱えていました。

 内戦を経験したということは、自国民の間に2分する感情を残すということ。単純に戦争に負ける以上の傷跡が国民に残ったことでしょう。

 それぞれの国で、それぞれに思い入れのある第二次世界大戦の歴史が垣間見えて、面白いですね。

 いずれにしても、戦争が残す爪痕は大きい、特に自国が戦場になった場合は。それだけは確かなようです。

バンド・オブ・ブラザーズ 各話あらすじ,作戦の解説

バンド・オブ・ブラザーズ

↑アメリカ国内基地にて アメリカ軍・軍事情報センター提供
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Tracked: 2010-01-31 11:22
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