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ダークナイト【トゥーフェイス研究】

映画:ダークナイト 解説とレビュー
※以下、ネタバレあり

引き続き、ダークナイトの『解説とレビュー』をお届けします。
今回は"トゥーフェイス"に焦点を当てます。

「ダークナイト【あらすじ】」はこちら
ダークナイトを文章化した詳しいあらすじを公開しています。完全ネタバレなので未見の方はご注意ください。

「ダークナイト」の『解説とレビュー』を4つのタイトルに分けてご紹介しています。その2つ目のタイトルとなる本ページでは「ダークナイト【トゥーフェイス研究】」を掲載しています。



「ダークナイト【ジョーカー研究】」はこちら
「ダークナイト【バットマン研究】」はこちら
「ダークナイト【バットマンの世界観と論理】」はこちら



ダークナイト

Presented by WARNER BROS. PICTURES.


【ハーヴェイ・デント・"トゥーフェイス" 研究】 

★ジョーカーを殺さなかったハーヴェイ・デント

 なぜ、ハーヴェイ・デントはジョーカーを殺さないのか。
 ジョーカーこそが憎むべき者、レイチェルの殺人者。後はジョーカーの額に押しあてられた拳銃の引き金を引くだけでした。

 しかし、ハーヴェイ・デントはジョーカーを殺さずに、逃がした。その後、デントはトゥーフェイスに変貌します。
 
 レイチェルは「悪」に殺されました。

 しかし、その「悪」が問題。
 レイチェルを誘拐したのはラミレス刑事です。彼女は警察の人間でありながらマフィアから賄賂を受け取り、今回の犯罪に直接加担しました。
 
 ラミレス刑事はデントに協力すべき「正義・善」の側の人間だったのに、デントを裏切って「悪」となった。
 一方で、ジョーカーは「悪」そのもの。この違いがジョーカーを逃がした理由になっています。
 
 ハーヴェイ・デントはゴッサム・シティの星として華々しく登場し、期待通りの成果を上げてきた新任地方検事です。
 デント自身は「善」であり、「正義」そのもの。市民からはそう思われていましたし、デント自身もそう思っていたはず。

 デントは「正義」=「善」だと思っていました。

 デントの正義感はゴードンやバットマンの正義感とは違うのです。
 "小悪を許して、巨悪を制す"という考え方のゴードンやバットマンとは違い、デントの正義とはまっさらで真っ白な善そのもの。

 ハーヴェイ・デントには小悪を許すという考えはないのです。

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 デントはバットマンとゴードンの仲間でもありましたが、一方で、デントはバットマンのことを「正義」だとか「善」だとかは思っていません。
 ハーヴェイ・デントはバットマンを利用するだけ。あくまで、デント自身が「正義」であり、「善」の体現者でした。
 
 ハーヴェイ・デントがラミレスやゴードンに怒りを向けたのは自分が信じていた「善」の側の人間が裏切ったから。

 ラミレス刑事は裏切り行為を働き、ゴードンはそれを放任し、ある意味では追認していた。

 デントが信頼していた「正義」の側からの裏切り行為は「悪」であるジョーカーがした行為よりもずっと憎むべきものであったのです。

 「悪」であるジョーカーがレイチェルを殺害するのはある意味、あたりまえ。それがジョーカーというものだから。しかし、ラミレスやゴードンは違う。彼らは一見、デントの側に立つもの。それなのに、「悪」を働いた。
 
 「善」=「正義」の側に立つ者が「悪 」として振舞い、挙句の果てに最愛の人を殺した。これは絶対に許すことはできない。

 ハーヴェイ・デントは自分とレイチェルが誘拐されてレイチェルを殺される前は、「正義・善」に絶対の信頼を置いていました。そして、その世界観にそって、自分は徹底的に犯罪摘発の仕事に打ち込み、命を投げ出し、体を張ってきました。

 それだけに、信頼していた「正義・善」の側から裏切り者が出たということはデントの世界観を徹底的に破壊したのです。
 
 それで、デントはジョーカーは殺さず、逆に、ラミレス刑事はもちろん、汚職を放置したゴードンをも殺すことを決めました。

 ここで、注意したいのは、ハーヴェイ・デントの世界観を壊したのはラミレス刑事やジム・ゴードンであるということ。ジョーカーは「悪」として当然の行為を働いたまでのこと。彼はデントの世界観から外れることはしていません。

 デントはマフィアのボス・マローニの車に乗り込んで、ラミレスの名を聞き出すときに、「ジョーカーはただの狂犬だ」と言っています。

 これは、デントがジョーカーはただの「悪」に過ぎないと考えていることを示すもの。レイチェルを殺したジョーカーは「悪」として当然の行為をしたまでです。やはり、デントの信頼を裏切ってはいないのです。
 
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 まとめましょう。
 トゥーフェイスは”レイチェルを殺した者たち”としてラミレス刑事とゴードン刑事、そしてジム・ゴードンを憎みましたが、その憎悪には別の意味もありました。
 トゥーフェイスは2人を”自分の世界観を壊した者たち”としても憎んでいたのです。

 デントが抱いた2つの怒り。それは1, レイチェルを殺された怒り、と2, 「正義かつ善」というハーヴェイ・デントの世界観を壊された怒り、に分けることができるのです。

 ここで、ジョーカーは『1, レイチェルを殺された怒り』の対象者には該当するけれど、『2, 「正義かつ善」というハーヴェイ・デントの世界観を壊された怒り』の対象にはならない。

 デントがトゥーフェイスとして標的にしたのは、1と2両方の怒りをぶつけられる者です。

 言いかえれば、1, 汚職に関与したか、放置した者であり、2, 「正義かつ善」であるはずの人間、この2つの条件を満たす者です。

 ワーツ刑事、ラミレス刑事、そしてジム・ゴードンは汚職をしていたか、汚職を知って放置していた者であり、かつ正義と善を実現すべき警察の人間だった。彼らはこの2つの条件を満たします。

 なお、2つの条件を満たさないマフィアのボス・マローニもトゥーフェイスは殺しています。しかし、マローニが狙われたのは、最初に狙われたワーツ刑事がラミレス刑事のことを知らなかったため。マローニは、ラミレスの名を聞き出すために狙われたに過ぎません。
 ワーツ刑事がラミレスの名を知っていたら、マローニはトゥーフェイスに狙われなかったでしょう。
 
 端的にいえばこういうこと。
「ジョーカーはデントの信頼を裏切るような真似はしていない」。

 この差が、ジョーカーの生死を分けました。そして、ジョーカーは自分から銃を自らの額に向けさせたわけですから、ジョーカーを殺さないというハーヴェイ・デントの心理を読み切っていました。

 結局はトゥーフェイスもジョーカーの手のひらの上で踊らされていただけ。ハーヴェイ・デントがトゥーフェイスとなり、かつての友人であるゴードンやバットマンを苦しめることはジョーカーの計画の一環に過ぎません。
 
 ハーヴェイ・デントが「悪」に落ち、トゥーフェイスとなった瞬間、ハーヴェイ・デントがあんなにも憎んだ「悪」に彼は負け、ジョーカーは勝利をおさめたのです。
 
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★ハーヴェイ・デントのコインの秘密

 ハーヴェイ・デントがトゥーフェイスとなってからはもちろん、正義感にあふれた新任検事だったころから愛用していたコイン。
 デントは父から受け継いだもの、と法廷に遅れ気味にやってきたときにレイチェルに語っています。

 このコイン、裏表がありません。
 レイチェルは、バットマンとして護送されるデントが護送車に乗り込む前に、このコインをデントから預かりました。そして、両面が表になっているコインだということに気がつきました。

 だから、表面/表面だったときはコイントスをしても結果はひとつ。
 トスする前から結果は決まっています。コイントスをしてもしなくても、決めるのは自分。だからデントがレイチェルに語ったように、レイチェルとのデートを決めたのも、「自分の意思」。
 
 ところが、表面/裏面になったとき、コイントスをするとコインは2分の1の確率で表か裏かを示すようになります。

 最初はなかった裏面。
 コインに「あった」のではなく、「できた」のです。

 レイチェルが爆死し、真っ黒に燃え尽きた現場からコインを拾い上げるバットマンの姿があります。彼はそのコインをハーヴェイ・デントの病室に届け、サイドボードに静かに置きました。
 そしてバットマンは、意識なく眠るデントに「悪いことをした」と言うのです。

 やがて目覚めたハーヴェイ・デントは自分の顔半分を覆う大きなガーゼと、ベッド脇のサイドボードのコインに気が付きます。

 コインに手を伸ばすデント。見れば表/表だったコインの一面が焼けただれ、真っ黒になっています。その瞬間にこのコインを預けたレイチェルの顔がデントの脳裏によみがえってきました。

 慟哭するハーヴェイ・デント。
 この瞬間に彼はトゥーフェイスになったのです。
 
 表/表だったコインが表/裏になったとき、自分次第だった人生は次第にコインに支配されていくようになります。

 信じて疑わなかったこの世の「正義」。
 デントは正義に裏切られたのです。

 あの事件のためにコインには裏面ができてしまいました。
 黒く焼けただれたコインのように、デントの傷ついた心は彼の人格に闇の人格"トゥーフェイス"を出現させました。
 
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★2つの"トゥーフェイス"

 人はこの世に生を受けたときは表も裏もありません。
 おなかがすけば泣くし、不快な気分になればやはり泣く。そうすれば、大人が助けに出てきて、その食欲を満たし、不快感を取り除いてくれる。

 しかし、年を重ねるにつれ、いつまでも自分の思い通りには物事は運ばないということが分かってきます。そして、やりたいように振舞い、自分の思う通りに生きたいという自分をコントロールして抑制し、外の世界で生きていくための統制された自分を次第に形作っていくようになります。
 
 人間は成長するにつれて、自然と外向きの自分と内向きの自分を使い分けるということを習得していきます。

 外向きの自分は周囲の人間に合わせ、社会の歯車に乗って回る自分。内向きの自分は自分の考えに沿って、その通りに行動しようとする。自分の欲望や願望に正直な自分です。

 多くの人は、それぞれの場面において、自分の意思でこの2つを使い分けて社会生活を送っています。
 つまり、社会生活を送る人間なら誰もが2面性を持っているということ。

 誰もがトゥーフェイスなのです。
 だからこそ人間社会というものが成り立っているともいえるでしょう。皆が自分の欲望に忠実な者ばかりなら、人間社会はたちまち破綻するからです。
 
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 ハーヴェイ・デントも同じです。
 トゥーフェイスになる前のデントも、もともと2つの顔を使い分けていました。

 内部調査部時代には"ハーヴェイ・トゥーフェイス"と呼ばれていたという彼。この場合のトゥーフェイスとは警察官の仲間であるはずのデント、そして仲間でありながら同僚の汚職を摘発するデントという2つの顔のことを指して"トゥーフェイス"と言っています。

 警察汚職を厳しく摘発するデントを苦々しく思っていた警察官たちが付けたあだ名、それが"ハーヴェイ・トゥーフェイス"なのです。

 従って、このころの”トゥーフェイス”には悪に加担する要素はありません。レイチェル爆死後のトゥーフェイスとは異質なのです。
 
 レイチェルが爆死する前までのハーヴェイ・デントのコインには表しかありません。そこで、どういう道を彼が選択するかは全て自分次第。

 外向きの、警察官の仲間としての自分を選択して汚職を見逃すか、それとも、内向きの、正義感に正直な自分として、汚職を厳正に摘発するのかはそのときどきで使い分けていました。

 内部調査部時代には職務に忠実に警察官の汚職の摘発をしていました。
 ”トゥーフェイス”のあだ名を頂戴するほどですから、厳しくやっていたのでしょう。

 デントは地方検事になってからも、ゴードンに対して汚職の一掃をするように要請を繰り返してはいました。

 しかし、デントはマフィア捜査を優先させたいというゴードンの立場にもそれなりに理解を示し、正義感を優先させるあまりに強引に警察汚職に踏み込むようなことはしていませんでした。

 幸運は"自分で引き寄せる"と言っていたデント。そこには運まかせではない、自分の意思が介在しています。

 すなわち、自己の持つ強固な正義心にどこまで従うかはデント自身で決定し、コントロールしていたのです。
 
 ところが、コインに表裏ができてから、すなわち、レイチェル爆死の後からは、強固だった正義心は徹底した憎悪へと変貌。そのたぎる怒りと憎しみに身をゆだねるかどうかはコインに任せてしまうようになりました。

 デントは、自分自身の2面性をコントロールすることを放棄したのです。

ダークナイト


★コイントスは本当にフェアか ? 

 表が出るか、裏が出るか。
 トゥーフェイスは「運」は公平で、偏見もなく、フェアな手段だといいます。

 トゥーフェイスは自ら意思決定する代わりに、コインの裏/表に従います。出た結果を自分のすべきこととしてその通りに実行する。
 つまり、コインが示す裏/表が自分の意思になっています。
 
 コインが出て、その結果により人間の意思が決まる。そうならば、ある意味では本当にフェアだといえるでしょう。
 しかし、人間の意思はそんなに簡単に割り切れるものでしょうか。

 コイントスをするよりも早く、こいつには裏面が示されるべきだと思うときがあるでしょう。

 仮に、表面が出たならば、それは何らかの"誤り"が起きたのだ。そうならば、自分の意思が反映された"正しい結果"が出すため、何らかの方法でコイントスを続けよう。

 そう思わないときがないといえるのでしょうか?
 
 マフィアのボス・マローニは、地方検事デントの命を、検察側証人として出廷させた部下に銃で狙わせました。それどころか、財力に物を言わせて警官にカネを渡し、汚職を誘発している親玉です。

 「こいつがいなければ、ゴッサム・シティで警察は堕落せず、レイチェルが爆死することはなかっただろう。」
 「マローニは死ぬべきだ」。

 しかし、コインは”表”を示しました。ならば、運転手はどうか。

彼は”裏”。そこで運転手を殺すことで車ごとクラッシュさせ、マローニを殺しました。

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 運転手は本来レイチェルの死に無関係な人間のはず。なぜ、彼の分までコインが振られたのでしょうか。

 それは、マローニが死ぬべきだというデントの意思があらかじめ、固まっていたからです。
 マローニに対して”表”を指したコイン。
しかし、運命はトゥーフェイスのために、その場に運転手というもう1人の人間を用意しているではありませんか。

 そして振られたコインは運転手に対して”裏”というトゥーフェイスに「望まれた結果」を示しました。

 トゥーフェイスのコイントスがゴードンの息子のときに”表”を示したら、トゥーフェイスはゴードンをそのまま無罪放免したでしょうか?
 トゥーフェイスがゴードンの妻に対してコイントスをしないという保証がどこにあるのでしょう?

 結局、コインを何回振るかはトゥーフェイスの心持ち次第。

 「コイントスで決められた運に偏見がない」などというのは虚構でしかありません。
 トゥーフェイスとなったハーヴェイ・デントが主張するほどフェアでもなければ、公平でもないのです。

続きの「ダークナイト【バットマン研究】」はこちらからどうぞ

ダークナイト 


「ダークナイト【あらすじ】」はこちら。最初から結末まで文章で「ダークナイト」を再現しています。
「ダークナイト【ジョーカー研究】」はこちら
「ダークナイト【バットマンの世界観と論理】」はこちら

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