※レビュー部分はネタバレあり

「バットマン・ビギンズ」「ダークナイト」の監督クリストファー・ノーランの出世作「メメント」。たった10分しか記憶を維持できない男が、ある日1人の男を殺したことから、物語は始まる。
見事に切り刻まれた時系列にあっけにとられそうだが、結末が近づいてくるにつれ、時系列が巧妙に組み替えられていて、きちんとストーリーを構成していることに気が付く。
一見、複雑そうだが、ジグソーパズルのように、一つ一つ主人公レナードの行動を追っていくと、きっと何かが見えてくるはずだ。
レナードの切望する"復讐"の正体とは何なのか、そして、このレナードが生きている世界がどういうものなのか。
「メメント」の『解説とレビュー』では、簡単に登場人物を紹介したあと、時系列順に並べ直したあらすじを最初から結末まで順に書いていきます。
その後、レナード自身が抱えていた問題点と、レナードがどのように周囲に利用されていたのかを見ていくことにしましょう。
解説とレビューだけ見たい方はこちら。

記憶障害のあるレナードは、強姦されて殺された妻の復讐のために真犯人を必死で捜索している。しかし、レナードは10分程度の記憶しか保てない。時間が過ぎると忘れてしまうのだ。
そこで、彼は常にメモを取り、忘れないようにしているが、犯人探しに最も重要と思われることについては体に刺青を入れて、消されたり、なくしたりしないようにしている。
鎖骨の下には犯人の名前であるジョン・Gが彫ってある。他にも"THE FACTS 1"から"THE FACTS 6"まで、手掛かりが彫ってある。
それによると、犯人は白人で男、そしてファストネームがジョー、ラストネームがGであり、麻薬の売人かつ車のナンバーはSG137IUであるということまで分かっていた。
レナードはある日、犯人"ジョン・G"と目される男を殺害する。それはレナードの知った男だった。
果たして彼はどのようにその男にたどり着いたのか? その男は本当に真犯人なのか ?
奇妙に歪んだレナードの記憶をさかのぼるうちに、現われたのは驚きの真実だった。
【映画データ】
メメント
2000年(日本公開2001年)・アメリカ
監督 クリストファー・ノーラン
キャスト ガイ・ピアース,ジョー・パントリアーノ,キャリー=アン・モス
インディペンデント・スピリット賞作品賞・監督賞受賞

映画:メメント 解説とレビュー
※以下、ネタバレあり
★人物紹介
【レナード・ジェルビー】
短期記憶障害。10分程度しか記憶が保持できない。それ以降は記憶を失い、何をしていたか、何が起きたのか全く忘れてしまう。
これは、妻を殺された事件以降の症状であり、妻が殺される前の記憶については完全な記憶が残っていると本人は思っている。
また、実際に思い出すことも可能なようである。元保険会社の調査員として働いており、サミー・ジェンキスという男を担当していた。
【ナタリー】
レナードの女友達であり、レナードを一時家に泊まらせていた。
ナタリーは恋人のジミー・グランツを何者かに殺されている。ジミーは麻薬の売人であり、ナタリーも客とジミーの取り次ぎをして麻薬密売に関係していた。ファーディーズ・バーで働いている。
【テディ】
本名はジョン・エドワード・ギャメル。潜入捜査中の警察官と名乗っている。
麻薬関連の犯罪でジミー・グランツを捜査していたことがある。レナードにナタリーを信用するなと警告していた。冒頭でレナードに殺される。

★レナードの罪 〜時系列順のあらすじ〜
レナードは何をしたのか。
まず、彼は1年前に、テディが見つけてきた、妻を強姦した真犯人の男を殺している。その際にテディがレナードの写真を撮った。レナードが笑顔で映る写真だ。
しかし、10分しか記憶の持たないレナードは犯人を殺したことを忘れ、再び犯人捜しを始めた。
テディは新たなジョン・Gを探してきては、それらしい手掛かりをレナードに与え、その男を殺させた。これを何度も繰り返していた。その何人目か分からない犠牲者の1人がジミー・グランツだった。
ある日、レナードはテディに揃えられた手がかりからジミー・グランツという男を突きとめる。麻薬取引が行われるという人気のない郊外の小屋にレナードは青いピックアップトラックでやってきた。
レナードが待ち構えていると、ジミー・グランツが現われる。レナードはジミーを首を絞めて殺し、地下の部屋に放置し、死体の写真を撮った。さらに、ジミーの死体からスーツを奪い、ジャガーも乗り逃げした。この服装と車はレナードが「メメント」中でずっと使っていたものである。
レナードがジミーを殺す前に、ジミーはジャガーのトランクに20万ドルを持ってきたことやテディを待っていることをレナードに話した。
ジミーの話を怪訝に思ったレナードが直後にやってきたテディを問いただすと、テディはその20万ドルについて自分が取引して得るつもりの金であったことを白状。
しかも、レナードが今までテディの用意したジョン・Gを殺し続けており、ジミーは数人目の被害者であることを教えた。さらに、レナードの持っているレナード自身が笑顔で映る写真は、真犯人を殺した直後に撮ったものだと教えた。
レナードは憤り、建物の外に出て草むらにテディの車のカギを捨て、ジミーの乗ってきたジャガーに乗り込むと、笑いながら映る自分の写真とジミーの死体の写真を燃やした。
そして焦げた写真をポケットに突っ込み、テディの写真に『こいつのウソを信じるな』と書き込む。さらに、レナードは、テディの車のナンバーを書きとめてから走り去った。

行き先は刺青屋。
その店で、テディの車のナンバーを"THE FACTS 6"として彫り込ませる。
そこにテディがやってきた。テディは町を離れろとレナードに警告し、ジミーのスーツから着換えろと言って着替えの服をレナードに渡す。
奥の部屋にいったレナードは着替えようとするが、テディの写真を確認すると、『信用するな』と書かれている。そして、ジミーのスーツから黒く焦げた写真のかたまりとファーディーズ・バーのコースターを見つけた。
そこで、レナードは窓から逃げ出し、ジミーの車ジャガーでファーディーズ・バーに向かう。
バーにつくと、ナタリーはゴミ出しをしているところだった。見慣れたジミーのジャガーを見て、「ジミー!」と声をかけるが、乗っていたのはレナード。「間違えたわ」、といってナタリーは店の中に戻っていく。
レナードの見つけたコースターには"後で寄って、ナタリー"と書かれており、レナードはバーに入って「俺の服に入ってた」といってそれを見せると、彼女は不審そうな様子で「あなたの服に ? 」。
「ジミー・グランツという私の恋人があなたのことを知ってたわ」とナタリーはいうが、レナードは自分が殺したジミーのことをすでに忘れていて、覚えていない。ナタリーは「テディがあなたをよこしたの?」とも聞くがレナードには分からない。
ナタリーは彼にビールにつばを吐かせてそれをジミーに飲ませるが、ジミーは少し前に自分がつばを吐いたことを忘れてビールを飲む。
ナタリーはそれを見て、「障害があるのは本当ね、警官が行ってた通りだわ」。

ナタリーはレナードを自分の家に連れていき、彼を泊まらせることにする。ナタリーは恋人のジミーがテディという男に会いに行き、戻らなかったと語る。さらに、ナタリーはドッドという男を殺してほしいとレナードに頼む。
レナードはそれを断るがナタリーは怒って殺されたレナードの妻をこき下ろし、罵詈雑言を吐く。レナードは彼女を殴り飛ばし、彼女は家から出ていってしまった。
レナードはナタリーの吐いた悪態を書きとめようとするが、ナタリーはあらかじめ、ペンを隠してしまっていて、メモすることができない。ナタリーは外に止めた車のなかでペンを探しているレナードを見ている。
そして、しばらくして戻ってくると、ナタリーはさっきレナードに殴られてできた傷を見せ、ドッドに殴られたとレナードにいう。
レナードは「ドッドのところに行く」、いって飛び出そうとするが、ナタリーはドッドにレナードの車のナンバーを教えたから、彼からレナードのところに来るかもしれない、と告げる。
そのまま、レナードは彼女の家に泊まり、家を出るとテディが待ち受けていて「ナタリーに気をつけろ」、と警告する。
レナードは「メモをしておけ」、とテディからペンを渡されるが、テディの写真に『この男を信用するな』との書き込みがあることに気が付き、ナタリーの写真に書き込みはしなかった。
妻の遺品を工場跡地に持ち込んで燃やしたあと、車で街を走っていると、突然ドッドから銃で狙われた。
レナードは逃げ、逆にドッドの借りているモーテルに侵入してドッドを待ち伏せする。しかし、待ち伏せしている間に、なぜ、この部屋にいるのか忘れてしまい、シャワーを浴び始めた。
そこにドッドが帰宅。人の気配に気づいたレナードは彼を殴り倒し、クローゼットに押し込める。ドッドの写真を撮り、「テディに会わせるか、ナタリーのために始末しろ」と書く。そして、テディに電話し、モーテルの名前と部屋番号を告げてテディを呼び出してから寝てしまった。
その後、寝ていたレナードが目覚めると、戸口にテディが来ているが、レナードはテディをなぜ呼び出したのか、忘れてしまっていて思い出せない。そのとき、クローゼットからうめき声が聞こえ、ドッドを発見。町はずれまでドッドを連れていき、解放する。

その後、ナタリーに会いに行ったレナードはドッドという男にジミーが持っていたはずの麻薬とお金を要求されていて、渡さないと殺すと脅迫されていたので助けてもらったのよ、とレナードに説明する。
そして、ナタリーは妻を殺したジョン・Gを探すのを手伝ってあげるとレナードにいい、レナードは『ナタリーが探すのを助けてくれる』と写真にメモする。
ナタリーとレナードは午後1時にダイナーで会った。ナタリーはレナードが"THE FACTS 6"として彫り込んでいたテディの車のナンバーを調べてきていた。彼女はレナードに車の持ち主はジョン・E・ギャメルという男だと教える。
そして、その男を殺すには恋人のジミーが取引によく使っていた人気のない郊外の小屋を使うといい、という。さらに、ナタリーはジョン・E・ギャメルの免許証のコピーを渡す。
レナードは免許証の写真を見てテディの写真を取り出し、『犯人だ』『殺せ』と書きつける。
さらに、鎖骨の下に彫られた、『ジョン・G・が妻を犯し、殺した』という刺青を確認する。レナードはテディに電話して呼びだす。そして銃とテディの写真を手にしてモーテルの受付に行く。
受付の男にテディが来たら部屋に電話してくれ、と頼んでいるところにテディがやってきた。2人は車に乗って、ナタリーに教えてもらった郊外の小屋に向かう。
小屋には青いピックアップトラックが放置されている。車のドアを開けて乗り込んでみるレナード。これはかつてレナードがジミーを殺したときに乗ってきた車なのだが、当然レナードは覚えていない。
レナードは写真を取り出し、テディの写真に先ほど書きこんだばかりのメモを見つける。
『テディ こいつのウソを信じるな。殺せ』。
小屋に入ったレナードを追ってテディが入ってくる。銃を向けるレナードにテディは慌てて、「地下に行けば…」といいだすがレナードは発砲。テディを射殺した。

これがメメントの時系列順のあらすじです。
★ナタリーやテディがどのようにレナードを利用していたのかについては、後半で解説します。「メメント 解説とレビュー」
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