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サイレントヒル Vol.2【解説とレビュー】 

映画:サイレントヒル 解説とレビュー Vol.2
※以下、ネタバレあり

サイレント・ヒル2.jpg

(C)2006 Silent Hill DCP Inc. and Davis Films Production


 こちらは『映画:サイレントヒル 解説とレビュー Vol.1』の続きです。前のページではサイレントヒルの結末までの詳しいあらすじと簡単な解説をご紹介しました。

 このページではサイレントヒルの謎を詳しく解説・レビューしていきます。完全にネタバレしていますので、ご注意ください。

最初から読みたい方はこちら→『映画:サイレントヒル 解説とレビュー Vol.1』


★サイレントヒルの結末―サイレントヒルの世界観

 サイレントヒルは分からない?確かに簡単なストーリーではありませんが、サイレント・ヒルの世界と言うものを大づかみで捉えてしまえば、そんなに難解なものではありません。

 テキストで説明してもいいのですが、図を使って直感的に理解するのが分かりやすいので、図解で説明しましょう。

サイレントヒル.bmp


 まず、サイレントヒルには大きく分けて2つの世界が存在しています。1つは現在の世界、もう片方はサイレントヒルの世界です。現在の世界にはクリスと警部らがいて、サイレントヒルの世界にはローズとシャロンがいます。

 さらに、サイレントヒルの世界だけを取り出してみましょう。サイレントヒルの世界には表の世界と裏の世界の2つがあります。

 表の世界と裏の世界はサイレンを合図に定期的に入れ替わります。そして、この世界を支配しているのは表の世界ではクリスタベラ。そして、裏の世界ではアレッサです。

 クリスタベラは表の世界で、人間たちを支配し、コントロールしています。一方、アレッサは闇の者たちを操り、クリスタベラの支配下にある人間たちを襲っています。そして、現在の世界とサイレント・ヒルの世界は並行的に存在しています。しかし、この2つの世界は混じり合うことはありません。

 なぜ、ローズとシャロン、警官のシビルはサイレントヒルの世界に来てしまったのでしょうか。

 それは、シャロンがいたからです。シャロンはアレッサの「善」の部分だけが分離されてできたアレッサの分身です。シャロンはそのことを自覚していませんでしたが、心のどこかで自分が分身に過ぎないことを分かっていました。

 シャロンはどこかにいるはずのもう片方の「悪」の分身と結合して、一体化したいという気持ちが強かったのです。一方、「悪」の分身の方も、「善」の分身が母親に愛され、幸せに暮らしていることに強い憧れを抱いていました。

 結局、「善」の分身シャロンと「悪」の分身がお互いに呼び寄せあった結果、サイレントヒルの世界への道が開いたのです。

 そのきっかけが事故でした。

 つまり、ローズが事故を起こしたからサイレントヒルの世界に行ってしまったのではありません。事故がなくても、ローズがシャロンを連れている以上、サイレント・ヒルの世界に2人が行ってしまうことは必然的だったのです。

 逆に、シャロンがいなければ、サイレントヒルの世界への扉は開きません。だから、普通に廃墟となったサイレントヒルに訪れたからといってサイレント・ヒルの世界に飲み込まれるということはありません。

 その証拠にクリスや警部はサイレントヒルに行っていますが、無事に帰ってきています。それに、2年前の誘拐事件のときはシビルは誘拐された子供とともに3日間サイレントヒルで過ごしましたが、無事救出されています。

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★サイレントヒルの結末―ストーリー解説・その1

 先ほどは、サイレントヒルの世界観をお話ししました。それではその世界観を前提に、結末について、解説します。

 サイレントヒルの世界でローズはクリスタベラに出会います。彼女によると、「悪魔」だけが子供の居場所を知っていて、そこに案内もできるが、悪魔に会いに行った者で戻った者もいないとのこと。ローズはそれでも、悪魔に会いに行くという決心を固めます。

 しかし、シビルはローズに「罠よ」と警告。これは本当でした。クリスタベラは「悪魔」=アレッサであることを知っています。クリスタベラは2人をアレッサのもとに追い払うことで、よそ者を始末できると踏んでいました。

 しかし、クリスタベラはローズを病院に連れてきて初めてシャロン=アレッサだと知りました。そうなれば、ローズを地下へやったとしても、ローズは再び戻ってきてしまうでしょう。「悪魔」=アレッサがローズを殺すはずがない。

 クリスタベラは焦り、「魔女だ」と糾弾して手下にローズらを襲わせます。しかし、ローズはシビルの犠牲で地下に逃げることに成功しました。

 ローズに逃げられたクリスタベラはシャロンを探します。しかし、その居場所は明らかでした。ダリアが匿っているに違いない。なぜ、そう思ったのかというと、ダリアは闇の者に襲われないから。ダリアのもとにいれば、サイレントヒルの世界でもシャロンは生き延びられる。はたして、シャロンはダリアのもとで発見されました。

 一方、地下に降りたローズ。ローズはアレッサの思い通りに人影や手掛かりを追って、ついにはアレッサの病室まで来てくれました。「悪」の分身アレッサはローズに真相を話したあと、ローズのなかに入り込みます。

 そして、教会で寝たきりのアレッサがクリスタベラら、人々を殺している間、ローズはシャロンを抱きしめて隠れていました。その時に薄目を開けたシャロンの眼に映ったのはローズの顔ではなく、「悪」の分身アレッサの顔。ローズのなかから抜け出た「悪」の分身アレッサはシャロンのなかに入り込み、同一化します。

 そして、教会が静まり返り、全てが終わったとき、そこにいたのはシャロンの体を持つアレッサ。アレッサは教会を出て行くとき、ダリアをじっと見て、視線を合わせてから出て行きます。

 本来、「善」の分身シャロンならば、ダリアは知らない女の人であるはず。でも、今のシャロンには「悪」の分身アレッサが同一化しています。「悪」の分身アレッサは実の母であるダリアを当然知っています。シャロンは「悪」の分身アレッサと同一化したため、ダリアを見つめていたのでした。

 また、ダリアは「闇の者すら近づかない」と言われていましたが、実は「近づけない」、というのが正確。闇の者はアレッサのしもべです。アレッサが母ダリアには手を出すな、と命令していたから、ダリアは教会の外にいても、無事でした。

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★サイレントヒルの結末―ストーリー解説・その2

 クリスタベラは「悪魔」=アレッサだと知っていました。ダリアが襲われない本当の理由も分かっていたはずです。しかし、クリスタベラは、サイレントヒルの住民たちには本当の理由―すなわち、悪魔がアレッサだから母であるダリアは襲われない、ということを話すことはできませんでした。

 それを言ってしまうと、アレッサの悪魔払いにクリスタベラが失敗したことが明らかになり、クリスタベラの指導力に疑問の声が出る恐れが高いからです。それでクリスタベラは、闇の者すら「嫌う」のだ、と、ダリアが教会に逃げなくても助かる理由を住民たちに説明していました。

 クリスタベラの行った悪魔払いの儀式について考察してみましょう。ダリアは火災の起こる前のサイレントヒルにおいて、アレッサの唯一の庇護者であり、彼女の母親でもありました。そんなアレッサとダリアの親子にクリスタベラはある提案をします。

 それは、"罪を清める儀式"というもの。ダリアはわが子を愛していましたが、クリスタベラは当時、ミッドウィッチ小学校の校長。サイレント・ヒルの実力者として大きな影響力を持っていました。そんなクリスタベラにダリアは抗いきれません。ダリアはクリスタベラの執拗で激しい説得に応じて、娘アレッサをクリスタベラの手に委ねてしまったのでしょう。

 これが、悲劇の始まりでした。ついに、ダリアは母親としてアレッサを守ることができませんでした。クリスタベラにアレッサを引き渡した後、ダリアは激しく後悔し、アレッサを取り戻そうとしますが、ときすでに遅し。

 アレッサは母を愛していました。その気持ちは悪魔に魂を売ってからも変わらなかった。だからこそ、ダリアは闇の者に襲われず、教会の殺戮の後でもダリアは生き延びられたのです。ダリアはアレッサに憎まれていると思っていましたが、母であるダリアをアレッサはやはり、愛していました。

 アレッサは母を欲しました。「シャロンのように、母に愛されたい」。その気持ちがローズを呼び寄せ、ローズをサイレントヒルの世界に引き込みました。

 本来、「悪」の分身アレッサがほしかったのは自分のかたわれであるシャロンだけのはずでした。しかし、「悪」の分身であるアレッサはシャロンが母親に愛されているのを見て、母と一緒に暮らしたいと思う気持ちが強くなります。そこで、ローズもシャロンと一緒にサイレントヒルの世界に呼び込むことにしました。ローズの目の前にちらちらと現われて見せ、絵を残したりして手がかりを与えていたのは「悪」の分身アレッサです。

 ローズは地下にいたアレッサの説明を聞き、目の前にいるのが「悪」の分身アレッサ=悪魔であることを理解しました。その上で、彼女の復讐心を受け入れ、自分のなかにアレッサが入ることを許容したのです。

 そして、シャロンに会ったときにはシャロンと同一化することも。

 そうしなければ、シャロンを生きて連れ帰る見込みがなかったからです。愛するシャロンのため、ローズは悪魔を受け入れました。

 クリスタベラは「信仰があれば悪魔を遠ざけられる」と説きました。ローズが仮に信仰心に従ったなら、アレッサを受け入れることを拒んだでしょう。しかし、ローズは神よりも子供への愛情を選択しました。

 結果、ローズはシャロンを取り返すことに成功します。しかし、悪魔をも体に併存させることになったシャロンはサイレントヒルの異世界から抜け出すことはできませんし、悪魔を受け入れたローズもまた、サイレントヒルの異世界から抜けることはできません。2人は悪魔を受け入れた代償として、この世界にとどまらざるを得ないのです。
 
 また、母の愛というつながりで指摘しておくと、シビルと母のつながり、アンナと母のつながりもポイントとして入れられています。シビルは死ぬ間際に母への言葉をつぶやいていましたし、アンナが危険を冒して教会の外に出て、ホテルにいたのは、母に食べ物を届けたいがため。アンナが教会に間に合わず、闇の者に殺されたとき、アンナの母親はひどく嘆いていました。これも母子の愛を描くものといえるでしょう。

 これと対照的なのはクリスタベラの権力欲。彼女はダリアのアレッサへの愛を理解しませんし、アンナが死んだのも、教会の外に出るなど勝手なことをしたからだと言います。クリスタべラの存在によって、母の愛の温かさがより際立つものになっています。

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★サイレントヒルの結末―悪魔と契約したアレッサ

 サイレントヒルを見終えたとき、強い違和感を感じました。あとで間違いだと分かったのですが、「悪魔」がいないと思ったからです。

 サイレントヒルではとにかくキリスト教が強調されます。皆が逃げ込む場所は教会ですし、クリスタベラは狂信的なクリスチャンです。サイレントヒルの町の壁面には随所に神を賛美するフレーズが刻まれており、小学校正面には十字架のステンドグラスがありました。凝ったところでは、ホテルの111号室は= 1+1+1 = 3。つまり、 三位一体を表す番号です。

 それなのに、悪魔が出てこないではありませんか。キリスト教、そして、地獄を思わせるサイレントヒルの世界。裏の世界に跋扈する怪物たちは悪魔のしもべです。悪魔が出てくるべき舞台や条件は整っているのに、「悪魔」がいない。これはおかしい。

 悪魔は目の前にいました。「悪」の分身アレッサとそして、シャロンです。正確には「悪」の分身アレッサと同一化したシャロン。シャロン=「善」という先入観にとらわれてしまい、映画が終わっても、首を傾げていたのです。

 ローズが取り返したシャロンは「悪魔」。もしくは悪魔の一面を持つ子でした。

 そもそも、アレッサが悪魔になったわけを説明しましょう。

 それは、やけどで死にかけたアレッサが悪魔と契約したから。アレッサの清めの儀式が行われたのと同じ日に地下火災は起きています。これがもとで彼女は命が一日もつか持たないかの大けがを負い、病院の地下室に収容されました。

 アレッサの「地下」病室→「地下」火災。「地下」というつながり。つまり、火災が起きたのはアレッサが原因であることは間違いありません。加えて、アレッサは死の恐怖に怯え、耐え難い痛みに全身を貫かれ、その恐怖と痛みは強大な憎しみへと変化していったとローズに告白しています。

 憎しみを抱えたローズには激しい、抑えがたい復讐心が沸き起こります。しかし、アレッサの命はあとわずか。クリスタベラたち狂信者に復讐するためにはどうしたら良いのか。憎しみは悪魔の大好物です。憎しみがある人間の心に付け入るのはたやすい。

 アレッサは彼女のもとに降臨した悪魔と魂を売る契約を交わします。これによって、アレッサは悪魔の力を手に入れました。怪物たちはかつてアレッサをいじめることを黙認し、またはアレッサを嫌った大人たちがアレッサの力によって変化させられた姿。彼らは悪魔=アレッサのしもべとなり、アレッサの意のままに動きます。そして、アレッサは彼らをコントロールして、彼女が復讐したいサイレントヒルの住人たちに襲いかかるのです。

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★サイレントヒルの結末―シャロン誕生の秘密

 瀕死のアレッサは「悪」のアレッサと「善」のアレッサを分離させました。もちろん、ただの女の子であるアレッサにこのようなことはできないので、悪魔の力を借りたのです。アレッサはなぜ、このようなことをしたのでしょうか。

 それは、もう使いものにはならない、やけどを負った体ではなく、きちんと機能する新しい体を得ておきたいから。悪魔と契約し、魂を売ったアレッサにとって、「善」のアレッサは、いつか人生をやり直すための希望でした。いつか、「善」のアレッサと一緒になることができれば、アレッサは復活を果たすことができます。

 このとき、アレッサはサイレントヒルの外の世界でのやり直しを望んでいたのかもしれません。しかし、悪魔と契約した以上、実はどう転んでも、サイレントヒルの世界から抜けだすことはできないのです。

 悪魔はサイレントヒルの外の世界でやり直したいと思ったアレッサの心を知ってか知らずか、アレッサの提案を受け入れ、アレッサを「善」と「悪」に分離してやりました。

 なぜ、悪魔はアレッサに協力したのか。お情けでしょうか。そうかもしれませんが、そうでないともいえます。なぜなら、アレッサを分離しておけば、いつか、その分離した体をサイレントヒルの世界に呼び戻して同一化し、悪魔は肉体を得られることになるからです。

 肉体を得た悪魔はこれまで以上に自由に動くことができます。それに、その体がローズに愛されるシャロンの肉体であれば、母の愛を受けることもできます。また、悪魔にとってアレッサの「善」の部分はいらない存在。悪魔に必要なのは「悪」の部分のアレッサの魂で、善のアレッサがいなくなっても悪魔は困りません。悪魔にとって、アレッサの分身に協力するのは悪い話ではありませんでした。

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★サイレントヒルの結末―止まった時間

 アレッサは全身にやけどを負わされ、一日も持たないと言われる命だったとグッチ警部は言っています。一日も持たない命のはずのアレッサがなぜ、火事が起きたのち、30数年も生き延びているのか。

 しかも、アレッサも、クリスタベラを始めとする町の住人も、全く成長をしていないし、老いてもいません。皆、30数年前の火事のときの姿のままです。

 サイレントヒルの世界が現在の世界と並行して存在し、時の流れがずれているだけだと考えた場合、少なくとも、時は流れて行くわけですから、皆年を取るはずです。ところが、火災の起きた1974年と、ローズたちの迷い込んだ2006年当時ではサイレントヒルの住人達は外見が全く衰えていない。

 ここから導ける結論、それはサイレントヒルでは時間が進行しないということです。ここでは時間は止まったまま。あの火災の起きた日のまま、時間が止まっているのです。

 それでもクリスは妻の香水の匂いや2人が帰宅した気配などを感じ取っています。おそらく、場所としての共通性は2つの世界にあるのでしょう。自宅に行けば、自宅はありますし、電話をかければ、電話がつながる。しかし、時間がずれているので、話をすることはできません。

 時間の止まった世界でこれからもローズとシャロンは暮らし続けることになるのでしょう。決して元の世界に戻ることはできません。

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★サイレントヒルの結末―サイレントヒルは死者の世界か?

 サイレント・ヒルの世界に暮らす者たち、ローズやシャロンは死んでいるのでしょうか。これはそうとも言えるし、そうではないとも言えます。

 死ぬということが現在の世界から消えるということならば、彼らは死んだといえるでしょう。ローズもシャロンもサイレントヒルの住民たちも決して、現在の世界に戻ってくることはありません。永遠に戻ってこないという意味においては「死」と同様だということができるでしょう。

 しかし、ローズやシャロンはサイレントヒルの世界においては生きています。苦しい時間を乗り越えた母娘は現在の世界に並行するサイレントヒルの世界で平穏な生活を手に入れることができました。

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★サイレントヒルの結末―全てを知る者 -グッチ警部-

 地下火災がアレッサによって引き起こされ、多くの住民が死傷しました。もちろん、生き残った人たちもいるわけです。クリスと行動を共にしたグッチ警部もサイレント・ヒルの生き残りです。なぜなら、彼は父親がサイレント・ヒルに住んでいたと言っています。火事が起きたのは1974年で、今から32年前。現在、警部は40歳前後だとすると、火災の当時は約8歳です。その年齢ならば、父親と一緒に住んでいるでしょうから、彼もサイレント・ヒルの住人だったことが分かります。

 彼は「町の半数が死んだが、その中には死んで当然というやつもいた」とクリスに言っています。グッチ警部はサイレントヒルで起きた魔女狩り事件の真相を知る一人。何がされ、何が起きたかを全て知っている。そして、それは知られるべきではないサイレントヒルの恐ろしい過去であり、汚点です。

 彼は今や、サイレントヒルを実際に知る貴重な生き残りです。そして、サイレントヒルに寄ってきて過去を暴こうとする者を遠ざける役割も果たしています。

 クリスもシャロンを引き取った孤児院で修道女に詰め寄って聞き出そうとしたところでタイミング良く現れた警部に家へ帰れとうまく追い返されてしまうわけです。そんなにうまく警部が現われたのはクリスを尾行していたからでしょう。公文書館に忍び込んで、アレッサの写真を見たことも全てお見通し。これ以上クリスがサイレントヒルの秘密を知る前に、クリスを追い払う必要がありました。

 警部は「サイレントヒルのことは俺に任して家に帰れ」、そうクリスに言います。とても意味の深い言葉です。彼は「妻子のことは俺に任せて」とは言いません。彼は、もうローズとシャロンが戻らないことを知っている。グッチ警部の言葉からサイレントヒルに潜む秘密の大きさ、それをクリスは感じ取ったことでしょう。だからこそ、クリスは警部の説得に従って、家に帰ることにしたのです。

 「また、来るぞ」というクリスの言葉には、これからもサイレントヒルの隠された秘密を追いかけてやるという決意が見えるようです。しかし、別世界に行ってしまったローズとシャロンに2度と会うことはできないでしょう。それを思うと、胸が痛みます。

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★サイレントヒルの結末―住民たちは何者か

 教会にうじゃうじゃと集まっていたクリスタベラが統率していたサイレントヒルの住民たち。彼らは何者でしょうか。

 瀕死のアレッサが現われ、最後の殺戮が行われたときに彼らは全員殺されます。ということは彼らは全員、クリスタベラの支配下にあり、魔女事件を引き起こしたサイレントヒルの住民たちなのでしょう。

 サイレントヒルの地下火災の生き残りであるグッチ警部に代表されるように、サイレントヒルの世界が形作られたとき、住民の全てがサイレント・ヒルの世界に閉じ込められたわけではありません。グッチ警部も、「善良な人」もたくさん死んだと言っています。

 アレッサが悪魔と契約して作りだしたサイレントヒルの世界に囚われたのはアレッサの死に関与した者のみ。

 彼らは世界の終わりが近いと説くクリスタベラの振りまく恐怖、そして、闇の力の恐怖に怯え、クリスタベラは彼らの恐怖心を利用して住民たちをコントロールしていました。

 クリスタベラは彼女の行った清めの儀式が失敗してアレッサを瀕死の状態にしてしまい、それがきっかけでアレッサによってサイレントヒルの世界が誕生したことを知っていたと思われます。

 しかし、自分の指導力を疑われないように、そのことを住民たちには伏せていました。「悪魔」=アレッサだということも伏せていました。一方で、住民たちはアレッサが悪魔になったことに薄々勘付いていました。

 しかし、今の住民たちにとって、頼るものはクリスタベラしかいません。そこで、あえて「何も知らない」ことにしました。クリスタベラを疑わず、アレッサにも正しいことをしたのだと信じて疑わない。臭いものにはふたをする、ということです。

 信者の一人アンナがアレッサの名を出されたときに「その名を口にするな」といってローズを止めたのは、アレッサが悪魔だということを思い出したくないから。そのことを思い出せば、クリスタベラの能力を疑いたくなり、そうなれば、頼るものを失い、毎日が不安でしかたなくなってしまいます。

 毎日、闇の者に命を脅かされる生活のなかで、住民たちはクリスタベラを熱狂的に支持することで不安を忘れようとします。「クリスタベラこそ、もっとも神に近い者」。自分にそう思い込ませ、彼女についていさえすれば、命は守られるのだと信じることによって、死の恐怖からのがれようとしているのです。

 「ちょっとおかしいな」、と思っても、皆が賛成しているのならそれでいいか、と思い、つかの間の安心を得るために、真実を犠牲にする。サイレントヒルの住民たちを通して、群衆心理が表現されています。

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★人間は天使をも裁くべき者

 サイレントヒルのある地域の幹線道路に設置された大きな本型のオブジェ。これらは聖書をかたどっているかと思われます。描かれているのは"我々は御使いをも裁くべき者"。

 このオブジェは映画中2回も登場します。確かに、サイレントヒルにはたくさんの神のフレーズが登場しますが、2回も映されるのはこの文句だけ。

 1度目はサイレントヒルに向かうローズがシャロンと町のガソリンスタンドに寄る前に、車を降りてここで休憩しているシーン。そして2度目は父親のクリスがグッチ警部に家に帰れ、と言われて2人が別れるシーン。2人はこの聖書型のオブジェの真下で話をしています。この文句には何らかの重要な意味があるに違いありません。

 言い回しが難しいので、分かりやすく訳してみます。そうすると、「私たちが、天使を裁けることを知っているか?」となります。(映画中の原文:Do you know that we will judge angels?)

 これは新約聖書の中の「コリント人の信徒への手紙」の一節。しかし、これだけでは意味不明です。そこで、この前後の文章をつけてみましょう。分かりやすいようにかみくだいて訳します。

 『キリスト教を信じる者はこの世を裁く者。そうならば、些細な事件を解決するのはたやすいはずでしょう。そして、キリスト教を信じる者は天使をも裁くことができる。となれば、この世の事件などはたやすく裁けるはずではないか。』

 そして、さらにこう続きます。
 『私がこのように言うのはあなたがた信者を恥ずかしめるためです。信仰者同士の争いも仲裁できないなどとは本当に情けない。そもそも、相互に訴え合うこと自体がすでに、信者として失格です。なぜ、甘んじて不義を受けないのか。なぜ、だまされたままでいないのか。』

 要はこういうことです。
 このコリント書の文章を書いたのは聖パウロです。聖パウロは信者同士で争うことに怒っています。そして、信仰者ならば、天使すら裁くことができるのだから、信仰者同士の争いなどは自分で解決しなさい、お互いに争うくらいなら、裏切られたとしても、だまされたとしても、そのまま受け入れなさい、と言っています。

 では、コリント書からサイレントヒルを読み解いてみましょう。

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★コリント書から分かるサイレントヒル【その1】

まずは、サイレントヒルでおきたアレッサ対住民たちの対立。アレッサも住民たちもクリスチャンです。しかし、アレッサを排斥した住民たちは結果として悪魔になったアレッサと対立します。

 聖パウロの視点からすると、住民とアレッサが対立すること自体が神の教えに反します。そして、アレッサが復讐心のために悪魔に魂を売るのはもってのほか、アレッサはその不正義を甘んじて受け入れ、信仰者として神の国に来るべきであったということになります。

 あれだけのことをされたアレッサにそれを赦せというのは相当な勇気がいります。しかし、キリスト教は「愛」の宗教です。相手を愛し、赦すことで問題を乗り越えていこう、ということを説くもの。アレッサにも「赦すこと」を神は求めたのでしょう。

 聖パウロは、キリスト教徒は「神の栄光のために何をすべきかを考える者」であれ、といいます。この考え方に立てば、「神がアレッサの復讐を許されるか」を考えるべきではないということになるでしょう。
言いかえれば、どこまでやることが許されるのかを考えるのではなく、何が自分にできるかを考えなさい、ということです。後ろ向きではなく、前向きに考えよ、ということですね。

★コリント書から分かるサイレントヒル【その2】

 そして、天使さえ裁ける信仰者たちにとって、人間同士の争いを裁くことはたやすいはずです。つまり、人間同士で争いが起こったとしても自分たちで決着をつけねばなりません。逆にいえば、神はそのような些細な争いには関与しません、ということです。

 いわば、神はアレッサの復讐を「許した」のではなく、「放置した」というのが正解でしょう。アレッサとクリスタベラたちの対立に神は関与しなかったのです。

★コリント書から分かるサイレントヒル【その3】

 さらに、クリスとグッチ警部が"我々は御使いをも裁くべき者"のオブジェの下で別れたこと。これはとても象徴的な出来事です。ここでは画面の半分以上にこの文句の刻まれた聖書のオブジェが映され、あえて、強調されています。誰でも気がつくように撮ってあるのです。

 その真意とは?

 グッチ警部は不思議な人です。何もかも知っている人で、過去を隠そうとはしていますが、悪い人ではない。ローズやシャロンを助けたい気持ちはゼロではありません。

 しかし、その一方で、グッチ警部はこのサイレントヒルの守人でもあります。彼はアレッサの存在を薄々感じています。そして、サイレントヒルの異世界が存在することも感じている。しかし、それをどうにかしたいとは思わない。サイレントヒルに異世界が誕生してしまったのはいってみれば、人間同士の争いが原因です。その争いを裁く者は神ではなく、やはり人間。神はその争いに関知しません。

 「サイレントヒルのことは任せてほしい」というグッチ警部。彼は手のひらに磔の痕のようなキズ、キリスト教でいう"聖痕"を持つ信仰者です。彼はオブジェの言葉通り、サイレントヒルのアレッサとクリスタベラら狂信者の争いはその2者間でのみ決着すべきだと考えていました。

 だから、彼はその争いに介入することを望みませんし、クリスのような他人が介入してくることも望みません。グッチ警部は決着がつくのを待っている。シャロンとローズが異世界に行き、アレッサと狂信者たちの決着がついたならば、サイレントヒルの異世界は閉じられ、争いは解決されます。

 グッチ警部はローズたちの救出よりも、サイレントヒルの守人としての立場を優先させた、といえるのかもしれません。

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★サイレントヒルの正義

 サイレントヒルにおいて、「正義の鉄槌」は下された。それは真実なのでしょうか。

 アレッサは自分を苦しめた者たちに制裁を下しました。それは悪魔の力を借りたものでした。悪魔の力を借りて、裁きを下すことは「正義」なのでしょうか。言いかえれば、どんな手を使っても、「悪」を懲らしめることが「正義」といえるのか。

 サイレントヒルで、クリスタベラたち住民に裁きが下されたのは"神の家"たる教会においてです。教会において、あの流血の事態を起こすことを神は許した。そう取れるストーリーでした。

 クリスタベラたち住民が、教会に逃げ込んでいたのは、教会が安全な場所だと思ったからです。彼らは狂信的ですが、ある意味では信心深い者たち。クリスタベラは「あらゆる勝利は全農の神の手にあり」「信仰だけが闇を遠ざけてくれる」と言っています。

 しかし、この場合「勝利」とは虐げられた者=アレッサの復讐の完遂であり、「闇」とはクリスタベラたち狂信的な住民たちのことでした。彼らはこれらの文句を唱えることで、それと知らず、自分たちを非難していたのです。

 神は悪魔の手を借りたアレッサを赦しました。そして、アレッサの復讐を果たさせました。しかし、その代償は、永遠の彷徨。サイレントヒルからは抜け出すことを許さなかった。

 正義とは実に相対的です。最初の場面、アレッサが父親のいない子としてひどい扱いを受けたころまでは、アレッサは圧倒的な善の立場にいました。しかし、悪魔に魂を売った時点で彼女は少なくとも「神」の側にはいられなくなってしまった。神もその領域からアレッサを手放すしかありませんでした。

 しかし、アレッサに悪魔と取引させたのはクリスタベラたちサイレントヒルの住民たち。アレッサと住民たちの対決においてはもはや、どちらが善ということはできません。

 クリスタベラが校長を務めていたミッドウィッチ小学校には"正義を憎む者は罰せられる"という言葉が刻まれていました。

 「正義」。

 何が正義なのでしょうか。結末、アレッサはサイレントヒルの世界に閉じ込められました。神はアレッサが復讐することは認めたが、アレッサの復讐を「神の正義」とは認めなかった。それだけは確かであるように思います。

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