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パブリック・エネミーズ

映画:パブリック・エネミーズ あらすじ
※レビュー部分はネタバレあり

 鮮やかな手口で銀行強盗を重ね、大衆の喝采を浴びたジョン・デリンジャー。別名、「パブリック・エネミーNo.1」。そして、そのデリンジャーを執念深く追い詰めていくメルヴィン・パービス。彼は、連邦捜査局(FBI)の特別捜査官として持てる手段は何でも使う非情な男。この2人の行く末には一体何が待っていたのか。

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 世界恐慌から4年、アメリカ社会の混乱が続くなか、銀行強盗の"黄金時代"を迎えていた。そんな中でもとりわけ目立ったのはジョン・デリンジャーという男。いくつもの銀行を襲い、大金をせしめていた。その鮮やかな手口、居合わせた銀行の客のポケットマネーは奪わないスマートさ、そして、警察当局を寄せ付けず、強盗を繰り返す彼のタフさが大衆に受け、デリンジャーはいつしか、伝説のアウトローとして人気を博するようになっていく。

 そんな状況に業を煮やしていたのは司法省捜査局(BOI)だった。FBIの前身であるこの捜査機関は州境を越えた犯罪に対応するために設けられた犯罪捜査機関である。当時の司法省捜査局長官はJ・エドガー・フーバー。なかなか捕まえられないデリンジャー、高まる捜査当局への批判に業を煮やした彼はジョン・デリンジャーを「パブリック・エネミーNo.1」に指名し、捜査に発破をかけていた。

 さらに、フーバーはメルヴィン・パービスという男をシカゴ担当の特別捜査官に任命する。ここに特別捜査官パービスと「パブリック・エネミーNo.1」の称号をいただくデリンジャーの対決の火ぶたが切って落とされることとなった。



【映画データ】
パブリック・エネミーズ
2009年・アメリカ
監督 マイケル・マン
出演 ジョニー・デップ,クリスチャン・ベール,マリオン・コティヤール,ジェイソン・クラーク,ビリー・クラダップ,スティーヴン・ラング



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映画:パブリック・エネミーズ 解説とレビュー
※以下、ネタバレあり

★無口な男、メルヴィン・パービス

 ジョン・デリンジャー、そしてメルヴィン・パービス。対照的な2人の人生は何を語るのでしょうか。

 メルヴィン・パービスは無口な男です。彼は無駄口は叩かず、常に厳しい表情を崩しません。何があっても、彼の表情は変わらない。逃走する"プリティ・ボーイ"を撃ったときも、彼はまるで動物をし止めるかのように冷静に引き金を引きました。"プリティ・ボーイ"、本名フロイドは真っ先に駆けつけてきたメルヴィンに「地獄に行けるよ」と言い残して死んでいきます。

 しかし、デリンジャーが死んだ時は違いました。パービスの部下が発砲し、パービス当人が駆けつけたときにはデリンジャーは瀕死の状態だったのです。何事かつぶやくデリンジャーの口元に耳を寄せるのは彼の部下、ウィンステッド捜査官。「何を言っていた?」とパービスは彼に尋ねますが、「何も聞こえませんでした」とウィンステッドは返します。パーヴィスはデリンジャーの最期の言葉を聞くことはありませんでした。なぜ、デリンジャーの言葉はパービスに伏せられたのでしょう。そこにはパービスと部下の微妙な関係がありました。

 デリンジャーがシカゴの捜査本部に乗り込んできたことがありました。その時、パービスの部下たちはテレビの中継に夢中になっていました。「今日のスコアは?」と何食わぬ顔で話しかけるデリンジャーがまさか本人とは気付きません。デリンジャーの顔写真など至るところで見かけます。しかも、ここはデリンジャー事件の捜査本部。なのに、誰もデリンジャーに気が付く者はいませんでした。パービスなら、こんなことはなかったでしょう。

 デリンジャーの逮捕に固執する彼は明けても暮れてもデリンジャーの逮捕のことばかり考えています。スポーツ中継に夢中になってデリンジャーに気が付かない、ということがあるわけがありません。しかも、この日はデリンジャーの逮捕が予想される重要な日でした。にもかかわらず、部下たちはテレビに夢中。部下たちの事件にかける思いはパービスの思いとは比べ物にならない温度差があることが分かります。

 メルヴィン・パービスが追い求めているのはデリンジャーだけ。デリンジャーの逮捕に全てを賭けていました。そのためにはあらゆる手段を使い、失敗の可能性が高い作戦でも強引に決行してしまいます。パービスはデリンジャーを逮捕するためなら、他の全てを捨てることができたでしょう。それがたとえ、部下の命であっても。

 パービスがデリンジャーを追う過程で、何度も作戦が失敗し、そのたびに捜査官の死傷者を出していました。それでも、パービスは独断専行で作戦を決行します。部下からは、パーヴィスは仲間をかえりみない、冷たい心を持った人間に見えました。部下たちはパーヴィスという人間を理解することができませんでした。彼らはデリンジャーの逮捕に執着するパーヴィスに共感できず冷めた視線で彼を見ていたのです。

パブリック・エネミーズ 3.jpg   パブリック・エネミーズ,↑BOI、のちFBI特別捜査官メルヴィン・パービス。FBI提供。.jpg

↑BOI、FBI特別捜査官メルヴィン・パービス。FBI提供。

パブリック・エネミーズ 1,Universal Studios..jpg   パブリック・エネミーズ・ジョン・デリンジャー(本人)の写真。FBI提供。.jpg

↑「パブリック・エネミーNo.1」ジョン・デリンジャー。FBI提供。


★パービスの怒り

 感情を外に出さず、表情がめったに変化しないパービスでしたが、一度、上司に怒鳴ったことがありました。パーヴィスの上司はJ・エドガー・フーバー。フーバーは連邦捜査局をさらに拡大・強化しようと政治家たちと政争を繰り広げている真っ最中でした。

 フーバーはメディア受けを常に気にする人物で、相当の見栄っ張りです。パービスに対しても、デリンジャーの逮捕をとにかく急がせていました。パービスはそんな権力者フーバーに向かって怒りを露わにし、人員の増員を要求しました。

 なぜ、パービスがこんなに感情的になったのでしょうか。それは直前に部下を失ったからです。しかも、パービスの目の前で彼は死んでいきました。パービスの指揮したデリンジャーの捕縛作戦が失敗に終わり、部下が殺害されてしまったのです。まだ息のある部下を見つけたとき、もう彼は虫の息でした。パービスも人間です。目の前で生を終えていく人間を目にしたとき、彼には激しい感情が沸いてきました。

 一方で、パービスにはこれ以上の失敗はできないという強いプレッシャーがフーバーからかけられていました。「今までのタイプの部下では仕事ができない!」とパービスはフーバーに電話越しに怒鳴ります。抑圧された状況下で、彼は失敗を部下の責任にしていました。パービスは部下に思われていたような冷血で情のない人間ではありません。部下の死に心が乱されないこともありません。

 しかし、彼は決してコミュニケーションがうまくとれるタイプの人間ではなく、また相当の自信家でもありました。パービスは自分の決断や作戦に無理があったとは考えていませんでした。リトル・ボヘミアの隠れ家を襲撃したときもそうです。圧倒的に不足する人員しかそろわず、応援を待とうという部下の進言にパービスは耳を貸そうとしません。結果的に、双方に死傷者を出してしまう結果となってしまいました。

 デリンジャーを逮捕するという執念に基づいて、独断専行してしまう彼のやり方は彼自身の無口さと相まって、部下との距離を作ってしまう原因でした。パービスは優秀な捜査官でした。しかし、チームの指揮官として、人心を掴む能力に欠けていました。

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↑J・エドガー・フーバーFBI初代長官。1961年9月28日に撮影された66歳のときの写真。アメリカ議会図書館所蔵。


★デリンジャーの逮捕―予想外の結末―

彼はデリンジャーの逮捕に執念を燃やしてきました。そして、そのときが来たとき、事態は予想外の結末を迎えることになります。デリンジャーはパービスの部下によって射殺されてしまったのです。デリンジャーの死を迎えるパービスはほとんど表情を動かしません。パービスはデリンジャーに近づくこともなく、彼の最期の言葉を聞こうともしませんでした。

 "プリティ・ボーイ"を撃った時のパービスは獲物を追う優秀な猟犬のように、他の捜査官の先頭に立って容疑者を猛追していました。冷静に狙撃を成功させ、倒れたプリティ・ボーイに真っ先に近づいていきました。しかし、パービスがあれだけ執念を燃やしていたデリンジャー逮捕のときはパービスは完全に蚊帳の外でした。

 猟犬は狙った獲物に食いつくことができなければ狩りに成功したとは言えません。デリンジャー逮捕のときのパービスは目の前の獲物を他の猟犬に奪われた哀れな猟犬でした。パービスは虚無感を味わいました。

 また、パービスは一度逮捕したデリンジャーに留置場で会ったとき、口のうまいデリンジャーに言い負けています。しかも、その後デリンジャーは脱獄に成功してしまいました。あのときからデリンジャーの逮捕はパービスの個人的なライバル心の対象でした。連邦捜査局VS.デリンジャーではありません。パービスVS.デリンジャーなのです。

 捜査の結果としては、デリンジャーを追いつめることに成功しました。しかし、パービス個人としては、デリンジャーを捕まえることができませんでした。パービスはチームより個人プレーを好みます。チームで成功しても、彼個人に充足は訪れません。彼は敗北感に襲われ、瀕死のデリンジャーに近づくことすらしませんでした。

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↑ジョン・デリンジャーが死亡した直後に撮影されたバイオグラフシアター。BOIが撮影したもの。FBI提供。


★フーバーとパービスの確執

パービスはフーバーの言うがまま、捜査方針を変えました。彼は自らの道義的観念を捨て、以前は取らなかった卑劣な手段でもためらわずに取ることにしたのです。パービスが重症の容疑者に治療を受けさせずに尋問したのはこの後でした。

 デリンジャーの恋人のビリーにもパービスの部下により、激しい尋問が加えられました。また、デリンジャーの古くからの友人に対しては、強制送還させられる可能性をちらつかせて脅かし、情報を流すように強要しました。結果は大成功。デリンジャーは捜査側の手に落ちたのです。

 しかし、パービスは複雑でした。フーバーの言う手法を取ればとるほど、疲労感が増し、思いつめた感情は心を頑なにしていきます。同情や疑問を感じてしまえば、もう、今の捜査を続けることはできなくなるでしょう。そうなれば、デリンジャーを捕まえられない。

 デリンジャーの逮捕を最優先するため、パービスは自分の心を殺してしまいます。彼が無表情で無感動な男に見えたのは、何かを感じてしまえば、今の自分のままではいられなくなることが分かっていたからです。彼の冷淡にも見える仮面のような表情は自らの精神を守るための自衛反応でした。

 また、パービスにはもう一つ、問題が起きます。フーバーとの確執です。J・エドガー・フーバーは目立つことが大好きで、常にメディアに対して派手なアピールをすることを好みました。彼は司法省捜査局(BOI)を発展的に解消し、連邦捜査局(FBI)を設立するため、熾烈な権力闘争を戦い抜き、政治家の反対をねじ伏せてFBIを設立し、その初代長官にもなった政界の実力者です。フーバーは権力基盤の強化のためなら、何でも利用しました。パービス、そしてデリンジャーの犯罪までも利用します。

 州境を越えて犯罪を行うデリンジャーらの存在はフーバーの目指す捜査局の拡大の必要性を裏付ける一方、早くデリンジャーを捕えられないと、捜査力に疑問が呈される可能性があるという2面性を持っていました。フーバーはデリンジャーを早く逮捕して、連邦捜査局の存在意義をアピールする必要に迫られていました。そこで、フーバーはパービスという若手捜査官を特別捜査官に抜擢します。

 しかし、パービスがデリンジャーを逮捕してしまいました。パービスは今や捜査を成功させたヒーローです。パフォーマンスを好み、メディアに露出することが大好きなフーバーがそんなパービスを好ましく思うわけがありません。

 たしかに、パービスは有能でした。フーバーがシカゴ担当の特別捜査官に抜擢したのもその才能を見込んでのことです。そして、パービスは期待通りの働きをして見せました。しかし、そうなったらフーバーにとってパービスは用済みです。新しいもの好きのメディアは悪名高きジョン・デリンジャーを捕えたメルヴィン・パービスを優秀な捜査官として祭り上げるでしょう。相対的にフーバーの立場は低いものになってしまいます。

 パービスはフーバーのやり方に従い、成功しました。しかし、フーバーのやり方は自らの人間性に対して根本的な疑問を投げかけるものでもありました。医者を追い払い、重症の容疑者を尋問する部下に対して、パービスは背を向けています。彼が凝視しているのは尋問の様子ではなく、病院の廊下でした。パービスの後ろでは見るに堪えない光景。目を逸らしていても、悲鳴は聞こえてきます。

 また、部下がビリーをめちゃめちゃに殴りつけて尋問をし、トイレにも行かせない過酷な尋問をしていても、部下を責めることはできません。それはフーバー流の""正しい尋問""だからです。パービスは激しい尋問を受け、立てなくなったビリーを無言で抱え上げて連れ出していきます。それは今、パービスにできる最低限の優しさでした。

 本来あるべき自分の姿と、フーバーのFBIにいる自分。2つの自分の姿が乖離して見えてきます。パービスはこの矛盾に追い立てられるようにして、退職していきました。

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★ジョン・デリンジャー―「明日のことは考えない」―

 ジョン・デリンジャーは「明日のことは考えない」と繰り返し、口にします。彼は軽口を叩きながら世を渡る、刹那的な「今」という時間を楽しむ男。信義に厚く、仲間を助けるために、わざと逮捕され、刑務所の仲間を助けて逃走するなどという無茶もしてきました。銀行強盗という"仕事"に有能で、友人を大切にする彼は人望が厚い男でした。 

 次々に仕事の誘いを受ける彼でしたが、一つ、こだわりがありました。彼は大衆受けを気にするのです。ジョン・デリンジャーにふさわしい仕事とは、世間からある種の「ヒーロー」として拍手喝采を受けるにふさわしい仕事でなくてはなりません。彼は「汚いカネ」を盗む、正義の味方として振舞うことにこだわり、自分も、そのステイタスに満足を見出していました。

 一方で、恋人のビリーはそんなデリンジャーに不安を隠せません。「あなたは明日を考えない、そして結局捕まるか、殺されるわ」。競馬場で仕事仲間に次々と挨拶される顔の広いデリンジャーはどっぷりと犯罪に浸かった生活をしていました。そんな彼を見て、ビリーはデリンジャーの行く末を心配したのです。「あなたは既に死んでいる、というジョークを聞いたわ」とビリー。デリンジャーは「全てうまくいくさ」。ビリーの心配をまるで気にしていないかのようでした。

 「明日を考えない」。明日のことを心配しても意味がない。遠すぎる将来のことを考えるのはもっと無駄だ。「今」を楽しんで生きられればそれでいい。デリンジャーはそう振舞ってきましたし、その彼の刹那的な生き方が大衆の拍手喝采を浴びる理由でもありました。世間がデリンジャーに憧れを抱くのは、自分にはできないことをデリンジャーがやってくれるからです。鮮やかな銀行強盗の数々、ド派手な銃撃戦。「今」をとにかく楽しむ、明日のことは考えない。誰もが一度はしてみたいと願う享楽的な生き方。

 たいていの人々は仕事に家事など今日明日にしなくてはならないことを抱えて、多少なりともうんざりした気持ちを持っているものです。しかも、当時は大恐慌の嵐が通り抜けた後の社会でした。明日の仕事もおぼつかないような不安な世の中で、大多数の人が今の不安から解放されたいと願っていたことでしょう。

 そしてデリンジャーは伝説的なアウトローとして世間から祭り上げられていきました。ジョン・デリンジャーとしてはこのイメージを崩すことはできませんでした。彼は常に強気で楽天的で、充実した人生を送る男でなければなりません。高級車にお洒落な服、酒に恋人。不安げなそぶりなど、見せることはできませんでした。

 ホテルで逮捕され、収監されたとき、パービスに対してデリンジャーはあくまで強気の態度を崩しません。「眠れないのはコーヒーのせい」と軽口をたたき、「外で会おう」と脱走を匂わせます。完全にパービスを言い負かしていました。

 しかし、本音は不安でいっぱいでした。弁護士に対して「電気椅子を覚悟してる」と漏らすデリンジャー。眠れないのはコーヒーのせいなどではありません。デリンジャーが「明日のことは考えない」のも、彼が明日のことを考えると不安になるから。現実の彼は不安を隠し、あるいは忘れるために、明日を忘れ、とにかく「今」に生きようと"努力"していました。

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★ジョン・デリンジャーの最期

 何とか脱走に成功したあとも、現実は厳しいものでした。デリンジャーに対する捜査網は次第に狭まり、デリンジャーの仲間は次々に死んでいき、仕事も頭打ちになってきたのです。銀行強盗をしても、かつてほどの稼ぎはなく、刑務所の仲間を救出する手立てを実行する仲間もカネもありません。

 何より、今まで支援してくれた組織が新しい合法ビジネスを始め、無法者として有名になり過ぎたデリンジャーとの縁を切ったことが大きく響きました。かつて、歓迎してくれた仲間はデリンジャーを煙たがります。組織的な後ろ盾を失ったデリンジャーは追い詰められていきます。「選択の余地がなくて困ってるんだ」というデリンジャー。「知らないやつとは仕事をしない」という死んだ仲間ウォルターの言葉を守ることはもはや不可能でした。

 そんな中でついにきた最期のとき。ジョン・デリンジャーの古くからの友人である女性がデリンジャーを裏切ったのです。彼はその最期をどう思ったでしょうか。無茶をするデリンジャーは「既に死んでいる」とジョークのネタにされてきました。仕事にも陰りが見え、恋人のビリーは刑務所で服役しています。

 さっさと高跳びすることができたはずのデリンジャーが国内に残っていた理由は何でしょうか。ビリーも「メキシコで会いましょう」、と書いてよこしていました。顔が知れ渡り、捜査当局が間近に迫るアメリカにもはや、用はないはずです。ところが、ビリーには高跳びする気などありませんでした。

 彼は今まで生きてきた人生に満足していましたが、「パブリック・エネミーNo.1」として伝説の男を演じる「今」の人生に疲れを感じてもいたのです。ビリーが最後に観た映画はギャング映画「男の世界」。「生きてきたように潔く死ぬんだ」という映画中のセリフにデリンジャーは笑みを浮かべていました。

 「自分の人生も面白いものだった。死ぬときも自分らしく死にたい」、そう、思ったのでしょうか。逃げるために高跳びするのはデリンジャーの生き方ではありませんでした。映画館からの帰途、背後から銃撃され、倒れるジョン・デリンジャー。「これで終わりにできる」、彼はそう思ったかもしれません。

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★時代は変わる

「時代遅れの感傷は必要ない」とフーバーはパービスを叱咤します。パービスの尋問や捜査方法が手ぬるいとフーバーは考えたのです。フーバーが必要とした捜査方法は「情報提供者を作り出し」「容疑者は厳しく尋問」する方法でした。

 フーバーは「白い手袋は外せ!」と強引な捜査手法を取るようにパービスに命令したその口で、少年たちにメダルを与え、「犯罪摘発に貢献した」、とカメラの放列の前で満面の笑みを浮かべて見せます。白手袋は紳士の持ち物、それを外せということは、乱暴な手段も辞さないということを意味します。部下には乱暴な捜査を要求しながら、子供たちには笑みを振りまいて、好感度を上げようとする―フーバーの裏表のある性格をよく物語るエピソードでした。

 一方、デリンジャーも「変化」に直面していました。彼の新しい仲間はデリンジャーの仲間を刑務所から救いだすなどという、カネにもならず、リスクの高いことにはまったく興味を示しません。新しい仲間にとって大事なのはカネでした。仲間をとことん大切にし、見捨てないというデリンジャーのやり方は「古い」やり方だったのです。

 乱暴で粗雑な手法を取るこの新しい仲間との仕事は見事な失敗を迎えることになりました。銀行強盗そのものには成功したものの、逃走のときに激しい銃撃戦となり、死傷者を出してしまいます。その上、リトル・ボヘミアの隠れ家は突き止められ、捜査官たちとの激しい攻防が繰り広げられました。最後までデリンジャーと共にいた古参の仲間たちは次々と銃弾に倒れていきました。

 デリンジャーの最期を導いたのは古くからの友人の裏切りでした。強制送還されると脅かされた彼女はデリンジャーをパービスに売ったのです。昔からの流儀を崩さなかったデリンジャーと変わっていった周囲の人々。デリンジャーは1人取り残されていきました。

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★バイバイ、ブラックバード

 ウィンステッド捜査官はデリンジャーの最期の言葉を耳元で聞いた人間です。彼はパービスには「聞こえませんでした」と報告しました。しかし、その後で服役中のビリーを刑務所に訪ね、デリンジャーの最期の言葉を「バイバイ、ブラックバード」と伝えています。

 ウィンステッド捜査官はビリーにも、パービスに報告したのと同じく、「何を言われたのか分からなかった」と言い、「だから、考えた」と付け足しています。ウィンステッドは上司のパービスに「聞こえませんでした」と報告した手前、「実は聞こえていた」とビリーに言うことはできません。そのため、「だから、考えた」とあたかもウィンステッドが付け足したように言って、デリンジャーの言葉を伝えました。

 さて、デリンジャーの最期の言葉は「ビリーに伝えてくれ、"バイバイ、ブラックバード"」というものでした。

 刑務所に服役しているビリーはこれから2年は出てくることはできません。彼女は面会に来たウィンステッド捜査官に対して攻撃的な態度を取ります。彼女は憔悴し、現在の状況にやぶれかぶれの心境にあるようにも見えました。

 そんな彼女の雰囲気がデリンジャーの言葉を伝えられたときにがらりと変わりました。「バイバイ、ブラックバード」。2人の短かった楽しい時間の思い出が蘇ってきます。彼女の心が目に見えて和らいでいくのが分かります。デリンジャーの言葉はビリーに力を与え、乾ききった彼女の心に優しさを思い出させてくれました。

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★幸せな人生、幸せな最期

 デリンジャーの言葉は最愛の人、ビリーに向けられたものです。だから、ビリーにだけ、伝えてやりたい―ウィンステッドの気遣いでした。そして、それは上司であるパービスとの距離感を示すエピソードでもあります。パービスが「バイバイ、ブラックバード」という言葉を聞いても、何か捜査の役に立つわけでもないし、その言葉は愛し合うデリンジャーとビリーの間でのみ、意味のある言葉。そうウィンステッドは考えたのです。パービスにはおよそ、人間らしい優しさや理解が欠けている。そうウィンステッドの目にパービスは映っていました。

 パービスはデリンジャーを捕まえるという意味では成功しました。しかし、彼の周りに彼を本当に理解し、受け止めてくれる人はいませんでした。一方、デリンジャーは友人のために命を落としました。しかし、ビリーという最愛の人の心は最後までデリンジャーのもとにいました。

 1人でもいい、自分という人間を理解し、愛してくれる人がいれば、人生の最期はとてつもない幸福感に包まれるもの。対照的な2人の生き方はとても示唆的です。

 その人の人生はそれぞれの最期が物語ります。

 自分が死ぬときに、誰かそばにいてくれる人はいるでしょうか。それは1人でもいい。どこか遠くにいてもいい。ただ、心の絆で結ばれてさえいれば、愛する人が離れたところにいたとしても、愛された人には幸福な死が訪れます。

 デリンジャーの死から26年ののち、銃の暴発による事故死あるいは自殺という最期を迎えたパービス。その心にはいったい何が去来していたのでしょうか。

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