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ディパーテッド

映画:ディパーテッド あらすじ
※レビュー部分はネタバレあり

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 マサチューセッツ州警察に勤務する2人の警察官、コリン・サリバンとビリー・コスティガン。サリバンはエリート警察官として特別捜査班(SIU)に配属され、ビリーは潜入捜査官として、ボストン南部の犯罪組織のボス、フランク・コステロの元へと潜入する任務を任される。

 特別捜査班に配属されたサリバンは、実際には闇社会のボス、フランク・コステロの内通者だった。捜査情報はサリバンを介してフランク・コステロに筒抜けになっていたのだ。一方、ビリーはコステロの組織に潜入することに成功し、フランク・コステロの情報を警察に流していた。ビリーとサリバン、お互いの存在を知らないまま、年月が過ぎていった。

 しかし、情報が漏れているとの疑惑が警察内部でも、コステロの組織内でも持ち上がるようになる。内通者を巡り、警察、コステロの組織内で"ネズミ"探しが始まった。ビリーとサリバンは、コステロと警察、それぞれの組織の内通者として、互いの存在を探りあう。姿の見えない内通者をあぶり出すべく、警察とコステロ、双方の組織内部で激しい神経戦を繰り広げられるのだった。

 コスティガンの家系には犯罪者が多く、ビリーはそんな彼らをつぶさに見て育ってきた。そして、サリバンは幼いころからフランクの世話になり、たまり場に通って成長してきた。

 マサチューセッツ州ボストン南部という有数の犯罪多発地帯で生まれ育ち、警察官になったビリーとサリバン。そして、その地域で根を張る裏社会のボス、フランク・コステロ。複雑に入り組む3人の思惑と人間関係、犯罪組織の摘発を巡る警察とFBIの対立が絡み、緊迫した結末へと疾走していく。



【映画データ】
ディパーテッド
2006年(日本公開2007年)・アメリカ
監督 マーティン・スコセッシ
出演 レオナルド・ディカプリオ,マット・デイモン,ジャック・ニコルソン,マーク・ウォルバーグ,マーティン・シーン,レイ・ウィンストン,ヴェラ・ファーミガ,アレック・ボールドウィン

第79回アカデミー賞 作品賞・監督賞・脚色賞・編集賞受賞



映画:ディパーテッド 解説とレビュー
※以下、ネタバレあり

★結末

 休日の朝、買い物に出たサリバンは買い物袋を抱え、エレベーターで自室のある階に降りました。前から歩いてくるのは同じフロアに住む夫人。彼女は犬を連れ、朝の散歩に出かけるようです。サリバンはいつものように犬に手を伸ばして挨拶しようとしますが、女性は犬のリードを引っ張り、あからさまにサリバンを避けました。

 サリバンは不審に思いつつ、自室の玄関ドアを開けると部屋の中にディグナムが立っています。「分かったよ」というサリバン。次の瞬間、彼の頭に弾丸が命中し、彼は倒れました。うつぶせに倒れたサリバンの死体から血がにじみ出し、次第に広がっていきます。そして窓の外を走りぬけていくネズミ。金色の議事堂の丸屋根が朝日に映えて美しい姿を見せていました。

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★4匹の「ネズミ」

 中国とコステロの取引現場を押さえようとしたSIUは失敗しました。コステロらは車を使わず、裏に船を着けて、そこから脱出したのです。捜査が見事に失敗した後、逃げようとしたビリーは、「間違いなくSIUにネズミがいる。ヤツらはカメラに気がついていた」と言っていました。

 あのとき、中国との取引現場を押さえる作戦について、サリバンは直前まで知らされていませんでした。これは内通者がいることを前提にして、作戦自体が極秘に計画されていたからです。そして、サリバンはSIUの監視があることを電話し、携帯電話を使うなとメールでコステロに伝えるだけで精いっぱいでした。さらに、あのときはSIU主体の捜査でFBIの関与はなかった。となると、裏口にカメラがないことを知らせ、コステロらの脱出を助けたのは一体誰だったのか。

 それは、結末で登場するもう1人の警察官バリガンです。彼もまた、警察内部のコステロの内通者でした。このカメラのエピソードは警察内部にサリバン以外の内通者が入る可能性を示しています。さらに、コステロの組織に潜入していた警察官デラハントの事件です。彼はクイーナン警部殺害時の銃撃戦により、致命傷を負って死亡しました。彼は番地を間違えて連絡したにも関わらず、やってきたビリーを見て、なぜ、言わなかったか分かるか、と言い、息絶えます。

 実際には、デラハントもビリーと組織に潜入していた警察官でした。ここでコステロの組織内部には2人の「ネズミ」がいたことが分かります。1人はデラハント、そしてもう1人はビリーです。ということは、SIU内部にも複数、内通者がいる可能性がある。結末のバリガンが唐突な登場にならないよう、伏線が張り巡らされています。

 ディグナムの復讐というかたちで幕を下ろす「ディパーテッド」。結末の解説を皮切りにして、ビリー、サリバン、そしてコステロの人生を辿ってみましょう。

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★サリバンの死

 ビリー・コスティガン、本名ウィリアム・コスティガン。まずは、ビリーの死後、起きたことからさらってみましょう。まず、ビリーの死を聞き、一番ショックを受けたのは誰であろう、マドリンです。彼女は既にサリバンの裏切りを知っていました。そして、すぐにビリーから預かった封書を開封したはずです。その中に入っていたのが何かは分かりません。ただ、それはビリーが潜入捜査官であった事実と、サリバンの裏切りを示す何かの証拠だったと思われます。

 ビリーの葬式に来ていたマドリンはサリバンをじっと目を見開いて見つめていました。それには自分を裏切った男に対する怒り、そして、ビリーを殺した男への怒りがこめられていました。マドリンは警察関係者です。彼女には、ビリーの封書を正義を全うするために託せる、どこか心当たりがあったのでしょう。かくして、ことの真相は白日の下へと晒されることとなりました。

 それはすぐに新聞等、メディアで報道されました。サリバンがエレベーターを降りたときにすれ違った女性がサリバンをあからさまに避けたのは、その報道を見たからだと思われます。「ウィリアム・コスティガンを功労章に推薦します」と勇気ある警察官としてインタビューを受けていたサリバンの仮面は剥がれました。

 いまや、サリバンは仲間を裏切り、殺した犯罪者となっていたのです。サリバンは同じフロアに住む顔見知りの女性に無視され、何かを感じ取ったでしょう。そのような振舞いをされる心当たりと言えばもう、一つしかない。サリバンが「ネズミ」であることが暴かれたということです。

 サリバンは自室のドアを開ける前、ドアに手を突き、顔を埋めて嘆息しています。女性の態度を見て、サリバンは勘付きました。彼は覚悟するしかない状況に追い込まれたことを知ったのです。部屋に入り、テレビや新聞を見るまでもない。ようは、「ばれてしまった」、そういうことです。

 ドアを開けるとディグナムの姿がそこにありました。証拠を残さないよう、靴にカバーをつけ、ジャージ姿で銃を構えるディグナムにサリバンは一瞬あっけに取られますが、すぐに彼の意図を理解します。事の真相がばれた今となっては、死んでもいい、死ぬしかない。サリバンは全く抵抗しようとはしませんでした。

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★サリバン

 サリバンは"金"と"地位"と"名声"、全てを欲しました。そして、それらを手にするためならば、手段はいといません。サリバンは全てをフランク・コステロというアイリッシュ・マフィアのボスに頼っていました。サリバンにはお金はありません。幼いころ、大量の食料品をコステロに買い与えられたときからずっと、そうでした。

 サリバンの家は経済的に豊かではありません。金持ちの子弟が通うような学校には行けない。実際、コステロに使い捨てられ、殺されたマイケル・ケネフィックとサリバンは同じ学校の出身でした。しかし、サリバンはコステロの金で勉強を続け、警察学校に入りました。そして、優秀な成績で卒業し、新人ながら私服刑事、そして特別捜査班(SIU)に編入されます。新人警察官でありながら、市内中心部の高級マンションに入居し、私生活でもステイタスを求めました。警察官の給料だけではこんな高級マンションには入居できません。

 入居の際、案内した不動産業者はサリバンの職業が警察官であると聞き、独身には部屋が大きすぎるだの何のと言って、サリバンと契約するのを渋っていました。不動産業者は安い警察官の給料では家賃がまかなえないことを知っていたため、支払いが滞るのを危ぶんだのでしょう。しかし、サリバンは連署人がいるという。間違いなく、このマンションにもコステロの金が流れています。

 しかし、コステロの金は"タダ"ではありません。この金に見合う働きをしなければ、金を止められてしまうばかりか、命までもが危うくなる紐付きの金です。しかし、抜け目ないサリバンはコステロのために働きながらも、同時に、コステロを利用し、自分の手柄を立てて出世していきます。まず、コステロの手下が殺したプロビデンス派の構成員の事件について、サリバンはプロビデンス派の男を逮捕しました。これはコステロの指示を受け、コステロが証拠品の捏造まで行った冤罪でした。サリバンが逮捕したプロビデンス派の男は無実です。しかし、サリバンはコステロの指示通り、指定された男を逮捕しました。

 「夕方のニュースに間に合う」、とサリバン。サリバンの相棒も、これで昇進だ、と喜んでいます。逮捕されたジミー・パパスは刑務所で心臓発作を起こしたあげく、病院でナイフ自殺しました。刑務所で脅迫されたのか、コステロに睨まれたことに絶望したのか。何はともあれ、これで無実を叫ぶ男の口は封じられました。真相は闇の中です。ジミーの逮捕から自殺までを「新聞にも出てた」と笑顔で上司に報告するサリバンには全くと言っていいほど、この哀れな男に対する情けはありません。

 「嬉しそうだな」と上司に言われると、サリバンは「結果が出た」と返し、「誰が得をする?」と聞かれると「とにかく事件は解決した」。サリバンは上司が手放しでこの成果を褒めてくれないことに不満げです。彼にとって、この男の死も次へのステップに過ぎない。どこかの不運な男が死んだからといって、サリバンには関係のないことです。「誰が得をする?」もちろん、逮捕に成功したサリバンが得をするのです。そして、サリバンにとって、それは仕事に対する報酬として当然のことでした。

 次は、コステロの部下・フィッツギボンズが逮捕された事件でした。サリバンは、フィッツギボンズの部屋に弁護士を装って入ると同僚に見せかけつつ、フィッツギボンズに電話をかけさせ、コステロの部下フレンチに警察の手が迫っていることを警告します。こうしてコステロに対する義務は果たしました。

 サリバンは続いて警察官としての仕事に取りかかります。フィッツギボンズのかけた電話を基にして家宅捜索令状を取り、コステロの仕事場に踏み込むことに成功します。もちろん、結果は空振り。しかし、これでサリバンには警察官としてまた一つ、昇進の材料が増えました。サリバンはフィッツギボンズの事件を利用して、コステロと警察、両方に顔を立てたのです。

 このとき、サリバンはフィッツギボンズに部下の携帯電話を使わせていました。後から捜査の適法性が疑われたときに、自分が主導し、関与したという直接的な証拠を残したくなかったから。携帯電話を使われてしまった部下はサリバンを咎めますが、後の祭りです。サリバンという男は必要ならば、同僚や部下さえ、踏み台にする人間であることを窺わせるエピソードです。

 サリバンの仲間をも犠牲にする冷酷さが顕在化したのはクイーナン警部の事件でした。サリバンはコステロの組織内部のネズミを洗い出すため、危険を承知でクイーナン警部に尾行を付けさせたのです。結果は危惧していた通りでした。クイーナン警部はコステロの部下に捕まり、突き落とされて殺されたのです。サリバンは目的のためなら手段を選ばない。それは、仲間の命であっても見知らぬ他人の命であっても同じでした。

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★マドリンとサリバン

 このように要領のいいサリバンは女性にもステイタスを求めました。サリバンを高く評価している彼の上司は既婚者は出世が早い、とサリバンに家庭を持つように勧めます。サリバンはそんなことは百も承知でした。彼は「医師の彼女がいます」と得意げです。

 マドリンに出会ったのはエレベーターの中でした。彼はエレベーターを止め、一生懸命に話しかけます。それは彼女が美人だっただけではありません。彼女が警察関係者で、しかも、医師であり、一流大学を出た女性だったからです。サリバンにとって何が重要か。それは出世です。新人警察官として着任したころからずっとそうでした。

 「俺は上を目指す」。彼は常に成功を夢見、またそのために努力することをいといませんでした。警察内部で出世するためには、警察関係者で地位のある仕事をしている妻がいるということは有利に働きます。サリバンはマドリンという女性、それ以上に、マドリンの有する社会的ステイタスに一目惚れしました。

 やがて、サリバンと一緒に住むことにきめたマドリンは引っ越し作業に入ります。マドリンが真っ先に持ち込んだのは、写真や記念品など、彼女の思い出の品を詰め込んだ段ボール箱でした。しかし、これをサリバンはさっさと別の部屋に持って行ってしまいます。そして、リビングにはそれらを置かないと宣言しました。子供のころの写真も置かない、そして自分のも置かない、と。マドリンは子供のころの写真を気に入っていました。ログハウスの前の芝生にいる幼いころのマドリン。彼女は、この写真を大きめの額に納め、いつも壁にかけていたのです。それを、「居間には合わない」というサリバン。

 マドリンはそれを聞いて顔をしかめていました。このとき、彼女はサリバンに違和感を感じていました。彼はマドリンを愛している。でも、それ以上に、彼は""見た目""を気にしている。成功した若いカップルというイメージを作り上げ、そのイメージにそぐわない物を排除しようとしている。

 サリバンがマドリンを愛していたのは事実でしょう。しかし、サリバンはそれよりも、マドリンという理想の女性といる完璧な自分を愛していました。美人で医師の妻と議事堂を望む眺めの良い高級マンションに住み、きれいに片づけられた素敵なリビングで暮らす自分。そのイメージを壊す、人間臭いものはリビングには置きたくなかったのです。サリバンの子供のころの思い出と言えば、Lストリートでフランク・コステロのたまり場に出入りしていたような泥臭い記憶しかない。

 マイケル・ケネフィックの聞き込みに行ったとき、相棒が「別世界だ」と驚いていた、あの薄汚い街がサリバンの子供時代の記憶です。サリバンにとっての子供時代は、今につながるコステロとの裏のつながりの起点となった時代です。その泥臭い子供時代の記憶を想起させるマドリンの子供時代の写真は、このマンションには置きたくありませんでした。

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★サリバンとコステロ

 サリバンには「上を目指す」という野心しかありません。理想や信条などはない。彼は都合よく人間を利用し、踏み台にして上を目指すことに何も良心の呵責を感じません。彼は冤罪で逮捕し、後に自殺したジミー・パパスを始めとして、クイーナン警部を死なせ、フランク・コステロを殺しました。

 そもそも、サリバンは警察学校を卒業し、新任警官の着任式が終わった帰りにはフランクの車に乗り込んでいました。サリバンには最初から正義のために働くつもりなどありません。警察官となって初めての警察に対する裏切りは尾行を教えることでした。しかし、サリバンには迷いはありません。彼にとっては全ての人間が道具であり、手段でしかない。

 このサリバンの徹底した合理性はコステロが幼いサリバンに教えこんだものでした。彼は「自分で奪え。""我は服従せず""」と幼い少年に教えます。「男なら自分で道を切り開け」。サリバンはこれを実践しました。コステロはビリーに、「何か見たらそこから何を引き出すか」が重要だと語っていました。つまり、ビリーを見たとき、ビリーを「何に利用できるか」と考えることだ、と。サリバンはこのコステロの考えを徹底し、コステロの道を継ぐ者だったのです。

 そして、コステロとサリバンの違いが何かと言えば、それは1つしかない。それは、サリバンが警察官であるということです。サリバンは権力を行使する側にある。しかも、その権力はコステロの権力と違い、正義の側に立つ力。その権力を持つ者がした行為は正義とみなされ正当化される。

 頭のいいサリバンは自らの持つ警察官としての優位性を自覚していました。彼は何度も繰り返し「僕は警察官だ」と語ります。犯罪が減ると仕事がなくなるわね、というマドリンに「無実の人でも逮捕するさ」。マドリンは冗談と受け止めていましたが、サリバンにとっては当然の思考でした。正義とは何か、は権力を持つ者が決める。権力は正義。力こそが正義です。正義がいかなるものかなどということは考えたこともないし、考える必要すらない。

 それに対置されているのはマドリンです。彼女はなぜ分析医になったのかとサリバンに問われ、「人助けのため」、と答えました。サリバンはしばらく無言で、「…なるほど」と答えただけ。マドリンは理想を持っています。分析医という職業にある者として、その使命が何かという考えをもっている。

 なぜ、学歴も資格もあるやり手なのに、収入の低い州の仕事に就いたのか、とサリバンに聞かれ、マドリンは「公共奉仕の精神を信じてるの」と答えていました。サリバンには職業的使命や、いわんや公共奉仕の精神などはありません。全ては自分の出世のためのもの。自分の欲得と職業を結びつけないマドリンの思考はサリバンには理解しがたいものでした。

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★コステロからは逃げられない

 マンションの部屋から見える金色のドーム型の屋根。いつか、議員としてそこに行く夢をサリバンは持っていました。彼の溢れんばかりの野心と抜け目のなさは彼を順調に押し上げていきましたが、最後は足元をすくわれました。

 サリバンは警察官にならずに、ロースクールに行っていれば良かったとマドリンに弱音を吐いたことがありました。引っ越そうかな、とまで言う彼ですが、もちろん本音ではない。ここまで足を突っ込んだ今となっては、もうコステロから逃げることはできません。そして、サリバンもそのことを分かっている。他の街に逃げても、サリバンは追ってくるでしょう。そしていつかは殺される。

 「一から出直せるかも」というマドリンの言葉はサリバンにとって、夢でしかありません。幼いころからどっぷり浸かってきたLストリートという沼地からサリバンは一生抜け出せない。あがけばあがくほど、沈んでいくだけです。どれだけ、上を目指しても、ずっとコステロら裏社会のつながりは断ち切れない。「一生アイルランドのダメ男さ」というサリバンの弱気な言葉は、ひたすら野心に燃えて生きてきた男の本心なのかもしれません。

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★"ビリー"・コスティガンとして

 ウィリアム・コスティガンは"ビリー"・コスティガンと名乗り、コステロの組織に潜入することになりました。彼の家族には裏世界で生きてきた者が多かったことから、特にウィリアムが指名されたのです。

 ビリーはいとこのショーンと麻薬の密売を始めることから裏社会への入り口を開きました。いとこのショーンとともに、コステロの仕切る界隈で商売をするビリーのことはすぐにコステロに報告されます。ビリーはコステロの仕切る地区にいること自体がマズいとショーンに警告されていました。しかし、ビリーはそれを承知で、密売を続けていました。コステロとのトラブルはコステロの組織に入る近道だと考えたからです。

 ある日、コステロの仕切る酒場に入ったビリーはコステロの側近フレンチの近くに座り、クランベリー・ジュースを注文しました。フレンチはこれに食いつきます。フレンチにからかわれたビリーはフレンチを思いきり殴りつけ、コステロに仲裁に入らせました。ビリーの思い通りの展開でした。自分の存在と乱暴さをコステロに見せつけ、肝の据わった使えるやつだ、と思わせること。そうでもしない限り、新人がいきなり組織の中枢へは入っていけません。コステロを目の前にして、再びクランベリー・ジュースを注文するビリーはコステロに強烈な印象を残しました。

 今度は、ビリーはコステロの側に付く、と示すことにします。食事に訪れた雑貨店兼ダイナーで、みかじめ料の取り立てをしていた男たちを殴り飛ばし、ノックアウトしたのです。男たちに絡む前、ビリーは「プロビデンスか?」と彼らに尋ねていました。ビリーは、男たちが、コステロの組織に対立していたプロビデンス派の構成員であることを確かめていたのです。

 プロビデンス派の構成員に暴行したビリーはコステロの側に付く者であることが明らかにされました。プロビデンス派は復讐のため、ビリーを付け狙うようになるでしょう。そして、そのビリーをむざむざと殺害されてしまえば、ボスのフランク・コステロの面子が立たなくなります。必ず、コステロはビリーに接触してくる。あとは酒場で待つだけでした。かくして、コステロはビリーの前に姿を現します。彼はビリーがプロビデンス派に狙われていることを告げ、ビリーが警察の紐付きではないか確かめたのちに、ビリーを仲間として承認することにしました。こうしてビリーは、コステロの組織の中枢部に潜り込むという難関を突破したのです。

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★コステロとサリバン

 コステロには息子はいません。彼はそれを気にしていました。コステロの最期、サリバンはまるで「息子同然」と言いかけるコステロを遮り、「人殺しに薬に女、子供もいない!」と怒鳴ります。これがきっかけとなり、コステロとサリバンは撃ち合いました。コステロは虫の息になりますが、それでもサリバンを撃とうとし、止めを刺されます。コステロはサリバンに撃たれる前に既に負傷していました。もう、死という結末は見えていたのです。サリバンを道連れにするつもりならいつでもできた。それでも、コステロはサリバンにすぐに発砲はしなかった。彼が発砲したのは、サリバンの言葉がきっかけでした。

 コステロはサリバンの言葉に怒りました。それは彼の人生を否定する言葉だったからです。「男なら自分で道を切り開け」。コステロにとって、自ら切り開いてきた人生を否定されることは最も耐えがたいことでした。これを裏返せば、サリバンの指摘するところはコステロにとって最も痛い点だったということです。彼には若い妻はいますが、子供はいません。妻は夫に無関心で、夫婦の仲は決して温かいものではありません。

 コステロは子供が欲しかったのでしょう。だから、サリバンを息子のように愛し、面倒を見た。しかし、サリバンは息子にはなりえませんでした。何もかもを利用関係で考えてしまうコステロの思考、そしてその考え方をそっくりそのまま受け継いでしまったサリバン。2人の関係は親子関係以上に、利害が優先する関係になっていました。コステロには彼を愛し、慈しんでくれる人はいない。美人の妻はいるけれど、彼女はコステロが死んで悲しむような女ではない。そして、息子同様に面倒を見たサリバンにも、「息子はいない」と否定された。コステロは彼の人生で最も深刻な欠点を指摘されたのです。

 しかし、これらの指摘はコステロの生き方を受け継いだサリバンにもそのまま当てはまるものでした。サリバンは結局、マドリンに逃げられ、彼女が妊娠した息子も失います。ビリーの葬式に来たマドリンは「子供は?」と聞くサリバンを無視して通り過ぎていきました。そして、最後はディグナムに殺される。

 コステロの生き方は金と権力を手に入れられるかもしれませんが、愛してくれる人を失い、自らを憎む者に殺されるという末路を辿る人生でした。人を利用し、踏みつけて生きる者は、憎まれ、あるいは逆に利用され、裏切られる覚悟を持たねばならない。そして、愛する者もやがて傍を離れていく。残されるのは自分一人の孤独な人生です。サリバンが非難したコステロの人生は、そっくりそのまま、サリバン自身の人生でした。

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★コステロの心配

 コステロはビリーの父親の話をします。「もし、パパが生きてて、俺たちを見たら、きっと怒りまくる。7人殺してでも俺のノドを裂く」。そして、コステロはビリーに学校に戻る気はないかと尋ねます。全くそんな気はない、というビリーに「後悔するぞ」と言い残し、コステロは席を立ちました。

 コステロは堅気で通したビリーの父親のことをよく知っていました。ビリーの親族は、伯父はノミ屋ですし、ジャッキー・コスティガンは高名な犯罪者、いとこは麻薬の売人です。ビリーの父親にも裏社会への扉は開いていました。このように犯罪が身近な環境にありながら、金が儲かるわけでもない空港の荷物係の仕事をし、堅実に生きたビリーの父親、その父親をコステロは評価していました。

 金に流れず、欲を出さず、決してその意思を曲げなかった。コステロはビリーの父親を犯罪者になる勇気がなかった腰抜けとは思っていません。それどころか、彼を高く評価していました。「男なら自分で道を切り開け」。ビリーの父親とコステロは正反対の生き方ですが、一つの意思を貫き、決して曲げなかったという点で共通していました。そして、そのようなビリーの父親にコステロは共感を抱いていました。

 コステロとしては、そんな父親を知っているからこそ、息子のビリーを犯罪者の道へと巻き込むことに躊躇を覚える気持ちがありました。このまま、コステロにビリーが付いていけば、彼は確実に犯罪者になるでしょう。そしてそれ以外の道はない。ビリーの父親が、息子の現状を知ったら、コステロを許さないでしょう。きっと、守るべきものを守るため、どんな手段にでも訴える。ビリーが警察官であることを知らないコステロは本気でビリーを心配していました。ビリーの父親を一人の男として認める気持ちがあるからこそ、コステロはビリーの将来を気にしたのです。"

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★「あんたにはならない」

 ビリーには父親の生き方が身に染みついていました。犯罪者になる生き方はしない。彼は母親の病院に見舞いに来た伯父に鋭い言葉を浴びせ、追い返していました。葬儀の費用を負担しようという伯父の申し出にもビリーは応じません。犯罪で得た金の世話にはならない。母親が死んだら伯父と縁を切る、とまで言うビリーは強い意思で人生を生きた父親の生き方を受け継いでいました。

 ビリーは組織の中にネズミがいると疑いを抱くコステロに「誰があんたを出し抜くか、だ」と告げます。そして、「俺ならできるさ」。しかし、ビリーはこう続けます。「でもなりたくない。あんたには」。このとき、コステロは確信しました。やはり、ビリーは犯罪者ではない、ビリーはあの父親の息子だ、と。彼は席を立ち、こっそりと背後からビリーに近づき、ビリーの臭いを嗅ぎます。そして、テーブルに置き忘れたタバコを取りに戻ったふりをしてごまかし、帰っていきました。

 長年、組織のボスとして様々な人間を見てきたコステロの目はごまかせません。ビリーからは、さっきまで自分がいた場所、あの路地の臭いがする。そして、コステロがさっきまでいた場所とは、サリバンと会っていたポルノ映画館、そして中華料理店が並ぶ道筋です。あの路地の臭いがするということは、ビリーはあの場所にいたということ。偶然、そこにいたわけがありませんから、当然、サリバンとコステロの密会をビリーに見られていた、ということです。そして、そんな真似をするということはビリーが「ネズミ」だから。ビリーは犯罪者ではない。コステロはビリーの臭い、そしてビリーの話から彼が警察官であることを見抜きました。

 しかし、彼はこれを表沙汰にはしません。そして、最後まで沈黙したまま、サリバンに射殺されました。コステロは弁護士にサリバンとの会話を録音したCDを預けていました。これを自分の死後の保険としてビリーに託したのです。「コステロは誰よりも俺を信用してた」、そうビリーは言います。コステロはビリーの父親を一人の男として信頼していました。そして、その父親の意思を受け継ぐビリーを信用したのです。

 「金のために動かないやつは厄介だ」、とコステロは言っていました。そして、命の危険を冒してコステロの組織内部に潜入し、危険の中に身を置いているビリーも、金のために働いているわけではない。特別手当が出るとはいえ、命を危険にさらすことになる潜入捜査は、その人に強い使命感、強い意思がなければできないことです。ビリーは何度も挫折しかけました。SIUが、中国との取引現場を押さえそこなったときは、高跳びしようと空港まで逃げ出したほどです。

 しかし、彼は結局戻ってきた。結局、彼には警察官としての使命感がありました。決して譲ることのできない、最後の一線をビリーは持っていました。その一貫した意思をコステロは評価しました。ビリーは、彼の父親と同様、「金のために動かないやつ」でした。コステロは、ビリーが警察官であるという事実を承知の上で、サリバンとの会話の録音という重要な証拠を託す相手としてふさわしいと考えたのです。

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★警察、FBI、そしてコステロの関係

 コステロがこの録音を警察に提出するようにと弁護士に指示していなかったのは面白い点です。なぜ、警察ではなく、ビリーなのか。それは警察よりも、ビリーが信用できるからです。コステロ自身、サリバンら警察官を内通者として持っていたように、警察内には裏切り者がいます。それに、警察内部では様々な権力の力学が働いていました。州警察とFBIの対立もそうですし、SIU内部でも権限を巡る争いがありました。警察に提出しても、証拠が握りつぶされる恐れがある。それよりも、個人的に人柄を知っているビリーが一番信頼できる。コステロが信用するのは警察という組織ではなく、ビリー・コスティガンという1人の男でした。

 コステロ自身、警察権力の権力闘争を利用して、組織を維持してきていました。FBIと州警察は権限が重複することから、縄張り争いやライバル競争が激しく、それぞれに犯罪組織に情報提供者を持ち、その情報を完全に共有してはいません。だから、州警察ではFBIがどの組織にどういったつながりを持っているのかが分からない。むしろ、これをよく知っているのは犯罪者の側でした。ビリーは取り立てに行った先のノミ屋からコステロがFBIの手先だと知らされ、驚愕します。逮捕が遅れに遅れていた理由の一つは、コステロがFBIの協力者だったからでした。

 ビリーがコステロの組織に入ろうとプロビデンス派と暴力沙汰を起こしたとき、コステロは「サツはプロビデンスに肩入れしてる」と言っていました。このことから、州警察はプロビデンス派とのつながりが強かったことが分かります。これに対抗するためには、コステロは別の警察権力と結びつく必要がありました。警察とプロビデンス派の結びつきを指摘するコステロの言葉は、コステロとFBIの協力を窺わせる発言だったのです。

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★サリバンとコステロ

 サリバンを息子のように思う気持ちがコステロにはありました。サリバンが幼いうちから目をかけ、面倒を見てきたのは、彼を警察に送りこんで内通者にさせるためではないことは確かです。しかし、コステロがサリバンの働きを必要とし、また、サリバンもコステロの力を必要とし、コステロを利用して野心を達成しようとしたために、二人の関係は歪みを見せ始めました。コステロとサリバンの関係は親子のようでありながら、仕事上のパートナーとしての共生関係にもあったのです。

 そうなれば、大人の利害関係が2人の関係に加わってきます。サリバンにはコステロのような生き方を排除する意思はなく、むしろ、コステロを自分の得になるように利用したいと思う気持ちがありました。コステロとしても、警察内部の情報を流す内通者としてサリバンを取り込んでおくのは重要です。利害が一致し、しかも、サリバンにコステロとの関係を積極的に利用したいという気持ちがある以上、サリバンとコステロの関係に、相互利用から生まれる利害関係が加わるのはどうしようもないことでした。

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★コステロが邪魔になる

 利害関係が加われば、2人を規律するのは仕事のルールです。仕事に失敗は許されず、与えられる利益に見合った仕事の成果を出す必要があります。裏切りは許されず、裏切り者には死の制裁が待ち受ける。そこには親子の情愛、情けによって許されるというグレーゾーンはありません。仕事に失敗は許されません。当初、コステロの指示通りに犯人とされた者を逮捕し、家宅捜索の情報を流すサリバンの仕事ぶりにコステロは満足していました。

 しかし、次第に雲行きが怪しくなってきます。サリバンは警察内部で昇進し、自信を付けていました。出世街道をひた走るサリバンはもう、コステロなしでもやっていけるところまできていました。むしろ、コステロはさらなる出世を望むためには邪魔な存在になっています。何しろ、危険すぎるからです。コステロとの秘密のつながりがばれたら、サリバンは一巻の終わりです。

 さらに、"ネズミ"騒動がありました。コステロは組織内部のネズミの洗い出しをサリバンに要求していました。しかし、それが誰か、皆目見当がつかない。クイーナンを尾行させ、クイーナンが密会する相手が覆面捜査官だと当たりをつけたものの、間一髪で逃げられてしまい、さらにクイーナンは殺されてしまいます。警察内部でも、コステロのネズミがいると問題になっています。そして、その洗い出しを任されている。

 サリバンは追い詰められていました。この状況下において、コステロは邪魔な存在でしかない。幼いサリバンの父親代わりとなり、あれこれと面倒を見てくれたコステロですが、今となっては、足手まとい。サリバンの成功を阻み、出世の足を引っ張りかねない存在になっていました。

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★サリバンを売り渡す

 一方、コステロにとっても、サリバンは頭の痛い存在になりつつありました。かつて、息子のように可愛がり、面倒を見てやったサリバンでしたが、今のサリバンはかつてLストリートに入り浸っていたころのサリバンではなくなっています。大人しくて従順だったサリバンは、今や野心に燃え、コステロすら排除しかねない勢いで出世街道をひた走ることに執着していました。

 コステロの最期の地となったシェフィールドの倉庫。そこへ麻薬の取引に向かっているとき、サリバンは尾行が付いていると連絡してきました。そのサリバンをコステロは罵倒し、「いまいましいネズミめが」と悪態をついていました。これは後部座席に座っているビリーに対するものではなく、尾行をやめさせることに躊躇するサリバンに対する悪態です。

 これより以前から、口のきき方が高圧的になり、不十分な情報で「命拾いをしたろ?」と言ってのけるサリバンにコステロは不満を抱いていました。中国との取引でカメラの情報を提供したのはサリバンではありません。なのに、仕事をした気でいる。サリバンは次第に、コステロの支配下を離れようとしていました。コステロはそれを感じていたのです。

 サリバンはコステロの精神を受け継いでいました。""我は服従せず""。他人は利用するものである。コステロには、サリバンがいずれ自分を排除しようと動くことが分かっていました。エリートとなったサリバンにもはやコステロの力は必要ない。むしろ、サリバンの命を脅かす存在であるコステロの組織はサリバンにとって脅威です。いずれ、サリバンはコステロの組織を壊滅させる。サリバンはそれを躊躇することはないでしょう。コステロはFBIにサリバンを売り渡すことを決めていました。

 サリバンとコステロ。二人は親子になりきれなかった親子でした。父親として接する気持ちに疑いはなく、コステロを尊敬する気持ちに疑いがなかったからこそ、サリバンはコステロの生き方をそっくりそのまま受け継ぎました。しかし、そのことが二人の関係をおかしくしていきます。疑似親子関係にあった2人の関係はここに至って崩壊します。

 最後は情より、利害が優先する。コステロの生き方をそのまま履践するなら、情より利害です。最初からこの結末は見えていました。コステロはサリバンを始末し、サリバンはコステロを排除する。本当の親子以上に似ていたサリバンとコステロは、互いにお互いを葬ることを決意したのです。

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★皆殺し

 コステロは幼いころ、警察官か犯罪者になると言われたといいます。そして、コステロに言わせれば、「銃と向き合えば違いはない」。

 「銃と向き合えば違いはない」。銃の前では、いかなる人間も、無力です。命を落とし、ディパーテッドとなる。圧倒的な暴力の前では、聖人も悪魔も沈黙するしかありません。銃がある場においては、銃こそが力、銃こそが正義です。

 しかし、警察官と犯罪者、この両者には決定的に違うところがあります。それは、警察官は金のために引き金を引くことはないということです。本当に引き金を引くのは、自らの命を守るため、絶対的に必要になったときです。損得勘定で誰かを殺すことはない。

 犯罪者は違う。命がかかった状況以外の理由でも、引き金を引ける人のことを犯罪者という。損得勘定で相手に対して弾丸を撃ち込める者は犯罪者です。そして、警察官であっても、そのような振舞いができるならば、その人は警察官とはいえない。

 ビリーはサリバンを撃ちませんでした。そして、警察学校で同級生だった黒人の警察官もビリーを撃たなかった。彼らはぎりぎりの状況に追い込まれながらも、決して相手を撃つことはありませんでした。一方、バリガンは迷いなくビリーを射殺しました。もちろん、口封じのためです。サリバンはバリガンを射殺しました。口封じのためです。これで、秘密を知る者はいなくなる。

 バリガンやサリバンが撃ったのは保身のためです。彼らは警察官でありながら、警察官ではない。犯罪者です。サリバンは、自分を逮捕するというビリーに「警官は俺だ」と主張しました。しかし、彼は警察官というバッジを持つ犯罪者に過ぎません。サリバンが自分を撃て、とビリーに言ったとき、ビリーはサリバンを逮捕することに執着しました。それは「演奏付きの立派な葬式」を出させたくなかったから。つまり、サリバンのしたことが暴かれないまま、サリバンが警察官として死ぬことを許せなかったからです。

 警察官とは、警察バッジを持っている者のことではなく、警察官としての使命感を持ち、正義のために働く者のことをいう。ビリーにとって、サリバンのように性根の腐った者は警察官を名乗るに値しません。サリバンを呼びだした建物の屋上は、かつて、最後にクイーナン警部とビリーが会った場所でした。クイーナン警部は殺されました。そのきっかけを作ったのは、クイーナン警部に尾行を付けたサリバンでした。

 「起訴は関係ない!逮捕できれば!」と言うビリー。サリバンの犯した罪は白日のもとにさらされねばならない。ビリーはそのために逮捕に固執し、サリバンを殺そうとはしませんでした。

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★ディパーテッド

 「departed (ディパーテッド)」とは名詞で、御霊(みたま)、あるいは故人、死者という意味を持ちます。""御霊""という言葉に象徴的ですが、単なる""死者""という意味よりも宗教的な意味合いが強く、死者を追悼する意味合いが強い言葉です。似た単語に「dead」があり、これは死人、死者という意味で、「departed (ディパーテッド)」と類似していますが、「departed (ディパーテッド)」のような宗教的な意味合いは薄い言葉です。

 また、「depart」は動詞で、""depart this world (この世を去る)""というように使います。「departed」はその過去形です。この映画のタイトルは死んだ者たち、という意味であり、そこから連想されるのは、コステロ、ビリー、サリバンらが次々に死を迎える「ディパーテッド」の結末です。

 死ぬのは簡単じゃない、生きるのは容易だけれど、とマドリンは言っていました。人間は生きたいと思うもの。どんなに絶望的な状況で、死ぬしかない、死にたいと思っていたとしても、いざ、自ら人生を終わらせるという行為には勇気が必要です。生きたいと思う、それは人間である限り、当然のことでもあります。全てを失った状況へと追い込まれても、なかなか自分から人生を終わらせることはできません。ビリーに追い詰められたサリバンは「撃ってくれ」とビリーに自分を撃たせようとしていました。でも、自ら死のうとはしない。その勇気はない。結局、死ぬのは簡単ではありません。

 ビリーの葬式後、事の真相がついにばれたことを覚悟したサリバン。それでも、ディグナムに殺されなければ、そのまま生き続け、裁判を受けることになったでしょう。死にたいと願ったところで死は訪れず、生はだらだらと続いていく。ところが、他人から与えられる死は突然やってきます。心構えの必要もありません。ビリーはバリガンに殺され、ディグナムにサリバンは殺された。どちらもあっという間の出来事でした。

 引き金を引かれ発射された弾は人間の体に食い込み、肉を引き裂きます。警察学校で習った通りの経路を辿って内臓器官を破壊する。ビリーやサリバンが警察学校で学んだことは、皮肉にも、自らの体で証されることになりました。

 皆、死んでいきました。人殺しのコステロも、コステロを殺したサリバンも、突然射殺されたビリーも、ビリーを殺したバリガンも。今は皆、"ディパーテッド"です。死んでしまえば、皆同じ、一人の死者となる。あの世に権力や金や麻薬は持っていけません。憎悪も怒りも失望も全てこの世に置いていけばいい。この世で愛憎にまみれ、激しい感情に翻弄された者たちも、"ディパーテッド"として永遠の安らぎを得る。悪人も善人も、皆安らかに眠れ。「すべての死者の魂が憩われますように」。

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