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ドニー・ダーコ2

映画:ドニー・ダーコ2 あらすじ
※レビュー部分はネタバレあり
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 時が過ぎ、兄ドニー・ダーコの死は遠い記憶となっていく。兄ドニーのように、生きることに絶望し、行き先を見失った妹サマンサが経験する不思議な世界。時が流れ、また戻る、時空を超える旅が今、始まる。

 ドニー・ダーコの死から7年の歳月が経ち、妹のサマンサ・ダーコは17歳の少女へと成長していた。ドニーの死後、家族が崩壊し、よるべを失ったサマンサは旅に出る決心をする。

 友人コーリーとともに、車を走らせている途中、車が故障し、道に立ち往生してしまった。車の修理を待つ間、2人の少女は小さな田舎町に滞在することになる。
その町には湾岸戦争の帰還兵、通称イラク・ジャックという男がいた。彼は戦争の記憶が忘れられず、奇怪な行動をすることから、町の人々から軽蔑され、白い目で見られている男だった。

 サマンサたちが町に泊まった夜、風車の回る風見台に隕石が落下するという事故が起きる。イラク・ジャックは風見台に上っているところをサマンサに助けられ、隕石の落下事故から危うく命拾いをするのだった。

 ジェイク・ギレンホールが主演した「ドニー・ダーコ」から8年。前作で幼いドニーの妹サマンサを演じていたディヴィー・チェイスが再びサマンサ役で登場。孤独と絶望に揺れる10代の少女を演じる。



【映画データ】
ドニー・ダーコ2
2009年・アメリカ
監督:クリス・フィッシャー
出演:デイヴィー・チェイス,ブリアナ・エヴィガン,ジャクソン・ラスボーン



映画:ドニー・ダーコ2 解説とレビュー
※以下、ネタバレあり

★2つの時間軸

 やり直せる時間。これは前作「ドニー・ダーコ」から引き継がれる「ドニーダーコ2」の世界観です。時は複数に派生し、未来のある時点から過去のある時点へと戻ることができる。しかし、人はその分岐点に気が付きません。時が派生するその重要なポイントに現れ、人を導く者がいます。ドニー・ダーコを導いたのは"銀色のウサギ"でした。

 「ドニー・ダーコ2」で"銀色のウサギ"の役目を果たすのはサマンサ、そしてビリー。導かれる者は湾岸戦争帰還兵の"イラク・ジャック"ことジャスティン・スパロウとサマンサの友人コーリーです。

 隕石の落下事故をサマンサによって免れたジャスティンは生き延び、そして、「世界の終わり」が迫っていることを知らされます。ジャスティンが生き延びる時間軸では自動車事故が起こります。死ぬのはサマンサでした。この結末を変えようと、コーリーが命を捨ててサマンサを救っても、サマンサは、今度はジェレミーによって再び殺されます。コーリーの"やり直し"は、あくまでジャスティンの生き延びる時間軸上での出来事であるからです。

 そして、訪れる世界の終わり。ジャスティンが隕石の落下事故を生き延びている限り、サマンサは死に、世界の終わりは避けられない。ジャスティンは隕石落下事故直前に戻り、死ぬという選択をしました。

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【えんじ色の矢印→】ジャスティン又はコーリーが事故で死ぬ時間軸。
【虹色の矢印→】ジャスティン又はコーリーが事故を回避し、生き延びる時間軸。
【水色の矢印→】サマンサの死を経たのち、ジャスティンあるいはコーリーは事故直前の時間に戻ってきた。そして、一度は回避したえんじ色の矢印の示す人生を選択して事故死することになる。

〈図表の見かた〉
コーリーの時間軸はジャスティンが隕石落下事故から生き延びる時間軸をベースに展開している。ジャスティンが生き延びる時間軸の中で発生する"交通事故"というイベントにおいて、コーリーは「やり直し」をしてサマンサの人生を救い、代わりにコーリー自身が事故死した。

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★選択された死

 コーリーが「やり直し」をしたおかげで、サマンサの命は救われました。しかし、サマンサは今度はジェレミーによって殺されてしまいます。そして、地球には「超四次元立法体」が降り注ぎ、各所で爆発が起きる事態になっていました。ジャスティンが生き残る限り、サマンサは死に、人類は生存の危機にさらされる。コーリーが「やり直し」をしたところで、サマンサは、そしてこの世界は助けられない。時間軸のおおもとになっているジャスティン自身が「やり直し」をしなければ、破滅的な未来を変えることはできなかったのです。

 ジェレミーは隕石をフランクから買ったことで、隕石に取り憑かれたようになっていました。超四次元立方体が降りそそぐなか、興奮を抑えきれない彼は勢い余ってサマンサを殺してしまいます。サマンサに致命傷を与えたのはジャスティンの作った鋼鉄製の"銀色のウサギ"の仮面でした。もし、ジャスティンが死んでいたら、銀色のウサギの仮面が作られることはなかったでしょう。そもそも、隕石が落下した風見台の持ち主フランクは隕石を売らなかったはずです。そして、ジェレミーが隕石を買うことはなく、ジェレミーが隕石の秘密にとり憑かれ、サマンサを死に追いやることもなかったでしょう。

 結末において、ジャスティンが隕石の落下事故で死んだとき、フランクは隕石を売るよう勧められたのにも関わらず、「人が一人死んでるんだ」と主張し、隕石を売ろうとはしませんでした。隕石はジェレミーの手には渡らず、モーテルの管理人フィルの事務所におさまっていました。そもそも、ジャスティンが死んでいたら、サマンサはこの町にとどまりませんでした。隕石の落下でジャスティンが死んだ後、サマンサはこの町を出る決心をし、コーリーとも別れます。

 ジャティンが死を選択することで、未来は変化したのです。

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★「なぜ見せた?」

 「なぜ見せた?」"銀色のウサギ"の仮面をつけたジャスティンはサマンサにたずねます。"銀色のウサギ"としてジャスティンを導いてきたサマンサがジャスティンに見せたのは、サマンサを救うため、時を遡ったコーリーの死でした。サマンサは大切な人、大切なもののために命をかける人間の姿を見せました。彼女は「世界の終わり」から人類を救うのはジャスティンの死の決断であることをジャスティンに示唆したのです。「私はあなたのために死んだ」。そう言ってサマンサは右の額にできた醜い傷を見せます。サマンサは死んだ。ジャスティンの生き延びる時間軸において。

 全ての者を死から免れさせるため、そして「世界の終わり」からこの世を救うために、ジャスティンは死を選びました。天を仰ぎ、落ちてくる隕石を迎えるように手を広げて笑っているジャックは、エンジンの落下を笑いながら待っていたドニー・ダーコを思い起こさせます。

 ドニーが自らの死をもって大切な人たちを死から救ったように、ジャックも助けるべき人たちのために死んでいきました。サマンサを、友人を助けるために命を投げ出したコーリーも。サマンサを殺す殺人犯となるジェレミーを。ジャスティンが死ぬことで彼らの人生は悲劇から救われます。自分が死ぬということにこんなにも大きな意義があるのだということは、ジャスティンの死に対する恐怖を薄れさせました。

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★社会のつまはじき者

 むかしむかし、アリエルという名の世界一美しいユニコーンがいました。王子ジャスティンに見出され、不思議で美しい世界へ導かれていきました。でも、アリエルの美しさは誰にも見えません。ジャスティンにしか見えないのです

 "イラク・ジャック"の本名はジャスティン・スパロウ。ドニーの愛読していたタイムトラベルの本の著者ロバータ・スパロウの孫息子です。ユニコーンの一節はこの本に挟まれていたノートの切れ端に書かれたものでした。ユニコーンは"純潔"や"処女性"を象徴する存在です。そして、サマンサとコーリーは「私たち、完璧」「純潔よ」と何度も言葉を交わしていました。ジャスティンが死を迎える前、コーリーに「純潔よ」と答えていたのはサマンサです。そして、ジャスティンが死んだ後、サマンサに「純潔よ」と答えていたのはコーリー。ユニコーンはサマンサのこと、そして、王子ジャスティンとはそのまま、ジャスティン・スパロウのことでしょう。

 イラク・ジャックは気のふれた男として町の人々から軽蔑され、毛嫌いされていました。戦争の悲惨な記憶を生々しく語るジャックを人々は気味悪がり、皆、彼のことを無視し、邪魔者扱いしていました。

 一方、サマンサ。17歳の彼女は強い疎外感を抱いていました。兄ドニーの死後、家庭は崩壊し、姉は結婚してもはや他人のよう。コーリーの言葉から察するに、サマンサは孤独感と寂しさに追い詰められ、自殺未遂を起こしたこともあるようです。今のサマンサは、コーリーと共にあてのない放浪の旅を続ける身でした。コーリーも彼女を愛する父親がいるふりをしていましたが、実際にはコーリーを愛しているはずの父親は存在せず、母親は若い恋人と遊び回っていました。

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★世界一美しいユニコーン

 ジャックも、サマンサも、コーリーも、社会からはじき出された存在です。彼らの存在を気にかける者はおらず、"美しさ"を理解する者はいません。王子にしか分からない、ユニコーンの美しさ。それは見た目の美しさではありません。コーリーやサマンサの若さや外見的な美しさに惹かれた者はこの田舎町にもいました。牧師のジョンはその好例です。サマンサを映画館に連れ込み、彼女の太ももにいやらしく手を置くジョンはサマンサの体に惹かれていました。

外見からは分からないユニコーンの純潔さ、彼女らの純粋であるがゆえの美しさを感じたのは"イラク・ジャック"ことジャスティンです。お互いを思い合うがゆえに、その死に苦しみ、あるいは命を投げ出して、相手の命を救おうとする。しかし、残された者には地獄の苦しみが残されます。

 命を投げ出し、相手を救っても、生き残った者は決して幸せにはなれない。彼女らの"美しさ"を理解するジャスティンが取った行動は「死」でした。ジャスティンが死ねば、サマンサもコーリーも死なずに済む。2人とも生き延びられるのです。

 隕石の落下事故でジャスティンは死にました。この事故現場に来たサマンサは見知らぬ男の死に心を動かされます。焼け焦げたジャスティンのカンテラを取り上げるサマンサ。彼女が思い出したのは兄の死でしょう。

 兄と同じように死んだ男。そして何かを感じる。ドニーはなぜ、死んだのか。ドニー・ダーコはなぜ、死ななければならなかったのか。兄の死は偶然ではなく、彼の決断と行動の結果だった。サマンサはドニーの死の意味を悟りました。

 ジャスティンの死はサマンサの人生を変えました。サマンサは町を離れ、故郷へと一人戻る決断をします。これで、サマンサとコーリーの悲劇が起きることもなくなる。""美しさ""を理解したジャスティンはサマンサを悲劇から救う道を選んだのです。

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★「起きてやり直すのよ」

 この映画の前半はジャスティンが隕石の落下事故を生き延び、サマンサが交通事故で死に、コーリーがサマンサのため、やり直しをした結果、コーリーが死ぬところまでです。「なぜ見せた?」と問うジャスティン。そして、交通事故でサマンサが生き延び、コーリーが死んだ後の時間軸が展開していきます。そして、サマンサは再び死ぬ。今度は殺されてしまうのです。「死んだらどうなるか知りたい?」ジャスティンに尋ねるサマンサの額の横には痛々しい傷がぱっくりと傷口を開けていました。「私はあなたのために死んだ」。

 サマンサの死因はジャスティンが放置した銀色のウサギの仮面に頭部をぶつけたことでした。鋭い鋼鉄のウサギの鼻がサマンサの頭に傷をつけたのです。ジャスティンは逮捕され、「世界の終わり」が近づくのを独房に座って眺めるしかありません。

 ジャスティンを独房から解放したのはサマンサでした。ドレスを着て、血の気のない顔をしたサマンサから、蒼い羽根がジャスティンに渡され、留置場の格子戸が開かれました。「起きてやり直すのよ」。

 留置場を抜け出したジャスティンはサマンサが死んだ場所へとやってきていました。"銀色のウサギ"の面を被り、暗い空を眺めるジャスティン。降りそそぐ火の玉の中、彼は立ち尽くしています。ランディがその横をサマンサの死体を抱きかかえて去っていきました。

ジャスティンは"銀色のウサギ"が夢に出てきた顔だと語っていました。ジャスティンは見知らぬ他人であるはずのドニー・ダーコを常に意識していました。ドニー・ダーコにとって、"銀色のウサギ"は自分自身でもありました。このような"銀色のウサギ"がもう1人の自分自身を象徴する存在なら、その"銀色のウサギ"の虜になっているジャスティンは"ドニー"です。そして、そのドニーは妹のサマンサを救うため、エンジンの落下事故で死んだ。それなのに、今また、サマンサが死んでしまった。

 サマンサの"美しさ"を理解するジャスティンには彼個人としてサマンサを救いたい気持ちがありました。そして、ドニーとしても、サマンサは救わねばならない存在でした。死んだドニーの声が無意識のうちにジャスティンへと届いたのか。ジャスティンの夢に出てきた"銀色のウサギ"、そしてジャスティンを虜にした"銀色のウサギ"は説明のつかない死んだはずのドニーという存在を示唆しています。

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★死という恐怖

 「私はあなたのために死んだ」。そして、ジャスティンはサマンサのために死ぬ。蒼い羽根は死、そして時空を超えるための扉を開けるカギを意味します。ドレスを着たサマンサが手にしていた羽根はジャスティンに渡されました。この世の時間軸を望ましい時間へと戻すため、死ぬのはサマンサではなく、ジャスティンである必要がある。

「死は誰にも訪れる」。サマンサはロバータ・スパロウの本を読みながら、そう呟きます。誰にでも死が訪れるものならば、大切なのはそれまでの人生をどう生きたか。死には誰しもが恐怖を抱きます。特に、今までの人生に未練があればなおさら。死を目の前にしたとき、自分の人生が無意味であると思うなら、それは辛いこと。人間は自分の存在を誰かに認めてもらいたいと思う気持ちがどこかにあるものです。

町の人間から白い目で見られ、気のふれた男と思われて死ぬ。そして、皆の記憶からはジャスティン・スパロウという男がいたという記憶すら消えていく。これは恐怖です。自分が存在したことすら、なかったことになる恐怖。サマンサは故郷の皆は自分のことを詳しく知っているのに「私は透明人間なの」と言っていました。確かにそこにいるはずなのに、いないも同然の人間。居てもいなくても、同じ。

 自分が確かに生きたという証が欲しい。大切なのはいかに生きたか、ということです。「起きてやり直すのよ」。時間軸をさかのぼり、風車の下に座るジャスティンは訪れる死を迎える準備ができていました。

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★銀色のウサギ―サマンサ

 「ドニー・ダーコ2」で"銀色のウサギ"の役を演じたのはサマンサとビリーでした。ビリーは閉じ込められて死を待つ身、そして、サマンサは死へのほのかな憧れをもつ少女です。兄のドニーが死に、家庭が崩壊し、姉も結婚して別の家庭をもった今、サマンサは降り立つところのない鳥のようでした。行く先を見失い、ただ彷徨うだけ。

 かつて、兄のドニー・ダーコが銀色のウサギに出会ったとき、彼は銀色のウサギに導かれて未来を旅しました。ドニーも、死に対する強い親近感を抱いていました。精神を病み、非行を繰り返し、家族の重荷になっているという自分に対する強い不信感。ドニーを導き、ドニーにするべきことをそそのかす"銀色のウサギ"はドニー自身の姿でもありました。

 "銀色のウサギ"としてのサマンサは死に化粧をし、鳥の羽根を象ったドレスを着、まるでこの世のものとは思えないような姿をしています。血の通っていない、冷たい表情。現実のサマンサも、ある意味では死んでいました。エンジンがオーバーヒートし、助けを待っている間、道路の中央に無防備に横たわるサマンサは車が近付いてきても動こうともしませんでした。まるで、このまま轢かれて死んでもいいと思っているようです。

 そんな彼女を「死んでる」とコーリーは言います。「彼女は氷の女王よ」。この世に生きているサマンサは血の通う肉体をもっています。しかし、生きることに絶望し、希望を見失ったサマンサは死んだも同然。彼女の心は死んでいました。その死んだ彼女が演じたのが""銀色のウサギ""。ジャスティンを死へと導く先導者となりました。

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★"銀色のウサギ"―死に導く者

 ジャスティンも死に対して強い親近感を抱いていました。戦争から帰ってきた帰還兵であるジャスティンは戦争の経験によって精神を病み、戦争の経験に囚われたまま。今も過去の記憶の中を彷徨う"兵士"です。ゴミを拾って暮らすホームレス同然に町を徘徊する彼は町の人々に馬鹿にされる毎日でした。そして、たび重なる誘拐事件の犯人ではないかとも疑われている。ジャスティンが憩える場所はこの世界にはありません。

 ジャスティンは死んで当然と思っている町の人々の冷たい視線を感じずにはいられませんでした。隕石事故でジャスティンが事故死しても、彼らは天罰だ、正義が貫徹されたとしか思わないでしょう。せめて、意味のある死に方がしたい。自分がこの世に存在した証、存在した意味が、必ずあるはずだ。

 ジャスティンは"銀色のウサギ"サマンサの導きによって、隕石事故を生き延びる未来を経験しました。それはサマンサが死に、自分は誘拐の容疑で逮捕されるという未来。隕石事故でジャスティンが死んでいたら、サマンサは死なずに済む。そして、「世界の終わり」も来ない。

 "銀色のウサギ"は死に近づいた者、あるいは死に親近感を抱く者に訪れる死神でもあります。彼の役割は死にゆく者たちに生き延びる未来を経験させ、死の意義を理解させ、彼らを満足のいく死に導くこと。ジャスティンが生き延びる時間軸においては、ランディやジェレミーに湿疹が表れていました。

 この時間軸は本来あってはならない時間軸。どこかで歪みが生じ、時空の歪みが彼らの体に変化を及ぼしたのでしょうか。また、体から伸びる透明の管のようなものも、この未来の世界の異質さを表しています。銀色のウサギが導く未来は、あってはならない未来です。その先には「世界の終わり」が待っているから。

 "銀色のウサギ"はドニー・ダーコにエンジン落下事故による死をもたらしました。そして、今度はジャスティンに隕石落下事故による死をもたらしました。そして名もなき他の誰かにも。今度は誰の人生に現れるでしょう。誰にどんな未来を経験させるでしょうか。

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★繰り返す時間、「やり直し」の人生

 コーリーはサマンサが事故死したのち、図書館で新聞をしらみつぶしに調べていました。目につくのは"マンホールの蓋 少女の首を切断"あるいは、"ゴミバケツ 若者に落下"というような、およそ、簡単には起こり得ないような事故の見出し。そして、ドニー・ダーコの死亡記事。ドニーの死は彼だけに起きた特別な出来事ではなかったことをこれらの新聞記事は示唆しています。他にも"選択された死"があり、「やり直し」がされた、ということです。

 自分が今、生きているこの時間も、もしかしたら、「やり直し」の人生なのかもしれません。自分に関係する、あるいは間接的な関わりのあるだけで、直接には知らない人の決断により、時間は繰り返す。人は様々に分岐する時の流れを過ごした記憶を意識的には保持していません。しかし、無意識的なレベルで残されたこれらの記憶は人々を突き動かし、彼らに何かしら行動するように促します。この分岐した時間のなかで、潜在意識に残された"未来の記憶"は人に既視感を抱かせるのです。

 「ドニー・ダーコ」でドニーの両親は、自宅のドニーの部屋に飛行機のエンジンが落下した後、生き延びたドニーが死ぬかもしれないと話していました。ドニーは命拾いをしたばかりなのに、なぜ、両親にはドニーの死の予感がしたのか。

 そして、「ドニーダーコ2」。サマンサはピンク色のセロハンでできた小さな風車を手にしていました。この風車は風に飛ばされ、車に轢かれて、ぺしゃんこにされてしまいます。それを物悲しげに見つめるサマンサ。隕石が落下する前、ジャスティンと出会ってすらいない時点でサマンサは風車を手にし、その風車に心を動かされていました。

 これらは何を意味するのでしょうか。

 知らないはずのことなのに、そこには何もないはずなのに、なぜか心をよぎる不思議な気持ち。「派生した宇宙」の記憶は完全には消えず、これから経験するはずの未来、あるいはないはずの過去の記憶がふと頭をよぎります。暗示にかけられたかのように、取ってしまう行動、そしてその結果。人はこれを「運命」と呼ぶのかもしれません。運命の裏にあるのは過去や未来の誰か、あるいは自分の選択と決定であることを知らずに。

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★新しいスタートにキスを

 田舎町をあとにしたサマンサは長距離バスの窓ガラスに口紅でハートマークを描き、その中にキスをしていました。この世の中に生きることに幻滅し、疲れ切っていたサマンサ。彼女は本当に死んでもいいと思っていたし、生きることに執着がありませんでした。他人に対して無愛想で刺のある態度だったサマンサはジャスティンの事故後、変わります。彼女は""銀色のウサギ""としてジャスティンを死へと導き、彼の死をサマンサとして目撃したことで、命のつながりを悟りました。

 サマンサ自身にはもちろん、"銀色のウサギ"としてのはっきりとした意識はありません。時間の分岐を旅した記憶がないのも、兄ドニーが死んだ時と同じです。しかし、この無意識の経験はサマンサに、人生を生きる価値を見出させました。ドニー・ダーコが死んだのは無意味ではない。サマンサの命はドニーが死ぬことで、つないだ命。サマンサは迷いながらもつないだ命を生き、兄の死の意味を知ることになったのです。

 サマンサは兄ドニー・ダーコに、そして、彼女の人生の全てに直接的に、あるいは間接的につながっていた人たちへキスを送りました。彼らの選択と決定がサマンサを支え、彼女をここまで生かし続けてきた。サマンサの命をつないだ人々へのキス、それは、彼女自身の生きてきた人生を肯定することでした。

 故郷のバージニアはどんな町かと聞かれ、「退屈な町」と答えるサマンサ。しかし、彼女の口元には笑みが浮かんでいます。本心、退屈な町だと忌み嫌っていたサマンサは既になく、今、彼女にあるのはかすかに沸いた希望。サマンサは新しい人生のスタートを切る糸口を見出していました。

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