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ある日どこかで

ある日どこかで あらすじ
※レビュー部分はネタバレあり

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 脚本家としてデビューしたばかりのリチャード・コリアー。彼の手がけた脚本の初公演が終わり、仲間と成功を喜び合うリチャードに、一人の老婦人が話しかけてきた。「帰ってきてね」。上品な物腰の白髪の老婦人は、懐から金時計を取り出し、リチャードに手渡すのだった。

 それから8年の月日が経った。旅に出たリチャードはグランドホテルにたちより、一晩泊まることにする。夕食のために階下に降りたリチャードは暇を持て余し、ホテルの小さな資料室にふらりと立ち寄った。そこにはホテルにゆかりのある古い記念品や資料が展示されていたが、リチャードの視線は壁に飾られた一枚の古い写真に注がれた。斜め横を向き、微笑を浮かべる女性の写真。リチャードは写真から目が離せなくなり、そこに佇んでいた。

 グランドホテルに長く勤めているアーサーから写真の女性のことを聞き出したリチャードは彼女のことを調べ始める。彼女の名はエリーズ・マッケナ。1900年代初頭、一世を風靡した大女優だった。エリーズに運命を感じたリチャードは彼女のいた時代へと旅立つことを決意する。




【映画データ】
ある日どこかで
1980年(日本公開1981年)・アメリカ
監督 ヤノット・シュワルツ
出演 クリストファー・リーヴ,ジェーン・シーモア



ある日どこかで 解説とレビュー
※以下、ネタバレあり

★運命の人

 脚本家リチャード・コリアー。ある日、彼は偶然に入ったグランドホテルの資料室で一人の女性の写真に目を奪われます。白黒の写真に写る彼女はエリーズ・マッケナ。1912年、グランド・ホテルで公演した当時の写真でした。写真に吸い寄せられるような強烈な感覚を覚えたリチャード。彼はグランドホテルにとどまることを決意します。町の図書館で老いたエリーズの写真を見たリチャードはこの女性が、大学時代、リチャードの処女作の公演に来ていて、彼女から金時計を贈られたことを思い出しました。「帰ってきてね」と言っていたあの白髪の女性がエリーズだということは…。

 脚本の執筆に行き詰まり、恋人とも別れ、あてのない旅に出たリチャードを待ちうけていた運命の人。リチャードがふと思い立って立ち寄ったグランド・ホテルは過去への入り口でした。時空を超え、愛する人の元へと旅立つリチャード。

 しかし、その夢は突如として破られます。時の流れは残酷にも、リチャードからエリーズを引き離し、リチャードは再び現代へと戻ってきてしまいました。絶対に消えない愛の記憶にリチャードは苦しみます。手を伸ばしても、嘆いても、絶対に届かない、あまりに遠すぎる距離。時間という越えられない壁を目の前にしたリチャードは絶望し、憔悴しきっていました。食べるものも口にすることなく、発見されたリチャードは瀕死の状態。周囲が慌てふためくなか、リチャードは再び旅に出ます。2度と戻ることのない、遥かなる旅。時空を超えて、エリーズとリチャードは今、再び出会いました。

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★ウィリアムの予言

 マネージャーのウィリアム・ロビンソンはエリーズに予告していました。「ある男性が現れ、エリーズの人生を変える」、と。その男性こそがリチャードでした。リチャードはこの予言通り、エリーズの人生を変えることとなります。エリーズはグランド・ホテルでの公演を境に、それまでの明るく、朗らかな人格が一変した、と女優エリーズ・マッケナの本を執筆したミス・ロバーツは述べていました。

 リチャードはエリーズに真実の愛をもたらし、そして、エリーズの魂を虜にしたまま、消え去ってしまいました。しかし、エリーズはリチャードを見つけ出しました。グランド・ホテルでの運命の出会いから60年後、再び運命は彼らを引きあわせます。

 1972年、大学で、リチャードの処女作の公演が行われたとき、エリーズはこの公演を見に来ていました。かつて愛した人と同じ名前が脚本家として出ていたことに興味を惹かれたのでしょうか。そして、公演が終わり、仲間と喜び合っている脚本家の若い男性は間違いなく、リチャード・コリアー。エリーズが愛したリチャードその人でした。

 エリーズは若きリチャードに金の懐中時計を手渡します。常に肌身離さず持っていた大切な時計。エリーズとの過去の記憶を失い、新しい人生を歩んでいるリチャードに戻って来て欲しいとの願いを込めて。

 それから8年。時は満ち、リチャードはグランド・ホテルに辿りつきました。そして、開かれた過去への道。再び、リチャードはエリーズに出会うことができました。2度目の、そして、運命の再会でした。何もかもを捨てて、過去の時間を生きる、リチャードはその選択をしたはずでした。

 過去に惹かれ、過去の時間の美しさと心地よさを知った者が元の時間で生きることの辛さは大学時代の恩師にあらかじめ警告されていました。しかし、ポケットに残されていた一枚の硬貨が運命をさらに変えてしまいました。確かに全部未来へ置いてきたはずなのに、残っていた一枚の硬貨。運命は2人を再び別離の道へと導いたのです。

 エリーズの人生はリチャードによって変わりました。愛を知り、愛を手にし、そして、失う。愛の美しさ、豊かさを知ったエリーズの人生は幸福に包まれ、そして、愛する人を突然失ったことで愛の辛さを知った。エリーズの人生は確かに、リチャードによって変わったのです。

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★女優として

 エリーズには才能がありました。美貌と才能に恵まれたエリーズには「スター」になる素質がある。マネージャーのロビンソンはエリーズが傷つけられることを極度に恐れていました。咲きかけた美しい花が、つぼみのうちに萎れてしまうことのないように…ロビンソンはリチャードをひどく警戒していました。リチャードは非常に好感のもてる良い青年かもしれない、しかし、それゆえに、彼を失ったときの悲しみや辛さはエリーズを傷つける。

 ロビンソンは、リチャードの存在がエリーズの中で大きくならないうちに、リチャードを遠ざけようと努力します。知らなければ、傷つくことはない。リチャードを知らなければ、愛を知らなければ、それを失ったときに傷つくことはありません。エリーズは今のままでいられる。

 しかし、愛を止めることはできませんでした。流れる水のように、あらゆる隙間からせき止めるものを乗り越えていく。エリーズとリチャードの愛は誰にも邪魔することはできなかったのです。そして、ロビンソンの危惧していたことが起こりました。リチャードが消えたのです。忽然と。エリーズの嘆きは想像するべくもありません。

 しかし、エリーズは折れませんでした。彼女は後年、「魅惑の大女優」と書物に書かれるまでの女優となり、成功をおさめます。ロビンソンの危惧していたような事態は起こらず、エリーズは「広く国民の敬愛を集め」、長年に渡って「舞台の花形」として活躍しました。

 エリーズは風にそよぐ花のような、たおやかな美しさを持った女性でした。しかし、芯は強い女性です。ロビンソンに対しても、引くところは引きますが、リチャードに対する恋心を隠そうとはせず、最後までリチャードについての態度は一貫していました。その強さは永遠に変わりませんでした。リチャードを失うという悲劇にエリーズは潰されることはなく、女優として生き抜きました。
ロビンソンはエリーズに"女優"であることを強く望んでいました。そして、エリーズもそのことを良く分かっていました。

 ロビンソンとともに、「演技に酔うなかれ」と声を合わせて唱和するエリーズとロビンソン。二人は互いのことを理解していました。例え、何があったとしても、「女優」エリーズ・マッケナとして生きる。これはエリーズの女優としての矜持です。リチャードとの辛い別れは彼女を傷つけたことでしょう。しかし、その辛さは彼女の演技に奥行きと深みを与え、エリーズを大女優にしました。人生の辛さや暗さを知らなくてはできない演技があります。傷つくことは決してマイナスばかりにはなりません。

 ロビンソンの心配は杞憂でした。エリーズはリチャードを理解し、彼を愛し続け、女優としての生涯を全うしました。

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★グランドホテル、ラフマニノフのラプソディー

 グランド・ホテルはリチャード・コリアーとの出会いの場であると同時に、女優として飛躍する原点を得た場所でもありました。グランドホテルを象った特注のオルゴール、そして、そのオルゴールから流れるリチャードが教えたあのラフマニノフの曲。そして、グランドホテルで迎えた死。グランドホテルはエリーズにとってのすべてを示す存在です。

 そして、ラフマニノフのラプソディー。1934年に作曲されたこの曲は、「パガニーニのラプソディー」と呼ばれ、愛されています。この美しいメロディーにエリーズは心をうたれました。「ラフマニノフは好きだけれど、聞いたことがない曲だわ」と話すエリーズ。

 なぜ、聞いたことがなかったのか。それはリチャードが未来から来た人間だから。いつの時点か、エリーズは気が付いたでしょう。リチャードは同時代を生きる人ではなく、未来からやってきた人間であると。1934年に作られた曲を1900年代初頭の人間が知っているわけがありません。リチャードの秘密に気が付いたエリーズにとって、ラフマニノフのラプソディーは二人の愛を象徴する曲となりました。

 リチャードが消え去った後、エリーズが女優としての人生を追求し続けたのは未来のリチャードに対する思いがあったから。未来の時間でリチャードはエリーズと知り合うことになる、その思いがエリーズを支え続けていたのでしょう。

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★過去と未来と

 ひとときの愛の時間は突然に終わりました。それから数十年後、リチャードとエリーズの時間はもう一度交差することになります。それは大学でのリチャードの処女公演でした。エリーズはリチャードに近づき、金時計を手渡しました。

 エリーズから金時計をもらったと話していたリチャード。あのときから時間は経ったけれど、エリーズの心は変わらずリチャードを求め、愛している、それを伝える金時計でした。老いたエリーズからは失意の念や落胆は感じられません。ただ、愛する人に出会えた幸福に満ちている。

 彼女は引退後、隠遁生活を送りました。グランドホテルに居を構え、静かな時の流れとともにリチャードとの思い出と愛に浸って生きる。リチャードの処女公演からグランドホテルの自室に戻ってきたエリーズは、リチャードの脚本を胸に抱え、静かに死へと旅立っていきました。

 それから8年後。グランドホテルにやってきたリチャードは時空を超え、エリーズと再び出会い、愛を知ります。そして彼も、グランドホテルで死を迎えました。エリーズと同じ場所で迎えた死。天国へと旅立つリチャードを迎えに来たのは、愛する人、エリーズでした。二人は手を取り合い、光の中へと歩み去っていきます。今度こそ、ずっと一緒にいられる。永遠の時間が約束された死は二人にとっての永遠の地であり、幸福の始まりでした。

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All pictures in this article from this movie belong to Universal Pictures.
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