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<title>映画レビュー集</title>
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<description>もう一度、見直したくなる映画解説と独自の視点の映画批評をお届けします。随時更新中！</description>
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<title>ゴシカ</title>
<description>映画:ゴシカ あらすじ※レビュー部分はネタバレあり　ミランダ・グレイは女子刑務所の精神病棟に勤務する優秀な精神分析医だった。彼女はクロエという女性収容者を担当に持っていたが、ある日のカウンセリング中、彼女に悪魔にレイプされたという話を聞かされる。その夜、帰宅しようとミランダが車を走らせていたとき、道路の中央に立ちつくす白い服の少女に衝突しそうになった。彼女は慌てて車を停め、少女に話しかけるものの、そのまま意識を失ってしまった。　次にミランダが目覚めたのは、彼女が勤めていた女子..</description>
<dc:subject>『か行』の映画</dc:subject>
<dc:creator>なお</dc:creator>
<dc:date>2011-01-25T21:30:25+09:00</dc:date>
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<strong><span style="font-size:large;">映画:ゴシカ あらすじ</span></strong><br />※レビュー部分は<strong>ネタバレ</strong>あり<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382B4E382B7E382AB2CE381B2E3818BE3828A-e4990.jpg" width="80" height="284" border="0" align="" alt="ゴシカ,ひかり.jpg" /><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382B4E382B7E382AB2C13.jpg" width="192" height="284" border="0" align="" alt="ゴシカ,13.jpg" /><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382B4E382B7E382AB2CE381B2E3818BE3828A-e4990.jpg" width="80" height="284" border="0" align="" alt="ゴシカ,ひかり.jpg" /></div><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382B4E382B7E382AB2CE38391E382BAE383AB-85317.jpg" width="337" height="86" border="0" align="" alt="ゴシカ,パズル.jpg" /></div><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382B4E382B7E382AB2C3.jpg" width="156" height="72" border="0" align="" alt="ゴシカ,3.jpg" /><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382B4E382B7E382AB2C11.jpg" width="160" height="73" border="0" align="" alt="ゴシカ,11.jpg" /><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382B4E382B7E382AB2C12.jpg" width="160" height="73" border="0" align="" alt="ゴシカ,12.jpg" /></div><br /><br />　ミランダ・グレイは女子刑務所の精神病棟に勤務する優秀な精神分析医だった。彼女はクロエという女性収容者を担当に持っていたが、ある日のカウンセリング中、彼女に悪魔にレイプされたという話を聞かされる。その夜、帰宅しようとミランダが車を走らせていたとき、道路の中央に立ちつくす白い服の少女に衝突しそうになった。彼女は慌てて車を停め、少女に話しかけるものの、そのまま意識を失ってしまった。<br /><br />　次にミランダが目覚めたのは、彼女が勤めていた女子刑務所精神病棟の独房だった。診察に訪れた同僚の医師によると、彼女は3日間、意識を失っていたという。そして、彼女は夫殺しの犯人として収容されていることを告げられるのだった。<br /><br />　誰が夫を殺したのか。そして、あのときの少女は何者か。患者として精神病棟に収容されたミランダの話を聞く者は誰もおらず、彼女は夫殺しの容疑を晴らすことができない。真相を追いかけるミランダを演じるのはハル・ベリー。そして、ミランダの患者クロエ役にはペネロペ・クルス。<br /><br />　刑務所勤務の精神科医が、ある日殺人犯として収容されてしまう。私は異常ではないといえばいうほど、異常者扱いされるという恐怖。ミランダの夫を殺したのは誰か？ミランダか、それとも他の誰かか。本当にミランダは精神に異常をきたしているのか、それとも、何者かの策謀によって、彼女は精神病棟に閉じ込められたのか。<br /><br />　謎が渦巻く前半の息詰まる展開に比べて、結末の展開がかなり強引なのは残念だ。<br /><br /><p><br /><iframe src="http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?lt1=_blank&bc1=FFFFFF&IS2=1&bg1=FFFFFF&fc1=ADADAD&lc1=ADADAD&t=naokonh-22&o=9&p=8&l=as1&m=amazon&f=ifr&asins=B00017YVC0" style="width:120px;height:240px;" align="left" scrolling="no" marginwidth="0" marginheight="0" frameborder="0"></iframe><br />【映画データ】<br />ゴシカ<br />2003年（日本公開2004年）・アメリカ<br />監督 マシュー・カソヴィッツ<br />出演 ハル・ベリー,ロバート・ダウニー・Jr.,ペネロペ・クルス,チャールズ・S・ダットン,ジョン・キャロル・リンチ<br /><br clear="left"/></p><br /><br /><strong><span style="font-size:large;">映画:ゴシカ 解説とレビュー</span></strong><br />※以下、<strong>ネタバレ</strong>あり<br /><br />★「ゴシカ」結末<br /><br />　ミランダは4年前に夫が殺した同僚フィルの娘、レイチェルにのり移られ、夫ダグを殺害しました。そして、血文字で「NOT ALONE」という文字を壁に描きます。何が「一人じゃない」のか。当初は夫が殺した少女の数が一人ではないことを意味すると思われましたが、真実は、少女たちを監禁し、虐待した末に殺害した犯人がダグだけではないということを伝える血文字でした。もう1人の犯人とは、ダグの親友だった保安官のボブ。ダグとボブは少年のころからの知り合いで、少女をレイプして殺した快感が忘れられず、年月を経たのち、再び2人で犯行を行っていたのです。<br /><br />　ボブは真実を知ったミランダを殺そうと追いかけます。しかし、ミランダに鎮静剤を打たれてしまい、朦朧とする意識の中でかつて殺した少女・レイチェルの霊を見、そのすきにミランダに撃ち殺されました。<br /><br />　レイチェルはミランダの体を借りてダグを殺し、ミランダの力を借りてボブを殺したのです。憎悪の炎に身を焼かれていたミランダが再び現れることはないでしょう。彼女の願望はついに叶えられました。<br /><br />　1年後、ミランダとクロエが街で再会している場面が映ります。クロエは新しい人生のスタートを切るようです。そして、ミランダは既に仕事を再開している様子。恐らく、心神喪失が認められて、夫殺しの容疑からは逃れられたのでしょう。ミランダは死んだレイチェルと交感したという現実を忘れたいようですが、クロエと別れたのちに、ミランダは再び見えないはずの男の子を見てしまう、という結末になっています。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382B4E382B7E382AB2C7.jpg" width="260" height="173" border="0" align="" alt="ゴシカ,7.jpg" /></div><br /><br />★Ｄｒ.グレイ<br /><br />　ミランダ・グレイは女子刑務所精神病棟に勤務する精神科医です。彼女はクロエという義父を殺した女性を担当していました。クロエは時折、悪魔の話をします。ミランダはクロエの話が本当だとは思わず、悪魔にレイプされた話は義父を殺した罪の意識がもたらす妄想だと考えていました。<br /><br />　ミランダは頭脳明晰な女性です。彼女の研究やセラピーの成果は高く評価されていました。一方で、彼女のセラピーは彼女が立てた仮説に沿ったものでした。患者の犯した罪や過去の経験、幼いころの家庭環境などから、患者の心理状態を分析し、セラピーで患者の様子を見て、ミランダの立てた仮説に当てはめていく。彼女のセラピーは患者よりも、自らの立てた仮説が主体です。ミランダの作ったストーリーに当てはまらない患者の話は切り捨てられ、捨象されていく。そして、ミランダの仮説になじむ話が、本当のこととして扱われる。<br /><br />　多くの患者はミランダにとって都合のいい話をするようになりました。なぜなら、それ以外の話はミランダに信用してもらえず、妄想の話と断じられるからです。第三者に狂っていると言われ続ければ、果たして自分が正常なのか、それとも実は精神に異常をきたしているのかが分からなくなってきます。特に、刑務所の精神病棟のような閉鎖的な空間におかれ、生活を完璧にコントロールされ、薬漬けにされる毎日の中では、自分が今、いったいどんな状態にあるのか、分からなくなってくる。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382B4E382B7E382AB2C10.jpg" width="256" height="169" border="0" align="" alt="ゴシカ,10.jpg" /></div><br /><br />★クロエとミランダ<br /><br />　しかし、クロエは違いました。彼女はミランダに対して自分のしている話が本当のことだという主張を曲げません。クロエはミランダにどんなに否定されても、自分の記憶に間違いはない、と主張しました。クロエはミランダにとって、厄介な患者でした。ミランダの仮説に乗ってこない患者は彼女にとって頭痛の種です。何とかしてクロエを誘導しようとしても、彼女は反発するだけ。ミランダは内心、クロエにうんざりしていました。<br /><br />　もちろん、ミランダには、カウンセリングの方法に問題があるという意識はありません。また、自分が患者の話を聞いていないとは思っていない。さらに、ミランダ自身の望む結論にたどり着くように、クロエを誘導しようとしている自分自身についても、恐らく、ミランダには認識がありません。ミランダにとって、全ては、学術的な精神分析論に則って行われている研究の結果です。そのような理性的な分析で得られた話より、クロエの非現実的な話が真実であると考えることは絶対にできない。<br /><br />　ミランダは、クロエが悪魔の話をする理由について、過去に原因があると思っていました。クロエは義父にレイプされ続け、その義父を殺したという過去があったからです。クロエはその罪の意識に苦しみ、後悔しているはず、という思い込みがミランダにはありました。しかし、実際には違います。クロエはミランダに言われるよりも先に、悪魔は義父のことではないと否定しました。クロエは義父について、「復讐してやった」と語ります。「止めるにはそれしかなかった」。これがすべてでしょう。これ以上、体を弄ばれないため、クロエは義父を殺した。クロエはそれについて、後悔などしていません。<br /><br />　これまでミランダのセラピーで何度も、義父の話を繰り返されてきたクロエはミランダが何も理解していないことに腹を立てていました。ミランダに何を言っても、すぐに義父の話と結び付けられ、勝手に理屈を付けられ、解釈されてしまう。ミランダはクロエの話をそのまま受け入れることはなく、必ず自分で色を付けてから理解する。クロエはそれが不満でした。<br /><br />　「私を異常者扱いする人間は信じられない」。「私を信じて」というミランダに対し、クロエは冷たく言い放ちます。話すら、満足に聞いてくれない人をいったい、どうやって信用しろというのか。<br /><br />　クロエはミランダが頭では聞いてるようだけれど、心では聞いていないと非難していました。ミランダはすぐに分析をします。これまで研究してきた学術理論に則り、クロエの話を細かく切り刻んで、きれいに並べ直し、整理してしまう。クロエを受容しようとするのではなく、クロエを分析しようとしている。<br /><br />　ミランダのこの態度は、彼女の別れ際の言葉にも現れています。「新しい発見があってセラピーが進んだわ」。ミランダにとって重要なのは、クロエが心を開いたかどうかということではなく、クロエが本当の話をしたかどうかということであり、義父を殺したという事実をクロエが受け止めているかどうかということです。<br /><br />　実際には、クロエにとって、義父を殺したことは過ぎ去った昔のできごとでした。しかし、ミランダは過去にこだわる。それはクロエが語る全てに義父を殺した罪の意識が影響しているというミランダの分析が根底にあるからです。ミランダにとってはセラピーを"成功"させることが全てでした。そして、その"成功"とはミランダの仮説にクロエがのってくることでした。<br /><br />　「新しい発見」と語るミランダにとって、クロエはただの研究対象でしかありません。「あなたの心は死んでる！」と叫び、暴れるクロエを刑務官に取り押さえさせるミランダに「私を信じて」と言われても、彼女の言葉に全く説得力はありません。<br /><br />　しかし、白い服の少女と事故を起こしそうになり、記憶を喪失したミランダはすぐにクロエの心境を味わうことになりました。かつての同僚には殺人を犯した異常な女と思われ、何を話しても妄想だと否定されます。少しでも、感情が高ぶれば、刑務官が飛んできて拘束され、鎮静剤を注射されるという生活。ここは人間的な感情の表出が許されない場所でした。朝食には薬が投与され、全裸になって集団でシャワーを浴びさせられ、囚人服を着せられて独房に入れられる生活。非人間的な環境の中で、ミランダは次第に現実と妄想の区別がつかなくなっていきました。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382B4E382B7E382AB2C5.jpg" width="256" height="171" border="0" align="" alt="ゴシカ,5.jpg" /></div><br /><br />★闇<br /><br />　少女を監禁し、性的虐待を加えていた夫ダグ。そして、ダグの親友であり、保安官のボブによるクロエのレイプ。同僚の医師フィル・パーソンズが隠していた娘の自殺という過去と、フィル自身の投薬治療。彼らは一見、何の暗い過去も持たず、今の生活に充足している人々であるように思えます。<br /><br />　しかし、そんな彼らにはそれぞれに秘密がありました。外見からは分からない、心の暗い闇でした。<br /><br />ミランダは悪魔の話をするクロエを妄想癖のある患者と手を焼いていました。クロエの言動は明らかに彼女が異常であるように思わせるものです。しかし、クロエの話は真実でした。そして、一見、まともな生活をしていて、傍目には満ち足りているように見えた人間たちの方が、よほど暗い秘密を抱えていたのです。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382B4E382B7E382AB2C6.jpg" width="252" height="195" border="0" align="" alt="ゴシカ,6.jpg" /></div><br /><br />★神様<br /><br />　ダグはミランダに鏡に水をかけさせました。水をかけられた鏡には歪んだミランダの顔が映っています。そして、ダグは「クロエが見ているのはこれだ」とミランダに言いました。ダグによれば、ミランダは「クロエの鏡」。鏡であるミランダはクロエのあるがままを映し出す存在でなければなりません。<br /><br />　しかし、ミランダは「歪んだクロエの姿」を写し出す鏡となっていました。ミランダはクロエの話を妄想と片付け、"妄想癖のあるクロエ"という像をクロエに提示していたからです。犯行を重ねていた張本人であったダグはクロエの話が嘘ではないことを知っていました。クロエの話を妄想と片付けているミランダに対し、クロエをそのまま映し出す鏡となるべきミランダ自身が歪んでいることをダグは指摘していたのです。<br /><br />　ミランダはよもや、夫ダグがボブのレイプを黙認しているとは思いません。ダグはもちろんそのことを知っていて、ミランダがクロエの話を嘘だと決めつけていることを諭している。そして、もしかしたらミランダは夫の本当の姿さえ、正しく見ることができていないのではないか…。<br /><br />　ダグは自分の役割をミランダに問われ、「神様」かな、と答えていました。神は人に恩恵を与える一方、ときに残酷です。ダグは全ての真実を知っていました。ダグは少女を監禁し、性的虐待を加える残酷な一面と、ミランダに真実へのヒントを与えるという"優しさ"の両面を持つ、あるいはそのように振舞える自分の立場に酔っていました。この精神病棟の幹部でもあるダグは今の状況を全て把握し、自らの好きなように動かすことができる。神に自分自身をなぞらえ、今の状況を全てコントロールできる自分は神の立場にあると思っていたのです。<br /><br />　ミランダの言う通り、彼女には「鏡になってクロエを正しく映し出す」ことが求められていました。しかし、その「正しく」の内容が問題でした。歪んだ鏡の前に立つ人の姿を正しく映し出すためには二通りの方法があります。一つは鏡自体の歪みを直すこと。もう一つは、鏡の前に立つ人自身を、歪んだ鏡に映る不実の姿へと変えてしまうことです。これはミランダの選択していた方法でした。<br /><br />　ダグが殺される前の彼女はクロエを正しい道へ戻さなければならないと考えていました。悪魔にレイプされた話をでっちあげ、義父を殺した罪の意識から逃避しているクロエを現実の世界へ連れ戻すのが自分の役目である、そうミランダは思い込んでいました。しかし、現実が見えていたのはクロエでした。クロエは義父にレイプされたことを自分なりに消化し、過去の事実として受け入れていましたし、彼女がこの刑務所でレイプされたという話は本当のことでした。クロエを変えるのではなく、鏡であるミランダ自身が変わらなくてはならない。そのことに彼女が気がついたのは、もっと後のことです。<br /><br />　鏡は本来、人間の姿を反転させてそのまま映し出すものです。しかし、鏡が歪んでいれば、やはり鏡の前に立つ者の姿も歪んで映る。クロエの話をまともに聞こうとしないミランダはクロエの"歪んだ鏡"になっていました。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382B4E382B7E382AB2C8.jpg" width="270" height="164" border="0" align="" alt="ゴシカ,8.jpg" /></div><br /><br />★歪んだ鏡<br /><br />　「娘は自殺したと思い込んできた」と語るフィル。彼は娘の姿を見たというミランダにレイチェルのことを語ります。娘が炎に焼かれて苦しむ悪夢を見ること、投薬治療を受けていること…しかし、フィルは最後まで娘の悪夢を否定していました。「私には意味があるとは思えない。ただの夢だ、妄想だよ」。ミランダが「（私があなたと）同じ夢を見ても？」と問いかけても、彼は無言で目を伏せています。<br /><br />　現実に向き合うことは非常に難しいことです。特にそれが、肉親を失ったというような辛い現実であるときには。フィルは本当に娘が自殺したと思っていたのでしょうか。体中にキズをつくり、川に流されて見つかった娘が本当に自殺した、と。フィルは医者です。娘の死体を見て、まったく何もおかしいとは思わなかったのでしょうか。彼は娘が「自殺した」と信じたかっただけではなかったのか。その方が、残酷ではないからです。自分の娘がレイプされ、暴行されたあげく、川に死体を投げ捨てられたなどとは絶対に思いたくない。そして、襲い来る娘の悪夢。フィルは娘の死に何かがあると感じつつも、自分に嘘をついていたのではないでしょうか。<br /><br />　彼は娘の幻影を見ることを極度に恐れました。娘のことを思い出すたびに、心が引き裂かれる思いがする。火に焼かれて苦しむ娘の姿を見ると、彼女の死の真相を追わなかった罪悪感がよみがえるからです。フィルは「救えなかった」と泣いています。一方で、娘の幻影は夢だと決めつけ、その意味については無意味だと否定する。<br /><br />　娘の幻影が現れることに意味があることを肯定するならば、それは、娘には何か心残りがあるということを意味し、娘を苦しめている秘密があるということになる。フィルには、その秘密を追わずに済ませてしまっている自らの罪悪感を吐きだしたい気持ちと、娘の死の真相を否定したい気持ち、そして娘をその暴力から救えなかったことへの後悔が入り混じっています。そして、心をかき乱す娘の姿を忘れようと投薬治療に走る。<br /><br />　真実を見ようとしないフィルの姿は、クロエを見るDr.グレイとしてのミランダに似ています。ミランダと同様、フィルは娘レイチェルの鏡にはなれませんでした。ミランダもフィルも、"鏡の前に立つ人"をそのままの姿で受け止めることはできなかったのです。フィルはレイチェルの幻影を妄想だと決めつけることで、苦しさから逃れようとしていました。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382B4E382B7E382AB2C2.jpg" width="260" height="204" border="0" align="" alt="ゴシカ,2.jpg" /></div><br /><br />★ミランダのプライド<br /><br />「これでお仲間ね」というクロエに対し、「私は別よ」と答えるミランダ。しかし、現実はそうではありませんでした。クロエの言うとおり、「真実を話しても誰も信じない」という状況におかれ、信じてほしいと相手の言葉を否定すれば余計に異常と思われてしまうという世界へミランダは放り込まれました。そして、結末、クロエは未だ悪夢を見ると話し、もう、扉は閉じられないと話しますが、ミランダはやはり、自分は違うとクロエの言葉を否定します。<br /><br />　ミランダは最後まで、クロエと異なるところがありました。それは、自分に対する強い自信とプライドです。自分が優秀な精神分析医であり、頭脳明晰な科学者であるという誇り。彼女は科学的に証明できない超常現象を認めることに高いハードルを感じていました。なぜなら、そのような現象を認めることはずっと彼女が身を置いてきた科学で説明のつかない領域を設定することになり、ミランダのイメージする科学者像にあるまじき思考を求められることだからです。<br /><br />　今回の出来事も、"例外"と考えたかった。今回だけ、今回に限って、私は霊を見たのだ、ミランダはそう考えたかったのです。クロエは素直な女性です。義父にレイプされ、精神異常と診断されて、病棟に放り込まれ、そこでもレイプされ、挙句の果てに悪魔を語る妄想癖があると思われていた。クロエの、この尋常ではない苦労と不幸の経歴は彼女とミランダの態度の違いとなって表れていました。クロエは何事も否定しません。現実には起きるわけがないことが起きることもある。そして、起きていることが現実である、と。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382B4E382B7E382AB2C9.jpg" width="252" height="169" border="0" align="" alt="ゴシカ,9.jpg" /></div><br /><br />★結末<br /><br />　ミランダはクロエと別れたのち、車道の真ん中に立ちつくす幼い男の子を発見します。その直後、男の子は車に轢かれ、消えてしまいました。跡形もなく忽然と姿を消した彼が生きた人間ではないことは確かです。その後、「ティムを探しています」と書かれた張り紙が近くに貼られているのが映ります。道路の真ん中にいた男の子はきっとティムなのでしょう。<br /><br />　しかし、ミランダはこの張り紙を見ることなく、意を決したように足早に歩き去っていきます。彼女には、やはり、"見えている"。しかし、ミランダにそれを認めるつもりは今のところ、ありません。何も「見えなかった」。ミランダは自分自身にそう言い聞かせ、夜の街を歩き去っていきました。<br /><br />　しかし、いつか、思うかもしれません。あの男の子はどうしたのだろうか。何を訴えたかったのだろうか、と。一度、レイチェルの幽霊に出会ってしまったミランダにとって、この男の子の存在と訴えかけを無視し続けることができるか。<br /><br />　かつてのミランダなら、ありえない話、ときれいさっぱりこの体験を忘れることに努めたでしょう。しかし、彼女には変化があります。ミランダはクロエから「聴くこと」を教わったと話していました。<br /><br />　「聴くこと」とは、相手の話をただ聴くというのみならず、相手の立場に立って共にそのときの記憶を追体験し、相手の立場や話を理解しようとするということ、それはすなわち、相手を受容するということです。ミランダは男の子を見てしまった。彼を無視することは彼に対する理解を止め、存在そのものを否定するということです。<br /><br />　クロエとの関係により、「聴くこと」を学んだミランダが男の子を無視することができるでしょうか。<br /><br />　ミランダは数日後にこの場所に戻ってくるかもしれません。あるいは、男の子がミランダの元へと現れるかもしれません。いずれにしても、クロエの言うとおり、「もう扉は閉じられない」のです。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382B4E382B7E382AB.jpg" width="284" height="189" border="0" align="" alt="ゴシカ.jpg" /></div><br /><br /><span style="font-size:x-small;"><div style="text-align:center;">All articles from this movie in this article belong to Warner Bros. Pictures.</div></span><a name="more"></a>

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<title>逃走迷路</title>
<description>映画:逃走迷路 あらすじ※レビュー部分はネタバレあり　バリー・ケインは飛行機工場の労働者として働いていたが、工場で起きた火災事故の犯人と疑われ、警察から逃げることになる。バリーは手掛かりを追ううちに、火災事故の背後に大規模な破壊活動組織があることを知る。　アルフレッド・ヒッチコック監督作品。1942年の作品。罪を犯したとあらぬ疑いをかけられ、罪を晴らすために真犯人を追いかけるストーリー。彼の道連れとなる女性パトリシア、目の不自由なパットの叔父マーチン、道中で出会ったサーカスの..</description>
<dc:subject>『た行』の映画</dc:subject>
<dc:creator>なお</dc:creator>
<dc:date>2011-01-22T21:02:53+09:00</dc:date>
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<strong><span style="font-size:large;">映画:逃走迷路 あらすじ</span></strong><br />※レビュー部分は<strong>ネタバレ</strong>あり<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E98083E8B5B0E8BFB7E8B7AF2C12-86e78.jpg" width="195" height="305" border="0" align="" alt="逃走迷路,12.jpg" /></div><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E98083E8B5B0E8BFB7E8B7AF2C11.jpg" width="150" height="96" border="0" align="" alt="逃走迷路,11.jpg" /><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E98083E8B5B0E8BFB7E8B7AF2C9.jpg" width="150" height="98" border="0" align="" alt="逃走迷路,9.jpg" /><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E98083E8B5B0E8BFB7E8B7AF2C8.jpg" width="150" height="89" border="0" align="" alt="逃走迷路,8.jpg" /></div><br /><br />　バリー・ケインは飛行機工場の労働者として働いていたが、工場で起きた火災事故の犯人と疑われ、警察から逃げることになる。バリーは手掛かりを追ううちに、火災事故の背後に大規模な破壊活動組織があることを知る。<br /><br />　アルフレッド・ヒッチコック監督作品。1942年の作品。罪を犯したとあらぬ疑いをかけられ、罪を晴らすために真犯人を追いかけるストーリー。彼の道連れとなる女性パトリシア、目の不自由なパットの叔父マーチン、道中で出会ったサーカスの人々…彼らの存在は「逃走迷路」を単なるサスペンスでは終わらせない。正義とは？人間の生きるべき道とは？一人の男の逃避行を通して、社会にあるべき人間の姿を問いかける作品となっている。<br /><br /><p><br /><iframe src="http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?lt1=_blank&bc1=FFFFFF&IS2=1&bg1=FFFFFF&fc1=ADADAD&lc1=ADADAD&t=naokonh-22&o=9&p=8&l=as1&m=amazon&f=ifr&asins=B000LXIOR2" style="width:120px;height:240px;" align="left" scrolling="no" marginwidth="0" marginheight="0" frameborder="0"></iframe><br />【映画データ】<br />逃走迷路<br />1942年・アメリカ<br />監督 アルフレッド・ヒッチコック<br />出演 プリシラ・レイン,ロバート・カミングス,ノーマン・ロイド<br /><br clear="left"/></p><br /><br /><br /><strong><span style="font-size:large;">映画:逃走迷路 解説とレビュー</span></strong><br />※以下、<strong>ネタバレ</strong>あり<br /><br />★「逃走迷路」の時代背景、そして映画の問うもの<br /><br />　バリー・ケインは飛行機工場で働く労働者でした。彼はある日、工場で起きた火災事故に巻き込まれ、友人ケン・メイソンを失います。後に、火災が破壊活動によっておこされたことが判明し、バリーは犯人として疑われてしまいました。バリーは当時、一緒に消火活動にあたったフライという男が犯人だと睨み、警察から逃亡する決意をします。<br /><br />　バリーは道中、たくさんの人々に出会いました。その出会いが彼に教えたものは一体、何だったのか。<br /><br />　1942年、第2次世界大戦中に製作された映画「逃走迷路」。当時は第2次世界大戦中、ヨーロッパではヒトラーが台頭し、ファシズム・全体主義の嵐が世界を席巻していました。そんな時代を背景に製作された「逃走迷路」。真の「愛国者」とは？正義とは何か？社会において、人間とはどうあるべきか？現代に続く重要な問題が問われています。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E98083E8B5B0E8BFB7E8B7AF2C2.jpg" width="216" height="160" border="0" align="" alt="逃走迷路,2.jpg" /></div><br /><br />★「国民の義務」とは？-マーチンとパットの争いから<br /><br />　バリーが真っ先に出会ったのはヒッチハイクで逃げる彼を乗せてくれたトラック運転手でした。そして、行きがかりの別のドライバーは警察の注意を逸らし、バリーを逃がしてくれます。そして、目の見えない男性フィリップ・マーチンとの出会い。バリーは「バリー・メイソン」と名乗り、男性のロッジで一時の休息を取ることができました。<br /><br />　バリーは手錠をしたままですが、目の不自由なマーチンにはそれが見えないはずでした。しかし、マーチンはとっくにバリーの手錠に気が付いていました。彼はバリーが警察に追われる身であることに気がついていながら、バリーを温かくもてなしていたのです。手錠に驚いた姪のパトリシアは、バリーを警察に突き出そうとしますが、マーチンは姪を制止します。<br /><br />　薄汚い身なりで手錠をしたバリーをマーチンは「メイソンさんは危険な人じゃない」とかばいました。姪のパットは猛反対します。脱走犯人を探していると警察から聞いていたパットはバリーを警察に突き出すことが「国民の義務よ」と叔父に反論しました。それに対し、マーチンは「ときには法律を無視するのも義務だと私は思ってる」と返します。<br /><br />　バリーの手錠を外すため、知り合いの鍛冶職人のところへ行くよう、バリーを送り出すマーチンは別れ際、バリーにこう言いました。「バリーは本名だね。メイソンは嘘だと思った」。マーチンは目が見えません。しかし、彼は心の目で真実を見極めていました。バリーの薄汚い服装やびしょぬれになってロッジにやってきた、彼の見るからに事情のありげな様子はマーチンの目を曇らせはしません。マーチンはバリーという人間そのものを見、彼をかばう判断をしたのです。<br /><br />　一方のパトリシア。パットは「あなたはいかにも破壊活動家らしいわ」とバリーに言います。パットは後に破壊活動家であることが分かるチャールス・トビンのことは「いい人」だと言っていました。トビンは「スパイには見えない」。バリーはパットに「牧場とプール付きの家を持ってればそうは見えないと？」と反駁していました。<br /><br />　パットが見ているのは叔父のマーチンとは対照的な部分です。彼女は警察から追われているバリーのことを犯人だと思い込んでいます。その根拠は、警察から脱走犯人がいると聞いていたこと、そして、手錠をし、薄汚い格好のバリーの様子。彼女は他人から聞いたこと、あるいはその言い分を鵜呑みにし、そして、バリーの外見を見てバリーがクロであると判断していました。<br /><br />　バリーが指名手配犯である以上、バリーは犯人である。バリーの人柄を見抜く目がパットにはなかったのか。そうというよりは、「指名手配犯」という犯罪者のレッテルを目の前にして、パットは思考を停止した、という方が正しいでしょう。警察が犯人だと言っている以上、バリーは犯人である。ここでパットは考えることをやめたのです。そして、バリーの薄汚い格好。いかにも、警察に追われ、逃げている人間らしい外見です。パットは完全に思考を停止しました。バリーは犯人に間違いない。<br /><br />　これに拍車をかけるのが義務感です。指名手配犯を通報するのは「国民の義務」。パットの強い義務感は彼女を拘束しました。義務である以上、従わねばならない。パットはそう考えていたのです。「国民の義務」があることは認めてもいいでしょう。しかし、その義務に絶対的に服従せねばならないのかは別問題です。「国民の義務」であると言われたが最後、それに疑問を付すことは許されないのか。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E98083E8B5B0E8BFB7E8B7AF2C3.jpg" width="225" height="174" border="0" align="" alt="逃走迷路,3.jpg" /></div><br /><br />★「国民の義務」というマジックワード<br /><br />　「大衆は馬鹿だ」とチャールス・トビンは語っていました。愚かな大衆は正しい道を知らず、彼らを導くためには優秀な指導者が必要になる。そして、その指導者の命令に大衆はただ従っていればよい。全体主義において、国民は駒にすぎません。重要なのは、彼らが指導者を支持していること。国民に政治的主体性はなく、ただ、指導者を褒めたたえ、彼の言うままに行動する存在であれば良い。<br /><br />　一方で、民主主義においては、個々人には社会を構成する者として主体性を発揮することが求められます。個人がそれぞれに考え、それぞれに政治的意思表明を行うのが民主主義。全体主義において、個人の意見は求められません。一方で、民主主義においては、それぞれの人間が政治的に思考することが要求される。<br /><br />　全く異なるように見える全体主義と民主主義。しかし、民主主義はときに、全体主義へと変貌を遂げます。それは、個人が思考することを止めたとき、です。思考せず、そもそも政治に関心すら持たず、社会を構成する人々がただの「傍観者」となったとき、彼らは権力の前に漂流を始めます。彼らは時の権力を正当化するための、単なる数合わせの人員になり下がる。そのとき、チャールスのいう「衆愚」が顕在化するのです。彼らはもはや権力の駒でしかない。<br /><br />　パットの繰り返す「国民の義務」はマジックワードです。この言葉を前にすると、人はその正当性を疑わず、思考を停止してしまう。その「義務」たるものに果たして正義があるのかどうか、疑いすら抱かず、その義務を履行しなくてはならないという義務感に駆られ、行動に移してしまう。人々の思考停止状態は権力を肥大化させます。民主主義はとたんに、全体主義へと移行する危険をはらんでいる。<br /><br />　パットの叔父、マーチンは「時には法律を無視するのも義務だ」と語っていました。マーチンの語る「義務」は正義のことです。時の権力や法律によって課される「義務」のことではない。「国民の義務」が果たして、正義を実現するものなのかどうか。それを考えた上で、拒否すべきであるならば、それに従う。そして、それは「義務」に違背することにはならない。なぜなら、「義務」はあくまで社会の善を実現するためのものであり、正義に違背する義務はそもそも「国民の義務」とはいえないからです。<br /><br />　マーチンは常に本質を見ていました。何が正しいのか、の判断において、彼は他からの判断の押し付けを排し、常に、自分自身の心で物事を見ていた。彼にとって、全てを免責し、正当化するマジックワードは存在しなかったのです。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E98083E8B5B0E8BFB7E8B7AF2C6.jpg" width="216" height="164" border="0" align="" alt="逃走迷路,6.jpg" /></div><br /><br />★「大衆は馬鹿」か？<br /><br />　民主主義を支えるのはひとりひとりの判断であり、行動です。誰かの判断に過ちがあったとしても、他の誰かの行動がそれを修正し、全体として正しい方向へと進んでいく。「大衆は馬鹿」ではなく、社会を正しい方向へと導く社会の主体である、その考えが根底にあります。<br /><br />　「ここ数日の間に、いろいろな人に会ったよ」。バリーはこの逃避行で大勢の人に助けられました。マーチンだけではなく、通りすがりのドライバーやサーカスの一団など、警察に追われる身と知りながら、彼を助けてくれた人々はたくさんいました。<br /><br />　「大衆は味方だ」。物事の本質を見ようとする心、そしてそれを見極める目が人々にあるならば、やがて正義は下される。そのような人々が構成する社会では大衆は衆愚に陥らず、民主主義は順当な発展をみせるでしょう。<br /><br />　民主主義社会においては全ての人々が同一の判断をすることはありません。絶対的な""正当性""などは存在しない。民主主義においての正しさは相対的です。民主主義においては多数派の意見に正当性を与えられます。いわゆる、多数決です。多くの人が同意する意見であれば、その社会においては正当性を持つという意味で多数派の意見に正当性が与えられるのです。"<br /><br />　「時には法律を無視するのも義務」。民主主義においては一人ひとりの判断が権力に正当性を付与します。善き社会を実現するには、真実を見極め、判断することのできる力が必要です。そのためには"マジックワード"を使って思考を停止させてはならない。盲目的服従は真の「愛国者」のすることではありません。<br /><br /><div style="text-align:center;"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E98083E8B5B0E8BFB7E8B7AF2C5.jpg" width="240" height="168" border="0" align="" alt="逃走迷路,5.jpg" /></div><br /><br />★「愛国者」とは<br /><br />　「高貴で純潔でそのために損をしてる人」、とチャールスはバリーのことを評価します。「実際は愛国者なんだよ」。<br /><br />　チャールスは牧場主であり、大きな家に住み、豊かな暮らしをしている男です。彼はこの破壊活動の首謀者でもありました。彼は死刑の恐れがあるとキューバに逃げる計画であることを仲間に告げます。これを聞いた部下のフリーマンらは不満げです。危険を仲間に押し付けて逃げるのですから当然の反応でしょう。<br /><br />　しかし、チャールスに悪びれる様子はありません。結局、彼が欲しいのは「権力」でした。「戦争や弾圧が君らの利益なんだろ」というバリー。戦争の足音が迫る中、社会には不穏な空気が垂れこめています。情勢不安や混乱につけ込み、破壊活動により、人々の危機感を煽る。チャールスは不安にかられた人々を利用するだけです。仲間の命など、気にもしていない。チャールスが考えていたことは「この国を良くしよう」などということではなく、私利私欲、権力に対する渇望でした。<br /><br />　チャールスの仲間たちのうち、本当に純粋に国のことを考え、政治的信条のために活動をしていた者はチャールスの計画を実際に実行する組織の末端の者だけだったのではないでしょうか。フライのように、危険に身をさらし、計画を実行に移す者たち以外は、現在の裕福な生活に安住し、自己の欲望のままに何不自由なく生きている。<br /><br />　慈善事業で有名だったサットン夫人はその一人です。壮麗な屋敷に暮らし、豪華な宝石を身に付け、ドレスで着飾った彼女は事前パーティを開いては、金を集めている。本当にその金が全て慈善事業に回っていたのかどうか、怪しいものです。彼女が慈善事業よりも、美しい宝石やドレス、慈善事業家としての評判を保つことのほうに関心があったのは明らかでした。<br /><br />　そして、それはパーティに集まってくる男女も変わらない。ドレスやタキシードを着て、社交にいそしむ人々。バリーはサットン夫人の屋敷が破壊活動組織のアジトであることを話し、助けてもらおうとしますが、招待客からはパーティに正装もしてこない酔っ払い、とばかにされ、相手にすらしてもらえません。バリーが話しかけた老夫婦は怪しい男がいると会場係に知らせてさえいました。バリーが話しかけたもう一人の若い男は「君も25ドル払ってきたの？僕は社長の代理さ」と得意げです。<br /><br />　慈善事業という社会奉仕活動に興味を持って参加しているはずの客たちですが、結局、彼らがこのパーティに求めているのはステイタスです。高名なサットン夫人の慈善パーティに出席している自分、困っている人や貧しい人に恵みを分け与えているという自分の優しさに酔っている。慈善事業はただの看板に過ぎません。もっといえば、慈善パーティで集めた金の行き先にすら、興味がないのかもしれない。ただ、出席するだけで、客たちは満足できるのです。いわんや、サットン夫人が裏で何をしているのかなどは疑いもせず、それを見抜く力は誰にもありません。<br /><br />　チャールスはそんな自分や周囲の人間の本音を自覚していました。自分は真の意味での「愛国者」ではない。そして、それは、彼らを取り巻く金持ち連中も同じである、と。バリーはチャールスの組織の存在を告発するために命をかけている。自己の欲望にとりつかれた者たちのなかで、バリーは異質の存在でした。<br /><br /><div style="text-align:center;"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E98083E8B5B0E8BFB7E8B7AF2C10.jpg" width="252" height="168" border="0" align="" alt="逃走迷路,10.jpg" /></div><br /><br />★「いい人」である条件<br /><br />　「人が困ったときに助けるのがいい人」だ、とサーカスの一員、エスメラルダは語ります。このサーカスにいるのは"骸骨人間"に"ヒゲ女"、"人間山"に"小人"、そして体の一部が結合している"双子"。いずれも、外見に特異な特徴を持つ人間ばかりでした。彼らはその外見ゆえに苦労を重ねてきた人々です。「世間にいい人が少ないってことは私たちが一番よく知ってるわ」と"ヒゲ女"ことエスメラルダは語ります。サーカスで自らの特異な身体的特徴を見世物にして生きてきた彼らは、世の人々が彼らに投げかける好奇と侮蔑の視線を嫌というほど感じてきたでしょう。<br /><br />　それがゆえに、彼らは「いい人」であることがいかに難しいかをよく知っている。慈善パーティに出席し、金を寄付することが「いい人」になる条件ではありません。また、困った人に同情することがその条件でもない。バリーを匿ってくれた、目が見えないフィリップ・マーチンはそのハンディゆえに同情されることを嫌っていました。ピアノはいい、「目が不自由でも下手な同情はしないし、信頼してくれる」、そう語っていました。<br /><br />　「助ける」という行動に出ることがいかに難しいか。特に、その「困った人」が指名手配犯である場合には。エスメラルダはパトリシアがバリーに寄り添っているのを見て、バリーが「いい人」であると感じ取りました。そして、そのためにバリーを助ける決断をした。また、「信頼される」ということも難しい。往々にして、その人に何らかの問題が生じている場合、人はその人が信頼に値する人間であると評価することを躊躇します。<br /><br />　目が見えないというマーチンのハンディ、そして、指名手配犯というレッテルを貼られたバリー。それらの外面的な事象を捨象した生身の人間を評価できるか。それが「いい人」になる条件なのです。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E98083E8B5B0E8BFB7E8B7AF.jpg" width="183" height="177" border="0" align="" alt="逃走迷路.jpg" /></div><br /><br />★人間はどう生きるべきか<br /><br />　この社会において、人間はどう生きるべきか。それは常に物事の本質を見ようとする心を忘れないことです。人間には外見というものがあり、世間の評判、あるいは社会的に貼られたレッテルというものがある。それらに惑わされてしまえば、その中身を見ることはできません。「いい人」であろうとすることは、すなわち、「愛国者」であることにもつながる。<br /><br />　愛国者が求めるべき正義は目に見える形では現れません。法律が正義ではないし、誰かに教えてもらえるものでもない。仮に、民主主義が正義を実現する最善の方法だとしても、その内部では様々な議論があります。<br /><br />　社会全体の善を最大化することを追求すれば、全体の利益のために個人は犠牲にされる可能性があります。一方で、個々人には侵害されるべきでない一定の権利があり、それを捨象することはできないと考えることもできる。そう考えるとしても、その踏み越えてはならない一定のラインはどこで引かれるのか。<br /><br />　何が正義か。この難解な問いに対する答えは社会において人間がどう生きるべきかを示すでしょう。正義の意義を追求することは、社会に生きる人間にとって、永遠に課せられた課題なのです。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E98083E8B5B0E8BFB7E8B7AF2C7.jpg" width="224" height="168" border="0" align="" alt="逃走迷路,7.jpg" /></div><a name="more"></a>

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<title>ワイルド・アット・ハート</title>
<description>映画:ワイルド・アット・ハート あらすじ※レビュー部分はネタバレあり　セイラー・リプリーは恋人ルーラの母親マリエッタの差し向けた殺し屋を殺してしまった。これは娘ルーラからセイラーを引き離そうとするマリエッタの策略だった。セイラーは殺人罪で逮捕され、刑務所で服役することになる。　それから数年が経ち、仮釈放されたセイラーは、彼の釈放を待っていた恋人ルーラに再会する。執拗にセイラーとルーラの仲を裂こうとするマリエッタから逃れ、セイラーはルーラと共にカリフォルニアを目指して旅に出る。..</description>
<dc:subject>『わ行』の映画</dc:subject>
<dc:creator>なお</dc:creator>
<dc:date>2011-01-17T22:07:21+09:00</dc:date>
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<strong><span style="font-size:large;">映画:ワイルド・アット・ハート あらすじ</span></strong><br />※レビュー部分は<strong>ネタバレ</strong>あり<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E383AFE382A4E383ABE38389E383BBE382A2E38383E38388E383BBE3838FE383BCE383882C12.jpg" width="79" height="160" border="0" align="" alt="ワイルド・アット・ハート,12.jpg" /><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E383AFE382A4E383ABE38389E383BBE382A2E38383E38388E383BBE3838FE383BCE383882C11-2.JPG" width="70" height="136" border="0" align="" alt="ワイルド・アット・ハート,11-2.JPG" /><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E383AFE382A4E383ABE38389E383BBE382A2E38383E38388E383BBE3838FE383BCE383882C4.jpg" width="144" height="171" border="0" align="" alt="ワイルド・アット・ハート,4.jpg" /><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E383AFE382A4E383ABE38389E383BBE382A2E38383E38388E383BBE3838FE383BCE383882C11.jpg" width="70" height="136" border="0" align="" alt="ワイルド・アット・ハート,11.jpg" /><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E383AFE382A4E383ABE38389E383BBE382A2E38383E38388E383BBE3838FE383BCE383882C12-2.JPG" width="79" height="160" border="0" align="" alt="ワイルド・アット・ハート,12-2.JPG" /></div><br /><br />　セイラー・リプリーは恋人ルーラの母親マリエッタの差し向けた殺し屋を殺してしまった。これは娘ルーラからセイラーを引き離そうとするマリエッタの策略だった。セイラーは殺人罪で逮捕され、刑務所で服役することになる。<br /><br />　それから数年が経ち、仮釈放されたセイラーは、彼の釈放を待っていた恋人ルーラに再会する。執拗にセイラーとルーラの仲を裂こうとするマリエッタから逃れ、セイラーはルーラと共にカリフォルニアを目指して旅に出る。一方、マリエッタはセイラーを殺そうと画策していた。彼女はあらゆる手を尽くしてセイラーの行方を追おうとする。<br /><br />　数々のアクシデントに見舞われながらも、愛を求めるセイラーとルーラの逃避行。狂ったように追いかけてくるマリエッタの狂気を背後に感じながらも、セイラーとルーラに逃げる者の悲壮さはない。彼らにあるのは、酒やダンス、セックスだけ。2人が狂っているのか、マリエッタが狂っているのか、それとも、そもそもこの世界が狂っているのか。若きニコラス・ケイジが主人公セイラーを演じ、一途にセイラーを愛する恋人ルーラをローラ・ダーンが演じている。<br /><br /><p><br /><iframe src="http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?lt1=_blank&bc1=FFFFFF&IS2=1&bg1=FFFFFF&fc1=ADADAD&lc1=ADADAD&t=naokonh-22&o=9&p=8&l=as1&m=amazon&f=ifr&asins=B003ZUXNCE" style="width:120px;height:240px;" align="left" scrolling="no" marginwidth="0" marginheight="0" frameborder="0"></iframe><br />【映画データ】<br />監督 デヴィッド・リンチ<br />出演 ニコラス・ケイジ,ローラ・ダーン,ウィレム・デフォー,イザベラ・ロッセリーニ,ダイアン・ラッド<br /><br clear="left"/></p><br /><br /><strong><span style="font-size:large;">映画:ワイルド・アット・ハート 解説とレビュー</span></strong><br />※以下、<strong>ネタバレ</strong>あり<br /><br />★オズの国へ行きたい―『ワイルド・アット・ハート』と『オズの魔法使い』<br /><br />　『ドロシーは怒って西の悪い魔女にバケツ一杯の水をかけました。すると、魔女は叫び声を上げ、溶けてしまいました』。『オズの魔法使い』に出てくる「悪い魔女」はこうして退治されます。<br /><br />　「ワイルド・アット・ハート」のマリエッタ。娘のルーラはマリエッタの写真が納められた写真立てに腹立ちまぎれに手にしていたコップのドリンクをかけました。そして、セイラーとルーラがめでたくハッピーエンドを迎えると、写真のマリエッタは溶けるようにして消え、後に残ったのは真っ黒な紙。マリエッタの退場の仕方は『オズの魔法使い』の「悪い魔女」と同じでした。<br /><br />　「ワイルド・アット・ハート」では、随所に「オズの魔法使い」を下敷きにした部分が散見されます。"イエローブリックロード"という言葉はオズの国に続く"黄金の道"のことを意味しますし、他にはドロシーの飼い犬"トト"の名が出されたり、「良い魔女」「東の悪い魔女」という言い回しがされたりしています。これは「オズの魔法使い」に出てくる魔女たちを呼ぶときに使われる言い方です。「ワイルド･アット･ハート」を読み解くには、「オズの魔法使い」がヒントになっているようです。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E383AFE382A4E383ABE38389E383BBE382A2E38383E38388E383BBE3838FE383BCE383882C7.png" width="231" height="154" border="0" align="" alt="ワイルド・アット・ハート,7.png" /></div><br /><br />★幸せのある場所―オズの国を目指して<br /><br />　「オズの魔法使い」はドロシーが竜巻に巻き込まれ、別の世界と飛ばされてしまったことから物語が始まります。故郷のカンザスに帰りたいドロシーはオズの国に行けば、その願いが叶えられるかもしれないと教えられ、金の道をたどってオズの魔法使いがいるというエメラルド・シティを目指します。<br /><br />　しかし、オズはとんだ食わせ者。オズにされた頼みごとである、悪い魔女退治を果たせば、望みを叶えてくれるはずだったのに、オズはドロシーの願いを叶えてはくれません。オズはドロシーをカンザスに帰す方法を知らなかったのです。オズはまったくドロシーの役には立ちません。オズはドロシーを残して気球に乗り、どこかへ旅立っていってしまいました。がっかりしたドロシーを助けてくれたのは南の魔法使い。彼女のおかげでドロシーは無事、愛する故郷カンザスに戻ってくる…というお話です。<br /><br />　セイラーやルーラたちは道中、ボビー・ベルという悪党に捕まり、セイラーはボビーの計画した強盗に加担してしまいました。ボビーの計画に加担すれば、大金が手に入り、ルーラや生まれてくる子供と家庭を持つことができるはずでした。<br /><br />　しかし、計画には裏がありました。ボビーが狙うのはセイラーの命。ボビーはミスター・レインディアの依頼を受けた殺し屋でした。ボビーに命を狙われた末、セイラーは捕まって牢屋行き。ボビーは死にましたが、セイラーは再び、ルーラと別れることを余儀なくされてしまったのです。<br /><br />　ボビーは願いを叶えてやるとドロシーを騙した「オズの魔法使い」であり、ドロシーの道中を邪魔する「悪い魔女」の役回りも演じていました。そして、殺し屋を送るよう仕向けたマリエッタの役どころも、間違いなく「悪い魔女」です。<br /><br />　「オズの魔法使い」には「良い魔女」が登場します。オズが去ったのち、南の魔女はドロシーに故郷に帰る方法を教えてくれました。魔女の言うとおり、いつも履いていた銀の靴のかかとを3回トントントンと打ちつけたドロシーは無事、故郷のカンザスに帰りつくことができました。セイラーは眼の前に現れた「良い魔女」のおかげで、ルーラのもとへ、息子の元へと戻ることができました。今度こそ、一緒に暮らすことができる。セイラーは散々回り道をした末に、幸せのある場所へと戻ることができました。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E383AFE382A4E383ABE38389E383BBE382A2E38383E38388E383BBE3838FE383BCE383882C5.jpg" width="224" height="159" border="0" align="" alt="ワイルド・アット・ハート,5.jpg" /></div><br /><br />★幸せに続く道<br /><br />　"イエローブリックリード"の先には何があったでしょうか。オズの国があったでしょうか。確かに、ドロシーらが辿った黄金の道の先にはオズの国がありました。しかし、オズの国には何もありませんでした。少なくとも、ドロシーの望むものはなかったのです。<br /><br />　セイラーとルーラが旅をした"イエローブリックロード"の先にも、まだ見ぬ新天地がきっと待っていたことでしょう。しかし、その新天地がセイラーらの意に沿うものであるかはまた別の話です。ただ、道を辿れば夢の国へと辿りつき、望むものを得られる？しかし、それほど、現実は甘くありません。大切なのは、道を辿って夢の国へ行くことではなく、長い道のりを辿るのうちに得られる何かしらの変化です。長い時間を誰かと過ごし、共に困難を乗り越えて進むうちに見えてくるものがあります。そして、何かに気付くことがあるのです。<br /><br />　本当に夢を叶えてくれるのはオズの国ではなく、オズの魔法使いでもありません。夢を叶えるのは自分自身です。それに気が付くことができなければ、永遠にイエローブリックロードを辿り、永遠にオズの国を求めて歩み続けねばならなくなってしまうでしょう。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E383AFE382A4E383ABE38389E383BBE382A2E38383E38388E383BBE3838FE383BCE383882C2.jpg" width="240" height="169" border="0" align="" alt="ワイルド・アット・ハート,2.jpg" /></div><br /><br />★「ない」という思い込み<br /><br />　黄金の道を辿るドロシーの旅路は、ほとんど彼女がカンザスに帰る助けにはなりませんでした。オズの魔法使いに助けてもらうために長旅をしたにも関わらず、オズは役立たずだったからです。しかし、彼女が旅をしたことで得られたものがたくさんありました。<br /><br />　勇気の欲しかった臆病なライオン、心が欲しかったブリキのきこり、脳みそが欲しかった藁のかかし。それぞれの願いはオズの"ぺテン"によって叶えられました。オズから与えられたものはそれ自体には意味のないものでしたが、偉大な魔法使いから価値のある物をもらったという思い込みによって、彼らの願いは叶ったのです。<br /><br />　勇気も、心も、脳みそも、「ない」と思い込んでいるから、ないだけのこと。それらは、誰かにもらったり、与えられたりするものではありません。勇気も、心も、脳みそも、初めからそれぞれの中にあったのです。オズの魔法はインチキで、何の意味もありませんでした。<br /><br />　自分というものは一番近くにありながら、良く分からないものです。自分に何があるか、自分が何を持っているか、分かっているようでわかっていない。セイラーにはルーラという女性がいました。彼を心から愛し、見守ってくれる女性です。セイラーもそんなことくらい、分かっているつもりでした。<br /><br />　しかし、セイラーは今一歩、自分に自信が持てません。人を殺し、強盗を犯し、両親はタバコか酒で死んでいる。「良い魔女」に対して、セイラーは自らのコンプレックスを告白しています。「俺は泥棒で故殺罪も」「親のしつけも受けちゃいない」。セイラーはルーラと一緒にいるだけで彼女の人生をめちゃめちゃにしてしまう自分に怯えていました。<br /><br />　「良い魔女」はそんなセイラーに対して優しく背を押します。「ルーラはあなたの全てを赦しました。あなたもルーラを愛している。怖がらないで、セイラー」。ルーラはセイラーの野放図なところも、彼の過去も、すべてひっくるめて、彼を愛している。ルーラはセイラーと人生を共にすることを恐れてはいません。セイラーと一緒に入ることで起こる波乱はルーラにとって、問題にはならないのです。<br /><br />　そんなルーラを受け入れることを怖がっているのはセイラーの方でした。「愛に背を向けないで」。「良い魔女」の言葉に押され、セイラーはルーラの元へと走り出しました。<br /><br />　ドロシーを助けたのは彼女がいつも履いていた銀の靴でした。それをたった3回、打ちつけるだけで故郷に帰れたのに、良い魔女に助けられるまで、ドロシーはそれに気が付きませんでした。一番欲しいものはとても近くにある。だけど、それに自分で気が付くことはできません。<br /><br />　セイラーには、ルーラと息子という大事なものがこんなに近くにあるのに、それに気が付くことができませんでした。ドロシーが「良い魔女」の助言のおかげで故郷に帰れたように、セイラーも「良い魔女」のおかげで、ルーラの大切さに気が付き、彼女と息子の元へと帰ることができたのです。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E383AFE382A4E383ABE38389E383BBE382A2E38383E38388E383BBE3838FE383BCE38388.jpg" width="265" height="190" border="0" align="" alt="ワイルド・アット・ハート.jpg" /></div><br /><br />★魔女マリエッタ<br /><br />　マリエッタはセイラーを殺そうとし、彼からルーラを引き離そうとしていました。マリエッタがセイラーをルーラから引き離そうとしたのは、娘を独占したいという歪んだ愛情、そして、セイラーに対して恋愛感情を抱いていたからです。<br /><br />　マリエッタはパーティ会場でセイラーに誘いをかけますが、彼はマリエッタを拒みました。自尊心を傷つけられたマリエッタはセイラーを陥れようと画策し始めました。まずは殺し屋を雇ってセイラーを襲わせます。セイラーが刑務所に入れられ、ルーラと離れ離れにすることには成功しますが、ルーラはセイラーを見捨てませんでした。セイラーとルーラの仲が壊れないのを見たマリエッタは、セイラーを亡きものにしようと決意します。マリエッタはサントスやジョニーといった男たちを使って何とかしてセイラーを抹殺しようとしました。<br /><br />　マリエッタは欲しいものは手に入れ、邪魔なものは排除して生きてきた女です。娘を犯した男を墜落事故に見せかけて殺したのを手はじめに、彼女はどんどん道を踏み外していきました。次に標的になったのは夫です。財産を一人占めし、自由になるためにマリエッタは夫を愛人のサントスとともに殺しました。<br /><br />　そして、今度はセイラーです。娘を奪い、自分に恥をかかせた男を殺す。マリエッタはセイラーを殺すために、彼女を愛しているジョニーすら、サントスに売り渡しました。後悔したマリエッタがサントスに命乞いしたときにはもう遅い。既に殺しの歯車は回りはじめていたのです。<br />　<br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E383AFE382A4E383ABE38389E383BBE382A2E38383E38388E383BBE3838FE383BCE383882C3.jpg" width="230" height="125" border="0" align="" alt="ワイルド・アット・ハート,3.jpg" /></div><br />　<br />★ママは悪い魔女？<br /><br />　ルーラは時折、魔女のイメージを見ていました。黒いとんがり帽子を被り、黒い衣装をきた魔女。そして、声が聞こえる。女の嘲笑するような高らかな笑い声でした。ルーラがその笑い声を思い出したのは、自分を犯した男が事故死するまでのいきさつを思い出したときです。「悪い魔女の笑い声よ」。ルーラはそう言っていました。<br /><br />　ルーラはそもそも、母親のマリエッタが娘に起きた事件を知っていたことすら認めようとしません。現場に出くわしたマリエッタがそのことを知っていることは明らかなのに、ルーラは「ママは知らなかった、それだけは確かね」と語ります。マリエッタは知っていた、そして、その男を殺した。ルーラがマリエッタが知っていたことを認めようとしないのは、それに引き続く殺人という事実を認めたくなかったからです。ママはあの現場を見ていない、だから、あの男を殺してなんかいない。<br /><br />　ママは「悪い魔女」ではない。しかし、脳裏をよぎるのは女の笑い声、そして燃え盛る地獄の業火のイメージでした。魔女は何度も姿を現します。そして、あるとき、魔女は自らの顔をはっきりと晒しました。それはルーラが父の焼死を思い出していたときです。激しく煙る家の中を「パパ！？」と叫びながら歩くルーラ。その直後、ルーラの乗る車と並走するように現れたのはマリエッタの顔をした魔女でした。<br /><br />　ママはパパを殺した。この事実はルーラにとって、もっとも認めたくない事実でした。ルーラはこの恐ろしい事実に気がつかないふりをします。あるいは、知らない、と自分に思い込ませていました。自分を犯した男をマリエッタが葬ったことに目をつむったように、父の死についても、盲目になる。<br /><br />　ルーラはマリエッタの正体について、知ることを望みませんでした。しかし、ことセイラーに関しては別です。セイラーとの幸せをとことん邪魔しようとするマリエッタにルーラは堪忍袋の緒を切らします。「もし私とセイラーの幸せを邪魔したら、根元からママの腕を引っこ抜いてやるからね！」彼女はがちゃんと電話を切り、ルーラはマリエッタの写真に、手にしていたグラスの中身をぶちまけました。<br /><br />　のちに、マリエッタの写真は黒ずんだただの紙になってしまいました。ルーラは期せずして、"魔女退治"をしてしまったのです。「オズの魔法使い」でもそうでした。ドロシーは西の悪い魔女の弱点が水であることを知らず、腹立ちまぎれに魔女に水をかけただけ。それが、魔女の消滅という思わぬ結果をもたらしたのでした。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E383AFE382A4E383ABE38389E383BBE382A2E38383E38388E383BBE3838FE383BCE383882C13.png" width="240" height="144" border="0" align="" alt="ワイルド・アット・ハート,13.png" /></div><br /><br />★魔女<br /><br />　女が透明な丸い水晶に手をかざしていました。水晶を通して女が見ているのはセイラーです。水晶にはボビーに悪事を持ちかけられ、断れずに計画に乗ろうとするセイラーが映し出されていました。女が手を動かすと二人の姿は消えてしまいます。この水晶の持ち主である女は誰でしょうか。<br /><br />　彼女は「魔女」です。顔の見えない魔女が確かに存在していました。黒いマニュキアを塗った黒い爪。赤い爪のマリエッタとも、ピンクの爪のルーラとも違う、"誰か"が存在していました。その誰かは、マリエッタを操り、マリエッタに悪運を与えていました。セイラーの破滅を望んでいたのはマリエッタです。そして、そのセイラーがボビーの誘惑に負けていく様子を魔女は眺めていた。魔女はマリエッタの側に立つ者です。マリエッタの暗い欲望が「魔女」を招き寄せ、彼女を「魔女」にしていきました。<br /><br />　サントスやジョニーを利用し、彼らを自分の欲望の実現へ利用しようとするマリエッタ。彼女はサントスを利用して自らの夫を殺しました。しかし、セイラーのときは失敗した。サントスにセイラーを殺させようとした結果、サントスはジョニーにも手を回し、彼を殺してしまったからです。「魔女」として振舞おうとしたマリエッタはまだまだ半人前でした。<br /><br />　マリエッタは魔女になったつもりだったかもしれません。しかし、むしろマリエッタは操られていました。マリエッタを操り、彼女の周りから愛する人を次々と失わせ、マリエッタを不幸のどん底へと突き落としたのは顔の見えない黒い爪の「魔女」です。マリエッタは人を操っているつもりで、その実、操られていました。マリエッタは彼女を愛してくれたジョニーを失い、最後には娘のルーラも失いました。夫も殺してしまったマリエッタには、もう誰も残っていません。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E383AFE382A4E383ABE38389E383BBE382A2E38383E38388E383BBE3838FE383BCE383882C6.jpg" width="284" height="153" border="0" align="" alt="ワイルド・アット・ハート,6.jpg" /></div><br /><br />★オズの国<br /><br />　「オズの国に行けりゃあ良かったのにな…答えがもらえた」。「皆行きたいのに、いけないのね」。行方不明になったルーラのいとこ、デルの話をするセイラーとルーラの会話です。<br /><br />　オズの国にはペテン師のオズの魔法使いしかいませんでした。彼は大掛かりな装置やその気にさせる巧みな話術で人々を騙し、魔法にかけられた気分にしていただけです。だから、オズの国に行っても、何も答えは得られません。<br /><br />　人々はオズの魔法使いに対する憧れから、エメラルド・シティに行きたがります。ドロシーがエメラルド・シティに行こうと思ったのも、北の魔女に勧められたからでした。北の魔女はオズの魔法使いの偉大さを語り、彼ならきっとドロシーの願いを叶えてくれると言います。オズの国へ行きさえすれば、願いがかなうと信じていたドロシーのように、セイラーとルーラもオズの国へ行けば夢がかなうという夢を見ていました。<br /><br />　セイラーとルーラにとっての"オズの国"、オズの魔法使いが住むエメラルド・シティはカリフォルニアです。そこに行っても、何かいいことがおきるという根拠はないけれど、漠然とした憧れと素敵な未来があるような気がする。彼らが何かしかの答えを求めて彷徨い、遠回りをした末に、現れたのは「良い魔女」でした。<br /><br />　セイラーのビッグ・ツナでのモーテル暮らしも、強盗で捕まって刑務所暮らしをしたことも、みんな、無駄だったように思えます。しかし、セイラーとルーラの回り道は長いものとなりましたが、揺るがない愛を手に入れることができました。ドロシーの回り道は一緒に旅をした仲間を助けました。ドロシーが遠回りをして「良い魔女」に出会ったように、セイラーも遠回りをして「良い魔女」に出会ったのです。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E383AFE382A4E383ABE38389E383BBE382A2E38383E38388E383BBE3838FE383BCE383882C9.jpg" width="243" height="137" border="0" align="" alt="ワイルド・アット・ハート,9.jpg" /></div><br /><br />★悪い思いつき<br /><br />　「これからはいいと思えることしかやらないようにしようと思う。何しろこの世の中には悪い思いつきだったではすまないことがあるからな」。「悪い思いつき」の例として挙げられるのはルーラのいとこ、デルの話です。デルは「黒いゴム手袋をしたやつらが捕まえに来る」という妄想に囚われていました。息子をもてあましたデルの母が「黒いゴム手袋をしたエイリアンはお前自身なんだよ」とデルに話したところ、その後デルは姿を消してしまったという話でした。<br /><br />　デルは「厳しい現実」を知った、とルーラは語ります。デルにとっての「厳しい現実」とは、彼が"エイリアン"だったということです。エイリアンが世にはびこり、人々を洗脳しているというデルの「悪い思いつき」は彼自身を飲みこんでしまいました。もちろん、実際には、デルはエイリアンではありませんが、母の言葉をまともに受け取ったデルは自分がエイリアンだと確信してしまったのです。<br /><br />　デルは消息を絶ちました。思い込みは人を追い詰めます。自分自身が｢エイリアン」だと思い込んだデルは自らの下着にゴキブリを這わせ、体内にも押し込むという行動に出ました。この一見、異常な行動も、デルにとっては自然なことでした。彼は「エイリアン」なのだから、彼の肉体は人間ではなく、人間とは違うはずだという思い込みです。エイリアンの体はゴキブリでできている。自分の体からも、その一部であるゴキブリが出てくるはずだ、いや、出てこなければならない。だって、彼は「エイリアン」なのだから。<br /><br />　セイラーにとっての「悪い思いつき」はルーラを幸せにできない男だと思い込んだことでした。殺人、あるいは育ちの悪さ、コンプレックスに囚われたセイラーはルーラが妊娠したことを聞いても素直に喜べません。ルーラはルーラで、妊娠に幸福を感じられない理由がありました。それは、中絶経験です。ルーラは自分が妊娠していることを悟ったとき、再び強姦されたことを思い出していました。そして、その後手術台に寝かされ、手術を受けているルーラの姿が出てきます。捨てられる血まみれのガーゼ。ルーラは強姦されたときに妊娠し、中絶したことがあったのです。<br /><br />　セイラーも、ルーラも、それぞれに抱える思い込みや記憶に邪魔され、子供を授かったことに喜びを見出せませんでした。思い込みによって形成された事実に自分自身を押し込み、その自分を演じる。無意識のうちに、人は自分自身に誤った認識を抱き、そしてその思い込みに囚われてしまいます。自分ではルーラを愛しきれないという思い込み、ルーラと結婚しても幸せにできないという思い込み…。<br /><br />　「悪い思いつき」に縛られているかどうか。本人にはなかなか気がつくことができません。しかし、「悪い思いつき」から解放されたとき、人は真実を見ることができるのです。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E383AFE382A4E383ABE38389E383BBE382A2E38383E38388E383BBE3838FE383BCE383882C8.jpg" width="250" height="120" border="0" align="" alt="ワイルド・アット・ハート,8.jpg" /></div><br /><br />★虹の彼方にある世界<br /><br />　脳みそのないかかしはドロシーにカンザスのことを聞きます。「どんなところなのか、話してみてよ」。ドロシーは、カンザスが灰色の大地が広がる場所で、そこで起きた竜巻のせいでこのオズの世界に来てしまったことを話しました。<br /><br />　かかしはいぶかしんで尋ねます。「ドロシー、きみはどうして、こんな美しい国から、荒れた灰色の場所にもどりたいの？」オズの国は豊かな緑の大地に森が広がり、きれいな花が咲き、優しい風の吹く美しい場所です。それなのに、竜巻の起こる乾燥した大地しかないカンザスへと帰りたがるドロシーの気持ちがかかしには理解できませんでした。<br /><br />　ドロシーはかかしに反論します。「カンザスがどんなに陰気で灰色の場所だったとしても、私のような血と肉でできている人間はカンザスで暮らしたいの。オズの国がどんなに美しい場所だったとしてもね。おうちほどすてきな場所はないのよ」。<br /><br />　故郷のカンザスにはドロシーを愛してくれるおじさんとおばさんがいます。行方の知れないドロシーを心配し、彼女の帰りを心から待ってくれている家族がいる。誰かにとっての「美しい国」は住み心地の良さで決まるものではなく、そこに温かさがあるかで決まるもの。荒れた灰色の世界はドロシーにとって、もっとも「美しい場所」でした。<br /><br />　ルーラは「この世界って心底いかれてるわ」とセイラーに愚痴をこぼしていました。ラジオから聞こえてくるのは、殺人に強姦、政府がワニを川に放流したとか何とか。本当に狂った世界です。それでもこの世界に住んでいる。<br /><br />　「何で虹の彼方にある世界に行けないの？」<br /><br />　セイラーは妻になる人に"Love me tender"を歌うつもりでした。しかし、セイラーに"Love me tender"を歌う気配はなく、ルーラのうっぷんはたまる一方です。「なんで"Love me tender"を歌ってくれないの？」と怒るルーラ。<br /><br />　セイラーがルーラに「Love me tender」を歌える日はもっともっと後のことでした。"Love me tender"は愛する女性に、生涯寄り添い、永遠の愛を捧げ、自分の居場所はあなたの元にある、と歌う曲です。セイラーの居場所はルーラのいるところ。行きたくても行けなかった「オズの国」はルーラのところにありました。<br /><br />　ルーラにとって必要だったのはセイラーの愛。ルーラはセイラーを愛していて、セイラーはルーラを愛しているのに、セイラーはルーラを愛し抜く自信がない。「虹の彼方にある世界」はセイラーが"Love me tender"を歌えば行けるのです。この狂った世界でも、セイラーの愛があれば、ルーラは幸福になれる。夢のような美しい世界、オズの国など、セイラーとルーラの幸せには必要ありません。どんなにきれいな場所だったとしても、血の通った愛のない世界など、価値はありません。<br /><br />　「心底いかれてる」世界でも、愛があれば、愛した人がいる場所であれば、そこは「虹の彼方にある世界」になる。「皆行きたいのに行けない世界」には愛があれば、簡単に行くことができるのです。<br /><br />　ぎりぎりのところで、セイラーは気が付くことができました。もう少しで彼はルーラと息子を失ってしまうところでした。これからはルーラとセイラー、そして息子の３人家族で暮らす未来があります。相変わらず、世界はきっと狂ったまま、これからも変わらないかもしれない。それでも、そこに、愛する人たちがいる限り、その場所は帰るべき場所なのです。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E383AFE382A4E383ABE38389E383BBE382A2E38383E38388E383BBE3838FE383BCE38388.jpg" width="235" height="160" border="0" align="" alt="ワイルド・アット・ハート.jpg" /></div><br /><br /><span style="font-size:x-small;">All pictures in this article from this movie belong to GENEON UNIVERSAL ENTERTAINMENT.</span><a name="more"></a>

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<title>ある日どこかで</title>
<description>ある日どこかで あらすじ※レビュー部分はネタバレあり　脚本家としてデビューしたばかりのリチャード・コリアー。彼の手がけた脚本の初公演が終わり、仲間と成功を喜び合うリチャードに、一人の老婦人が話しかけてきた。「帰ってきてね」。上品な物腰の白髪の老婦人は、懐から金時計を取り出し、リチャードに手渡すのだった。　それから8年の月日が経った。旅に出たリチャードはグランドホテルにたちより、一晩泊まることにする。夕食のために階下に降りたリチャードは暇を持て余し、ホテルの小さな資料室にふらり..</description>
<dc:subject>『あ行』の映画</dc:subject>
<dc:creator>なお</dc:creator>
<dc:date>2010-12-30T19:00:00+09:00</dc:date>
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<strong><span style="font-size:large;">ある日どこかで あらすじ</span></strong><br />※レビュー部分は<strong>ネタバレ</strong>あり<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38182E3828BE697A5E381A9E38193E3818BE381A7.2jpg.jpg" width="152" height="200" border="0" align="" alt="ある日どこかで.2jpg.jpg" /><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38182E3828BE697A5E381A9E38193E3818BE381A72C14.jpg" width="184" height="240" border="0" align="" alt="ある日どこかで,14.jpg" /></div><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38182E3828BE697A5E381A9E38193E3818BE381A72C7.jpg" width="182" height="286" border="0" align="" alt="ある日どこかで,7.jpg" /><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38182E3828BE697A5E381A9E38193E3818BE381A72C12.jpg" width="150" height="165" border="0" align="" alt="ある日どこかで,12.jpg" /><br /></div><br /><br />　脚本家としてデビューしたばかりのリチャード・コリアー。彼の手がけた脚本の初公演が終わり、仲間と成功を喜び合うリチャードに、一人の老婦人が話しかけてきた。「帰ってきてね」。上品な物腰の白髪の老婦人は、懐から金時計を取り出し、リチャードに手渡すのだった。<br /><br />　それから8年の月日が経った。旅に出たリチャードはグランドホテルにたちより、一晩泊まることにする。夕食のために階下に降りたリチャードは暇を持て余し、ホテルの小さな資料室にふらりと立ち寄った。そこにはホテルにゆかりのある古い記念品や資料が展示されていたが、リチャードの視線は壁に飾られた一枚の古い写真に注がれた。斜め横を向き、微笑を浮かべる女性の写真。リチャードは写真から目が離せなくなり、そこに佇んでいた。<br /><br />　グランドホテルに長く勤めているアーサーから写真の女性のことを聞き出したリチャードは彼女のことを調べ始める。彼女の名はエリーズ・マッケナ。1900年代初頭、一世を風靡した大女優だった。エリーズに運命を感じたリチャードは彼女のいた時代へと旅立つことを決意する。<br /><br /><br /><iframe src="http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?lt1=_blank&bc1=FFFFFF&IS2=1&bg1=FFFFFF&fc1=ADADAD&lc1=ADADAD&t=naokonh-22&o=9&p=8&l=as1&m=amazon&f=ifr&asins=B002XRQKZC" style="width:120px;height:240px;" scrolling="no" align="left" marginwidth="0" marginheight="0" frameborder="0"></iframe><br /><p><br />【映画データ】<br />ある日どこかで<br />1980年（日本公開1981年）・アメリカ<br />監督 ヤノット・シュワルツ<br />出演 クリストファー・リーヴ,ジェーン・シーモア<br /><br clear="left"/></p><br /><br /><strong><span style="font-size:large;">ある日どこかで 解説とレビュー</span></strong><br />※以下、<strong>ネタバレ</strong>あり<br /><br />★運命の人<br /><br />　脚本家リチャード・コリアー。ある日、彼は偶然に入ったグランドホテルの資料室で一人の女性の写真に目を奪われます。白黒の写真に写る彼女はエリーズ・マッケナ。1912年、グランド・ホテルで公演した当時の写真でした。写真に吸い寄せられるような強烈な感覚を覚えたリチャード。彼はグランドホテルにとどまることを決意します。町の図書館で老いたエリーズの写真を見たリチャードはこの女性が、大学時代、リチャードの処女作の公演に来ていて、彼女から金時計を贈られたことを思い出しました。｢帰ってきてね｣と言っていたあの白髪の女性がエリーズだということは…。<br /><br />　脚本の執筆に行き詰まり、恋人とも別れ、あてのない旅に出たリチャードを待ちうけていた運命の人。リチャードがふと思い立って立ち寄ったグランド・ホテルは過去への入り口でした。時空を超え、愛する人の元へと旅立つリチャード。<br /><br />　しかし、その夢は突如として破られます。時の流れは残酷にも、リチャードからエリーズを引き離し、リチャードは再び現代へと戻ってきてしまいました。絶対に消えない愛の記憶にリチャードは苦しみます。手を伸ばしても、嘆いても、絶対に届かない、あまりに遠すぎる距離。時間という越えられない壁を目の前にしたリチャードは絶望し、憔悴しきっていました。食べるものも口にすることなく、発見されたリチャードは瀕死の状態。周囲が慌てふためくなか、リチャードは再び旅に出ます。2度と戻ることのない、遥かなる旅。時空を超えて、エリーズとリチャードは今、再び出会いました。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38182E3828BE697A5E381A9E38193E3818BE381A72C3.jpg" width="263" height="176" border="0" align="" alt="ある日どこかで,3.jpg" /></div><br /><br />★ウィリアムの予言<br /><br />　マネージャーのウィリアム・ロビンソンはエリーズに予告していました。｢ある男性が現れ、エリーズの人生を変える｣、と。その男性こそがリチャードでした。リチャードはこの予言通り、エリーズの人生を変えることとなります。エリーズはグランド・ホテルでの公演を境に、それまでの明るく、朗らかな人格が一変した、と女優エリーズ・マッケナの本を執筆したミス・ロバーツは述べていました。<br /><br />　リチャードはエリーズに真実の愛をもたらし、そして、エリーズの魂を虜にしたまま、消え去ってしまいました。しかし、エリーズはリチャードを見つけ出しました。グランド・ホテルでの運命の出会いから60年後、再び運命は彼らを引きあわせます。<br /><br />　1972年、大学で、リチャードの処女作の公演が行われたとき、エリーズはこの公演を見に来ていました。かつて愛した人と同じ名前が脚本家として出ていたことに興味を惹かれたのでしょうか。そして、公演が終わり、仲間と喜び合っている脚本家の若い男性は間違いなく、リチャード・コリアー。エリーズが愛したリチャードその人でした。<br /><br />　エリーズは若きリチャードに金の懐中時計を手渡します。常に肌身離さず持っていた大切な時計。エリーズとの過去の記憶を失い、新しい人生を歩んでいるリチャードに戻って来て欲しいとの願いを込めて。<br /><br />　それから8年。時は満ち、リチャードはグランド・ホテルに辿りつきました。そして、開かれた過去への道。再び、リチャードはエリーズに出会うことができました。2度目の、そして、運命の再会でした。何もかもを捨てて、過去の時間を生きる、リチャードはその選択をしたはずでした。<br /><br />　過去に惹かれ、過去の時間の美しさと心地よさを知った者が元の時間で生きることの辛さは大学時代の恩師にあらかじめ警告されていました。しかし、ポケットに残されていた一枚の硬貨が運命をさらに変えてしまいました。確かに全部未来へ置いてきたはずなのに、残っていた一枚の硬貨。運命は2人を再び別離の道へと導いたのです。<br /><br />　エリーズの人生はリチャードによって変わりました。愛を知り、愛を手にし、そして、失う。愛の美しさ、豊かさを知ったエリーズの人生は幸福に包まれ、そして、愛する人を突然失ったことで愛の辛さを知った。エリーズの人生は確かに、リチャードによって変わったのです。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38182E3828BE697A5E381A9E38193E3818BE381A72C9.jpg" width="256" height="189" border="0" align="" alt="ある日どこかで,9.jpg" /></div><br /><br />★女優として<br /><br />　エリーズには才能がありました。美貌と才能に恵まれたエリーズには｢スター｣になる素質がある。マネージャーのロビンソンはエリーズが傷つけられることを極度に恐れていました。咲きかけた美しい花が、つぼみのうちに萎れてしまうことのないように…ロビンソンはリチャードをひどく警戒していました。リチャードは非常に好感のもてる良い青年かもしれない、しかし、それゆえに、彼を失ったときの悲しみや辛さはエリーズを傷つける。<br /><br />　ロビンソンは、リチャードの存在がエリーズの中で大きくならないうちに、リチャードを遠ざけようと努力します。知らなければ、傷つくことはない。リチャードを知らなければ、愛を知らなければ、それを失ったときに傷つくことはありません。エリーズは今のままでいられる。<br /><br />　しかし、愛を止めることはできませんでした。流れる水のように、あらゆる隙間からせき止めるものを乗り越えていく。エリーズとリチャードの愛は誰にも邪魔することはできなかったのです。そして、ロビンソンの危惧していたことが起こりました。リチャードが消えたのです。忽然と。エリーズの嘆きは想像するべくもありません。<br /><br />　しかし、エリーズは折れませんでした。彼女は後年、｢魅惑の大女優｣と書物に書かれるまでの女優となり、成功をおさめます。ロビンソンの危惧していたような事態は起こらず、エリーズは｢広く国民の敬愛を集め」、長年に渡って「舞台の花形｣として活躍しました。<br /><br />　エリーズは風にそよぐ花のような、たおやかな美しさを持った女性でした。しかし、芯は強い女性です。ロビンソンに対しても、引くところは引きますが、リチャードに対する恋心を隠そうとはせず、最後までリチャードについての態度は一貫していました。その強さは永遠に変わりませんでした。リチャードを失うという悲劇にエリーズは潰されることはなく、女優として生き抜きました。<br />ロビンソンはエリーズに"女優"であることを強く望んでいました。そして、エリーズもそのことを良く分かっていました。<br /><br />　ロビンソンとともに、｢演技に酔うなかれ｣と声を合わせて唱和するエリーズとロビンソン。二人は互いのことを理解していました。例え、何があったとしても、｢女優｣エリーズ・マッケナとして生きる。これはエリーズの女優としての矜持です。リチャードとの辛い別れは彼女を傷つけたことでしょう。しかし、その辛さは彼女の演技に奥行きと深みを与え、エリーズを大女優にしました。人生の辛さや暗さを知らなくてはできない演技があります。傷つくことは決してマイナスばかりにはなりません。<br /><br />　ロビンソンの心配は杞憂でした。エリーズはリチャードを理解し、彼を愛し続け、女優としての生涯を全うしました。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38182E3828BE697A5E381A9E38193E3818BE381A72C8.jpg" width="240" height="192" border="0" align="" alt="ある日どこかで,8.jpg" /></div><br /><br />★グランドホテル、ラフマニノフのラプソディー<br /><br />　グランド・ホテルはリチャード・コリアーとの出会いの場であると同時に、女優として飛躍する原点を得た場所でもありました。グランドホテルを象った特注のオルゴール、そして、そのオルゴールから流れるリチャードが教えたあのラフマニノフの曲。そして、グランドホテルで迎えた死。グランドホテルはエリーズにとってのすべてを示す存在です。<br /><br />　そして、ラフマニノフのラプソディー。1934年に作曲されたこの曲は、「パガニーニのラプソディー」と呼ばれ、愛されています。この美しいメロディーにエリーズは心をうたれました。「ラフマニノフは好きだけれど、聞いたことがない曲だわ」と話すエリーズ。<br /><br />　なぜ、聞いたことがなかったのか。それはリチャードが未来から来た人間だから。いつの時点か、エリーズは気が付いたでしょう。リチャードは同時代を生きる人ではなく、未来からやってきた人間であると。1934年に作られた曲を1900年代初頭の人間が知っているわけがありません。リチャードの秘密に気が付いたエリーズにとって、ラフマニノフのラプソディーは二人の愛を象徴する曲となりました。<br /><br />　リチャードが消え去った後、エリーズが女優としての人生を追求し続けたのは未来のリチャードに対する思いがあったから。未来の時間でリチャードはエリーズと知り合うことになる、その思いがエリーズを支え続けていたのでしょう。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38182E3828BE697A5E381A9E38193E3818BE381A72C11.jpg" width="238" height="172" border="0" align="" alt="ある日どこかで,11.jpg" /></div><br /><br />★過去と未来と<br /><br />　ひとときの愛の時間は突然に終わりました。それから数十年後、リチャードとエリーズの時間はもう一度交差することになります。それは大学でのリチャードの処女公演でした。エリーズはリチャードに近づき、金時計を手渡しました。<br /><br />　エリーズから金時計をもらったと話していたリチャード。あのときから時間は経ったけれど、エリーズの心は変わらずリチャードを求め、愛している、それを伝える金時計でした。老いたエリーズからは失意の念や落胆は感じられません。ただ、愛する人に出会えた幸福に満ちている。<br /><br />　彼女は引退後、隠遁生活を送りました。グランドホテルに居を構え、静かな時の流れとともにリチャードとの思い出と愛に浸って生きる。リチャードの処女公演からグランドホテルの自室に戻ってきたエリーズは、リチャードの脚本を胸に抱え、静かに死へと旅立っていきました。<br /><br />　それから8年後。グランドホテルにやってきたリチャードは時空を超え、エリーズと再び出会い、愛を知ります。そして彼も、グランドホテルで死を迎えました。エリーズと同じ場所で迎えた死。天国へと旅立つリチャードを迎えに来たのは、愛する人、エリーズでした。二人は手を取り合い、光の中へと歩み去っていきます。今度こそ、ずっと一緒にいられる。永遠の時間が約束された死は二人にとっての永遠の地であり、幸福の始まりでした。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38182E3828BE697A5E381A9E38193E3818BE381A7.jpg" width="258" height="180" border="0" align="" alt="ある日どこかで.jpg" /></div><br /><br /><span style="font-size:x-small;">All pictures in this article from this movie belong to Universal Pictures.</span><a name="more"></a>

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<title>ショーシャンクの空に</title>
<description>ショーシャンクの空に あらすじ※レビュー部分はネタバレあり　アンディ・デュフレーンは妻とその不倫相手のプロゴルファーを殺した容疑をかけられ、逮捕される。アンディは無実を主張したものの、終身刑の判決を受け、ショーシャンク刑務所に収監されることになる。この大規模な刑務所ではノートン所長が絶対的な権力を振るい、囚人たちを支配していた。ショーシャンク刑務所では、服役囚に対する刑務官の暴力や、囚人同士のけんかや暴行が日常茶飯事だった。　刑務所内には日用品やタバコ、はては映画女優のポスタ..</description>
<dc:subject>『さ行』の映画</dc:subject>
<dc:creator>なお</dc:creator>
<dc:date>2010-12-28T16:40:47+09:00</dc:date>
<content:encoded><![CDATA[
<span style="font-size:large;"><strong>ショーシャンクの空に あらすじ</strong></span><br />※レビュー部分は<strong>ネタバレ</strong>あり<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382B7E383A7E383BCE382B7E383A3E383B3E382AFE381AEE7A9BAE381AB2C18.jpg" width="150" height="288" border="0" align="" alt="ショーシャンクの空に,18.jpg" /><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382B7E383A7E383BCE382B7E383A3E383B3E382AFE381AEE7A9BAE381AB2C8.jpg" width="224" height="288" border="0" align="" alt="ショーシャンクの空に,8.jpg" /></div><br /><br />　アンディ・デュフレーンは妻とその不倫相手のプロゴルファーを殺した容疑をかけられ、逮捕される。アンディは無実を主張したものの、終身刑の判決を受け、ショーシャンク刑務所に収監されることになる。この大規模な刑務所ではノートン所長が絶対的な権力を振るい、囚人たちを支配していた。ショーシャンク刑務所では、服役囚に対する刑務官の暴力や、囚人同士のけんかや暴行が日常茶飯事だった。<br /><br />　刑務所内には日用品やタバコ、はては映画女優のポスターに至るまで外部から調達してくる"調達屋"レッドがいた。アンディと同じ終身刑を宣告されたレッドは二十年以上もこのショーシャンクで服役していたが、仮釈放の見込みがいっこうに立つ気配はなかった。レッドと知り合ったアンディは少しずつ、刑務所の生活になじんでいく。やがて、銀行の副頭取だったアンディは刑務所長の会計係を務めるようになるのだった。<br /><br /><br />　人を罰するとはどういうことなのか。""犯罪者""であるがゆえに、闇に消える問題がそこにはある。無実の罪で収監されたアンディー、そして殺人罪で服役するレッドの運命を通して、刑事司法制度の抱える問題点に鋭く切り込む。<br /><br />　スティーヴン・キングの中編を集めた作品集『恐怖の四季』に収録されている「刑務所のリタ・ヘイワース」が原作になっている。アンディーを演じるのはティム・ロビンス。突然にショーシャンク刑務所に入れられた人間が、それでもなお、希望を持ちながら生きていく姿を演じている。また、アンディーの良き友人となる""調達屋""レッド役のモーガン・フリーマンの演技も秀逸だ。長い刑務所生活で失ってしまったものを見つけることができるのか。あきらめとかすかな希望が交錯するレッドの感情を見事に写し取っている。<br /><br /><p><br />【映画データ】<br /><iframe src="http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?lt1=_blank&bc1=FFFFFF&IS2=1&bg1=FFFFFF&fc1=ADADAD&lc1=ADADAD&t=naokonh-22&o=9&p=8&l=as1&m=amazon&f=ifr&asins=B003EVW5FU" style="width:120px;height:240px;" scrolling="no" align="left" marginwidth="0" marginheight="0" frameborder="0"></iframe><br />ショーシャンクの空に<br />1994年（日本公開1995年）・アメリカ<br />監督 フランク・ダラボン<br />出演 ティム・ロビンス,モーガン・フリーマン,ウィリアム・サドラー,ボブ・ガントン,クランシー・ブラウン,ギル・ベローズ,マーク・ロルストン,ジェームズ・ホイットモア<br /><br clear="left"/></p><br /><br /><span style="font-size:large;"><strong>ショーシャンクの空に 解説とレビュー</strong></span><br />※以下、<strong>ネタバレ</strong>あり<br /><br />★波乱の人生<br /><br />　アンディー・デュフレーンは妻を殺し、ショーシャンク刑務所に収監されました。彼に課されたのは終身刑。仮釈放が認められるまで、この刑務所で過ごさねばならない日々が始まります。彼は入所早々からボグスら一部の囚人たちから付け狙われていました。レッドいわく、「生傷が絶えなかった」。特に親しい仲間もなく、刑務所内の労働と、ボグズらから逃げ回る日々。レッドの言うとおり、これは「悪夢の2年間」でした。<br /><br />　レッドはアンディーを気に入っていました。屋根を修理する屋外作業のメンバーにアンディーが入れたのはレッドのおかげです。その作業の途中、ハドレー刑務主任に相続税対策について助言したことがきっかけになり、アンディーは刑務官たちの資産運用や納税書類の作成などの仕事を引き受けるようになりました。<br /><br />　そんなアンディーを見込んだノートンから命じられ、アンディーは賄賂や裏金といったノートンの貯め込んだ表に出ない金を管理するようになります。アンディーは刑務所内の図書室の再建や、囚人たちの教育にも熱心に取り組みました。アンディーが特に目をかけていたトミーは高卒の資格を取ることに成功しました。<br /><br />　一方で、アンディーがしようとした再審請求はノートンにより阻まれました。ノートンはアンディーを外に出したくなかったのです。アンディーはノートンの不正蓄財の事実を知り過ぎていました。ノートンの命令により、アンディーは2カ月あまりを太陽の光も入らない穴倉のような懲罰房で過ごし、ようやく外に出ることが許されました。彼は元通り、所長の会計係としての仕事を続けます。<br /><br />　アンディーにはある計画がありました。それは脱獄です。入所してからというもの、アンディーは聖書をくりぬき、その中に隠し持っていた小さなロックハンマーでこつこつと壁をくりぬいていました。その壁の穴はレッドの調達してきた映画女優のポスターで隠されていたのです。女優が何代も世代交代したのち、ようやく脱出口は完成しました。そして、アンディーはついにショーシャンクからの脱出に成功したのです。<br /><br />　アンディーはノートンが貯め込んだ裏金を銀行から全て引き出し、メキシコ国境の町へと逃亡しました。今、彼は自由の身となり、太平洋の見える町で暮らしています。仮釈放されたレッドがアンディーを訪ねていくと、彼は海辺に置かれた古いボートを修理しようとしているところでした。かつて、ショーシャンク刑務所でアンディーがレッドに語っていた海辺のホテルとボートの夢は今、ようやく叶えられようとしています。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382B7E383A7E383BCE382B7E383A3E383B3E382AFE381AEE7A9BAE381AB2C12.jpg" width="276" height="188" border="0" align="" alt="ショーシャンクの空に,12.jpg" /></div><br /><br />★終身刑、そして刑務所へ<br /><br />　「ショーシャンクの空に」、この映画はアンディーが冤罪により逮捕され、終身刑の判決を受けて収監されたショーシャンク刑務所から脱獄するまでが主なストーリーとなっています。アンディーは、何度も彼を襲った囚人ボグズらをショーシャンクから追い出し、会計係をしながらノートン所長を騙し、最後は見事に脱獄し、金も手に入れました。そして、ショーシャンクでの不正を暴かれた所長のノートンは自殺し、刑務主任のハドレーは逮捕されました。そして、結末には、かつて語った夢の通り、太平洋の見える町での生活が待っています。<br /><br />　散々に苦しんだアンディーが地獄のショーシャンクを抜け出し、彼を苦しめた者たちに悪事のつけを払わせるさまは見事です。ずっと溜まってきたもどかしい思いが吹き飛ぶ瞬間です。しかし、この胸のすく瞬間だけがこの映画の本質ではありません。アンディーがショーシャンクで服役していた間、刑務所の問題がたくさん見えてきました。<br /><br />　まずは、"ショーシャンク刑務所"という場所そのものに問題がありました。刑務主任のハドレーによって囚人に虐待といえるまでの過剰な暴力が振るわれるショーシャンク刑務所。ハドレーは暴力によって囚人たちを支配し、絶対的な権力を握る自分自身に満足し、それを楽しんですらいます。そして、ノートンはそれを黙認している。何より問題なのは、そのような重大な問題を抱えるショーシャンク刑務所が、法に則った存在であるということです。ショーシャンク刑務所があるのは刑事司法制度の一環として、です。そして、「終身刑」という問題。アンディーが逮捕され、終身刑を言い渡され、刑務所に収監されたのは刑事司法上の手続きに則った結果でした。<br /><br />　終身刑、そして刑務所への収監。人を殺すという罪を犯した者への当然の流れであるように思えます。罪を犯した者には相応の応報を。そこから先のことは、それ以上考えようとはしないのが大概の場合であるように思います。罪を犯した者は社会システムからはじき出された存在であり、彼らの刑務所での生活環境など、一考の余地はない。囚人というだけで、通常なら許されないような行為が黙認されてしまう。それが当たり前、と考えられてしまう。何の疑問も持つことはありません。そこに闇が生まれる瞬間があります。「囚人」という言葉が人々の目を曇らせるのです。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382B7E383A7E383BCE382B7E383A3E383B3E382AFE381AEE7A9BAE381AB2C3.jpg" width="288" height="197" border="0" align="" alt="ショーシャンクの空に,3.jpg" /></div><br /><br />★何のための罰か<br /><br />　何のために罰を与えるのでしょうか。犯罪を犯した者への制裁でしょうか。それとも社会の秩序を保つためでしょうか。もしくは、犯罪者に矯正の機会を与え、社会復帰を促すためでしょうか。<br /><br />　現代社会において、親しい者が殺され、怒りに燃えて殺された者のために加害者に暴力をふるい、逆に殺してしまったら、それは殺人罪に該当します。このような"仇討ち"、すなわち私的制裁が犯罪とされる社会に暮らす者にとって、刑事司法制度は"仇討ち"に代わるものです。国家が被害者、あるいは社会一般の報復感情に代わって犯罪者に懲罰を加えるのです。<br /><br />　仮に刑罰の目的が、このような犯罪者に対する制裁というものであるなら、犯罪者は永遠に刑務所に閉じ込めておけばいいように思えます。人の命を奪うという大罪を犯した者にとって、一生を塀の向こうで暮らすことは当たり前のことであるように思えます。目には目を、歯には歯を。犯罪者は自らの犯した行為に等しい罰を受けねばならず、犯罪者は永遠に許されるべきではない、そう考えるのは自然なことでしょう。<br /><br />　しかし、現代において、刑事司法制度は必ずしもそうなってはいません。殺人を犯した者が必ず死刑になることはないし、被害者や遺族が死刑を望んだからといって、望み通りの刑罰が科されるわけではありません。また、刑罰の種類は法律によって定められ、法律に則って裁判が行われます。<br /><br />　法を越える制裁を裁判所が科すことが認められないのはもちろん、例え、法律があったとしても、憲法上、残虐な刑罰を科すことは認められません。だから、釜ゆでの刑によって死刑にするとか、かつての魔女裁判のように火あぶりの刑に処するなどの死刑の執行方法は法律で定めることはできませんし、そのような法律があったとしても、その法律が憲法に違反しているとして、法律の合憲性を争うことができます。<br /><br />　また、刑を終えた者には社会への復帰が認められるのが原則です。刑期を終えたのちに改めて同じ罪について刑罰が科されることはなく、所定の刑期は終えたが、まだ反省していないなどの理由で刑期が任意に延長されることはありません。<br /><br />　刑事司法制度において、犯罪者は永遠に犯罪者ではなく、一定の刑罰を科され、それを消化した後は社会に彼らを復帰させるというのが原則になっています。それはなぜでしょうか。<br /><br />　刑事司法制度は犯罪者を糾弾するためだけの仕組みではありません。彼らを人間以下の存在に貶め、永遠に社会から追放するという私的報復、社会的制裁のためだけの制度ではないのです。犯罪者に対する私的な制裁とは違い、刑事司法制度には、いずれ犯罪者を社会に戻すという「社会復帰」の仕組みが前提として存在しています。<br /><br />　国家は"仇討ち"を禁止し、そのような私的制裁を加える権利を個人から取り上げました。それは社会秩序を維持し、犯罪者に矯正の機会を与えるという刑事司法制度を十分に機能させるためのものでした。国家が刑罰権を独占したのは、私人による制裁を""代行""するためでないことに留意する必要があります。<br /><br />　犯罪者に対する処罰感情が先に立てば、冷静な議論は期待できません。従って、刑事司法制度の在り方について議論するときには、犯罪者だから罰せねばならないという感情的な側面を脇に置き、刑罰論の目的を踏まえて検討せねばなりません。処罰感情は刑事司法制度において一つの根幹をなす要素ではありますが、それが"全て"、ではないのです。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382B7E383A7E383BCE382B7E383A3E383B3E382AFE381AEE7A9BAE381AB2C17.jpg" width="288" height="180" border="0" align="" alt="ショーシャンクの空に,17.jpg" /></div><br /><br />★外に出るという恐怖<br /><br />　国家による刑罰は犯罪者に対する制裁であり、かつ社会復帰に向けてのためのものです。では、どのような刑罰がそれにふさわしいのでしょうか。<br /><br />　"終身刑"という刑罰があります。この刑罰はいわゆる不定期刑で、仮釈放が認められるまで、刑務所で過ごすというものです。他の懲役刑や禁固刑等と違い、明確に何年という区切りはありません。アンディー、自殺したブルックス、そしてレッド、いずれも終身刑の宣告を受けてショーシャンク刑務所で服役していました。<br /><br />　レッドが仮釈放評議会の委員たちと面談している様子が何度も出てきます。そのたびに繰り返されるお決まりの質問にお決まりの答え。20年経っても、30年経っても、レッドの答えは変わらず、評議会の結論も同じです。書類に押されるのはいつも「仮釈放不可」の赤いスタンプ。これは他の囚人たちも同じでした。<br /><br />　ブルックスが釈放されたのはショーシャンクに入所して50年が過ぎた後、レッドは40年。仮釈放されたとしても、社会から隔絶された数十年という時間を取り返すことは不可能です。20歳で収監された若者が刑務所を出たときには60歳、70歳になっている。刑務所の外で新しく生活を始めるにはあまりにも年を取り過ぎています。高齢ゆえに、社会の変化に適応することはより難しくなり、生活の糧を得るために働くこともままならないでしょう。<br /><br />　誰が年老いた前科者を雇うでしょうか？当然、十分な金を稼ぐことはできず、仕事口から住居まで、行政が世話をせざるを得ません。ブルックスは「頑張ってはいるが、手の関節が痛む」と手紙に書いていました。老人ゆえに動きが鈍く、慣れない仕事にあたふたするブルックス。店長はそんなブルックスを嫌っているようです。何十年も刑務所暮らしをしてきたおかげで、外の世界に知りあいはなく、完全に一人ぼっち。公演のベンチに座り、鳥に餌をやるブルックスの曲がった背中は孤独に押しつぶされていました。<br /><br />　「刑務所へ戻りたい」。ブルックスの本音です。彼は仮釈放が認められたとき、仲間のヘイウッドの首にナイフを突き付け、今にも付き刺さんばかりでした。彼はぎゅっと目を閉じ、ヘイウッドの首から流れる血を見ないようにしています。ひと思いにやってしまえば、仮釈放が取消しになる。幾度もこの思いがブルックスの頭をよぎったことでしょう。「仮釈放になど、なりたくない」。彼はショーシャンクにいるときから外の世界に恐怖を感じ、そして結局、外の世界に生きる場所を見つけることができませんでした。<br /><br />　「ここしか知らない」。レッドの言葉です。高齢、貧困、孤独そして偏見。刑務所を一歩出た途端、すべてが襲いかかってきます。「私などが死んでも迷惑はかからんだろう」。ブルックスが首を吊ったのは生きる希望を見つけることができなかったからでした。ブルックスはこのショーシャンクの世界しか知りません。外の世界に出れば、「ただの老いた元服役囚」。世間の冷たい視線がブルックスを待っています。<br /><br />　自由になりたい。しかし、外の世界に出て何になる？「あの塀を見ろよ。最初は憎み、次第に慣れ、長い月日の間に頼るようになる」。長過ぎる刑務所生活は刑務所に対する憎悪をかき消し、施設依存ともいえる精神状態を生みだしていきます。そして次第に増大するのは外の世界に対する恐怖。"見知らぬ"世界に対する不安と恐怖は、外界から隔絶した刑務所にいればいるほど増大し、元の世界へ戻れなくなっていくのです。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382B7E383A7E383BCE382B7E383A3E383B3E382AFE381AEE7A9BAE381AB2C13.jpg" width="291" height="164" border="0" align="" alt="ショーシャンクの空に,13.jpg" /></div><br /><br />★生きる希望<br /><br />　「終身刑は人を廃人にする刑罰だ。陰湿な方法で」。レッドはこう語ります。仮釈放のある終身刑だったとしても、社会から隔絶された時間を取り戻すことは不可能です。また、刑務所で長い時間を過ごすことは人に大変な精神的ダメージを与えます。精神的に""壊れて""しまうのです。<br /><br />　アンディーはチェスの駒づくり、会計係の仕事、図書室の整備、囚人の教育、そして脱獄のための穴掘りとさまざまなことをして刑務所の時間を過ごしていました。脱獄のための穴掘りは脱出への希望を与えてくれます。アンディーにとって大事だったのは何かやることを見つけて、気を紛らわすこと。これからの長過ぎる服役生活を忘れさせてくれる環境を自分自身に与えることです。そして、本当に脱獄できるかどうかを考えるよりも、ショーシャンクを抜け出せるかもしれないという希望を抱くことが重要でした。そして、その後の自由な人生を生きるという希望です。<br /><br />　アンディーは常に希望を忘れませんでした。しかし、皆がアンディーになることはできません。大抵はレッドやブルックスと同じように、ただただ、時をやり過ごし、来ることのない仮釈放のときを待つしかありません。長い長い時間です。先の見えない長い時間。希望や夢などは口にするのも嫌になる時間です。太平洋の見える町の夢を語るアンディーのことがレッドは不快そうでした。「そんな夢は捨てろ」。<br /><br />　以前、レッドはアンディーに警告していました。「希望は危険だぞ」。なぜ、希望が危険なのか。年老いて腰が曲がるころにならなければ仮釈放は認められないことは周囲の囚人を見ていれば分かります。しかし、自分は違うかもしれない、そう期待してしまう。仮釈放を期待して評議会に出席し、不可の判を押されるというサイクルを繰り返すうちに、ショーシャンクから出ていく希望は失われていきます。ショーシャンクを出られないなら、自由になれないなら、胸に抱いた希望は消えうせる。ショーシャンクを出られるのは棺桶に片足を突っ込んだころ。そんな年になって、外の世界に出たところで何ができるだろうか。やはり、夢はかなわないのです。<br /><br />　希望を失ったという喪失感は、もともと何も期待していない者に比べてより大きなショックをその者に与えます。それならば、最初から期待しないこと。夢や希望など、最初から何もなかったのだ、そう自分に言い聞かせておくことです。<br /><br />　レッドはアンディーにハーモニカを贈られました。レッドにとってハーモニカはシャバにいたときの思い出です。「昔、ハーモニカをよく吹いたが、入所してから興味を失った」。レッドはハーモニカを吹けなくなったからやめたのではなく、吹く気を失っていました。アンディーに送られたハーモニカを見たレッドはアンディーの目の前ではハーモニカを吹こうとはしません。夜中、独房に帰ったのち、レッドはハーモニカに少し息を吹き込んだだけで箱にしまいこんでしまいました。<br /><br />　レッドにとってハーモニカは自由な世界を思い出させるもの。アンディーはハーモニカを贈ることで、希望が大切だといいたかったのでしょう。しかし、レッドにとって、自由になる見込みがない以上、自由を思い出させるハーモニカは危険な存在でした。<br /><br />　希望を失った人間はどうなるでしょう。全てを捨てて、自暴自棄になるか、それとも、ただただ淡々と、その日その日を過ごしていくか。希望がない。外の世界にも、刑務所の生活にも、夢を抱く余地はありません。死を願ったとしても、刑務所では死ぬのも自由ではありません。過酷な生活環境で、希望もなく、半強制的に生き続けねばならないという「冷酷な現実」は人の精神を破壊していくのです。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382B7E383A7E383BCE382B7E383A3E383B3E382AFE381AEE7A9BAE381AB2C7.jpg" width="288" height="194" border="0" align="" alt="ショーシャンクの空に,7.jpg" /></div><br /><br />★無期懲役<br /><br />　日本には無期懲役という仮釈放ありの無期刑が存在します。無期懲役の運用がどうなっているかを見てみましょう。平成21年、無期懲役で収監されている者の人数は1772人です。新規に仮釈放が認められ、実際に仮釈放された者は6人。新規に無期懲役を受刑した者は81人、現在、いかに仮釈放される人数が少ないかが分かります。<br /><br />　平成12年から平成21年の10年間のデータを見ると、仮釈放者数の最高人数は平成15年の14人。それ以外の年は一ケタの年が多く、10人を超えたのは平成12年から平成21年までの10年間でわずか3回です。一方で、無期懲役受刑者の平均受刑年数は増加する傾向にあり、平成12年には21年2月だったのが平成21年には30年2月になっています。<br /><br />　また、統計上には現れませんが、そもそも、仮釈放が不可能な受刑者が多数存在するという問題があります。彼らは刑務所で服役するうちに重度の精神病を患い、仮釈放されても自活するだけの能力を失っているのです。ある長期服役囚を収容する刑務所では約半数にも上る長期服役囚が精神上の問題を抱えており、仮釈放不適格と判断されるという現状があります。そして、彼らを除いた残り半数のうち、継続して服役することが相当とされたのがその半分。残った半分の人についてのみ、仮釈放の見込みありと判断されました。<br /><br />　しかし、仮釈放が認められたとしても、それで終わりではありません。仮釈放が認められた人の場合も、精神上の疾患を抱えており、自立して生活することが難しい状況のため、釈放後も住居の用意と生活上のサポートを必要としていました。<br /><br />　結局、刑務所の外に出た後も、行政のサポートが必要になってきます。住居の用意はホームレスの支援団体等に協力を依頼し、生活支援は社会福祉協議会によってされることもあります。まともに生活費を稼げない場合は、生活保護等の現金支給も必要になってくるでしょう。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382B7E383A7E383BCE382B7E383A3E383B3E382AFE381AEE7A9BAE381AB2C16.jpg" width="256" height="192" border="0" align="" alt="ショーシャンクの空に,16.jpg" /></div><br /><br />★遠い自由<br /><br />　「ショーシャンクの空に」で問われるのは長期不定期刑の問題です。犯情の重い犯罪者を長期に渡って社会から隔離する必要は否定できません。しかし、それによって生じる弊害を同時に理解する必要があります。<br /><br />　かつて、日本で無期懲役刑を科された場合、仮釈放、保護観察を経て、完全に自由の身になるまでは約30年が目安でした。しかし、刑法改正で刑罰が加重されたことの影響で、現在では無期懲役を科された場合、仮釈放そのものを認めない方向へと動いています。先ほどのデータを見ても、数少ない仮釈放対象者は平均30年以上服役しています。現在では、仮釈放されたのち、完全に自由になるまでには30年では済みません。<br /><br />　これからも刑は長期化し、科される刑罰は重くなる可能性があります。仮釈放なしの終身刑は現在、日本には存在しません。しかし、実際の運用面では、無期懲役が仮釈放なしの終身刑としての役割を果たしています。しかし、死刑に準じる制度として、こういった類の刑罰を導入しようという声は常に存在します。死刑を廃止した国では、仮釈放なしの終身刑を導入している国があります。<br /><br />　刑罰は犯罪者に対する制裁であり、今までの量刑が軽すぎた、とするならば、厳罰化の方向性は歓迎されるべきでしょう。長期不定期刑を科される場合は加害者によって被害者の命が奪われています。場合によっては、複数の人間の命が。レッドやブルックスのように、人を殺してしまい、服役している者たちです。人の命を奪う行為に対し、その刑が数十年というのでは軽すぎる、その思いは無視されるべきではありません。しかし、それのみを重視してしまえば、犯罪者の社会復帰への道はどんどん閉ざされていきます。<br /><br />　処罰を厳しくするのであれば、それの弊害についても理解せねばなりません。精神を破壊し、社会に復帰することが不可能な状態にまで犯罪者を追い詰める刑罰は果たして、社会が本当に必要とする刑罰なのでしょうか。また、人間一人を刑務所に閉じ込め、一生出てこないだけの年数を支える社会の負担がいかほどになるのか。<br /><br />　仮釈放のない長期服役囚を次々に抱えることになる刑務所は飽和状態になり、刑務所の運用コストは確実に膨張していきます。さらに、刑務所の中ばかりでなく、長期に渡って社会から遮断された者を社会復帰させるために必要となる人的・金銭的コストも決して無視できません。<br /><br />　いかなる刑罰を科すか、いかなる刑罰が必要なのか。これは正解のない永遠の課題です。死刑が人道的ではないとして、これを廃止する代わりに、仮釈放のない終身刑を導入している国は数多くあります。また、死刑と有期刑を橋渡しする刑罰として、死刑と仮釈放なしの終身刑を併存させている国もあります。仮釈放のない終身刑は本当に必要なのでしょうか。どのような刑事罰を科すことが社会のためになるのか、感情論ではない、冷静な議論が望まれます。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382B7E383A7E383BCE382B7E383A3E383B3E382AFE381AEE7A9BAE381AB2C11.jpg" width="288" height="162" border="0" align="" alt="ショーシャンクの空に,11.jpg" /></div><br /><br />★刑務所に入れることだけが刑罰か<br /><br />　犯罪者はできるだけ長く閉じ込めておきたい、その思いの根底にあるのは、犯罪者に対する不安でしょうか、それとも、憎悪でしょうか、怒りでしょうか。それは処罰するにあたって加味されるべきではありますが、刑罰が厳罰化の方向を歩み、刑期が長期化するにつれて、刑務所の収容人数がこのまま増加していくことになれば、一考が必要となります。<br /><br />　どんな犯罪者であれ、全ての者を刑務所に放り込むだけが刑罰ではありません。例えば、トミーは家宅侵入罪で2年の懲役刑を科されてショーシャンクにやってきました。彼はこれまでにも、何度も罪を犯し、刑務所を出たり入ったりの生活をしているようです。快活で人当たりがよく、好感の持てる青年ですが、彼の前科はこの若さにして相当積み上がってしまっているようです。<br /><br />　また、アンディーは「外ではまじめ人間だったのに、服役して悪党に」と自嘲していました。アンディーの場合はノーマン所長の不正蓄財のごまかしを半ば強制的に手伝わされたためでしたが、服役した場合の問題の一つは、刑務所で仲間ができ、刑務所から出た後も、彼らとのつながりが続いてしまうことです。服役を終えたものの、経済的に苦しい状態が続いたとき、そこに刑務所仲間から声がかかれば、再び犯罪へと走ることは容易です。そしてまた、服役。負のサイクルが続き、気がつけば年を重ね、前科は山のよう。犯罪から足を洗うことが難しくなっていきます。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382B7E383A7E383BCE382B7E383A3E383B3E382AFE381AEE7A9BAE381AB2C6.jpg" width="288" height="180" border="0" align="" alt="ショーシャンクの空に,6.jpg" /></div><br /><br />★刑務所に入れないという選択<br /><br />　トミーに必要なのは教育でした。トミーには家族がいて、彼らのためにも、今の生活から抜け出したいという希望がありました。高卒の資格を取るために頑張っていたトミー。彼のような人間をその他の重罪犯とまとめて刑務所に放り込んでおくのは不合理なことです。犯罪者を一律に悪いと決めつけて処分するのが本当に良いのか。<br /><br />　軽い犯罪歴のためにその者を刑務所に入れ、余計に犯罪傾向を強めてしまうのでは本末転倒と言わざるを得ません。刑罰の趣旨が制裁と矯正にあるとするならば、犯罪の内容、種類によっては、矯正を重視する処分をすることが必要です。軽い犯罪をきっかけにして重い犯罪へと転がっていくことがあります。刑務所がその契機とならないように、処罰の在り方を考えなければならないでしょう。<br /><br />　犯罪者に対する不安は常に存在します。しかし、彼らを閉じ込め、目に見えない場所へと追いやり、彼らの存在を忘却することで満足していては、社会と犯罪の問題は永遠に解決できません。長過ぎる刑罰を科すことによって廃人を作り出し、社会復帰できない者たちを刑務所に大量に抱え込み、あるいは軽い犯情の者に重罰を科して刑務所に放り込むことだけが社会のためになるということはできません。<br /><br />　犯罪者への制裁と犯罪者の矯正という両輪は共に回転していなくてはなりません。やみくもに厳罰化を志向することは、このバランスを崩してしまいます。犯罪者を徹底的に追い詰め、彼らの人生を破壊することは正義にかなうものでないばかりか、社会に新たな負担を背負い込ませることになります。何が本当に社会のためになるのか。この一点を忘れてはならないでしょう。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382B7E383A7E383BCE382B7E383A3E383B3E382AFE381AEE7A9BAE381AB2C10.jpg" width="240" height="180" border="0" align="" alt="ショーシャンクの空に,10.jpg" /></div><br /><br />★「神に誓って更生しました」<br /><br />　「昔の自分とは違います。今は真人間です。神に誓って更生しました」。レッドがどんなにきれいな言葉を並べたてても、仮釈放がされることはありません。レッドにとって、この言葉は必ずしも嘘ではなかったでしょう。しかし、仮釈放はされませんでした。<br /><br />　世間は"更生した犯罪者"という一つのイメージを作り上げ、罪を犯した者にこの枠にはまるように振舞うことを強制します。彼らのイメージ通りに犯罪者たちが振舞えば、安心できるからです。従順に50年を牢屋で過ごし、年老いてよぼよぼになった者なら、仮釈放してもいい、これは一つの"更生した犯罪者"のモデルです。どんなに心から罪を悔いていても、10年や20年では釈放されない。本心をどれだけ、言葉で訴えても、仮釈放はされません。<br /><br />　仮釈放がされるのは、その者をこれ以上刑務所に入れておく必要がなく、社会に復帰させてもよいという判断がされるからのはずなのですが、個々人についての判断よりも、服役年数という機械的判断が先に考慮されてしまうという矛盾が生じています。50年放り込んでおいたから更生しただろう、いいかげん年を取ったからもう悪いことはしないだろう、その判断で仮釈放がされる限り、囚人たち一人ひとりの変化は全く考慮されません。仮釈放はされないのが当たり前、50年経ったらようやく仮釈放が期待できる。レッドの相対した仮釈放評議会の委員たちが見ているのはレッドが「更生」したかではなく、何年服役したか、なのです。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382B7E383A7E383BCE382B7E383A3E383B3E382AFE381AEE7A9BAE381AB2C5.jpg" width="297" height="180" border="0" align="" alt="ショーシャンクの空に,5.jpg" /></div><br /><br />★「更生」、そして「後悔」<br /><br />　人々は犯罪者に「更生」することを望みます。更生するとはどういうことでしょうか。「更生？更生ね。どういう意味だか」。レッドは仮釈放評議会の委員に「更生したと思うか」と問われ、こうやり返していました。<br /><br />　また、罪を犯した者に対しては、その罪を悔い、懺悔することが求められます。「罪を犯して後悔してるか知りたいのか？」レッドは評議会の委員に逆に問い返していました。<br /><br />　ノートン所長の"青空奉仕計画"。彼によれば、「囚人を更生させるための進歩的なプログラム」だったようです。この新プログラムに参加し、労働するだけで、本当に囚人は更生できるのか。<br /><br />　「更生」あるいは「後悔」。罪を犯した者にはこれらの言葉が一生ついて回ります。犯した罪を後悔する、その感情は人間として自然な感情です。誰かに強制されて沸き上がる感情ではありません。自分がした行為について、何を感じることができるのかは、その人自身に託されています。<br /><br />　これらはあくまで、心の中の動きです。それが外見上、何かしらの変化となって表出するわけではありません。しかし、外からは「更生」したか、本当に「後悔」したのか分からないため、彼らは永遠に目に見える後悔や謝罪を表す行動を求められ続けねばなりません。<br /><br />　無償労働奉仕をすればいいのか、被害者に手紙を書き、遺族に泣いて謝ればいいのか。何をしても、罪は消えません。レッドの言うように、「罪を背負って」生きていかねばならないのです。本当に罪を悔いている者に目に見える変化、世間が望むような感動的なパフォーマンスは必ずしも必要ありません。それを強制することは真実の「更生」ではない。心が伴わずとも、それらしき行動をすることはできるからです。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382B7E383A7E383BCE382B7E383A3E383B3E382AFE381AEE7A9BAE381AB2C2.jpg" width="259" height="179" border="0" align="" alt="ショーシャンクの空に,2.jpg" /></div><br /><br />★再び社会へ<br /><br />　犯罪を犯した者を社会に戻す。この試みは常に試行錯誤の繰り返しです。全ての犯罪者を隔離し続けておくことはできません。必要なのは、犯罪者の隔離ではなく、地域への再受容です。特に、罪状が軽く、家族等の支えがあって生活環境が整っており、本人の性質としても社会復帰を早めに促した方が、刑務所に入れるよりも早期の更生が促せると認められる場合には、刑務所に入れないという選択肢を積極的に選択すべきでしょう。<br /><br />　高卒の資格を取らせるため、アンディーが熱心に学習指導をしていた若者トミーのように、妻と子供がいて、将来への意欲が高く、罪状も軽い者の場合は、ショーシャンク刑務所のような刑務所に閉じ込めておくよりも、生活能力を高める手助けをして、犯罪の道から足を洗う方向へと導いてやるほうが、社会経済的にも効率がいい。社会からの隔離はトミーの人生にとって何らプラスにならないばかりか、社会の金銭的コストを増大させるだけです。<br /><br />　このような者を社会に戻すため、被害者と加害者、コーディネーターが同席して話し合いをするという試みが行われています。これは被害者に心情的な"赦し"を強制するものではありません。これは加害者との関係を整理するための場です。被害を被ったことに対する金銭的な賠償等も話し合われますし、加害者側から被害者への謝罪がしたいとの申し出があれば、その場や後日改めての謝罪等、謝罪の方法についての取り決めがされることがあります。<br /><br />　また、加害者が社会復帰したのちの彼らの生活についても話し合われます。また、被害者が二度と顔を見たくないというのであれば、加害者側の生活圏を区切る、あるいは万が一、顔を合わせても素知らぬ顔で素通りするなど、細かい実際的な取り決めをすることもできます。<br /><br />　このような話し合いは犯罪を犯した者を円滑に地域に戻すために行われるものです。犯罪を犯したとはいえ、いつかは刑期を終えて彼らは社会に戻ってきます。特に、少年犯罪など、その地域に生活基盤があることの多い犯罪類型については、被害者が同じ地域に住んでいる可能性が高く、加害者が地域に戻ってくることに対する不安感を取り除くべき要請が強まります。家宅侵入罪で捕まったトミーのように、家族が地域に定住しており、彼自身にも未来への意欲がある人間の場合はこのような解決手段が望ましいといえるでしょう。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382B7E383A7E383BCE382B7E383A3E383B3E382AFE381AEE7A9BAE381AB.jpg" width="307" height="173" border="0" align="" alt="ショーシャンクの空に.jpg" /></div><br /><br />★さいごに<br /><br />　ショーシャンク刑務所から脱出したアンディーは両手を広げ、天を仰いで絞り出すように声を上げていました。彼が感じていたのは喜びでしょうか。ついに手にした自由を感じていたのでしょうか。恐らく、彼が一番に感じていたのは、辛い19年間を耐え抜いた自分に対する感嘆と天への感謝の念でしょう。ショーシャンクで一番に辛いのは自由がないことではありません。絶望し、心がすさんでしまわないように、正気を保つことが一番に難しいことです。人を狂気と絶望の淵に追い込むことが本当に刑務所の果たすべき役割なのか。<br /><br />　「ショーシャンクの空に」はつい見過ごしてしまいがちな問題を鋭く指摘しています。"犯罪者"、というレッテルが貼られるだけで、社会からはじき出され、闇の中へと消えてしまう者たちがたくさんいます。彼らの罪を赦すべきというのではありません。彼らの犯した罪ゆえに、すべてに盲目となり、彼らが厳しく処罰されただけで満足する。罰っせられただけで満足していいのか。彼らのその後に無関心になってしまってよいのか。彼らをブラックボックスに放り込んでしまうことが本当に社会のためになっているのか。<br /><br />　犯罪という社会的正義に反する行為であるがゆえに、罪を犯した者に生じる問題のすべてを葬り去られることが許されるのか。「ショーシャンクの空に」は一つの寓話です。冤罪によって処罰されながらも、希望を持ち、過酷な刑務所暮らしを切りぬけた男。ショーシャンクという場所に一歩、足を踏み入れたとたん、もう、彼は人間として扱われなくなる。<br /><br />　アンディーが冤罪によってショーシャンク刑務所に入れられたという設定、そしてアンディーが海辺のホテルの夢をかなえる結末。これらは「ショーシャンクの空に」を観る人々に感情移入を促すための装置にすぎません。重要なのは、レッドやブルックスら、真実、罪を犯し、刑を宣告されて服役している者たちの抱える問題です。遠い刑事司法の世界。そこにはひとりひとりが考えるべき問題が山積しています。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382B7E383A7E383BCE382B7E383A3E383B3E382AFE381AEE7A9BAE381AB2C15.jpg" width="296" height="167" border="0" align="" alt="ショーシャンクの空に,15.jpg" /></div><br /><br /><span style="font-size:x-small;">【参考資料】<br />法務省『無期刑の執行状況及び無期刑受刑者に係る仮釈放の運用状況について』平成22年11月版<br /><br />All pictures in this article from this movie belong to Waener Bros. Entertainment, Inc..</span><a name="more"></a>

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<title>ドニー・ダーコ2</title>
<description>映画:ドニー・ダーコ2 あらすじ※レビュー部分はネタバレあり　時が過ぎ、兄ドニー・ダーコの死は遠い記憶となっていく。兄ドニーのように、生きることに絶望し、行き先を見失った妹サマンサが経験する不思議な世界。時が流れ、また戻る、時空を超える旅が今、始まる。　ドニー・ダーコの死から7年の歳月が経ち、妹のサマンサ・ダーコは17歳の少女へと成長していた。ドニーの死後、家族が崩壊し、よるべを失ったサマンサは旅に出る決心をする。　友人コーリーとともに、車を走らせている途中、車が故障し、道に..</description>
<dc:subject>『た行』の映画</dc:subject>
<dc:creator>なお</dc:creator>
<dc:date>2010-12-11T22:22:54+09:00</dc:date>
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<strong><span style="font-size:large;">映画:ドニー・ダーコ2 あらすじ</span></strong><br />※レビュー部分は<strong>ネタバレ</strong>あり<br /><div style="text-align:center;"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38389E3838BE383BCE383BBE38380E383BCE382B322C17.bmp" width="297" height="183" border="0" align="" alt="ドニー・ダーコ2,17.bmp" /></div><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38389E3838BE383BCE383BBE38380E383BCE382B32.jpg" width="200" height="316" border="0" align="" alt="ドニー・ダーコ2.jpg" /><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38389E3838BE383BCE383BBE38380E383BCE382B322C24.jpg" width="200" height="180" border="0" align="" alt="ドニー・ダーコ2,24.jpg" /></div><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38389E3838BE383BCE383BBE38380E383BCE382B322C2-5bd20.png" width="296" height="157" border="0" align="" alt="ドニー・ダーコ2,2.png" /></div><br /><br />　時が過ぎ、兄ドニー・ダーコの死は遠い記憶となっていく。兄ドニーのように、生きることに絶望し、行き先を見失った妹サマンサが経験する不思議な世界。時が流れ、また戻る、時空を超える旅が今、始まる。<br /><br />　ドニー・ダーコの死から7年の歳月が経ち、妹のサマンサ・ダーコは17歳の少女へと成長していた。ドニーの死後、家族が崩壊し、よるべを失ったサマンサは旅に出る決心をする。<br /><br />　友人コーリーとともに、車を走らせている途中、車が故障し、道に立ち往生してしまった。車の修理を待つ間、2人の少女は小さな田舎町に滞在することになる。<br />その町には湾岸戦争の帰還兵、通称イラク・ジャックという男がいた。彼は戦争の記憶が忘れられず、奇怪な行動をすることから、町の人々から軽蔑され、白い目で見られている男だった。<br /><br />　サマンサたちが町に泊まった夜、風車の回る風見台に隕石が落下するという事故が起きる。イラク・ジャックは風見台に上っているところをサマンサに助けられ、隕石の落下事故から危うく命拾いをするのだった。<br /><br />　ジェイク・ギレンホールが主演した「ドニー・ダーコ」から8年。前作で幼いドニーの妹サマンサを演じていたディヴィー・チェイスが再びサマンサ役で登場。孤独と絶望に揺れる10代の少女を演じる。<br /><br /><p><br /><iframe src="http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?lt1=_blank&bc1=FFFFFF&IS2=1&bg1=FFFFFF&fc1=ADADAD&lc1=ADADAD&t=naokonh-22&o=9&p=8&l=as1&m=amazon&f=ifr&asins=B004323YGS" style="width:120px;height:240px;" align="left" scrolling="no" marginwidth="0" marginheight="0" frameborder="0"></iframe><br />【映画データ】<br />ドニー･ダーコ2<br />2009年・アメリカ<br />監督：クリス・フィッシャー<br />出演：デイヴィー・チェイス,ブリアナ・エヴィガン,ジャクソン・ラスボーン<br /><br clear="left"/></p><br /><br /><strong><span style="font-size:large;">映画:ドニー・ダーコ2 解説とレビュー</span></strong><br />※以下、<strong>ネタバレ</strong>あり<br /><br />★2つの時間軸<br /><br />　やり直せる時間。これは前作「ドニー・ダーコ」から引き継がれる「ドニーダーコ2」の世界観です。時は複数に派生し、未来のある時点から過去のある時点へと戻ることができる。しかし、人はその分岐点に気が付きません。時が派生するその重要なポイントに現れ、人を導く者がいます。ドニー・ダーコを導いたのは"銀色のウサギ"でした。<br /><br />　「ドニー・ダーコ2」で"銀色のウサギ"の役目を果たすのはサマンサ、そしてビリー。導かれる者は湾岸戦争帰還兵の"イラク・ジャック"ことジャスティン・スパロウとサマンサの友人コーリーです。<br /><br />　隕石の落下事故をサマンサによって免れたジャスティンは生き延び、そして、「世界の終わり」が迫っていることを知らされます。ジャスティンが生き延びる時間軸では自動車事故が起こります。死ぬのはサマンサでした。この結末を変えようと、コーリーが命を捨ててサマンサを救っても、サマンサは、今度はジェレミーによって再び殺されます。コーリーの"やり直し"は、あくまでジャスティンの生き延びる時間軸上での出来事であるからです。<br /><br />　そして、訪れる世界の終わり。ジャスティンが隕石の落下事故を生き延びている限り、サマンサは死に、世界の終わりは避けられない。ジャスティンは隕石落下事故直前に戻り、死ぬという選択をしました。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38389E3838BE383BCE383BBE38380E383BCE382B322C26.bmp" width="500" height="315" border="0" align="" alt="ドニー・ダーコ2,26.bmp" /></div><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38389E3838BE383BCE383BBE38380E383BCE382B322C27.bmp" width="500" height="315" border="0" align="" alt="ドニー・ダーコ2,27.bmp" /></div><br /><br />【えんじ色の矢印→】ジャスティン又はコーリーが事故で死ぬ時間軸。<br />【虹色の矢印→】ジャスティン又はコーリーが事故を回避し、生き延びる時間軸。<br />【水色の矢印→】サマンサの死を経たのち、ジャスティンあるいはコーリーは事故直前の時間に戻ってきた。そして、一度は回避したえんじ色の矢印の示す人生を選択して事故死することになる。<br /><br />〈図表の見かた〉<br />コーリーの時間軸はジャスティンが隕石落下事故から生き延びる時間軸をベースに展開している。ジャスティンが生き延びる時間軸の中で発生する"交通事故"というイベントにおいて、コーリーは「やり直し」をしてサマンサの人生を救い、代わりにコーリー自身が事故死した。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38389E3838BE383BCE383BBE38380E383BCE382B322C20.jpg" width="288" height="188" border="0" align="" alt="ドニー・ダーコ2,20.jpg" /></div><br /><br />★選択された死<br /><br />　コーリーが「やり直し」をしたおかげで、サマンサの命は救われました。しかし、サマンサは今度はジェレミーによって殺されてしまいます。そして、地球には「超四次元立法体」が降り注ぎ、各所で爆発が起きる事態になっていました。ジャスティンが生き残る限り、サマンサは死に、人類は生存の危機にさらされる。コーリーが「やり直し」をしたところで、サマンサは、そしてこの世界は助けられない。時間軸のおおもとになっているジャスティン自身が「やり直し」をしなければ、破滅的な未来を変えることはできなかったのです。<br /><br />　ジェレミーは隕石をフランクから買ったことで、隕石に取り憑かれたようになっていました。超四次元立方体が降りそそぐなか、興奮を抑えきれない彼は勢い余ってサマンサを殺してしまいます。サマンサに致命傷を与えたのはジャスティンの作った鋼鉄製の"銀色のウサギ"の仮面でした。もし、ジャスティンが死んでいたら、銀色のウサギの仮面が作られることはなかったでしょう。そもそも、隕石が落下した風見台の持ち主フランクは隕石を売らなかったはずです。そして、ジェレミーが隕石を買うことはなく、ジェレミーが隕石の秘密にとり憑かれ、サマンサを死に追いやることもなかったでしょう。<br /><br />　結末において、ジャスティンが隕石の落下事故で死んだとき、フランクは隕石を売るよう勧められたのにも関わらず、「人が一人死んでるんだ」と主張し、隕石を売ろうとはしませんでした。隕石はジェレミーの手には渡らず、モーテルの管理人フィルの事務所におさまっていました。そもそも、ジャスティンが死んでいたら、サマンサはこの町にとどまりませんでした。隕石の落下でジャスティンが死んだ後、サマンサはこの町を出る決心をし、コーリーとも別れます。<br /><br />　ジャティンが死を選択することで、未来は変化したのです。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38389E3838BE383BCE383BBE38380E383BCE382B322C19.jpg" width="300" height="166" border="0" align="" alt="ドニー・ダーコ2,19.jpg" /></div><br /><br />★「なぜ見せた？」<br /><br />　「なぜ見せた？」"銀色のウサギ"の仮面をつけたジャスティンはサマンサにたずねます。"銀色のウサギ"としてジャスティンを導いてきたサマンサがジャスティンに見せたのは、サマンサを救うため、時を遡ったコーリーの死でした。サマンサは大切な人、大切なもののために命をかける人間の姿を見せました。彼女は「世界の終わり」から人類を救うのはジャスティンの死の決断であることをジャスティンに示唆したのです。「私はあなたのために死んだ」。そう言ってサマンサは右の額にできた醜い傷を見せます。サマンサは死んだ。ジャスティンの生き延びる時間軸において。<br /><br />　全ての者を死から免れさせるため、そして「世界の終わり」からこの世を救うために、ジャスティンは死を選びました。天を仰ぎ、落ちてくる隕石を迎えるように手を広げて笑っているジャックは、エンジンの落下を笑いながら待っていたドニー・ダーコを思い起こさせます。<br /><br />　ドニーが自らの死をもって大切な人たちを死から救ったように、ジャックも助けるべき人たちのために死んでいきました。サマンサを、友人を助けるために命を投げ出したコーリーも。サマンサを殺す殺人犯となるジェレミーを。ジャスティンが死ぬことで彼らの人生は悲劇から救われます。自分が死ぬということにこんなにも大きな意義があるのだということは、ジャスティンの死に対する恐怖を薄れさせました。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38389E3838BE383BCE383BBE38380E383BCE382B322C10.png" width="300" height="216" border="0" align="" alt="ドニー・ダーコ2,10.png" /></div><br /><br />★社会のつまはじき者<br /><br />　むかしむかし、アリエルという名の世界一美しいユニコーンがいました。王子ジャスティンに見出され、不思議で美しい世界へ導かれていきました。でも、アリエルの美しさは誰にも見えません。ジャスティンにしか見えないのです<br /><br />　"イラク・ジャック"の本名はジャスティン・スパロウ。ドニーの愛読していたタイムトラベルの本の著者ロバータ・スパロウの孫息子です。ユニコーンの一節はこの本に挟まれていたノートの切れ端に書かれたものでした。ユニコーンは"純潔"や"処女性"を象徴する存在です。そして、サマンサとコーリーは「私たち、完璧」「純潔よ」と何度も言葉を交わしていました。ジャスティンが死を迎える前、コーリーに「純潔よ」と答えていたのはサマンサです。そして、ジャスティンが死んだ後、サマンサに「純潔よ」と答えていたのはコーリー。ユニコーンはサマンサのこと、そして、王子ジャスティンとはそのまま、ジャスティン・スパロウのことでしょう。<br /><br />　イラク・ジャックは気のふれた男として町の人々から軽蔑され、毛嫌いされていました。戦争の悲惨な記憶を生々しく語るジャックを人々は気味悪がり、皆、彼のことを無視し、邪魔者扱いしていました。<br /><br />　一方、サマンサ。17歳の彼女は強い疎外感を抱いていました。兄ドニーの死後、家庭は崩壊し、姉は結婚してもはや他人のよう。コーリーの言葉から察するに、サマンサは孤独感と寂しさに追い詰められ、自殺未遂を起こしたこともあるようです。今のサマンサは、コーリーと共にあてのない放浪の旅を続ける身でした。コーリーも彼女を愛する父親がいるふりをしていましたが、実際にはコーリーを愛しているはずの父親は存在せず、母親は若い恋人と遊び回っていました。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38389E3838BE383BCE383BBE38380E383BCE382B322C7.jpg" width="296" height="167" border="0" align="" alt="ドニー・ダーコ2,7.jpg" /></div><br /><br />★世界一美しいユニコーン<br /><br />　ジャックも、サマンサも、コーリーも、社会からはじき出された存在です。彼らの存在を気にかける者はおらず、"美しさ"を理解する者はいません。王子にしか分からない、ユニコーンの美しさ。それは見た目の美しさではありません。コーリーやサマンサの若さや外見的な美しさに惹かれた者はこの田舎町にもいました。牧師のジョンはその好例です。サマンサを映画館に連れ込み、彼女の太ももにいやらしく手を置くジョンはサマンサの体に惹かれていました。<br /><br />外見からは分からないユニコーンの純潔さ、彼女らの純粋であるがゆえの美しさを感じたのは"イラク・ジャック"ことジャスティンです。お互いを思い合うがゆえに、その死に苦しみ、あるいは命を投げ出して、相手の命を救おうとする。しかし、残された者には地獄の苦しみが残されます。<br /><br />　命を投げ出し、相手を救っても、生き残った者は決して幸せにはなれない。彼女らの"美しさ"を理解するジャスティンが取った行動は「死」でした。ジャスティンが死ねば、サマンサもコーリーも死なずに済む。2人とも生き延びられるのです。<br /><br />　隕石の落下事故でジャスティンは死にました。この事故現場に来たサマンサは見知らぬ男の死に心を動かされます。焼け焦げたジャスティンのカンテラを取り上げるサマンサ。彼女が思い出したのは兄の死でしょう。<br /><br />　兄と同じように死んだ男。そして何かを感じる。ドニーはなぜ、死んだのか。ドニー・ダーコはなぜ、死ななければならなかったのか。兄の死は偶然ではなく、彼の決断と行動の結果だった。サマンサはドニーの死の意味を悟りました。<br /><br />　ジャスティンの死はサマンサの人生を変えました。サマンサは町を離れ、故郷へと一人戻る決断をします。これで、サマンサとコーリーの悲劇が起きることもなくなる。""美しさ""を理解したジャスティンはサマンサを悲劇から救う道を選んだのです。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38389E3838BE383BCE383BBE38380E383BCE382B322C3-ea2f8.jpg" width="300" height="245" border="0" align="" alt="ドニー・ダーコ2,3.jpg" /></div><br /><br />★「起きてやり直すのよ」<br /><br />　この映画の前半はジャスティンが隕石の落下事故を生き延び、サマンサが交通事故で死に、コーリーがサマンサのため、やり直しをした結果、コーリーが死ぬところまでです。「なぜ見せた？」と問うジャスティン。そして、交通事故でサマンサが生き延び、コーリーが死んだ後の時間軸が展開していきます。そして、サマンサは再び死ぬ。今度は殺されてしまうのです。「死んだらどうなるか知りたい？」ジャスティンに尋ねるサマンサの額の横には痛々しい傷がぱっくりと傷口を開けていました。「私はあなたのために死んだ」。<br /><br />　サマンサの死因はジャスティンが放置した銀色のウサギの仮面に頭部をぶつけたことでした。鋭い鋼鉄のウサギの鼻がサマンサの頭に傷をつけたのです。ジャスティンは逮捕され、「世界の終わり」が近づくのを独房に座って眺めるしかありません。<br /><br />　ジャスティンを独房から解放したのはサマンサでした。ドレスを着て、血の気のない顔をしたサマンサから、蒼い羽根がジャスティンに渡され、留置場の格子戸が開かれました。「起きてやり直すのよ」。<br /><br />　留置場を抜け出したジャスティンはサマンサが死んだ場所へとやってきていました。"銀色のウサギ"の面を被り、暗い空を眺めるジャスティン。降りそそぐ火の玉の中、彼は立ち尽くしています。ランディがその横をサマンサの死体を抱きかかえて去っていきました。<br /><br />ジャスティンは"銀色のウサギ"が夢に出てきた顔だと語っていました。ジャスティンは見知らぬ他人であるはずのドニー・ダーコを常に意識していました。ドニー・ダーコにとって、"銀色のウサギ"は自分自身でもありました。このような"銀色のウサギ"がもう1人の自分自身を象徴する存在なら、その"銀色のウサギ"の虜になっているジャスティンは"ドニー"です。そして、そのドニーは妹のサマンサを救うため、エンジンの落下事故で死んだ。それなのに、今また、サマンサが死んでしまった。<br /><br />　サマンサの"美しさ"を理解するジャスティンには彼個人としてサマンサを救いたい気持ちがありました。そして、ドニーとしても、サマンサは救わねばならない存在でした。死んだドニーの声が無意識のうちにジャスティンへと届いたのか。ジャスティンの夢に出てきた"銀色のウサギ"、そしてジャスティンを虜にした"銀色のウサギ"は説明のつかない死んだはずのドニーという存在を示唆しています。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38389E3838BE383BCE383BBE38380E383BCE382B322C14.jpg" width="300" height="160" border="0" align="" alt="ドニー・ダーコ2,14.jpg" /></div><br /><br />★死という恐怖<br /><br />　「私はあなたのために死んだ」。そして、ジャスティンはサマンサのために死ぬ。蒼い羽根は死、そして時空を超えるための扉を開けるカギを意味します。ドレスを着たサマンサが手にしていた羽根はジャスティンに渡されました。この世の時間軸を望ましい時間へと戻すため、死ぬのはサマンサではなく、ジャスティンである必要がある。<br /><br />「死は誰にも訪れる」。サマンサはロバータ・スパロウの本を読みながら、そう呟きます。誰にでも死が訪れるものならば、大切なのはそれまでの人生をどう生きたか。死には誰しもが恐怖を抱きます。特に、今までの人生に未練があればなおさら。死を目の前にしたとき、自分の人生が無意味であると思うなら、それは辛いこと。人間は自分の存在を誰かに認めてもらいたいと思う気持ちがどこかにあるものです。<br /><br />町の人間から白い目で見られ、気のふれた男と思われて死ぬ。そして、皆の記憶からはジャスティン・スパロウという男がいたという記憶すら消えていく。これは恐怖です。自分が存在したことすら、なかったことになる恐怖。サマンサは故郷の皆は自分のことを詳しく知っているのに「私は透明人間なの」と言っていました。確かにそこにいるはずなのに、いないも同然の人間。居てもいなくても、同じ。<br /><br />　自分が確かに生きたという証が欲しい。大切なのはいかに生きたか、ということです。「起きてやり直すのよ」。時間軸をさかのぼり、風車の下に座るジャスティンは訪れる死を迎える準備ができていました。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38389E3838BE383BCE383BBE38380E383BCE382B322C11.jpg" width="288" height="164" border="0" align="" alt="ドニー・ダーコ2,11.jpg" /></div><br /><br />★銀色のウサギ―サマンサ<br /><br />　「ドニー・ダーコ2」で"銀色のウサギ"の役を演じたのはサマンサとビリーでした。ビリーは閉じ込められて死を待つ身、そして、サマンサは死へのほのかな憧れをもつ少女です。兄のドニーが死に、家庭が崩壊し、姉も結婚して別の家庭をもった今、サマンサは降り立つところのない鳥のようでした。行く先を見失い、ただ彷徨うだけ。<br /><br />　かつて、兄のドニー・ダーコが銀色のウサギに出会ったとき、彼は銀色のウサギに導かれて未来を旅しました。ドニーも、死に対する強い親近感を抱いていました。精神を病み、非行を繰り返し、家族の重荷になっているという自分に対する強い不信感。ドニーを導き、ドニーにするべきことをそそのかす"銀色のウサギ"はドニー自身の姿でもありました。<br /><br />　"銀色のウサギ"としてのサマンサは死に化粧をし、鳥の羽根を象ったドレスを着、まるでこの世のものとは思えないような姿をしています。血の通っていない、冷たい表情。現実のサマンサも、ある意味では死んでいました。エンジンがオーバーヒートし、助けを待っている間、道路の中央に無防備に横たわるサマンサは車が近付いてきても動こうともしませんでした。まるで、このまま轢かれて死んでもいいと思っているようです。<br /><br />　そんな彼女を「死んでる」とコーリーは言います。「彼女は氷の女王よ」。この世に生きているサマンサは血の通う肉体をもっています。しかし、生きることに絶望し、希望を見失ったサマンサは死んだも同然。彼女の心は死んでいました。その死んだ彼女が演じたのが""銀色のウサギ""。ジャスティンを死へと導く先導者となりました。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38389E3838BE383BCE383BBE38380E383BCE382B322C4.jpg" width="300" height="171" border="0" align="" alt="ドニー・ダーコ2,4.jpg" /></div><br /><br />★"銀色のウサギ"―死に導く者<br /><br />　ジャスティンも死に対して強い親近感を抱いていました。戦争から帰ってきた帰還兵であるジャスティンは戦争の経験によって精神を病み、戦争の経験に囚われたまま。今も過去の記憶の中を彷徨う"兵士"です。ゴミを拾って暮らすホームレス同然に町を徘徊する彼は町の人々に馬鹿にされる毎日でした。そして、たび重なる誘拐事件の犯人ではないかとも疑われている。ジャスティンが憩える場所はこの世界にはありません。<br /><br />　ジャスティンは死んで当然と思っている町の人々の冷たい視線を感じずにはいられませんでした。隕石事故でジャスティンが事故死しても、彼らは天罰だ、正義が貫徹されたとしか思わないでしょう。せめて、意味のある死に方がしたい。自分がこの世に存在した証、存在した意味が、必ずあるはずだ。<br /><br />　ジャスティンは"銀色のウサギ"サマンサの導きによって、隕石事故を生き延びる未来を経験しました。それはサマンサが死に、自分は誘拐の容疑で逮捕されるという未来。隕石事故でジャスティンが死んでいたら、サマンサは死なずに済む。そして、「世界の終わり」も来ない。<br /><br />　"銀色のウサギ"は死に近づいた者、あるいは死に親近感を抱く者に訪れる死神でもあります。彼の役割は死にゆく者たちに生き延びる未来を経験させ、死の意義を理解させ、彼らを満足のいく死に導くこと。ジャスティンが生き延びる時間軸においては、ランディやジェレミーに湿疹が表れていました。<br /><br />　この時間軸は本来あってはならない時間軸。どこかで歪みが生じ、時空の歪みが彼らの体に変化を及ぼしたのでしょうか。また、体から伸びる透明の管のようなものも、この未来の世界の異質さを表しています。銀色のウサギが導く未来は、あってはならない未来です。その先には「世界の終わり」が待っているから。<br /><br />　"銀色のウサギ"はドニー・ダーコにエンジン落下事故による死をもたらしました。そして、今度はジャスティンに隕石落下事故による死をもたらしました。そして名もなき他の誰かにも。今度は誰の人生に現れるでしょう。誰にどんな未来を経験させるでしょうか。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38389E3838BE383BCE383BBE38380E383BCE382B322C5.jpg" width="251" height="187" border="0" align="" alt="ドニー・ダーコ2,5.jpg" /></div><br /><br />★繰り返す時間、「やり直し」の人生<br /><br />　コーリーはサマンサが事故死したのち、図書館で新聞をしらみつぶしに調べていました。目につくのは"マンホールの蓋　少女の首を切断"あるいは、"ゴミバケツ　若者に落下"というような、およそ、簡単には起こり得ないような事故の見出し。そして、ドニー・ダーコの死亡記事。ドニーの死は彼だけに起きた特別な出来事ではなかったことをこれらの新聞記事は示唆しています。他にも"選択された死"があり、「やり直し」がされた、ということです。<br /><br />　自分が今、生きているこの時間も、もしかしたら、「やり直し」の人生なのかもしれません。自分に関係する、あるいは間接的な関わりのあるだけで、直接には知らない人の決断により、時間は繰り返す。人は様々に分岐する時の流れを過ごした記憶を意識的には保持していません。しかし、無意識的なレベルで残されたこれらの記憶は人々を突き動かし、彼らに何かしら行動するように促します。この分岐した時間のなかで、潜在意識に残された"未来の記憶"は人に既視感を抱かせるのです。<br /><br />　「ドニー・ダーコ」でドニーの両親は、自宅のドニーの部屋に飛行機のエンジンが落下した後、生き延びたドニーが死ぬかもしれないと話していました。ドニーは命拾いをしたばかりなのに、なぜ、両親にはドニーの死の予感がしたのか。<br /><br />　そして、「ドニーダーコ2」。サマンサはピンク色のセロハンでできた小さな風車を手にしていました。この風車は風に飛ばされ、車に轢かれて、ぺしゃんこにされてしまいます。それを物悲しげに見つめるサマンサ。隕石が落下する前、ジャスティンと出会ってすらいない時点でサマンサは風車を手にし、その風車に心を動かされていました。<br /><br />　これらは何を意味するのでしょうか。<br /><br />　知らないはずのことなのに、そこには何もないはずなのに、なぜか心をよぎる不思議な気持ち。「派生した宇宙」の記憶は完全には消えず、これから経験するはずの未来、あるいはないはずの過去の記憶がふと頭をよぎります。暗示にかけられたかのように、取ってしまう行動、そしてその結果。人はこれを「運命」と呼ぶのかもしれません。運命の裏にあるのは過去や未来の誰か、あるいは自分の選択と決定であることを知らずに。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38389E3838BE383BCE383BBE38380E383BCE382B322C13.jpg" width="297" height="198" border="0" align="" alt="ドニー・ダーコ2,13.jpg" /></div><br /><br />★新しいスタートにキスを<br /><br />　田舎町をあとにしたサマンサは長距離バスの窓ガラスに口紅でハートマークを描き、その中にキスをしていました。この世の中に生きることに幻滅し、疲れ切っていたサマンサ。彼女は本当に死んでもいいと思っていたし、生きることに執着がありませんでした。他人に対して無愛想で刺のある態度だったサマンサはジャスティンの事故後、変わります。彼女は""銀色のウサギ""としてジャスティンを死へと導き、彼の死をサマンサとして目撃したことで、命のつながりを悟りました。<br /><br />　サマンサ自身にはもちろん、"銀色のウサギ"としてのはっきりとした意識はありません。時間の分岐を旅した記憶がないのも、兄ドニーが死んだ時と同じです。しかし、この無意識の経験はサマンサに、人生を生きる価値を見出させました。ドニー・ダーコが死んだのは無意味ではない。サマンサの命はドニーが死ぬことで、つないだ命。サマンサは迷いながらもつないだ命を生き、兄の死の意味を知ることになったのです。<br /><br />　サマンサは兄ドニー・ダーコに、そして、彼女の人生の全てに直接的に、あるいは間接的につながっていた人たちへキスを送りました。彼らの選択と決定がサマンサを支え、彼女をここまで生かし続けてきた。サマンサの命をつないだ人々へのキス、それは、彼女自身の生きてきた人生を肯定することでした。<br /><br />　故郷のバージニアはどんな町かと聞かれ、「退屈な町」と答えるサマンサ。しかし、彼女の口元には笑みが浮かんでいます。本心、退屈な町だと忌み嫌っていたサマンサは既になく、今、彼女にあるのはかすかに沸いた希望。サマンサは新しい人生のスタートを切る糸口を見出していました。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38389E3838BE383BCE383BBE38380E383BCE382B322C15.jpg" width="270" height="179" border="0" align="" alt="ドニー・ダーコ2,15.jpg" /></div><a name="more"></a>

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<title>ドニー・ダーコ</title>
<description>映画:ドニー・ダーコ※レビュー部分はネタバレあり　1988年、マサチューセッツ州。高校生のドニー・ダーコは、両親と大学受験のために浪人している姉、幼い妹の5人で暮らしている。10月2日の夜、ドニーは自分に呼びかける声に気がついてベッドを抜け出す。家の外にふらふらと出ていくと、&quot;銀色のウサギ&quot;がドニーを待っていた。　銀色のウサギは彼に「世界の終わり」が迫っていると告げる。それによると、「あと28日と6時間と42分と12秒」が世界の終わりまでに残された時間だった。翌朝、ドニーは近..</description>
<dc:subject>『た行』の映画</dc:subject>
<dc:creator>なお</dc:creator>
<dc:date>2010-11-23T21:15:26+09:00</dc:date>
<content:encoded><![CDATA[
<span style="font-size:large;"><strong>映画:ドニー・ダーコ</strong></span><br />※レビュー部分は<strong>ネタバレ</strong>あり<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38389E3838BE383BCE383BBE38380E383BCE382B32C6-12f38.jpg" width="156" height="227" border="0" align="" alt="ドニー・ダーコ,6.jpg" /><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38389E3838BE383BCE383BBE38380E383BCE382B32C27.jpg" width="268" height="128" border="0" align="" alt="ドニー・ダーコ,27.jpg" /></div><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38389E3838BE383BCE383BBE38380E383BCE382B32C29.gif" width="100" height="100" border="0" align="" alt="ドニー・ダーコ,29.gif" /></div><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38389E3838BE383BCE383BBE38380E383BCE382B32C21-8f65e.jpg" width="250" height="116" border="0" align="" alt="ドニー・ダーコ,21.jpg" /><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38389E3838BE383BCE383BBE38380E383BCE382B32C25-44dee.jpg" width="208" height="156" border="0" align="" alt="ドニー・ダーコ,25.jpg" /></div><br /><br />　1988年、マサチューセッツ州。高校生のドニー・ダーコは、両親と大学受験のために浪人している姉、幼い妹の5人で暮らしている。10月2日の夜、ドニーは自分に呼びかける声に気がついてベッドを抜け出す。家の外にふらふらと出ていくと、"銀色のウサギ"がドニーを待っていた。<br /><br />　銀色のウサギは彼に「世界の終わり」が迫っていると告げる。それによると、「あと28日と6時間と42分と12秒」が世界の終わりまでに残された時間だった。翌朝、ドニーは近くのゴルフ場で目を覚ます。彼が自宅に戻ると、墜落した飛行機のエンジンの一部がドニーの自室を直撃しており、自宅の屋根が半壊していた。<br /><br />　「未来へ来い」とドニーを誘う銀色のウサギ、青空に空いた穴、そしてタイムトラベル。過ごした時間は夢か現実か。ドニー・ダーコの辿る数奇な人生を描く。<br /><br />　主人公ドニー・ダーコを演じるのは、「遠い空の向こうに」「ブロークバック・マウンテン」で秀逸な演技を見せたジェイク・ギレンホール。「ドニー・ダーコ」から4年後の映画「ブロークバック・マウンテン」では同性愛に苦悩する20代の青年を演じていた。「ドニー・ダーコ」では10代の不安定な少年の心を若きジェイクが繊細に演じている。自分一人で抱え込むには重すぎ、しかし、他の誰かにも頼ることができない悩み、内向的な一面を持つ人間の揺らぎ。「ドニー・ダーコ」には今のジェイク・ギレンホールに通じる演技の真髄を見ることができる。<br /><br /><a href="http://eiga-kaisetu-hyouron.seesaa.net/article/128776341.html" target="_blank">■「遠い空の向こうに」『解説とレビュー』はこちら</a><br /><a href="http://eiga-kaisetu-hyouron.seesaa.net/article/164447838.html" target="_blank">■「ブロークバック・マウンテン」『解説とレビュー』はこちら</a><br /><p><br /><iframe src="http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?lt1=_blank&bc1=FFFFFF&IS2=1&bg1=FFFFFF&fc1=ADADAD&lc1=ADADAD&t=naokonh-22&o=9&p=8&l=as1&m=amazon&f=ifr&asins=B000083IZV" style="width:120px;height:240px;" align="left" scrolling="no" marginwidth="0" marginheight="0" frameborder="0"></iframe><br />【映画データ】<br />ドニー･ダーコ<br />2001年・アメリカ<br />監督 リチャード・ケリー<br />出演 ジェイク・ギレンホール,ジェナ・マローン,ドリュー・バリモア,メアリー・マクドネル,パトリック・スウェイジ,キャサリン・ロス<br /><br clear="left"/></p><br /><br /><strong><span style="font-size:large;">映画:ドニー・ダーコ 解説とレビュー</span></strong><br />※以下、<strong>ネタバレ</strong>あり<br />※本レビューは「ドニー・ダーコ」についてのレビューです。本作の続編「ドニー・ダーコ2」については未見ですので、ご承知置きの上、お読みください。<br /><br />★「帰ろう」<br /><br />ドニーは1988年10月2日の深夜、飛行機のエンジンが自宅を直撃するという事故に巻き込まれ、死亡しました。映画「ドニー・ダーコ」はドニーの不幸で、幸せな人生を描写したものでした。彼は何を思い、いかなる気持ちで死を迎えたのか。銀色のうさぎに導かれ、時空を旅した彼の足取りを追ってみましょう。<br /><br />　ドニーは10月2日の朝を近所のゴルフ場で迎えました。自宅に帰った彼は、自室を直撃している飛行機のエンジンが運び出されているところを目にします。そして、ドニーは銀色のうさぎの言うがまま、いたずらや放火をし、グレッツェンと恋をし、最後にグレッツェンの死に行きあわせました。このときまでに28日と6時間と42分と12秒が過ぎ去っています。<br /><br />　街を見下ろす高台に車を停め、「帰ろう」と呟くドニー。彼は10月2日の深夜に戻ってきました。ベッドに横たわって笑い転げるドニー。彼の上に飛行機のエンジンが落ちてきたのはそれからすぐのことでした。<br /><br />　ドニーは今度こそ、「死んだ」のです。ドニーが過ごした28日と6時間と42分と12秒は、ドニーの未来の時間でした。ドニーが生きていたならば、経験しただろう未来の時間。そして、それはすなわち、「世界の終末」までの残り時間でした。<br /><br />　「世界の終末」とはなんだったのか。これは世界が崩壊するとか、地球が消し飛ぶとか、そういうことではなく、ドニーが大切な人々を失うということでした。ドニーの母、ドニーの妹サマンサは飛行機事故で死亡し、心から愛した人グレッツェンは車に轢かれて事故死する。そして、ドニー自身はフランクを殺した人殺しとなる。これがドニーの迎えるべき、「世界の終末」でした。ドニーはこの将来を回避するべく、未来へと旅立った時点へと戻ることにしたのです。<br /><br />　タイムマシンの話を聞かせてくれたモニトフ先生はタイムトラベルをするための条件として、金属製で空を飛べる乗り物、宇宙と外宇宙に開いた穴を挙げていました。その条件が揃うのは、ずばり、飛行機の落下事故のとき。飛行機の落下事故によって空に開いた穴は現在と未来を結ぶ通り道となります。ドニーは飛行機のエンジンが落下して、絶命する寸前、この通路を通って未来へと旅立ち、そして、再び、戻ってきました。<br /><br />　ドニーが未来へ行っていた時間は28日と6時間と42分と12秒でしたが、現在の時間ではほんの一瞬のこと、飛行機が墜落し、エンジンがドニーの自室に落下してきて、それにドニーが押しつぶされるまでのほんのひとときの出来事でした。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38389E3838BE383BCE383BBE38380E383BCE382B32C9.bmp" width="539" height="342" border="0" align="" alt="ドニー・ダーコ,9.bmp" /></div><br />　　　　　　　　　　　　　　　　【えんじ色の矢印→】ドニーがエンジンの落下事故で死ぬ時間軸。<br />　　　　　　　　　　　　　　　　【虹色の矢印→】ドニーが事故を回避し、生き残る時間軸。<br />　　　　　　　　　　　　　　　　【青色の矢印→】母妹・恋人の死を経たのち、ドニーは事故直前の時間に戻ってきた。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38389E3838BE383BCE383BBE38380E383BCE382B32C17-29883.jpg" width="307" height="132" border="0" align="" alt="ドニー・ダーコ,17.jpg" /><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38389E3838BE383BCE383BBE38380E383BCE382B32C12.jpg" width="192" height="288" border="0" align="" alt="ドニー・ダーコ,12.jpg" /></div><br /><br />★未来のために<br /><br />　ドニーは家族のため、そしてグレッツェンのために過去の時点で死ぬことを決意しました。ドニーが10月2日を生き延びる限り、グレッツェンの命は助かりません。そして、母親と妹の命も。<br /><br />　ドニーが10月2日に死んでいれば、グレッツェンがドニーと出会うことはなく、ドニーが地下室へ行こうと彼女を誘い出すことはありません。地下室に行かなければ、ドラッグをやっていた不良連中に出くわすこともなく、その後の事故でグレッツェンが死ぬこともありませんでした。そして、ドニーが人殺しになることもなかったでしょう。ドニーがジム・カニングハムの自宅に放火することもなく、ジムが児童ポルノ所持で起訴されることもなく、ジムの支援活動のために教師のキティがダンス・チームを引率できなくなることもなく、従って、母親のローズが妹サマンサのダンス・チームを引率することはなかったはずです。<br /><br />　母がコンテストが終わってすぐの深夜便で帰ろうとしたのは、情緒不安定なドニーを家に残したことを心配したからです。キティが引率していれば、翌朝便で帰ってきたでしょう。深夜に急いでロサンゼルスを発ち、落下事故を起こす便で帰ってくることはなかったはずです。母は家にいて飛行機事故に巻き込まれることはなく、妹は翌朝便で帰宅することで、やはり、飛行機事故に巻き込まれることはないはずだったのです。<br /><br />　ドニーがグレッツェンと出会わなければ、ドニーがジム・カニングハムの家に放火しなければ、グレッツェンや母ローズ、妹のサマンサは助かる。ドニーはそのために死を選びました。それは「孤独な死」でした。グレッツェンの愛も得られず、母親との和解もありません。グレッツェンとは赤の他人のまま、母親とは喧嘩別れしたまま、ドニーは死ぬことになるのです。<br /><br />　ドニーは精神科医のDr.サーマンに「孤独は嫌だ」と訴え、孤独に死ぬことは耐えられないと告白しています。この言葉通り、ドニーの死は孤独なものとなりました。ベッドに一人、死んでいく。<br /><br />　しかし、ドニーにとってこれは孤独な死ではありません。未来の自分の時間を生き、グレッツェンと出会い、母親を始め、家族の愛を得て死んでいくのですから。彼の心にあるのは温かい愛情にくるまれた満足感でした。飛行機のエンジンが落下してくる直前、ベッドに寝転がるドニーは笑い転げています。楽しくてたまらないかのように。<br /><br />　彼は、未来を旅し、自分の死を覚悟していました。しかし、それと引換えに、心の隙間を埋めてくれる愛情に彼は満たされていました。だから笑っていた。そして、予定通り、飛行機のエンジンがドニーの部屋に落下し、ドニーの人生は終わりを告げたのです。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38389E3838BE383BCE383BBE38380E383BCE382B32C26-5f2fd.jpg" width="300" height="134" border="0" align="" alt="ドニー・ダーコ,26.jpg" /></div><br /><br />★運命か、選択の結果か<br /><br />　エンジンの落下は運命だったのでしょうか。この広い地球上の空にはたくさんの飛行機が飛んでいるけれど、その飛行機が墜落し、偶然にもエンジンが自室を直撃するなどということはそうそうあるものではありません。<br /><br />　これは避けられない運命だったのか。もし、そうなら、精神不安定で薬が手放せず、非行を繰り返し、家族ともすれ違っていたドニーの人生は悲惨としかいいようがありません。ドニーはなんて不幸な人間だったのか、ということになるでしょう。<br /><br />　しかし、このエンジン落下事故を意味のあるとする選択肢があります。それが、愛する人のために死ぬという選択をするということです。「あえて」死を選ぶ。ドニーの事故死は不幸な運命ではなく、ドニー自身の選択によるものだ、と考えることです。<br /><br />　ドニーはモニトフ先生に「生き物には運命がある」と述べています。彼は運命というものがこの世に存在していると信じていました。「運命」とは、人の力、その人個人の力では如何ともし難い、変えられない未来のことです。人はただ、その運命に従わざるを得ません。例え、その運命に不服があっても。運命は不可変です。運命は神が決めるものであり、どうあがいてもドニーの力では変えられない。なるようにしかならないもの、それが運命です。<br /><br />　しかし、このドニーの考え方にモニトフ先生は反対です。ドニーは運命が目に見えるものなら、未来も見えるはず、と主張します。これに対して、モニトフ先生は、「運命が映像として目に見えるということは、運命に背く選択肢もありうるということだ。だが、その選択の存在自体がすでに運命に背いてる」と指摘しました。<br /><br />　運命とは不可変かつ不可避なもののことをいいます。それなのに、その運命を回避してしまえる可能性が生じるというのでは、それはもはや運命とは言えず、そこに矛盾が生じる。<br /><br />　目に見える未来があるとするなら、人はその未来を招来しないように行動することが可能になります。その未来へつながらないような行動を選択すればいい。運命とは本来、目に見えないものです。目に見えないからこそ、人は全ての因果関係を想定し、生じる結果を予想して行動することはできず、運命を回避することができません。<br /><br />　あのとき、そのときのちょっとした行動が未来において、予想もしない結果を引き起こしているかもしれません。ドニーの放火が回り回って母妹の死を招いたように。結果が見えていて、それを回避する選択肢を取れるという時点で、それは「運命」ではないのです。"<br /><br />　あるイベントの発生において選択肢があるとき、そのイベントが発生するのは運命のせいではなく、選択の結果です。ドニーの場合なら、ドニーのエンジン落下による事故死が起きるのは運命のせいではありません。母妹の死、グレッツェンの死という目に見える未来を回避するために、ドニーは自ら、死を選びました。ドニーの人生は運命に従い、流され、定めのままに死を迎えたわけではありません。ドニーの人生は、ドニー自身の選択と決定によって形作られていました。<br /><br />　Dr.サーマンは言います。「もし、空が開くものなら、この世に法則などないはずよ」。空が開き、タイムトラベルへの道が開くなどという不思議なことが本当に起こるなら、この世には、定められた道などない。一見、決まり切ったことのように見える物事でも、実は違った道が残されているのかもしれない。「あるのはあなたの記憶とあなたの取った選択とあなたの知人だけ」。不確かな世界の中で、唯一、確実と言えるのは、自分が決めたこと、行動したこと、そして、自分の愛した人々、そして自分の中に残るそれらの記憶です。自分が決めて取った何らかの行動が実際に存在することに間違いはない。自分のとった行動は運命に導かれてのものではなく、自分が自ら選びとった結果です。そして、その選択は自らを導く。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38389E3838BE383BCE383BBE38380E383BCE382B32C13.jpg" width="269" height="183" border="0" align="" alt="ドニー・ダーコ,13.jpg" /></div><br /><br />★銀色のウサギ、もう1人の自分<br /><br />　ドニーは銀色のウサギの言うことに逆らうことはできない、とDr.サーマンに主張していました。「逆らったら孤独になる」。ドニーの「想像の友人」である銀色のウサギは彼を導く大切な人でした。<br /><br />　「何が起こるの？」とDr.サーマンに尋ねられ、「フランクが殺す」と答えるドニー。しかし、現実にフランクを殺したのはドニーです。フランクはドニーであり、ドニーはフランクである。この場合の"フランク"とは銀色のウサギのことです。銀色のウサギはすなわち、ドニー自身でした。<br /><br />　銀色のウサギはドニーの前に現れては、次の取るべき行動をドニーに命令します。その言葉に従い、ドニーは未来へ行き、銀色のウサギの指示するままの行動を取りました。「大丈夫だ、まだ捕まらない」とドニーに囁き、「俺は何でもできる、お前もだ」とドニーを唆す銀色のウサギはドニーの心の内を具現化した存在でした。<br /><br />　学校の水道管を破裂させ、銅像に斧を振り下ろし、ジム・カニングハムの家に放火する。そして、未来へ来いとドニーに働きかける。ドニーはタイムマシンを作る計画のために地下室へと行きました。これらの行動はドニーに衝撃的な結果をもたらしました。ジム・カニングハムの家への放火は母と妹の死を招き、タイムトラベルを実現させるために忍び込んだ地下室では襲われて逃げ出した末に、グレッツェンが車に轢かれて死亡してしまったのです。<br /><br />　ドニーは銀色のウサギのいうがまま、非行を繰り返してしまう自分のことを「悔しい」と語っていました。悔しいけれど、孤独にはなりたくない、だから友人の言うことには従わねばならない。銀色のウサギの命令に逆らえば、""友人""を失い、孤独になってしまう。<br /><br />　しかし、ドニーは目を覚ましました。銀色のウサギが導く道は自分の望まない道である、と。愛する人のいるドニーはもはや、孤独ではなく、銀色のウサギの命令はドニーにとって、絶対的なものではなくなっていました。そして、銀色のウサギの命令を客観的に捉え、考え直すことができました。<br /><br />　銀色のウサギはドニーの心の弱さの現れでもありました。ドニーは銀色のウサギを殺すことで、自分自身の暗部と決別することができたのです。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38389E3838BE383BCE383BBE38380E383BCE382B32C2.jpg" width="260" height="191" border="0" align="" alt="ドニー・ダーコ,2.jpg" /></div><br /><br />★銀色のウサギは死んだのか<br /><br />　銀色のウサギはドニーに殺されました。ドニーが殺したのは銀色のウサギの着ぐるみを着たフランクです。フランクはドニーの姉エリザベスが大学に合格したことを祝うハロウィーン・パーティに招かれてやってきた友人たちの一人です。フランクの着ていた銀色のウサギの着ぐるみはハロウィーン・パーティの衣装でした。<br /><br />　フランクは銀色のウサギだったのでしょうか？銀色のウサギはドニーの分身だというのに、どうして銀色のウサギの中身がフランクなのか。銀色のウサギは肉体を持って実在するのでしょうか？そもそも、"銀色のウサギ"など、この世に存在していなかったとしたらどうでしょう。肉体を持って存在していたのは初めから、"フランク"というドニーの友人だけ。<br /><br />　映画の冒頭、自転車で帰宅するドニーが走り抜ける道路端に「ハロウィーン・カーニバル」の看板が出ているのが目に付きます。そして、ドニーが未来で過ごす最後の夜もハロウィーン・パーティ。そして、グレッツェンと一緒に観た映画は「死霊のはらわた」。映画館には銀色のウサギも現れていました。そして、この場でドニーにカニングハムの家への放火を命令しました。<br /><br />　「死霊のはらわた」という映画は、奥深い山中のロッジに泊まりに来た男女5人が次々に死霊にとり憑かれ、死霊に体を操られて仲間を襲うというストーリーの映画です。<br /><br />　ハロウィーンの季節には死者の霊や精霊が現れるとされます。かぼちゃをくりぬいて作るジャック・オ・ランタンは有名ですが、これはハロウィーンの季節に戸口や庭にこれを置いて悪霊を怖がらせるためのもの。ハロウィーンは魔が近づく季節なのです。<br /><br />　銀色のウサギがドニーにさせたことは悪事ばかり。そして、そのウサギの言うがままに行動し、夢遊病者のように映画館を彷徨い出るドニーは、悪霊にとり憑かれ、肉体を乗っ取られたかのようです。<br /><br />　繰り返し出てくるハロウィーンの描写は偶然ではありません。「死霊のはらわた」の死霊と、それにとり憑かれ、意のままに操られる若者たちの関係は、銀色のウサギとそれに盲従するドニーの関係に似ています。そして、映画館のスクリーンに映し出されるシーンは、若者たちがロッジに到着したところです。銀色のウサギは「スクリーンを見ろ、よく見るんだ」とドニーに促しました。スクリーンに映るシーンは、山奥のロッジの軒下にある吊り下げ式のベンチが一人で勝手に揺れているシーンです。これは「死霊のはらわた」冒頭のシーンで、死霊の存在が示唆されている場面でした。<br /><br />　"銀色のウサギ"はフランクではない、人間でもない。銀色のウサギは霊的な何かである可能性が示唆されています。そして、肉体を持たない""銀色のウサギ""を銃で撃ち抜いて殺すことはできない。ドニーは銀色のウサギの命令に逆らうという意思を自分自身に対して示すために、銀色のウサギを殺すという儀式がどうしても必要でした。そして、フランクはその犠牲者となった。<br /><br />　ドニーが殺したのはあくまで、フランクであり、"銀色のウサギ"ではありません。フランクを殺したのはドニーの放った一発の銃弾でした。銃弾はフランクの片目を撃ち抜き、彼を殺しました。"<br /><br />　ドニーは包丁をキッチンから持ち出し、鏡に映った自分の目に突き立てていました。そののちに映画館で会ったフランクは目から血を流しています。鏡の向こう側にいる銀色のウサギはドニー自身、銀色のうさぎは鏡に映るドニーの姿です。鏡に映る自分の眼に突き立てた包丁が傷つけていたのは鏡の向こう側にいるもう1人の自分、"銀色のウサギ"でした。<br /><br />　銀色のウサギの着ぐるみを着て映画館に現れたフランクの片目には血を流した痕がありましたが、グレッツェンが死んだ現場に駆けつけてきたフランクには眼に傷がありませんでした。これは人間である"フランク"と霊的な存在である"銀色のウサギ"が別の存在であることを示すものです。映画館に来ていたフランクは"銀色のウサギ"としてそこに存在していました。だから、このときのフランクは片目を負傷していました。一方で、グレッツェンが轢かれて死んだ現場に来ていたフランクは"<br />フランク"として存在していました。だから、フランクの目には傷がありません。<br /><br />　銀色のウサギはフランクの肉体を借りてこの世に存在しつつ、ドニーの心に巣くう存在でもあったのです。<br />　銀色のウサギは今もどこかにいるかもしれません。"銀色のウサギ"はもう1人の誰かになることができます。ドニーの暗部に忍び込み、もう1人のドニーとなったように。彼はドニーでもあるし、他の誰かでもある。ドニーのような、複雑で揺れる感情を抱えた心には"銀色のウサギ"が現れるかもしれません。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38389E3838BE383BCE383BBE38380E383BCE382B32C16.jpg" width="298" height="176" border="0" align="" alt="ドニー・ダーコ,16.jpg" /></div><br /><br />★"フランク"が消えるとき<br /><br />　「フランク、いつ消える？」とたずねるドニーに対して、「知っているはずだ」と答える銀色のウサギ。<br /><br />　"銀色のウサギに対して見せるドニーの表情は凄味を帯び、グレッツェンに対しても、母親ローズに対しても見せることのない形相をしています。銀色のウサギに会ったときのドニーからは、彼の破壊的な衝動が解放されていました。ドニーは、銀色のウサギに会う前から精神的な問題を抱え、放火をして処分を受けたという前科を持っています。<br /><br />　暴力の行使がどのような理由で正当化されるとしても、暴力は暴力です。ドニーは自分の暴力性に気が付いていて、銀色のウサギの唆しに乗り、学校の水道管を破裂させ、銅像を壊したことについて「悔しい」とDr.サーマンに語っています。一方で、ドニーはそのような行動をしてしまうことに対して、銀色のウサギの命令だから従わねばならない、とも言っていました。<br /><br />　ドニーはしてはいけないことをさせようとする自分自身の中にある力に恐れを抱いていました。その恐れは銀色のウサギと特異な存在を生みだしていたのです。ドニーは銀色のウサギに「命令」させることで、それに従わざるを得ない状況というのを作り出していました。<br /><br />　命令に従うためにやるしかなかった、そういう状況を作り出すことで、ドニーは自分自身の中に残る罪の意識を消化していたのです。銀色のウサギはこのようなドニーの罪悪感に対処するための"装置"でもありました。銀色のウサギに命令されてした水道管の破壊や学校の銅像に斧を突き立てた行為は「学校の危機」という言葉で正当化され、ジム・カニングハム宅への放火は児童ポルノの収集家だったという彼の性癖を暴くという結果によって、ドニーの中で正当化され、罪の意識を消化していたのです。<br /><br />　"フランク"こと、銀色のウサギが消え去るのは、ドニーが友人"フランク"の正体に気がついたとき、そして、自分の暗部が"銀色のウサギ"を生みだしたことを自覚したときです。銀色のウサギはドニーの友人としての外見を装い、ドニーの行動を正当化するという役割をドニー自身に期待されていたのです。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38389E3838BE383BCE383BBE38380E383BCE382B32C3.jpg" width="260" height="191" border="0" align="" alt="ドニー・ダーコ,3.jpg" /></div><br /><br />★"銀色のウサギ"とフランク<br /><br />　「不思議の国のアリス」で白うさぎがアリスを先導して不思議の国へ導いたように、ドニーにとってはフランクの描く銀色のウサギが未来の世界への先導者となりました。この銀色のウサギはあくまで、ドニーの「想像の友人」です。しかし、ドニーは銀色のウサギの名前は「フランク」だと言い、実際に、フランクという名前の人物もいる。<br /><br />　このフランクという人物はなぜ、銀色のウサギの着ぐるみを着せられ、銀色のウサギの役を演じることになったのか。ドニーがタイムトラベルから戻ってきたエンジン落下事故の日、夜を過ごす人々のカットが次々に入ります。いずれも、ドニーの知人ばかりです。<br /><br />　その中の1人にフランクがいました。ベッドの下にはまり込むようにして座るフランクの近くには、"銀色のウサギ"のイラストが数点と、"銀色のウサギ"の面があるのが見えます。これはいわゆる、「現実」の時間軸での出来事です。<br /><br />　つまり、ドニーが戻ってきたこの世界にもフランクという人物はいて、彼は""銀色のうさぎ""の絵を描く。この絵と似たタッチの絵は他にも見ることができます。一つはドニーの部屋にある右眼がクローズアップされた大きな絵。そして、もう一つはグレッツェンと発表したときに使った記憶発生装置IMGのイラストです。<br /><br />"銀色のウサギ"のイラストは未来の時間軸において、ドニーの部屋のカレンダーの上部に貼り付けられていました。そして、現実の時間軸において、ドニーの部屋にある大きな眼の絵は未来の時間軸から戻ってきたときの入り口になっていました。<br /><br />　銀色のウサギはドニーを未来へと導く役割を果たしました。現実の時間軸において、ドニーはフランクと何らかの形で知り合いだったのでしょう。大きな右眼の絵はフランクの手によるもので、ドニーはフランクの描くウサギの絵を見たことがあったのかもしれない。<br /><br />　そして、その"銀色のウサギ"を描くフランクは、銀色のウサギを「動かす」人。フランクが銀色のウサギの被り物を着ていたのはフランクが""銀色のウサギ""を描く人だったからでしょう。"<br />また、現実の時間でフランクがドニーの友人であり、過去のパーティで銀色のウサギの着ぐるみを着ていたのをドニーが記憶していて、それが未来の時間軸にも反映されたということも考えられます。銀色のウサギはもう一つのドニー。そして、銀色のウサギは、ドニーの友人という外見を取り繕うためにフランクという肉体を必要としました。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38389E3838BE383BCE383BBE38380E383BCE382B32C4.jpg" width="270" height="198" border="0" align="" alt="ドニー・ダーコ,4.jpg" /></div><br /><br />★人間の着ぐるみ<br /><br />　骨の上の肉でかたどられる形がどんなに美しくても、皮膚の下にあるのは皆同じ、骸骨です。どんなに見た目を磨き、表面を取り繕っても、中にあるものは変わらない。「なぜ、ウサギの着ぐるみを？」と問うドニーに対して、銀色のウサギは「お前はなぜ、人間の着ぐるみを？」と問い返します。<br /><br />　人は「好かれる人間」でありたいと思うもの。他人に良く見られたい、と思う気持ちは誰にでもあります。誰からも受け入れられようとするために、自分自身に枠をはめて生きている。そして、それが当然のことになっているという現実があります。<br /><br />　その本質にあるのが、醜いものだったとしても、外見を飾り立てれば、誰もその正体に気がつかない。児童ポルノを愛好していたジム・カニングハムは""恐怖克服セラピー""を謳う有名なカウンセラーという仮面を被っていました。しかし、彼が特別なのではなく、それは他の大人たちも同様でした。<br /><br />　タレント・ショーという学校の催しで、一人、舞台で踊るシェリータに対して罵声を浴びせる男性、そして、それをにやにやと見守る大人たち。太めでアジア系、要領が悪く、よたよたと踊るシェリータに対して寄せられる大人たちの冷ややかな視線からは、明らかな軽侮の感情が感じ取れます。<br /><br />　彼らは表だって罵声を浴びせるわけではありません。ただ、シェリータを眺めてひそひそと囁き合い、にやつくだけ。しかし、彼らの態度はシェリータに対して「引っ込め！」と声を荒げた男と本質的には同じではないでしょうか。シェリータの直後に出演したダンス・チームに送られたスタンディング・オべ―ションと拍手の嵐に比べれば、シェリータのときとの差は明らかです。ジム・カニングハムが司会をして行われた学校のタレント・ショーにはたくさんの「人間の着ぐるみ」を着た人間たちが集っていました。<br /><br />　シェリータは催し物の後、衣装も着替えることなく一人、銅像の前に座り込んでいました。落胆した様子の彼女の表情からは人間の醜悪な面に触れた人の悲しみが感じ取られます。<br /><br />　それから数日後、シェリータは、校長に首を言い渡され、大声で悪態をつく教師のカレンに校舎裏で遭遇しました。カレンはシェリータに気が付き、はっとしますが、すぐに微笑を浮かべます。みっともないところを見られてもカレンは物怖じしません。それは、率直な性格のカレンにとっては、普段取り繕っている外見と本音との差が僅かなものであるから。<br /><br />　そして、いつも皆からバカにされているシェリータは人間の醜いところをいやというほど見てきています。カレンが本音を吐いているところを見ても、シェリータは彼女を理解するだろうと確信が持てたからです。あのすばりとものを言うカレンであっても、仕事を続け、社会生活を送るためには「人間の着ぐるみ」を着なければ世の中は渡っていけない。<br /><br />　銀色のウサギは人間と逆です。銀色のウサギは着ぐるみではありません。骸骨の顔を持つ銀色のウサギは本質であり、着ぐるみのの下にあるフランクという人間の肉体はドニーの友人という外見をかたどる飾りでした。フランクという人間の外見を持ちながら、中にいるのは"フランク"ではなく、"銀色のウサギ"。フランクの中身がフランクではないことを見抜けない人間を銀色のウサギは嘲笑しています。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38389E3838BE383BCE383BBE38380E383BCE382B32C8.jpg" width="256" height="170" border="0" align="" alt="ドニー・ダーコ,8.jpg" /></div><br /><br />★ドニーの未来<br /><br />　ドニーはグレッツェンに、将来は「小説家か画家になりたい」と話していました。「皆に僕を分かってほしいから」。ドニーの過ごした未来の時間には彼の願望や希望が現れている部分がたくさんあります。現実の世界では、ドニーは精神上の問題を抱え、家族ともすれ違いが絶えません。<br /><br />　夕食の席で姉と口論し、部屋に来た母親を追いだして「ババア」と罵声を浴びせる。父親は汚い言葉でののしり合う姉弟をにやつきながら眺め、母親はそんな2人に手を焼いている。姉は一流大学に入学するために浪人中の身ですが、「来年はハーバード大の学生」という母親の言葉がうるさく聞こえるようです。姉はエンジンの落下事故が起きたとき、外からそっと帰ってきたところでした。彼女の服装から察するに、夜遊びからこっそり帰ってきたところではないでしょうか。<br /><br />　それが、エンジンの落下事故を境とした未来の世界では一変します。ドニーがゴルフ場から帰ってくると、家族は皆、温かく彼を迎え入れ、姉のエリザベスは妹を抱きよせ、弟のドニーに優しく話しかけます。前夜のエリザベスとはまるで態度が一変していました。さらに、姉のエリザベスはハーバード大学に合格し、ドニーもそれを心から喜び、姉弟の仲はうまくいっている。<br /><br />　両親は、ドニーのことを気遣い、Dr.サーマンの下に足を運んで息子の症状を相談しています。「今までの処分や非行について、あの子なりの言い分があった」と父親。ドニーの問題行動について、父親は理解しようとしています。そして、母親は息子を心から愛し、心配している。事故が起きる前夜、母親を部屋から追いだし、「ババア」と罵っていたドニーと母ローズの関係は、お互いを思いやり、理解しようとする理想的な母子関係へと変化していました。ドニーは精神を病む自分のふがいない姿を母に謝り、母はそんな息子を「すばらしいわ」と言って涙を流して受け入れています。<br /><br />　また、Dr.サーマンは非常に良くできた精神科医で、ドニーの話をじっくりと聞き、彼が本音を明かせる大事な相手になっています。現実の世界では、ドニーと姉はDr.サーマンに支払う高額の報酬や、投薬治療を引き合いに出して、口論していました。現実には、ドニーはDr.サーマンに何らかの不満を持っていたのではないでしょうか。ドニーはDr.サーマンが高額の報酬を受け取る一方、満足なカウンセリングが受けられず、ただ薬が処方され続けるだけだと思っていたのかもしれません。<br /><br />　そして、学校でもドニーは楽しい時間を過ごします。何よりも、グレッツェンという恋人の存在です。転校してきた彼女とはあっという間に恋人関係になりました。さらに、この未来の世界において、ドニーには友達がたくさんおり、彼らと放課後の時間を過ごすこともあります。また、ドニーには学校の不良とも、渡り合える度胸がありました。廊下ですれ違うときも目をそらさず、いたずらの犯人と疑われた不良に脅されてもドニーは引きません。<br /><br />　そして、教師のカレン。彼女は生徒たちに対して何かを命令したり、キティのように自分の考えを押し付けることを嫌う教師でした。校長に対して、「生徒と対話しようともせず、覇気のない子にしてます」と堂々と批判し、一方的な命令を押し付けることの無意味さを述べています。カレンはドニーの良き理解者であり、庇護者でもありました。<br /><br />　この未来の世界では何もかもがうまくいっている。うまくいきすぎています。それはそう、これはドニーの世界なのだから。この世界はドニーの「僕を分かってほしい」という願望が強く影響して構築されています。<br /><br />　しかし、これら全ては、神の定めた運命のなせる業ではなく、ドニーが選択し、行動した結果です。ドニーがこうでありたいと願い、その願望に沿って行動したことがこのようなバラ色の未来を生みだしました。しかし、その一方で、ドニーは銀色のウサギの言うがままだった。銀色のウサギの存在はドニーのバラ色の未来に不穏な影を投げかけました。<br /><br />　銀色のウサギの命令に従うことを選択したのも、ドニー自身の選択です。その命令に従うべきかどうか、ドニーには選択の余地があった。ドニーには「運命に背く選択肢」が用意されていました。そして、その選択肢の存在自体が、運命というものの存在を否定しています。この世にあるのは結局、「あなたの選択」であり、それによって生じた結果なのです。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38389E3838BE383BCE383BBE38380E383BCE382B3.jpg" width="260" height="191" border="0" align="" alt="ドニー・ダーコ.jpg" /></div><br /><br />★手紙<br /><br />　ドニーとグレッツェンはスパロウ家のポストに手紙を投函しました。「お尋ねしたいことがたくさんあります」。ドニーは「答え」を恐れていました。「すべてが現実だ」と言われたら、と思うと、怖くて、直接答えをもらうことはできない。だから、「答えは夢で聞かせてください」と続けます。「世界に終わりが来たら、安心したいと思います。楽しみなことがたくさんあるから」。<br /><br />　ドニーが恐れていたことは何でしょうか。それは「世界に終わりが来ること」です。世界の終わりとは、すなわち、死。世界に終わりが来ることが本当ならば、ドニーは命を失うことになる。しかし、そのことに「安心したい」とドニーは続けます。なぜ、安心できるのでしょうか。それは、銀色のウサギの告げる「世界の終わり」が本当の事であるならば、銀色のウサギの存在する時間に存在するグレッツェンや、家族と心の通う幸せな時間を過ごす今という時間も現実であることになるからです。<br /><br />　ドニーの希望通り、答えは夢で示されました。グレッツェンとの出会い、家族との和解。この未来はドニーの言う、「楽しみなこと」です。2つの並行する時間軸において、ドニーは未来の自分という現実を過ごしました。これは夢であり、そして現実です。ドニーが事故で死を迎えた時間軸から見れば、ドニーの未来は「夢」であったことになる。一方で、事故を生き延びた時間軸からはドニーの未来は現実です。<br /><br />　しかし、その現実は愛する人の死、そして人を殺すという、ある一線を越える自身の行動という事実を包含していました。その死、あるいは殺人がドニーの行動と選択の結果だったことはいうまでもありません。ドニーが銀色のウサギの命令に従い、行動したことが回り回ってこれらの悲劇を引き起こした。ドニーはこの未来の時間を生き続けることを断念します。<br /><br />　「帰ろう」。ドニーはもう一つの時間を生きる自分へと戻ることを選択し、死を迎えることにしたのです。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38389E3838BE383BCE383BBE38380E383BCE382B32C22.jpg" width="370" height="193" border="0" align="" alt="ドニー・ダーコ,22.jpg" /></div><br /><br />★2つの人生<br /><br />　ドニーの人生には飛行機のエンジン落下事故で死ぬという人生と、事故で死なず、生きていく人生の2つがありました。ドニーは事故で死なず、生き続ける人生を生き、そして、落下事故で死を迎える人生のほうに戻ってきました。ドニーがしてきたことはすべて、そしてドニーが落下事故で死ぬという人生に戻ってくるという決断をしたのも、彼自身の選択です。<br /><br />　ドニーがタイムトラベルを望んだのは、世界の終わりを回避し、人生をやり直すためでした。ドニーは赤ん坊に記憶を発生させ植えつける装置、IMGのアイデアをグレッツェンとともにモニトフ先生の授業で発表していました。幼いころの記憶を改変し、あるいは人為的に操ることのできる装置です。これはドニーやグレッツェンの生い立ちのたまものでもありました。<br /><br />　ドニーは自身の前半生を悔やんでいました。精神的な問題を抱え、非行を繰り返し、家族に負担をかけている自分の前半生をやり直したい。赤ん坊のうちに、美しい記憶や楽しい記憶を植えつけることができたなら、成長してから辛い記憶に悩む必要はない、その思いからIMGを思いついたのでしょう。<br /><br />　グレッツェンも同様です。母親と父親は不仲で、父親の暴力が絶えない家庭に育った彼女にとって、ドニーと同じく、今までの人生には不満が一杯でした。「赤ん坊の自然な発育には暗闇も必要だとは考えなかったか」というモニトフ先生。人間は忘れることで、精神状態の安定を保つことができるもの。<br /><br />　しかし、ドニーやグレッツェンのように、今までの辛い記憶や忘れたい記憶から抜けることができず、今もその中に囚われているならば、"忘れる"ということを忘れてしまいます。辛い記憶を忘れられない地獄に陥るよりは、美しい記憶を覚えていたい。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38389E3838BE383BCE383BBE38380E383BCE382B32C24-23b79.jpg" width="324" height="138" border="0" align="" alt="ドニー・ダーコ,24.jpg" /></div><br /><br />★過去と未来の時間を交換できたら<br /><br />　グレッツェンは「もし過去に戻れて、辛い時間を楽しい時間と交換できたら」とドニーに話していました。タイムトラベルで過去に戻り、グレッツェンや友人、そして温かい家族のいる人生をやり直す。しかし、タイムトラベルのために地下室へ行ったことはグレッツェンの死を引き起こしました。<br /><br />　人間には今という時間が目の前にあります。未来の時間も、その場に立てば、今である。過去、あるいは未来という概念は相対的なものです。重要なのは、今という時間が現在なのか、未来なのかを論じることではなく、今という時間を自らの選択によって生きるということ。ドニーが生きた未来の時間も、ドニーがその場に立ち、自分の意思で歩んだという意味では現実の出来事です。だから、ドニーの生きた未来の時間は、未来を生きたという「夢」でありつつ、「現実」でもある。<br /><br />　ドニーには、今までの人生を「暗闇」にすることができませんでした。人間は、過去に戻り、今と過去の時間を取り換えることはできない。また、その必要もなかったのです。ドニーにはグレッツェンや家族のいる「今」という幸せな時間があったのだから。<br /><br />　しかし、ドニーはタイムトラベルを望みました。「世界の終わり」という銀のウサギの言葉に囚われ、タイムトラベルを望んだ結果、引き起こされる愛する者たちの死。「世界の終わり」は何か見えない力によってもたらされるものではなく、ドニーの行動によってもたらされたものでした。この引き起こされた結果に対して、ドニーは過去へ戻るという決断をしたのです。"<br /><br />　銀色のウサギの呪縛から逃れ、幸せと愛を得たのちの死。夢から醒めたドニーにすぐ訪れた死はドニーに「世界の終り」を告げました。彼に恐怖はありません。愛する人々のために迎える死なのだから。未来を生きたドニーには常に「死」が頭にありました。銀色のウサギの面は骸骨です。そして銀色のウサギの絵はドニーの部屋の壁にかけられたカレンダーに被せるようにして貼られていました。<br /><br />　「死を想え」。死ぬときはひとりです。""死神オババ""ことロバータ・スパロウがドニーに告げたように、「生き物は皆孤独に死ぬ」。しかし、同じ死を迎えるにしても、誰も親しい人がおらずに孤独に死ぬのと、愛する人や大切な人がいて死ぬのは違う。死を身近なものとし、死の意義を考える時間。それが世界の終わりまでの「あと28日と6時間と42分と12秒」でもありました。<br /><br />　ベッドの上で笑い転げるドニー。死は終わりではなく、始まりである。死は恐怖ではなく、喜びとなる。孤独に死ぬのをあれほど恐れ、嫌がっていた彼の姿はそこにはありません。エンジンが落下するのはこの直後のことです。未来を旅してきたドニーにとって、「世界の終り」は世界の始まり。ドニーが死んだ後の世界には、ドニーの残した幸せな時間が確かに待っています。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38389E3838BE383BCE383BBE38380E383BCE382B32C15.jpg" width="357" height="152" border="0" align="" alt="ドニー・ダーコ,15.jpg" /></div><br /><a name="more"></a>

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<title>ディパーテッド</title>
<description>映画:ディパーテッド あらすじ※レビュー部分はネタバレあり　マサチューセッツ州警察に勤務する2人の警察官、コリン・サリバンとビリー・コスティガン。サリバンはエリート警察官として特別捜査班（SIU）に配属され、ビリーは潜入捜査官として、ボストン南部の犯罪組織のボス、フランク・コステロの元へと潜入する任務を任される。　特別捜査班に配属されたサリバンは、実際には闇社会のボス、フランク・コステロの内通者だった。捜査情報はサリバンを介してフランク・コステロに筒抜けになっていたのだ。一方..</description>
<dc:subject>『は行』の映画</dc:subject>
<dc:creator>なお</dc:creator>
<dc:date>2010-11-23T19:03:58+09:00</dc:date>
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<span style="font-size:large;"><strong>映画:ディパーテッド あらすじ</strong></span><br />※レビュー部分は<strong>ネタバレ</strong>あり<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38387E382A3E38391E383BCE38386E38383E383892C21.jpg" width="198" height="270" border="0" align="" alt="ディパーテッド,21.jpg" /><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38387E382A3E38391E383BCE38386E38383E383892C27.jpg" width="213" height="314" border="0" align="" alt="ディパーテッド,27.jpg" /></div><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38387E382A3E38391E383BCE38386E38383E383892C23.jpg" width="270" height="198" border="0" align="" alt="ディパーテッド,23.jpg" /></div><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38387E382A3E38391E383BCE38386E38383E383892C4.jpg" width="270" height="198" border="0" align="" alt="ディパーテッド,4.jpg" /><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38387E382A3E38391E383BCE38386E38383E383892C3.jpg" width="188" height="256" border="0" align="" alt="ディパーテッド,3.jpg" /></div><br /><br />　マサチューセッツ州警察に勤務する2人の警察官、コリン・サリバンとビリー・コスティガン。サリバンはエリート警察官として特別捜査班（SIU）に配属され、ビリーは潜入捜査官として、ボストン南部の犯罪組織のボス、フランク・コステロの元へと潜入する任務を任される。<br /><br />　特別捜査班に配属されたサリバンは、実際には闇社会のボス、フランク・コステロの内通者だった。捜査情報はサリバンを介してフランク・コステロに筒抜けになっていたのだ。一方、ビリーはコステロの組織に潜入することに成功し、フランク・コステロの情報を警察に流していた。ビリーとサリバン、お互いの存在を知らないまま、年月が過ぎていった。<br /><br />　しかし、情報が漏れているとの疑惑が警察内部でも、コステロの組織内でも持ち上がるようになる。内通者を巡り、警察、コステロの組織内で"ネズミ"探しが始まった。ビリーとサリバンは、コステロと警察、それぞれの組織の内通者として、互いの存在を探りあう。姿の見えない内通者をあぶり出すべく、警察とコステロ、双方の組織内部で激しい神経戦を繰り広げられるのだった。<br /><br />　コスティガンの家系には犯罪者が多く、ビリーはそんな彼らをつぶさに見て育ってきた。そして、サリバンは幼いころからフランクの世話になり、たまり場に通って成長してきた。<br /><br />　マサチューセッツ州ボストン南部という有数の犯罪多発地帯で生まれ育ち、警察官になったビリーとサリバン。そして、その地域で根を張る裏社会のボス、フランク・コステロ。複雑に入り組む3人の思惑と人間関係、犯罪組織の摘発を巡る警察とFBIの対立が絡み、緊迫した結末へと疾走していく。<br /><br /><p><br /><iframe src="http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?lt1=_blank&bc1=FFFFFF&IS2=1&bg1=FFFFFF&fc1=ADADAD&lc1=ADADAD&t=naokonh-22&o=9&p=8&l=as1&m=amazon&f=ifr&asins=B003EVW582" style="width:120px;height:240px;" align="left" scrolling="no" marginwidth="0" marginheight="0" frameborder="0"></iframe><br />【映画データ】<br />ディパーテッド<br />2006年（日本公開2007年）・アメリカ<br />監督 マーティン・スコセッシ<br />出演 レオナルド・ディカプリオ,マット・デイモン,ジャック・ニコルソン,マーク・ウォルバーグ,マーティン・シーン,レイ・ウィンストン,ヴェラ・ファーミガ,アレック・ボールドウィン<br /><br />第79回アカデミー賞　作品賞・監督賞・脚色賞・編集賞受賞<br /><br clear="left"/></p><br /><br /><strong><span style="font-size:large;">映画:ディパーテッド 解説とレビュー</span></strong><br />※以下、<strong>ネタバレ</strong>あり<br /><br />★結末<br /><br />　休日の朝、買い物に出たサリバンは買い物袋を抱え、エレベーターで自室のある階に降りました。前から歩いてくるのは同じフロアに住む夫人。彼女は犬を連れ、朝の散歩に出かけるようです。サリバンはいつものように犬に手を伸ばして挨拶しようとしますが、女性は犬のリードを引っ張り、あからさまにサリバンを避けました。<br /><br />　サリバンは不審に思いつつ、自室の玄関ドアを開けると部屋の中にディグナムが立っています。「分かったよ」というサリバン。次の瞬間、彼の頭に弾丸が命中し、彼は倒れました。うつぶせに倒れたサリバンの死体から血がにじみ出し、次第に広がっていきます。そして窓の外を走りぬけていくネズミ。金色の議事堂の丸屋根が朝日に映えて美しい姿を見せていました。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38387E382A3E38391E383BCE38386E38383E383892C2.jpg" width="172" height="234" border="0" align="" alt="ディパーテッド,2.jpg" /></div><br /><br />★4匹の「ネズミ」<br /><br />　中国とコステロの取引現場を押さえようとしたSIUは失敗しました。コステロらは車を使わず、裏に船を着けて、そこから脱出したのです。捜査が見事に失敗した後、逃げようとしたビリーは、「間違いなくSIUにネズミがいる。ヤツらはカメラに気がついていた」と言っていました。<br /><br />　あのとき、中国との取引現場を押さえる作戦について、サリバンは直前まで知らされていませんでした。これは内通者がいることを前提にして、作戦自体が極秘に計画されていたからです。そして、サリバンはSIUの監視があることを電話し、携帯電話を使うなとメールでコステロに伝えるだけで精いっぱいでした。さらに、あのときはSIU主体の捜査でFBIの関与はなかった。となると、裏口にカメラがないことを知らせ、コステロらの脱出を助けたのは一体誰だったのか。<br /><br />　それは、結末で登場するもう1人の警察官バリガンです。彼もまた、警察内部のコステロの内通者でした。このカメラのエピソードは警察内部にサリバン以外の内通者が入る可能性を示しています。さらに、コステロの組織に潜入していた警察官デラハントの事件です。彼はクイーナン警部殺害時の銃撃戦により、致命傷を負って死亡しました。彼は番地を間違えて連絡したにも関わらず、やってきたビリーを見て、なぜ、言わなかったか分かるか、と言い、息絶えます。<br /><br />　実際には、デラハントもビリーと組織に潜入していた警察官でした。ここでコステロの組織内部には2人の「ネズミ」がいたことが分かります。1人はデラハント、そしてもう1人はビリーです。ということは、SIU内部にも複数、内通者がいる可能性がある。結末のバリガンが唐突な登場にならないよう、伏線が張り巡らされています。<br /><br />　ディグナムの復讐というかたちで幕を下ろす「ディパーテッド」。結末の解説を皮切りにして、ビリー、サリバン、そしてコステロの人生を辿ってみましょう。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38387E382A3E38391E383BCE38386E38383E383892C11.jpg" width="198" height="270" border="0" align="" alt="ディパーテッド,11.jpg" /></div><br /><br />★サリバンの死<br /><br />　ビリー・コスティガン、本名ウィリアム・コスティガン。まずは、ビリーの死後、起きたことからさらってみましょう。まず、ビリーの死を聞き、一番ショックを受けたのは誰であろう、マドリンです。彼女は既にサリバンの裏切りを知っていました。そして、すぐにビリーから預かった封書を開封したはずです。その中に入っていたのが何かは分かりません。ただ、それはビリーが潜入捜査官であった事実と、サリバンの裏切りを示す何かの証拠だったと思われます。<br /><br />　ビリーの葬式に来ていたマドリンはサリバンをじっと目を見開いて見つめていました。それには自分を裏切った男に対する怒り、そして、ビリーを殺した男への怒りがこめられていました。マドリンは警察関係者です。彼女には、ビリーの封書を正義を全うするために託せる、どこか心当たりがあったのでしょう。かくして、ことの真相は白日の下へと晒されることとなりました。<br /><br />　それはすぐに新聞等、メディアで報道されました。サリバンがエレベーターを降りたときにすれ違った女性がサリバンをあからさまに避けたのは、その報道を見たからだと思われます。「ウィリアム・コスティガンを功労章に推薦します」と勇気ある警察官としてインタビューを受けていたサリバンの仮面は剥がれました。<br /><br />　いまや、サリバンは仲間を裏切り、殺した犯罪者となっていたのです。サリバンは同じフロアに住む顔見知りの女性に無視され、何かを感じ取ったでしょう。そのような振舞いをされる心当たりと言えばもう、一つしかない。サリバンが「ネズミ」であることが暴かれたということです。<br /><br />　サリバンは自室のドアを開ける前、ドアに手を突き、顔を埋めて嘆息しています。女性の態度を見て、サリバンは勘付きました。彼は覚悟するしかない状況に追い込まれたことを知ったのです。部屋に入り、テレビや新聞を見るまでもない。ようは、「ばれてしまった」、そういうことです。<br /><br />　ドアを開けるとディグナムの姿がそこにありました。証拠を残さないよう、靴にカバーをつけ、ジャージ姿で銃を構えるディグナムにサリバンは一瞬あっけに取られますが、すぐに彼の意図を理解します。事の真相がばれた今となっては、死んでもいい、死ぬしかない。サリバンは全く抵抗しようとはしませんでした。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38387E382A3E38391E383BCE38386E38383E383892C9.jpg" width="270" height="198" border="0" align="" alt="ディパーテッド,9.jpg" /></div><br /><br />★サリバン<br /><br />　サリバンは"金"と"地位"と"名声"、全てを欲しました。そして、それらを手にするためならば、手段はいといません。サリバンは全てをフランク・コステロというアイリッシュ・マフィアのボスに頼っていました。サリバンにはお金はありません。幼いころ、大量の食料品をコステロに買い与えられたときからずっと、そうでした。<br /><br />　サリバンの家は経済的に豊かではありません。金持ちの子弟が通うような学校には行けない。実際、コステロに使い捨てられ、殺されたマイケル・ケネフィックとサリバンは同じ学校の出身でした。しかし、サリバンはコステロの金で勉強を続け、警察学校に入りました。そして、優秀な成績で卒業し、新人ながら私服刑事、そして特別捜査班（SIU）に編入されます。新人警察官でありながら、市内中心部の高級マンションに入居し、私生活でもステイタスを求めました。警察官の給料だけではこんな高級マンションには入居できません。<br /><br />　入居の際、案内した不動産業者はサリバンの職業が警察官であると聞き、独身には部屋が大きすぎるだの何のと言って、サリバンと契約するのを渋っていました。不動産業者は安い警察官の給料では家賃がまかなえないことを知っていたため、支払いが滞るのを危ぶんだのでしょう。しかし、サリバンは連署人がいるという。間違いなく、このマンションにもコステロの金が流れています。<br /><br />　しかし、コステロの金は"タダ"ではありません。この金に見合う働きをしなければ、金を止められてしまうばかりか、命までもが危うくなる紐付きの金です。しかし、抜け目ないサリバンはコステロのために働きながらも、同時に、コステロを利用し、自分の手柄を立てて出世していきます。まず、コステロの手下が殺したプロビデンス派の構成員の事件について、サリバンはプロビデンス派の男を逮捕しました。これはコステロの指示を受け、コステロが証拠品の捏造まで行った冤罪でした。サリバンが逮捕したプロビデンス派の男は無実です。しかし、サリバンはコステロの指示通り、指定された男を逮捕しました。<br /><br />　「夕方のニュースに間に合う」、とサリバン。サリバンの相棒も、これで昇進だ、と喜んでいます。逮捕されたジミー・パパスは刑務所で心臓発作を起こしたあげく、病院でナイフ自殺しました。刑務所で脅迫されたのか、コステロに睨まれたことに絶望したのか。何はともあれ、これで無実を叫ぶ男の口は封じられました。真相は闇の中です。ジミーの逮捕から自殺までを「新聞にも出てた」と笑顔で上司に報告するサリバンには全くと言っていいほど、この哀れな男に対する情けはありません。<br /><br />　「嬉しそうだな」と上司に言われると、サリバンは「結果が出た」と返し、「誰が得をする？」と聞かれると「とにかく事件は解決した」。サリバンは上司が手放しでこの成果を褒めてくれないことに不満げです。彼にとって、この男の死も次へのステップに過ぎない。どこかの不運な男が死んだからといって、サリバンには関係のないことです。「誰が得をする？」もちろん、逮捕に成功したサリバンが得をするのです。そして、サリバンにとって、それは仕事に対する報酬として当然のことでした。<br /><br />　次は、コステロの部下・フィッツギボンズが逮捕された事件でした。サリバンは、フィッツギボンズの部屋に弁護士を装って入ると同僚に見せかけつつ、フィッツギボンズに電話をかけさせ、コステロの部下フレンチに警察の手が迫っていることを警告します。こうしてコステロに対する義務は果たしました。<br /><br />　サリバンは続いて警察官としての仕事に取りかかります。フィッツギボンズのかけた電話を基にして家宅捜索令状を取り、コステロの仕事場に踏み込むことに成功します。もちろん、結果は空振り。しかし、これでサリバンには警察官としてまた一つ、昇進の材料が増えました。サリバンはフィッツギボンズの事件を利用して、コステロと警察、両方に顔を立てたのです。<br /><br />　このとき、サリバンはフィッツギボンズに部下の携帯電話を使わせていました。後から捜査の適法性が疑われたときに、自分が主導し、関与したという直接的な証拠を残したくなかったから。携帯電話を使われてしまった部下はサリバンを咎めますが、後の祭りです。サリバンという男は必要ならば、同僚や部下さえ、踏み台にする人間であることを窺わせるエピソードです。<br /><br />　サリバンの仲間をも犠牲にする冷酷さが顕在化したのはクイーナン警部の事件でした。サリバンはコステロの組織内部のネズミを洗い出すため、危険を承知でクイーナン警部に尾行を付けさせたのです。結果は危惧していた通りでした。クイーナン警部はコステロの部下に捕まり、突き落とされて殺されたのです。サリバンは目的のためなら手段を選ばない。それは、仲間の命であっても見知らぬ他人の命であっても同じでした。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38387E382A3E38391E383BCE38386E38383E383892C17.jpg" width="270" height="198" border="0" align="" alt="ディパーテッド,17.jpg" /></div><br /><br />★マドリンとサリバン<br /><br />　このように要領のいいサリバンは女性にもステイタスを求めました。サリバンを高く評価している彼の上司は既婚者は出世が早い、とサリバンに家庭を持つように勧めます。サリバンはそんなことは百も承知でした。彼は「医師の彼女がいます」と得意げです。<br /><br />　マドリンに出会ったのはエレベーターの中でした。彼はエレベーターを止め、一生懸命に話しかけます。それは彼女が美人だっただけではありません。彼女が警察関係者で、しかも、医師であり、一流大学を出た女性だったからです。サリバンにとって何が重要か。それは出世です。新人警察官として着任したころからずっとそうでした。<br /><br />　「俺は上を目指す」。彼は常に成功を夢見、またそのために努力することをいといませんでした。警察内部で出世するためには、警察関係者で地位のある仕事をしている妻がいるということは有利に働きます。サリバンはマドリンという女性、それ以上に、マドリンの有する社会的ステイタスに一目惚れしました。<br /><br />　やがて、サリバンと一緒に住むことにきめたマドリンは引っ越し作業に入ります。マドリンが真っ先に持ち込んだのは、写真や記念品など、彼女の思い出の品を詰め込んだ段ボール箱でした。しかし、これをサリバンはさっさと別の部屋に持って行ってしまいます。そして、リビングにはそれらを置かないと宣言しました。子供のころの写真も置かない、そして自分のも置かない、と。マドリンは子供のころの写真を気に入っていました。ログハウスの前の芝生にいる幼いころのマドリン。彼女は、この写真を大きめの額に納め、いつも壁にかけていたのです。それを、「居間には合わない」というサリバン。<br /><br />　マドリンはそれを聞いて顔をしかめていました。このとき、彼女はサリバンに違和感を感じていました。彼はマドリンを愛している。でも、それ以上に、彼は""見た目""を気にしている。成功した若いカップルというイメージを作り上げ、そのイメージにそぐわない物を排除しようとしている。<br /><br />　サリバンがマドリンを愛していたのは事実でしょう。しかし、サリバンはそれよりも、マドリンという理想の女性といる完璧な自分を愛していました。美人で医師の妻と議事堂を望む眺めの良い高級マンションに住み、きれいに片づけられた素敵なリビングで暮らす自分。そのイメージを壊す、人間臭いものはリビングには置きたくなかったのです。サリバンの子供のころの思い出と言えば、Lストリートでフランク・コステロのたまり場に出入りしていたような泥臭い記憶しかない。<br /><br />　マイケル・ケネフィックの聞き込みに行ったとき、相棒が「別世界だ」と驚いていた、あの薄汚い街がサリバンの子供時代の記憶です。サリバンにとっての子供時代は、今につながるコステロとの裏のつながりの起点となった時代です。その泥臭い子供時代の記憶を想起させるマドリンの子供時代の写真は、このマンションには置きたくありませんでした。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38387E382A3E38391E383BCE38386E38383E383892C7.jpg" width="270" height="198" border="0" align="" alt="ディパーテッド,7.jpg" /></div><br /><br />★サリバンとコステロ<br /><br />　サリバンには「上を目指す」という野心しかありません。理想や信条などはない。彼は都合よく人間を利用し、踏み台にして上を目指すことに何も良心の呵責を感じません。彼は冤罪で逮捕し、後に自殺したジミー・パパスを始めとして、クイーナン警部を死なせ、フランク・コステロを殺しました。<br /><br />　そもそも、サリバンは警察学校を卒業し、新任警官の着任式が終わった帰りにはフランクの車に乗り込んでいました。サリバンには最初から正義のために働くつもりなどありません。警察官となって初めての警察に対する裏切りは尾行を教えることでした。しかし、サリバンには迷いはありません。彼にとっては全ての人間が道具であり、手段でしかない。<br /><br />　このサリバンの徹底した合理性はコステロが幼いサリバンに教えこんだものでした。彼は「自分で奪え。""我は服従せず""」と幼い少年に教えます。「男なら自分で道を切り開け」。サリバンはこれを実践しました。コステロはビリーに、「何か見たらそこから何を引き出すか」が重要だと語っていました。つまり、ビリーを見たとき、ビリーを「何に利用できるか」と考えることだ、と。サリバンはこのコステロの考えを徹底し、コステロの道を継ぐ者だったのです。<br /><br />　そして、コステロとサリバンの違いが何かと言えば、それは1つしかない。それは、サリバンが警察官であるということです。サリバンは権力を行使する側にある。しかも、その権力はコステロの権力と違い、正義の側に立つ力。その権力を持つ者がした行為は正義とみなされ正当化される。<br /><br />　頭のいいサリバンは自らの持つ警察官としての優位性を自覚していました。彼は何度も繰り返し「僕は警察官だ」と語ります。犯罪が減ると仕事がなくなるわね、というマドリンに「無実の人でも逮捕するさ」。マドリンは冗談と受け止めていましたが、サリバンにとっては当然の思考でした。正義とは何か、は権力を持つ者が決める。権力は正義。力こそが正義です。正義がいかなるものかなどということは考えたこともないし、考える必要すらない。<br /><br />　それに対置されているのはマドリンです。彼女はなぜ分析医になったのかとサリバンに問われ、「人助けのため」、と答えました。サリバンはしばらく無言で、「…なるほど」と答えただけ。マドリンは理想を持っています。分析医という職業にある者として、その使命が何かという考えをもっている。<br /><br />　なぜ、学歴も資格もあるやり手なのに、収入の低い州の仕事に就いたのか、とサリバンに聞かれ、マドリンは「公共奉仕の精神を信じてるの」と答えていました。サリバンには職業的使命や、いわんや公共奉仕の精神などはありません。全ては自分の出世のためのもの。自分の欲得と職業を結びつけないマドリンの思考はサリバンには理解しがたいものでした。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38387E382A3E38391E383BCE38386E38383E383892C10.jpg" width="270" height="198" border="0" align="" alt="ディパーテッド,10.jpg" /></div><br /><br />★コステロからは逃げられない<br /><br />　マンションの部屋から見える金色のドーム型の屋根。いつか、議員としてそこに行く夢をサリバンは持っていました。彼の溢れんばかりの野心と抜け目のなさは彼を順調に押し上げていきましたが、最後は足元をすくわれました。<br /><br />　サリバンは警察官にならずに、ロースクールに行っていれば良かったとマドリンに弱音を吐いたことがありました。引っ越そうかな、とまで言う彼ですが、もちろん本音ではない。ここまで足を突っ込んだ今となっては、もうコステロから逃げることはできません。そして、サリバンもそのことを分かっている。他の街に逃げても、サリバンは追ってくるでしょう。そしていつかは殺される。<br /><br />　「一から出直せるかも」というマドリンの言葉はサリバンにとって、夢でしかありません。幼いころからどっぷり浸かってきたLストリートという沼地からサリバンは一生抜け出せない。あがけばあがくほど、沈んでいくだけです。どれだけ、上を目指しても、ずっとコステロら裏社会のつながりは断ち切れない。「一生アイルランドのダメ男さ」というサリバンの弱気な言葉は、ひたすら野心に燃えて生きてきた男の本心なのかもしれません。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38387E382A3E38391E383BCE38386E38383E383892C2.jpg" width="172" height="234" border="0" align="" alt="ディパーテッド,2.jpg" /></div><br /><br />★"ビリー"・コスティガンとして<br /><br />　ウィリアム・コスティガンは"ビリー"・コスティガンと名乗り、コステロの組織に潜入することになりました。彼の家族には裏世界で生きてきた者が多かったことから、特にウィリアムが指名されたのです。<br /><br />　ビリーはいとこのショーンと麻薬の密売を始めることから裏社会への入り口を開きました。いとこのショーンとともに、コステロの仕切る界隈で商売をするビリーのことはすぐにコステロに報告されます。ビリーはコステロの仕切る地区にいること自体がマズいとショーンに警告されていました。しかし、ビリーはそれを承知で、密売を続けていました。コステロとのトラブルはコステロの組織に入る近道だと考えたからです。<br /><br />　ある日、コステロの仕切る酒場に入ったビリーはコステロの側近フレンチの近くに座り、クランベリー・ジュースを注文しました。フレンチはこれに食いつきます。フレンチにからかわれたビリーはフレンチを思いきり殴りつけ、コステロに仲裁に入らせました。ビリーの思い通りの展開でした。自分の存在と乱暴さをコステロに見せつけ、肝の据わった使えるやつだ、と思わせること。そうでもしない限り、新人がいきなり組織の中枢へは入っていけません。コステロを目の前にして、再びクランベリー・ジュースを注文するビリーはコステロに強烈な印象を残しました。<br /><br />　今度は、ビリーはコステロの側に付く、と示すことにします。食事に訪れた雑貨店兼ダイナーで、みかじめ料の取り立てをしていた男たちを殴り飛ばし、ノックアウトしたのです。男たちに絡む前、ビリーは「プロビデンスか？」と彼らに尋ねていました。ビリーは、男たちが、コステロの組織に対立していたプロビデンス派の構成員であることを確かめていたのです。<br /><br />　プロビデンス派の構成員に暴行したビリーはコステロの側に付く者であることが明らかにされました。プロビデンス派は復讐のため、ビリーを付け狙うようになるでしょう。そして、そのビリーをむざむざと殺害されてしまえば、ボスのフランク・コステロの面子が立たなくなります。必ず、コステロはビリーに接触してくる。あとは酒場で待つだけでした。かくして、コステロはビリーの前に姿を現します。彼はビリーがプロビデンス派に狙われていることを告げ、ビリーが警察の紐付きではないか確かめたのちに、ビリーを仲間として承認することにしました。こうしてビリーは、コステロの組織の中枢部に潜り込むという難関を突破したのです。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38387E382A3E38391E383BCE38386E38383E383892C12.jpg" width="270" height="198" border="0" align="" alt="ディパーテッド,12.jpg" /></div><br /><br />★コステロとサリバン<br /><br />　コステロには息子はいません。彼はそれを気にしていました。コステロの最期、サリバンはまるで「息子同然」と言いかけるコステロを遮り、「人殺しに薬に女、子供もいない！」と怒鳴ります。これがきっかけとなり、コステロとサリバンは撃ち合いました。コステロは虫の息になりますが、それでもサリバンを撃とうとし、止めを刺されます。コステロはサリバンに撃たれる前に既に負傷していました。もう、死という結末は見えていたのです。サリバンを道連れにするつもりならいつでもできた。それでも、コステロはサリバンにすぐに発砲はしなかった。彼が発砲したのは、サリバンの言葉がきっかけでした。<br /><br />　コステロはサリバンの言葉に怒りました。それは彼の人生を否定する言葉だったからです。「男なら自分で道を切り開け」。コステロにとって、自ら切り開いてきた人生を否定されることは最も耐えがたいことでした。これを裏返せば、サリバンの指摘するところはコステロにとって最も痛い点だったということです。彼には若い妻はいますが、子供はいません。妻は夫に無関心で、夫婦の仲は決して温かいものではありません。<br /><br />　コステロは子供が欲しかったのでしょう。だから、サリバンを息子のように愛し、面倒を見た。しかし、サリバンは息子にはなりえませんでした。何もかもを利用関係で考えてしまうコステロの思考、そしてその考え方をそっくりそのまま受け継いでしまったサリバン。2人の関係は親子関係以上に、利害が優先する関係になっていました。コステロには彼を愛し、慈しんでくれる人はいない。美人の妻はいるけれど、彼女はコステロが死んで悲しむような女ではない。そして、息子同様に面倒を見たサリバンにも、「息子はいない」と否定された。コステロは彼の人生で最も深刻な欠点を指摘されたのです。<br /><br />　しかし、これらの指摘はコステロの生き方を受け継いだサリバンにもそのまま当てはまるものでした。サリバンは結局、マドリンに逃げられ、彼女が妊娠した息子も失います。ビリーの葬式に来たマドリンは「子供は？」と聞くサリバンを無視して通り過ぎていきました。そして、最後はディグナムに殺される。<br /><br />　コステロの生き方は金と権力を手に入れられるかもしれませんが、愛してくれる人を失い、自らを憎む者に殺されるという末路を辿る人生でした。人を利用し、踏みつけて生きる者は、憎まれ、あるいは逆に利用され、裏切られる覚悟を持たねばならない。そして、愛する者もやがて傍を離れていく。残されるのは自分一人の孤独な人生です。サリバンが非難したコステロの人生は、そっくりそのまま、サリバン自身の人生でした。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38387E382A3E38391E383BCE38386E38383E383892C19.jpg" width="266" height="186" border="0" align="" alt="ディパーテッド,19.jpg" /></div><br /><br />★コステロの心配<br /><br />　コステロはビリーの父親の話をします。「もし、パパが生きてて、俺たちを見たら、きっと怒りまくる。7人殺してでも俺のノドを裂く」。そして、コステロはビリーに学校に戻る気はないかと尋ねます。全くそんな気はない、というビリーに「後悔するぞ」と言い残し、コステロは席を立ちました。<br /><br />　コステロは堅気で通したビリーの父親のことをよく知っていました。ビリーの親族は、伯父はノミ屋ですし、ジャッキー・コスティガンは高名な犯罪者、いとこは麻薬の売人です。ビリーの父親にも裏社会への扉は開いていました。このように犯罪が身近な環境にありながら、金が儲かるわけでもない空港の荷物係の仕事をし、堅実に生きたビリーの父親、その父親をコステロは評価していました。<br /><br />　金に流れず、欲を出さず、決してその意思を曲げなかった。コステロはビリーの父親を犯罪者になる勇気がなかった腰抜けとは思っていません。それどころか、彼を高く評価していました。「男なら自分で道を切り開け」。ビリーの父親とコステロは正反対の生き方ですが、一つの意思を貫き、決して曲げなかったという点で共通していました。そして、そのようなビリーの父親にコステロは共感を抱いていました。<br /><br />　コステロとしては、そんな父親を知っているからこそ、息子のビリーを犯罪者の道へと巻き込むことに躊躇を覚える気持ちがありました。このまま、コステロにビリーが付いていけば、彼は確実に犯罪者になるでしょう。そしてそれ以外の道はない。ビリーの父親が、息子の現状を知ったら、コステロを許さないでしょう。きっと、守るべきものを守るため、どんな手段にでも訴える。ビリーが警察官であることを知らないコステロは本気でビリーを心配していました。ビリーの父親を一人の男として認める気持ちがあるからこそ、コステロはビリーの将来を気にしたのです。"<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38387E382A3E38391E383BCE38386E38383E383892C15.jpg" width="270" height="198" border="0" align="" alt="ディパーテッド,15.jpg" /></div><br /><br />★「あんたにはならない」<br /><br />　ビリーには父親の生き方が身に染みついていました。犯罪者になる生き方はしない。彼は母親の病院に見舞いに来た伯父に鋭い言葉を浴びせ、追い返していました。葬儀の費用を負担しようという伯父の申し出にもビリーは応じません。犯罪で得た金の世話にはならない。母親が死んだら伯父と縁を切る、とまで言うビリーは強い意思で人生を生きた父親の生き方を受け継いでいました。<br /><br />　ビリーは組織の中にネズミがいると疑いを抱くコステロに「誰があんたを出し抜くか、だ」と告げます。そして、「俺ならできるさ」。しかし、ビリーはこう続けます。「でもなりたくない。あんたには」。このとき、コステロは確信しました。やはり、ビリーは犯罪者ではない、ビリーはあの父親の息子だ、と。彼は席を立ち、こっそりと背後からビリーに近づき、ビリーの臭いを嗅ぎます。そして、テーブルに置き忘れたタバコを取りに戻ったふりをしてごまかし、帰っていきました。<br /><br />　長年、組織のボスとして様々な人間を見てきたコステロの目はごまかせません。ビリーからは、さっきまで自分がいた場所、あの路地の臭いがする。そして、コステロがさっきまでいた場所とは、サリバンと会っていたポルノ映画館、そして中華料理店が並ぶ道筋です。あの路地の臭いがするということは、ビリーはあの場所にいたということ。偶然、そこにいたわけがありませんから、当然、サリバンとコステロの密会をビリーに見られていた、ということです。そして、そんな真似をするということはビリーが「ネズミ」だから。ビリーは犯罪者ではない。コステロはビリーの臭い、そしてビリーの話から彼が警察官であることを見抜きました。<br /><br />　しかし、彼はこれを表沙汰にはしません。そして、最後まで沈黙したまま、サリバンに射殺されました。コステロは弁護士にサリバンとの会話を録音したCDを預けていました。これを自分の死後の保険としてビリーに託したのです。「コステロは誰よりも俺を信用してた」、そうビリーは言います。コステロはビリーの父親を一人の男として信頼していました。そして、その父親の意思を受け継ぐビリーを信用したのです。<br /><br />　「金のために動かないやつは厄介だ」、とコステロは言っていました。そして、命の危険を冒してコステロの組織内部に潜入し、危険の中に身を置いているビリーも、金のために働いているわけではない。特別手当が出るとはいえ、命を危険にさらすことになる潜入捜査は、その人に強い使命感、強い意思がなければできないことです。ビリーは何度も挫折しかけました。SIUが、中国との取引現場を押さえそこなったときは、高跳びしようと空港まで逃げ出したほどです。<br /><br />　しかし、彼は結局戻ってきた。結局、彼には警察官としての使命感がありました。決して譲ることのできない、最後の一線をビリーは持っていました。その一貫した意思をコステロは評価しました。ビリーは、彼の父親と同様、「金のために動かないやつ」でした。コステロは、ビリーが警察官であるという事実を承知の上で、サリバンとの会話の録音という重要な証拠を託す相手としてふさわしいと考えたのです。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38387E382A3E38391E383BCE38386E38383E383892C22.jpg" width="267" height="172" border="0" align="" alt="ディパーテッド,22.jpg" /></div><br /><br />★警察、FBI、そしてコステロの関係<br /><br />　コステロがこの録音を警察に提出するようにと弁護士に指示していなかったのは面白い点です。なぜ、警察ではなく、ビリーなのか。それは警察よりも、ビリーが信用できるからです。コステロ自身、サリバンら警察官を内通者として持っていたように、警察内には裏切り者がいます。それに、警察内部では様々な権力の力学が働いていました。州警察とFBIの対立もそうですし、SIU内部でも権限を巡る争いがありました。警察に提出しても、証拠が握りつぶされる恐れがある。それよりも、個人的に人柄を知っているビリーが一番信頼できる。コステロが信用するのは警察という組織ではなく、ビリー・コスティガンという1人の男でした。<br /><br />　コステロ自身、警察権力の権力闘争を利用して、組織を維持してきていました。FBIと州警察は権限が重複することから、縄張り争いやライバル競争が激しく、それぞれに犯罪組織に情報提供者を持ち、その情報を完全に共有してはいません。だから、州警察ではFBIがどの組織にどういったつながりを持っているのかが分からない。むしろ、これをよく知っているのは犯罪者の側でした。ビリーは取り立てに行った先のノミ屋からコステロがFBIの手先だと知らされ、驚愕します。逮捕が遅れに遅れていた理由の一つは、コステロがFBIの協力者だったからでした。<br /><br />　ビリーがコステロの組織に入ろうとプロビデンス派と暴力沙汰を起こしたとき、コステロは「サツはプロビデンスに肩入れしてる」と言っていました。このことから、州警察はプロビデンス派とのつながりが強かったことが分かります。これに対抗するためには、コステロは別の警察権力と結びつく必要がありました。警察とプロビデンス派の結びつきを指摘するコステロの言葉は、コステロとFBIの協力を窺わせる発言だったのです。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38387E382A3E38391E383BCE38386E38383E383892C13.jpg" width="270" height="198" border="0" align="" alt="ディパーテッド,13.jpg" /></div><br /><br />★サリバンとコステロ<br /><br />　サリバンを息子のように思う気持ちがコステロにはありました。サリバンが幼いうちから目をかけ、面倒を見てきたのは、彼を警察に送りこんで内通者にさせるためではないことは確かです。しかし、コステロがサリバンの働きを必要とし、また、サリバンもコステロの力を必要とし、コステロを利用して野心を達成しようとしたために、二人の関係は歪みを見せ始めました。コステロとサリバンの関係は親子のようでありながら、仕事上のパートナーとしての共生関係にもあったのです。<br /><br />　そうなれば、大人の利害関係が2人の関係に加わってきます。サリバンにはコステロのような生き方を排除する意思はなく、むしろ、コステロを自分の得になるように利用したいと思う気持ちがありました。コステロとしても、警察内部の情報を流す内通者としてサリバンを取り込んでおくのは重要です。利害が一致し、しかも、サリバンにコステロとの関係を積極的に利用したいという気持ちがある以上、サリバンとコステロの関係に、相互利用から生まれる利害関係が加わるのはどうしようもないことでした。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38387E382A3E38391E383BCE38386E38383E383892C5.jpg" width="256" height="188" border="0" align="" alt="ディパーテッド,5.jpg" /></div><br /><br />★コステロが邪魔になる<br /><br />　利害関係が加われば、2人を規律するのは仕事のルールです。仕事に失敗は許されず、与えられる利益に見合った仕事の成果を出す必要があります。裏切りは許されず、裏切り者には死の制裁が待ち受ける。そこには親子の情愛、情けによって許されるというグレーゾーンはありません。仕事に失敗は許されません。当初、コステロの指示通りに犯人とされた者を逮捕し、家宅捜索の情報を流すサリバンの仕事ぶりにコステロは満足していました。<br /><br />　しかし、次第に雲行きが怪しくなってきます。サリバンは警察内部で昇進し、自信を付けていました。出世街道をひた走るサリバンはもう、コステロなしでもやっていけるところまできていました。むしろ、コステロはさらなる出世を望むためには邪魔な存在になっています。何しろ、危険すぎるからです。コステロとの秘密のつながりがばれたら、サリバンは一巻の終わりです。<br /><br />　さらに、"ネズミ"騒動がありました。コステロは組織内部のネズミの洗い出しをサリバンに要求していました。しかし、それが誰か、皆目見当がつかない。クイーナンを尾行させ、クイーナンが密会する相手が覆面捜査官だと当たりをつけたものの、間一髪で逃げられてしまい、さらにクイーナンは殺されてしまいます。警察内部でも、コステロのネズミがいると問題になっています。そして、その洗い出しを任されている。<br /><br />　サリバンは追い詰められていました。この状況下において、コステロは邪魔な存在でしかない。幼いサリバンの父親代わりとなり、あれこれと面倒を見てくれたコステロですが、今となっては、足手まとい。サリバンの成功を阻み、出世の足を引っ張りかねない存在になっていました。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38387E382A3E38391E383BCE38386E38383E383892C20.jpg" width="250" height="200" border="0" align="" alt="ディパーテッド,20.jpg" /></div><br /><br />★サリバンを売り渡す<br /><br />　一方、コステロにとっても、サリバンは頭の痛い存在になりつつありました。かつて、息子のように可愛がり、面倒を見てやったサリバンでしたが、今のサリバンはかつてLストリートに入り浸っていたころのサリバンではなくなっています。大人しくて従順だったサリバンは、今や野心に燃え、コステロすら排除しかねない勢いで出世街道をひた走ることに執着していました。<br /><br />　コステロの最期の地となったシェフィールドの倉庫。そこへ麻薬の取引に向かっているとき、サリバンは尾行が付いていると連絡してきました。そのサリバンをコステロは罵倒し、「いまいましいネズミめが」と悪態をついていました。これは後部座席に座っているビリーに対するものではなく、尾行をやめさせることに躊躇するサリバンに対する悪態です。<br /><br />　これより以前から、口のきき方が高圧的になり、不十分な情報で「命拾いをしたろ？」と言ってのけるサリバンにコステロは不満を抱いていました。中国との取引でカメラの情報を提供したのはサリバンではありません。なのに、仕事をした気でいる。サリバンは次第に、コステロの支配下を離れようとしていました。コステロはそれを感じていたのです。<br /><br />　サリバンはコステロの精神を受け継いでいました。""我は服従せず""。他人は利用するものである。コステロには、サリバンがいずれ自分を排除しようと動くことが分かっていました。エリートとなったサリバンにもはやコステロの力は必要ない。むしろ、サリバンの命を脅かす存在であるコステロの組織はサリバンにとって脅威です。いずれ、サリバンはコステロの組織を壊滅させる。サリバンはそれを躊躇することはないでしょう。コステロはFBIにサリバンを売り渡すことを決めていました。<br /><br />　サリバンとコステロ。二人は親子になりきれなかった親子でした。父親として接する気持ちに疑いはなく、コステロを尊敬する気持ちに疑いがなかったからこそ、サリバンはコステロの生き方をそっくりそのまま受け継ぎました。しかし、そのことが二人の関係をおかしくしていきます。疑似親子関係にあった2人の関係はここに至って崩壊します。<br /><br />　最後は情より、利害が優先する。コステロの生き方をそのまま履践するなら、情より利害です。最初からこの結末は見えていました。コステロはサリバンを始末し、サリバンはコステロを排除する。本当の親子以上に似ていたサリバンとコステロは、互いにお互いを葬ることを決意したのです。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38387E382A3E38391E383BCE38386E38383E383892C16.jpg" width="270" height="198" border="0" align="" alt="ディパーテッド,16.jpg" /></div><br /><br />★皆殺し<br /><br />　コステロは幼いころ、警察官か犯罪者になると言われたといいます。そして、コステロに言わせれば、「銃と向き合えば違いはない」。<br /><br />　「銃と向き合えば違いはない」。銃の前では、いかなる人間も、無力です。命を落とし、ディパーテッドとなる。圧倒的な暴力の前では、聖人も悪魔も沈黙するしかありません。銃がある場においては、銃こそが力、銃こそが正義です。<br /><br />　しかし、警察官と犯罪者、この両者には決定的に違うところがあります。それは、警察官は金のために引き金を引くことはないということです。本当に引き金を引くのは、自らの命を守るため、絶対的に必要になったときです。損得勘定で誰かを殺すことはない。<br /><br />　犯罪者は違う。命がかかった状況以外の理由でも、引き金を引ける人のことを犯罪者という。損得勘定で相手に対して弾丸を撃ち込める者は犯罪者です。そして、警察官であっても、そのような振舞いができるならば、その人は警察官とはいえない。<br /><br />　ビリーはサリバンを撃ちませんでした。そして、警察学校で同級生だった黒人の警察官もビリーを撃たなかった。彼らはぎりぎりの状況に追い込まれながらも、決して相手を撃つことはありませんでした。一方、バリガンは迷いなくビリーを射殺しました。もちろん、口封じのためです。サリバンはバリガンを射殺しました。口封じのためです。これで、秘密を知る者はいなくなる。<br /><br />　バリガンやサリバンが撃ったのは保身のためです。彼らは警察官でありながら、警察官ではない。犯罪者です。サリバンは、自分を逮捕するというビリーに「警官は俺だ」と主張しました。しかし、彼は警察官というバッジを持つ犯罪者に過ぎません。サリバンが自分を撃て、とビリーに言ったとき、ビリーはサリバンを逮捕することに執着しました。それは「演奏付きの立派な葬式」を出させたくなかったから。つまり、サリバンのしたことが暴かれないまま、サリバンが警察官として死ぬことを許せなかったからです。<br /><br />　警察官とは、警察バッジを持っている者のことではなく、警察官としての使命感を持ち、正義のために働く者のことをいう。ビリーにとって、サリバンのように性根の腐った者は警察官を名乗るに値しません。サリバンを呼びだした建物の屋上は、かつて、最後にクイーナン警部とビリーが会った場所でした。クイーナン警部は殺されました。そのきっかけを作ったのは、クイーナン警部に尾行を付けたサリバンでした。<br /><br />　「起訴は関係ない！逮捕できれば！」と言うビリー。サリバンの犯した罪は白日のもとにさらされねばならない。ビリーはそのために逮捕に固執し、サリバンを殺そうとはしませんでした。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38387E382A3E38391E383BCE38386E38383E383892C24.jpg" width="270" height="198" border="0" align="" alt="ディパーテッド,24.jpg" /></div><br /><br />★ディパーテッド<br /><br />　「departed （ディパーテッド）」とは名詞で、御霊（みたま）、あるいは故人、死者という意味を持ちます。""御霊""という言葉に象徴的ですが、単なる""死者""という意味よりも宗教的な意味合いが強く、死者を追悼する意味合いが強い言葉です。似た単語に「dead」があり、これは死人、死者という意味で、「departed （ディパーテッド）」と類似していますが、「departed (ディパーテッド)」のような宗教的な意味合いは薄い言葉です。<br /><br />　また、「depart」は動詞で、""depart this world （この世を去る）""というように使います。「departed」はその過去形です。この映画のタイトルは死んだ者たち、という意味であり、そこから連想されるのは、コステロ、ビリー、サリバンらが次々に死を迎える「ディパーテッド」の結末です。<br /><br />　死ぬのは簡単じゃない、生きるのは容易だけれど、とマドリンは言っていました。人間は生きたいと思うもの。どんなに絶望的な状況で、死ぬしかない、死にたいと思っていたとしても、いざ、自ら人生を終わらせるという行為には勇気が必要です。生きたいと思う、それは人間である限り、当然のことでもあります。全てを失った状況へと追い込まれても、なかなか自分から人生を終わらせることはできません。ビリーに追い詰められたサリバンは「撃ってくれ」とビリーに自分を撃たせようとしていました。でも、自ら死のうとはしない。その勇気はない。結局、死ぬのは簡単ではありません。<br /><br />　ビリーの葬式後、事の真相がついにばれたことを覚悟したサリバン。それでも、ディグナムに殺されなければ、そのまま生き続け、裁判を受けることになったでしょう。死にたいと願ったところで死は訪れず、生はだらだらと続いていく。ところが、他人から与えられる死は突然やってきます。心構えの必要もありません。ビリーはバリガンに殺され、ディグナムにサリバンは殺された。どちらもあっという間の出来事でした。<br /><br />　引き金を引かれ発射された弾は人間の体に食い込み、肉を引き裂きます。警察学校で習った通りの経路を辿って内臓器官を破壊する。ビリーやサリバンが警察学校で学んだことは、皮肉にも、自らの体で証されることになりました。<br /><br />　皆、死んでいきました。人殺しのコステロも、コステロを殺したサリバンも、突然射殺されたビリーも、ビリーを殺したバリガンも。今は皆、"ディパーテッド"です。死んでしまえば、皆同じ、一人の死者となる。あの世に権力や金や麻薬は持っていけません。憎悪も怒りも失望も全てこの世に置いていけばいい。この世で愛憎にまみれ、激しい感情に翻弄された者たちも、"ディパーテッド"として永遠の安らぎを得る。悪人も善人も、皆安らかに眠れ。「すべての死者の魂が憩われますように」。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38387E382A3E38391E383BCE38386E38383E38389.jpg" width="284" height="208" border="0" align="" alt="ディパーテッド.jpg" /></div><a name="more"></a>

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<title>[REC/レック2]</title>
<description>映画：[REC/レック2] あらすじ※レビュー部分はネタバレあり→[REC/レック]の『解説とレビュー』はこちら（[REC/レック2]の前作です）　[REC/レック]の続編、[REC/レック2]。あのアパートでの惨劇から数時間後、Dｒ.オーウェンとSWAT隊員3名が封鎖されたアパートへと調査のために入ることになる。防護服に防疫マスクを付けた4人はアパートへと入っていく。それは新たな惨劇の幕開けだった。　前作の結末から数時間後の展開を描いているところがユニークな続編。主観撮影の..</description>
<dc:subject>『ら行』の映画</dc:subject>
<dc:creator>なお</dc:creator>
<dc:date>2010-10-29T19:40:26+09:00</dc:date>
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<strong><span style="font-size:large;">映画：[REC/レック2] あらすじ</span></strong><br />※レビュー部分は<strong>ネタバレ</strong>あり<br /><br /><a href="http://eiga-kaisetu-hyouron.seesaa.net/article/167609987.html" target="_blank">→[REC/レック]の『解説とレビュー』はこちら（[REC/レック2]の前作です）</a><br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-hyouron.up.seesaa.net/image/EFBD92EFBD85EFBD8322CE383ACE38383E382AF22C1.jpg" width="176" height="247" border="0" align="" alt="ｒｅｃ2,レック2,1.jpg" /></div><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/rec.E383ACE38383E382AF2Cg.jpg" width="160" height="120" border="0" align="" alt="rec.レック,g.jpg" /></div><br /><br />　[REC/レック]の続編、[REC/レック2]。あのアパートでの惨劇から数時間後、Dｒ.オーウェンとSWAT隊員3名が封鎖されたアパートへと調査のために入ることになる。防護服に防疫マスクを付けた4人はアパートへと入っていく。それは新たな惨劇の幕開けだった。<br /><br />　前作の結末から数時間後の展開を描いているところがユニークな続編。主観撮影の方法も健在だ。今回はSWAT隊員のヘルメットに装備されたカメラによる映像あるいは家庭用ビデオカメラによる撮影という趣向になっている。映像を撮っている人の感情がじかに伝わってくるという点では、主観撮影とはいえ、客観的な映像の多かった[REC/レック]よりも、より臨場感が楽しめるかもしれない。<br /><br />　前作のような感染者との格闘、ウィルス感染の恐怖よりも、悪魔憑きの恐怖が強調され、よりオカルト色が強い作品になっている。ほぼ、全編通して感染者との闘いが続き、パニック・ホラーらしい展開だ。[REC/レック]にはさまざまな謎があったが、[REC/レック2]ではその謎解きがされ、過去の経緯が明らかにされている。[REC/ レック]の結末で触れられていた最上階の部屋の秘密について、より説明が加えられているし、前作の登場人物が引き継がれているので、前作を観賞してからの方がより楽しめるだろう。<br /><br /><p><br /><iframe src="http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?lt1=_blank&bc1=FFFFFF&IS2=1&bg1=FFFFFF&fc1=ADADAD&lc1=ADADAD&t=naokonh-22&o=9&p=8&l=as1&m=amazon&f=ifr&asins=B0035E8G04" style="width:120px;height:240px;" scrolling="no" marginwidth="0" marginheight="0" align="left" frameborder="0"></iframe><br />【映画データ】<br />[REC/レック2]<br />2009年・スペイン<br />監督 ジャウマ・バラゲロ,パコ・プラサ<br />出演 ジョナサン・メヨール,オスカル・サンチェス・サフラ,アリエル・カサス,<br />アレハンドロ・カサセカ,パブロ・ロッソ,マニュエラ・ヴェラスコ<br /><br clear="left"/></p><br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-hyouron.up.seesaa.net/image/EFBD92EFBD85EFBD8322CE383ACE38383E382AF22C10.jpg" width="256" height="143" border="0" align="" alt="rec2,レック2,10.jpg" /></div><br /><br /><strong><span style="font-size:large;">映画：[REC/レック2] 解説とレビュー</span></strong><br />※以下、<strong>ネタバレ</strong>あり<br /><br />★感染の恐怖<br /><br />　[REC/レック2]では、感染が広がるメカニズムと悪魔憑きについて明らかにされています。Dｒ.オーウェンによれば、「空気感染はしない」。そして、ウィルスは「血や唾液の中」にあるとのこと。すなわち、感染者に噛まれたり、感染者の血や唾液を体内に取り込んでしまうような接触をすると感染する可能性があることになります。<br /><br />　Dｒ.オーウェンは、生きた感染者を捕えては次々に問い詰めようとしていました。ジェニフェル、SWAT隊員のマルトス、そして外から忍び込んできた若者3人組のひとり、ティト。尋問しようとした感染者ジェニフェルを殺してしまい、それならマルトスを尋問しようと感染したマルトスを閉じ込めた部屋に行ったところ、ティトやミレら若者たちがマルトスを殺してしまったため、代わりに感染したティトを捕えて尋問するという流れでした。<br /><br />　悪魔憑きと感染者はどのような関係にあるのでしょうか。アンヘラの内部にいる悪魔が分身して、感染者たちの体に宿っているのか、それとも、Dr.オーウェンのように神の力を借りれば、感染者を通して悪魔が出現するのか。<br /><br />　Dr.オーウェンが感染者を探し、尋問していたのはメデイロスを探すためです。メデイロスの行方を捜していたのは、彼女に悪魔が憑いているから。その彼女の血液を採取し、解毒剤を作るためです。単純な感染者には悪魔が宿っておらず、オーウェンの目的は達せられません。悪魔が憑いた者の血液でなくては、解毒剤を作るというDｒ.オーウェンの目的は達せられないのです。<br /><br />　従って、感染者は悪魔を媒介できるに過ぎないというのが正解でしょう。ウィルスに感染した者は悪魔の媒体になることができる。これも「悪魔憑き」の定義に含めるならば、感染者たちも全員悪魔憑きであることになります。しかし、悪魔を常に宿すのはただ一人だけ。それはメデイロスの後を継いだアンヘラです。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-hyouron.up.seesaa.net/image/EFBD92EFBD85EFBD8322CE383ACE38383E382AF22C12.jpg" width="277" height="156" border="0" align="" alt="ｒｅｃ2,レック2,12.jpg" /></div><br /><br />★悪魔に憑かれたアンヘラ<br /><br />　Dr.オーウェンがアパートへ来たときには、既にアンヘラに悪魔は乗り移っていました。結末、捕えたアンヘラの口に、メデイロスの口からナメクジのような悪魔の本体がぬるりと入っていくシーンがあります。<br /><br />　アンヘラは他の感染者と違い、人間を見たら襲いかかってくるということはありません。悪魔に、完全に行動を制御されています。血色もよく、表情も憑依される以前のままで、外見からはアンヘラの変化は分かりません。もしかしたら、アンヘラはウィルスには感染していないかもしれません。彼女は単純に悪魔に侵入されている状態にあるだけの可能性もあります。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-hyouron.up.seesaa.net/image/EFBD92EFBD85EFBD8322CE383ACE38383E382AF22C9.jpg" width="256" height="148" border="0" align="" alt="ｒｅｃ2,レック2,9.jpg" /></div><br /><br />★悪魔の皮肉な笑い<br /><br />　悪魔は実に愉快だったでしょう。Dｒ.オーウェンがどれだけ感染者を厳しく尋問しても、悪魔には痛くも痒くもありません。悪魔が宿るのはDｒ.オーウェンと行動を共にしているアンヘラだからです。あとは、Dｒ.オーウェンと遊ぶだけ。Dｒ.オーウェンが「お前も悪魔のように賢い男だな」と感染者となったティトに言わせるシーンがあります。「悪魔のように」ということは、悪魔もDｒ.オーウェンと同じくらいに賢いということ。しかし、その実、見当違いの尋問をしているDｒ.オーウェンに対する悪魔の冷笑が聞こえてきそうです。<br /><br />Dｒ.オーウェンは「神の力」によって、「すべての敵に勝つ能力を得た」と語っていました。しかし、その「神の力」はアンヘラに宿る悪魔を見抜く助けにはなりませんでした。Dｒ.オーウェンを殺し、唯一の生存者としてアパートを出ていくのはアンヘラ。どうやら彼女はこのアパートを燃やし、全てを終わりにするつもりのようです。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-hyouron.up.seesaa.net/image/EFBD92EFBD85EFBD8322CE383ACE38383E382AF22C2.jpg" width="256" height="144" border="0" align="" alt="ｒｅｃ2,レック2,2.jpg" /></div><br /><br />★天使か悪魔か<br /><br />　正義を貫く天使の側にいることよりも、自らの欲望のままに振舞える悪魔でいることの方が容易です。現実に生き抜くためには、常に天使の側に立ち続けることは難しい。Dｒ.オーウェンとSWATのメンバーとの対立を見ていてもそれが分かります。SWATのメンバーは階下に見えた3人組を追いかけて下へ行くことを選びました。「生存者を捜すことも」任務だと主張するSWATのチーフと「我々の任務はここを調査することだけ」だと主張するDｒ.オーウェンの主張は真っ向から対立します。<br /><br />Dｒ.オーウェンは何よりも、メデイロスの血液が欲しかった。一方、SWATは生きている人間を見殺しにはできないと考えた。悪魔憑きの血を持って帰れば、解毒剤を作ることができ、これから起きる被害を防止できる。しかし、安全かつ迅速に持ち帰るためには、目の前の生存者を見殺しにせねばならない。<br />　正義を貫徹し、常に天使の側に立とうとするならば、誰も見殺しにはできません。生存者を助け、解毒剤をも作るという両方を達成せねばならないことになる。しかし、現実は非情です。生存者を助け、メデイロスを探し、血液も持ち帰るなどという芸当はほぼ不可能に近い。<br /><br />「理想」という正義はすぐに打ち砕かれます。最初、生存者を救出しようとしたSWATのメンバーは次々に感染者となり、残されたチーフはDｒ.オーウェンの言うがままになっていきました。結局、下水道から侵入してきた若者3人組のうち、生き残ったミレらは閉じ込められ、アパートごと燃やされる運命へと追い込まれます。<br />　付け焼刃の理想はすぐに幻滅に取って代わられます。生存者を助けると主張していたSWATのチーフは結局、生存者ミレらを一室に閉じ込めることになってしまいました。全ては、メデイロスの血を採取し、Dｒ.オーウェンを納得させて、早くこのアパートから出るためにしたことです。<br /><br />この命がかかった状況で、生き残るには早く血を採取して、Dｒ.オーウェンにこのアパートから出る許可をもらうしかなくなっていました。そうなれば、生存者のことまで、とても手は回らない。この極限状況においては、生き残ることが至上命題になっていました。<br /><br />アパートに侵入した直後の甘い理想は厳しい現実の前にたちまち砕け散っていきます。天使の白い羽はあっという間に血に染まっていきました。正義を貫徹することなど、最初から不可能でした。自らの命をかけた状況で、それでも正義を追いかけることなどできない。恐怖にとりつかれたこのアパートのなかで、それはあまりにも脆い理想でした。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-hyouron.up.seesaa.net/image/EFBD92EFBD85EFBD8322CE383ACE38383E382AF22C8.jpg" width="260" height="152" border="0" align="" alt="ｒｅｃ2,レック2,8.jpg" /></div><br /><br />★人間か悪魔か<br /><br />　アパートに侵入し、最上階の捜索を一通り終えたSWATを最初に出迎えたのは凶暴化した子供でした。しかし、彼らは撃てない。奇声を上げて叫び続ける子供を前にチーフらは硬直していました。「撃て！悪魔だぞ！」子供を撃ち殺したのはDｒ.オーウェンでした。<br />　ワクチンを作るための人体実験、その結果、凶暴化した子供。そして、これ悪魔と呼び、撃ち殺す。少女メデイロスは長年の監禁生活の末、殺される。子供に襲われる直前、SWATの隊員らは血だらけの子供が映る写真を発見していました。これはワクチンを生成していたときの実験の過程を写したものと思われます。一体、悪魔と呼ばれるにふさわしいのは悪魔か人間か。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-hyouron.up.seesaa.net/image/EFBD92EFBD85EFBD8322CE383ACE38383E382AF22C7.jpg" width="154" height="231" border="0" align="" alt="ｒｅｃ2,レック2,7.jpg" /></div><br /><br />★憑かれた者たち<br /><br />　Dｒ.オーウェン、SWATのチーフ、そしてアンヘラ。皆、何かに取りつかれていました。メデイロスの血を採取することに執心するDｒ.オーウェン。感染、そして悪魔憑きの恐怖の虜となったチーフ。悪魔にとりつかれたアンヘラ。Dｒ.オーウェンは任務の完遂に対して最初から異常な執心を見せていました。子供であっても容赦なく感染者を殺し、生存者を見捨てるよう主張して彼らを閉じ込め、感染者に対して容赦ない尋問を加える。<br /><br />　Dｒ.オーウェンにとって、生存者は任務の完遂を阻害する者、感染者はすべて悪魔です。いや、彼にとっては感染者など、そもそも生き物ですらない。メデイロスの血に行きつくための手掛かりに過ぎません。彼らが人間であるなどという意識はDｒ.オーウェンにはとっくになくなっていました。彼はメデイロスの血、悪魔憑きの研究に魅入られていたのです。<br /><br />　Dｒ.オーウェンは仲間のSWAT隊員たちを絶対に外に出そうとしません。彼はメデイロスの血のためなら、誰を犠牲にしてもかまわないと思っていました。そして自分は死ぬわけがないと思っています。なぜなら、彼には「神の力」が宿っているから。神の力を得た自分は生き残り、メデイロスの血を得ることができるはずだ、彼はそう確信していたでしょう。Dｒ.オーウェンは特別な人間ではない。神に選ばれし子でもない。彼はただ、どこにでもいる自信過剰で視野の狭い人間の一人でした。自らに神の力があると思い、悪魔を制す使命があると思い、自らを他の人間よりも上位にあると位置付けて生きてきた傲慢な人間でした。彼の、犠牲者に対する痛みを感じないところはまるで悪魔のようでした。<br /><br />　ティトに憑依した悪魔が彼を「悪魔のように賢い」と言っていました。これは、Dｒ.オーウェンの他人の犠牲を省みない行動がまるで悪魔のようだ、という意味にも取ることができます。悪魔のように考え、悪魔のように振舞うDｒ.オーウェン。しかし、彼にはそのような意識はありません。<br /><br />　Dｒ.オーウェンは「神」と「悪魔」のとりこになった哀れな男でした。神の力を得たと語りつつ、メデイロスの血という任務の前には容赦なく生存者を見捨て、仲間の命すらいとわない。「悪魔のように賢い」と悪魔に言わしめるDｒ.オーウェンには他人の命に関して無頓着である点において、悪魔に共通する部分を持つ男でした。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-hyouron.up.seesaa.net/image/EFBD92EFBD85EFBD8322CE383ACE38383E382AF22C5.jpg" width="260" height="146" border="0" align="" alt="ｒｅｃ2,レック2,5.jpg" /></div><br /><br />★生きるために<br /><br />　そして、SWATのチーフ。彼は最初、生存者の救出に意気盛んでした。しかし、すぐに感染者の恐怖を身に染みて知らされ、生きるために必死になることになりました。チーフはDｒ.オーウェンが任務の終了まで外には誰も絶対に出さないと決意していることを知り、Dｒ.オーウェンに従うしか外に出る道はない、と妥協することにします。たとえ、そのために誰かを犠牲にすることになったとしても。<br />　それからのチーフに迷いはありません。Dｒ.オーウェンとともにジェニフェルを殺し、生存者ミレらを一室に閉じ込め、感染者となった仲間の隊員を尋問するよう、Dｒ.オーウェンに提案します。部下を気遣い、感染した子供を殺すことを躊躇していたあのころの心は既に消え去っていました。彼の頭にあるのはただ、逃げることだけ。Dｒ.オーウェンを殴り、脅しつけ、外に出るように脅迫するアンヘラをチーフは見ているだけでした。<br /><br />アンヘラがメデイロスの頭を吹き飛ばした結果、Dｒ.オーウェンはメデイロスに悪魔が宿っていたかを確かめるすべを失いました。彼はまたも、悪魔憑きの血を手に入れることに失敗したのです。彼は「血がいるんだ！」となおも固執します。このままではまたも脱出できない。<br /><br />チーフも外に出たいのです。もう、こんなアパートには居たくない。だからDｒ.オーウェンに暴力を振るうアンヘラをとっさには止めようとはしません。銃をリロードし、Dｒ.オーウェンを殺そうとするアンヘラにようやくチーフは「彼がいないと出られない」と言うだけ。音声認証式の無線を使えるのはDｒ.オーウェンだけです。チーフは逃げるためにDｒ.オーウェンの声が必要だと思い、アンヘラに彼を殺されるのはまずいと思ったのです。これが、あの感染した子供を殺すことをためらっていた数時間前のチーフとはとても思えません。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-hyouron.up.seesaa.net/image/EFBD92EFBD85EFBD8322CE383ACE38383E382AF2.jpg" width="284" height="161" border="0" align="" alt="ｒｅｃ2,レック2.jpg" /></div><br /><br />★人間でありたい<br /><br />　アンヘラは悪魔に乗り移られ、自身の意識を失いました。暴力的で人をも殺すアンヘラは悪魔に憑かれたのが原因であると容易に説明できます。しかし、Dｒ.オーウェンの任務完遂への異常なほどの執着や、チーフの急激な変化は悪魔のせいだと説明することはできません。<br /><br />　感染者とはいえ子供を殺したときに、チーフたちSWATの隊員たちにある何かが壊れました。そして、Dｒ.オーウェンを見殺しにした時点で、チーフの運命は決まります。外に出たいという自らの欲望を優先した結果、彼はDｒ.オーウェンを助けることができず、最後は悪魔に憑かれたアンヘラに射殺されてしまいました。利害や損得が生じるとき、人間の心には隙が生まれます。そして、そこを突かれれば、人間の心は簡単に変化してしまう。人間の弱さは短所でもあり、また魅力でもあります。ただ、その弱さを自覚していなければ、思い込みで生きるただの傲慢な人間になってしまう。<br /><br />　一人の人間の心は悪魔に憑かれていなくても、変化し、悪魔のように振舞うことができるようになります。悪魔はかつて天使でした。しかし、悪の道に目覚め、堕天使となります。純粋な理想に生きられない人間は天使にはなれないかもしれないが、悪魔になってはならない。天使と悪魔、人間と悪魔の境界は実に曖昧です。人間は天使と悪魔の境にいます。人間が悪魔になるには、必ずしも悪魔に憑かれる必要はありません。悪魔の方向へと少し押されるだけで人間は簡単に堕ちていくことができるからです。<br /><br />　Dｒ.オーウェンが感染者を尋問して悪魔を出現させることができたのは、Dｒ.オーウェンに「神の力」があるからではありません。それは単にDｒ.オーウェンの手にしていた十字架の力、あるいは、「神の力」を得た気になっているDｒ.オーウェンをからかって、悪魔に遊ばれていただけなのでしょう。人間は天使になれず、神にもなれない。しかし、少なくとも人間ではありたい。ただ、これは思う以上に難しいことのようです。<br /><br />　<a href="http://eiga-kaisetu-hyouron.seesaa.net/article/167609987.html" target="_blank">→[REC/レック]の『解説とレビュー』はこちら（[REC/レック2]の前作です）</a><br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-hyouron.up.seesaa.net/image/EFBD92EFBD85EFBD8322CE383ACE38383E382AF22C6.jpg" width="248" height="165" border="0" align="" alt="ｒｅｃ2,レック2,6.jpg" /></div><br /><br /><span style="font-size:x-small;"><div style="text-align:center;">All pictures in this article belong to CASTELAO PRODUCTIONS. S.A..</div></span><br /><br /><a name="more"></a>

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<title>[REC/レック]</title>
<description>映画：[REC/レック] あらすじ※レビュー部分はネタバレあり　→[REC/レック2]の『解説とレビュー』はこちら　ある夜、ＴＶレポーターのアンヘラ・ビグルは番組の取材のため、消防署に出向く。夜勤の消防士たちの密着取材のためだった。アンヘラはカメラマンのパブロとともに一通りの取材を終え、すっかり退屈していた。そこに、緊急通報が入り、アンヘラは出動する消防士たちに同行する。　それはアパートの一室に住む老女が奇声を発しているという通報だった。アパートに着いたアンヘラはカメラマンの..</description>
<dc:subject>『ら行』の映画</dc:subject>
<dc:creator>なお</dc:creator>
<dc:date>2010-10-29T19:26:36+09:00</dc:date>
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<strong><span style="font-size:large;">映画：[REC/レック] あらすじ</span></strong><br />※レビュー部分は<strong>ネタバレ</strong>あり<br /><br />　<strong><a href="http://eiga-kaisetu-hyouron.seesaa.net/article/167611260.html" target="_blank">→[REC/レック2]の『解説とレビュー』はこちら</a></strong><br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-hyouron.up.seesaa.net/image/rec.E383ACE38383E382AF2C10.jpg" width="210" height="62" border="0" align="" alt="rec.レック,10.jpg" /></div><br /><div align="center"><img src="http://eiga-hyouron.up.seesaa.net/image/rec.E383ACE38383E382AF2C3.jpg" width="159" height="225" border="0" align="" alt="rec.レック,3.jpg" /></div><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/rec.E383ACE38383E382AF2Cg.jpg" width="160" height="120" border="0" align="" alt="rec.レック,g.jpg" /></div><br /><br />　ある夜、ＴＶレポーターのアンヘラ・ビグルは番組の取材のため、消防署に出向く。夜勤の消防士たちの密着取材のためだった。アンヘラはカメラマンのパブロとともに一通りの取材を終え、すっかり退屈していた。そこに、緊急通報が入り、アンヘラは出動する消防士たちに同行する。<br /><br />　それはアパートの一室に住む老女が奇声を発しているという通報だった。アパートに着いたアンヘラはカメラマンのパブロとともに、部屋へ突入する警察官らについていく。部屋の中にいた老女は突然、凶暴化し、警察官に噛みついた。ようやく逃げ出したアンヘラとカメラマンのパブロはアパート全体が閉鎖され、外へ出られなくなったことを知る。<br /><br />　原因不明の病に冒された老女、広がる感染の恐怖。退屈な取材に終わるはずの夜が恐怖の一夜へと変わっていく。全編がカメラマンのパブロの視点で撮られた主観映像で構成されており、画面のブレ、障害物の写り込みといった「見えない恐怖」が不安感を倍増してくれる。感染した住人たちに襲われるシーンはホラーならではだが、なぜ、アパートが閉鎖されたのか、なぜ、感染がアパートで広まったのか、誰が何を知っているのかなどの謎が多いのも魅力。アパートの住人たちの本音や心理、隠しごとが垣間見えるインタビューは主人公のアンヘラがＴＶリポーターという設定ならではのシーンで、なかなか興味深い。<br /><br /><p><br /><iframe src="http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?lt1=_blank&bc1=FFFFFF&IS2=1&bg1=FFFFFF&fc1=ADADAD&lc1=ADADAD&t=naokonh-22&o=9&p=8&l=as1&m=amazon&f=ifr&asins=B001F9R75G" style="width:120px;height:240px;" scrolling="no" marginwidth="0" marginheight="0" align="left" frameborder="0"></iframe><br />【映画データ】<br />[REC/レック]<br />2007年（日本公開2008年）・スペイン<br />監督 ジャウマ・バラゲロ,パコ・プラサ<br />出演 マニュエラ・ヴェラスコ,フェラン・テラッサ,<br />ホルヘ・ヤマン・セラーノ,カルロス・ラサルテ,パブロ・ロッソ<br /><br clear="left"/></p><br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-hyouron.up.seesaa.net/image/rec.E383ACE38383E382AF2C5.jpg" width="304" height="135" border="0" align="" alt="rec.レック,5.jpg" /></div><br /><br /><strong><span style="font-size:large;">映画：[REC/レック] 解説とレビュー</span></strong><br />※以下、<strong>ネタバレ</strong>あり<br /><br />★お断り<br /><br />　この『解説とレビュー』を書かせて頂いている時点で、すでに[REC/レック2]が公開されており、[REC/レック]の解説とレビューを書く前に、[REC/レック2]の結末まで観賞いたしました。ただし、「REC/レック」の『解説とレビュー』はあえて、[REC/レック2]とは別の映画として『解説とレビュー』を書かせていただきます。<br /><br />　それは、[REC/レック]で描かれている人物の心理描写や各所の行動、セリフ等により、このアパートでの惨劇を誰が引き起こしたのか、どのように感染が起きたのかが示されているからです。1作目の[REC/レック]の魅力は、「謎が多いゆえの恐怖感」にあります。そこで、[REC/レック2]では、[REC/レック][REC/レック2]全体を通じた『解説とレビュー』を書かせていただくとして、1作目の[REC/レック]を取り上げる本レビューでは、[REC/レック]を独立した映画として考察していきます。<br /><br />　<strong><a href="http://eiga-kaisetu-hyouron.seesaa.net/article/167611260.html" target="_blank">→[REC/レック2]の『解説とレビュー』はこちら</a></strong><br />　<br /><a href="http://eiga-kaisetu-hyouron.seesaa.net/article/167611260.html" target="_blank"><div align="center"><img src="http://eiga-hyouron.up.seesaa.net/image/rec.E383ACE38383E382AF2C14-f668d.jpg" width="180" height="130" border="0" align="" alt="rec.レック,14.jpg" /></div></a><br /><br />★[REC/レック]がすごい！<br /><br />　緊張感というものは30分も続きません。パニックシーンが最初から最後まで続く映画は逆に緊張感に欠けるもの。主観映像による映像は視野が狭く、手ぶれがそのまま写る、あるいはわざとぶれさせて臨場感を出しているため、恐怖感を強めやすい撮影手法です。しかし、そのようなPOV（Ponit of View Shot）を利用した映画でも、2時間もの間、それを見ていれば慣れてしまい、恐怖に飽きが出てきます。<br /><br />　この点、[REC/レック]は盛り上げ方が実にうまい映画です。最初のうちは、正体不明の老女の感染、そしてアパートの閉鎖と、わけが分からない状況に突然放り込まれた恐怖があり、次には、感染者から感染者へと伝染していく恐怖に襲われ、感染した住人たちとの格闘が始まります。<br /><br />　そして結末、最上階の部屋へ。アンヘラやパブロは下から追いかけてくる感染者と勝ち目のない闘いをするか、それとも、怪しげな部屋へ逃げ込むかの2択しかありません。どっちも嫌ですが、死ぬよりはいい、とアンヘラたちが意を決して飛び込む先は子供の写真やら十字架やらが並ぶ実験室のような場所でした。<br /><br />　この部屋には感染者に襲われる恐怖とは違う、底知れない不気味さが漂います。何か得体のないものがいるかもしれないという不気味さ。[REC/レック]では結末に至って、さらに恐怖の種類が変わる。観客はまたそれまでと違う覚悟を求められます。だから、緊張感が途切れることはない。決して時間の長い映画ではないのに、「もう十分だ」と思ってしまうほどの恐怖を味わえるホラーになっています。<br /><br />　人物の性格付けもうまかった。かわいらしいリポーターがヒステリックに叫んでいるシーンが多いのは、ホラー映画のお約束ですが、カメラマンのパブロは非常に落ち着いていて、安全地帯から見ている恐怖の冷めやすい観客をうまくアパートの中へと連れ込んでくれます。観客がなぜ、恐怖に慣れてしまうかといえば、基本的に彼らが襲われているわけではないからです。だから、大声で叫び続けたり、ヒステリックに口論する登場人物ばかりだと、蚊帳の外におかれた気分になり、感情移入しにくく、イライラしてしまうことになります。あんな悲惨で絶望的な状況におかれれば、理性を失って当然といえば当然なのだけれど。<br /><br />　[REC/レック]ではパブロが比較的冷静なので、観客は彼のカメラにぴったりくっついていけばいい。実際にゾンビに襲われているわけではない観客にとってパブロはちょうどなじみやすい温度なのです。<br /><br />　さて、ここからは[REC/レック]の内容について見ていきます。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-hyouron.up.seesaa.net/image/rec.E383ACE38383E382AF2C15.jpg" width="172" height="252" border="0" align="" alt="rec.レック,15.jpg" /></div><br /><br />★閉鎖されたアパート<br /><br />　[REC/レック]は閉鎖された一つのアパートを舞台に惨劇が展開していきます。そのアパートはどういう場所なのか、分析してみましょう。<br /><br />　アパートの他の住民を見てみると、一人暮らしの老女、年金暮らしの老いた夫婦、一人暮らしの男性、母娘、そして寝たきりの老人を抱えるアジア系の家族。彼らに共通するのは決して経済的に余裕のある暮らしではないということです。アンヘラが各家族にしたインタビューを聞いていると、お金に執着したり、カメラの前で口論したり、と彼らが日々の生活に汲々としている様子が伝わってきます。<br /><br />　そうした経済的に豊かではない外国人、あるいは低所得者層が住む場所と、その他中産階級の人々が住む場所ははっきりと色分けされています。経済的に豊かではない外国人を住まわせる貸家の格は高いとは言えず、家賃が安いのだろうということが推測できます。このアパートは低所得者層向けのアパートの一つなのでしょう。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-hyouron.up.seesaa.net/image/rec.E383ACE38383E382AF2C9.jpg" width="289" height="156" border="0" align="" alt="rec.レック,9.jpg" /></div><br /><br />★疑わしき住人<br /><br />　次々と感染していく住人たち。そのなかでも、特に興味を惹かれる人がいました。それは研修医のギレムです。彼は本当にただの研修医なのか。疑わしい点が多数あります。<br /><br />　彼は医師です。そのような職業の人はギレム以外、このアパートにはいません。彼の自室には高級そうな家具が置かれ、リビングにはテレビにソファ、そして銀色のワゴンに載せられた銀のプレートには何かの食べ残しの他、果物が盛られているのが見えます。ギレムの暮らしを見る限り、彼は経済的に苦しいようには見えません。彼は感じの良い男性ですが、このアパートにはどこか場違いな感じがします。それなのに、彼はなぜ、このアパートに暮らしているのでしょうか。<br /><br />　アンヘラが消防士たちと到着した直後、住民たちは先に到着した警察官によって、1階に集合させられていました。しかし、それにも関わらず来ていなかった人間が数人います。アジア系家族の寝たきりの父親は別にして、1階に住んでいた若い女とギレムです。ギレムはイスキエルド夫人の部屋のドアの前に立っていました。警察官に「早く下に行け」と追い払われるまで彼は動こうとしません。彼が医者だからイスキエルド夫人を助けようとしていたということも考えられます。しかし、彼はドアを破ろうとするわけでもなく、ただその場にいただけでした。それに、警察や消防を呼んでいるのですし、そこにいる必要性というものはそれほどないでしょう。彼は一体、何をしようとしていたのでしょうか。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-hyouron.up.seesaa.net/image/rec.E383ACE38383E382AF2C7.jpg" width="291" height="157" border="0" align="" alt="rec.レック,7.jpg" /></div><br /><br />★謎のカギ束<br /><br />　彼はなぜ、最上階のカギを持っていたのでしょうか。このアパートの惨劇を生みだす元凶となったのは最上階です。そこのカギをギレムがなぜ持っているのか。最上階はこの数年空き家で、使っていないとのことでした。しかし、そう言っていたのはギレム本人です。最上階の部屋でアンヘラが操作したテープレコーダーには電気が通っていました。そして、洗面台にたまった血の色の水。本当に、この部屋にはずっと誰も入っていなかったのでしょうか。<br /><br />　ギレムはかなりの数のカギを自室に保管していました。アンヘラは重そうな鍵束をギレムの部屋から持ち出しています。そもそも、アンヘラがギレムの部屋に入ったのは、1階の縫製工場の地下倉庫から脱出するためでした。ギレムは最上階の部屋のカギのみならず、縫製工場に入るためのカギまで持っていたのです。そして、あのカギの数。ギレムはこのアパートの部屋で入れない部屋はなかったのではないか、そんな疑いすらわいてきます。<br /><br />　アパートに閉じ込められたと分かったとき、縫製工場事務所から中庭に降りて逃げようという話が持ち上がったことがありました。この提案をしたのはギレムです。そして、彼はアパート1階の踊り場にある管理人室のガラスをぶち破り、カギを取り出します。彼は管理人室に予備のカギがあることをなぜ知っていたのか。管理人が予備のカギを持っていることはよくあることです。しかし、ギレムは、予備のカギが管理人室にあることを知っているばかりか、管理人室のどこにカギがあるかを迷わず探し当てました。<br /><br />　確かに、管理人室とは名ばかりの電話ボックスのような小さな管理人室ですが、それにしても、ギレムの行動には全く無駄がありません。彼は予備カギの在りかを最初から知っていたのではないでしょうか。さらに進んで、その予備カギをおいたのはギレム自身ということが考えられます。あの管理人室は普段、使用されていなかったように思えます。誰も管理人の話をしていませんし、ここは低所得者向けアパートであることを考えると、管理人室があるにも関わらず、管理人を置いていないということは十分にありえるでしょう。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-hyouron.up.seesaa.net/image/rec.E383ACE38383E382AF2Cf.jpg" width="270" height="147" border="0" align="" alt="rec.レック,f.jpg" /></div><br /><br />★予備カギの使い道<br /><br />　では、なぜ、ギレムは予備のカギを1階の管理人室に保管しておいたのか。予備カギを使うときはどんなときでしょうか。予備カギは本カギが使えない状況になったときに使うものです。ギレムの部屋は4階にありました。最上階の一つ下です。何かが起きたとき、逃げ出すには地上階まで下りる必要がありました。そして、地上階では、正面玄関以外の脱出口を確保しておきたい。<br /><br />　ギレムは自室までカギを取りに戻れなくなる状況、そして正面玄関から出られなくなる状況を想定していた可能性があります。ギレムは縫製工場の事務所から中庭へ出られることを知っていました。ギレムは縫製工場とは何のかかわりもない人間のはず。建物の構造上、事務所から出られることを推察したのなら「出られるかもしれない」と言うのが自然ではないか。ギレムはなぜ「出られる」と言い切ったのか。それは、ギレムがあらかじめ、事務所中庭を脱出口に考えていたからであると言えます。<br /><br />　では、ギレムはなぜ、非常時の脱出口を想定し、予備カギを管理人室に隠しておいたのか。それは、ギレムがそこまでして逃げ出さなくてはならないような緊急事態が起きることを想定していたから、です。ギレムは最上階を管理するために、このアパートに住んでいた。ギレムはこの惨劇の真相を住人の中で唯一、知る者でした。その真相とは一体何か。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-hyouron.up.seesaa.net/image/rec.E383ACE38383E382AF2Cb.jpg" width="252" height="169" border="0" align="" alt="rec.レック,b.jpg" /></div><br /><br />★ジェニフェルの母親<br /><br />　ジェニフェルの母親のインタビューが興味深い事実を指し示しています。彼女はアンヘラとカメラに向かって、「大家を訴えてやる、絶対に訴えてやる」と息巻いていました。しかし、伝染病の疑いありと、アパートごと隔離され、閉じ込めているのは保健局です。賠償を求めるなら、大家ではなく、保健局、つまり国を訴えてやろうと思うのが筋ではないでしょうか。<br /><br />　しかも、彼女は続けて、「新聞社に電話をかけまくって書き立ててもらうわ！そもそもの始まりから終わりまで！」と言い放ちます。「そもそものはじまり」とはなんのことでしょうか。老女の発病に始まる一連のアパート封鎖の経緯のことでしょうか。彼女はアンヘラらTVクルーと出会ったとき、「全部撮っちゃえ！全部！」と言っていました。<br /><br />　彼女はテレビカメラが老女死亡以降の出来事を全て記録していることを知っていますし、自ら撮ってほしいとも思っていた。それなら、その記録映像をちゃんと公開してよ、とアンヘラに要求すればいいでしょう。彼女がわざわざ電話をかける必要はありません。彼女の話よりも確実な、ビデオカメラという証拠が残っているからです。<br /><br />　彼女は「始まりから終わりまで」ではなく、「そもそもの始まりから終わりまで」と言いました。「そもそもの」という彼女の言葉から、このアパートの惨劇よりも前に、何かがアパートで起きたことが推察できます。彼女は、アンヘラたちが知らない、アパートについての事実を知っていました。<br /><br />　過去、アパートで何かが起きていたことは同じくアパートの住人である老夫婦のインタビューからも推察できます。この老夫婦のうち、妻の方はぺらぺらと喋ります。一方、夫は無愛想でぶっきらぼう、「寝てたからよく分からん」「あんたたちが来たとき、何があったか知ってれば話しとる」とイライラしていました。<br /><br />　夫は何にイライラしていたのか。彼はアンヘラにインタビューされることが、というよりも、妻が話し過ぎることにイラついていました。妻はそんな夫の様子を察し、「私がしゃべっちゃだめ？！」と怒っています。「誰かが悪いことをしたのよ、この建物には…」「誰かが"ここにあった"と…」と妻が話すたびに話をさえぎる夫。夫はアパートにある何かを知られたくないようです。<br /><br />　これはジェニフェルの母親も同じであると言えます。彼女は「怖いことが起きると思ってた」と何かを恐れていたことを告白し、恐怖の原因について、「上の階に何かある」ことを指摘しています。彼女は「上の階に何かある」根拠について消防士が落ちてきたことを挙げています。が、消防士が落ちたのはついさっきのことです。彼女が今まで「怖いことが起きる」と思っていた理由としてはいささか不自然と言わざるをえません。<br /><br />　彼女が上の階に何かあると思った根拠は、今回の惨劇が起きるよりも前の出来事に根拠があるというのが自然でしょう。この点、彼女は恐怖の原因について嘘をついています。また、彼女はあれほどアパートで起きたことをカメラにとって欲しいと主張していたにも関わらず、「そもそもの始まり」についてはカメラの前で話そうとしない。<br /><br />　「そもそもの始まり」の内容はなんだったのでしょうか。彼女は新聞社に事情をあらいざらい話してしまえば、大家にとって、非常にまずいことになると思っていました。そして、保健局や国を訴えるとは言わない。ということは、ずばり、国あるいは、ローマ教皇庁がこのアパートの持ち主ではないのか。<br /><br />　そして、それらが、この伝染病の発生自体を予期していたとしたらどうか。そして、予期していただけではなく、自ら感染の発生を積極的に招いたとしたら。このアパートの住人たちは互いに親しくありません。異常な状況下にあるとはいえ、お互いに気遣いあうことは全くなく、不平不満ばかり言い合っている。彼らはこのアパートに住んで間もないのではないでしょうか。少なくとも、長い付き合いではない。彼らは何らかの条件でこのアパートに入居してきたのではないでしょうか。<br /><br />　そして、その条件とは何だったのか。アパートに住人が集まってきた経緯を知る者は住人のみです。ジェニフェルの母親の言うように、新聞社に洗いざらい話されてしまえば、重大な人権侵害、大変な政治的ダメージを被ることになるでしょう。このスキャンダルを売れば金になる。ジェニフェルの母親がパウロのカメラの前で話さなかったのは金のためではないでしょうか。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-hyouron.up.seesaa.net/image/rec.E383ACE38383E382AF2Cc.jpg" width="240" height="160" border="0" align="" alt="rec.レック,c.jpg" /></div><br /><br />★不自然なアパート閉鎖<br /><br />　今回のアパート封鎖はいろいろと不自然です。空気感染ならいざ知らず、かみつかれることによる唾液感染ならば、感染者を個別に隔離するのが妥当でしょう。アパートごと隔離することは全く意味がありません。原因不明で、とりあえずの封鎖だったというのなら、それは一理ありますが、原因不明だったというのはありえません。<br /><br /> それが分かるのは、検査官として途中からアパートに入ってきた男の行動です。防護服に身を包み、防疫マスクをした検査官は、感染者の下に直行し、いきなり何かを注射し始めました。何の病かも分かっていないのに、検査もせず、とりあえず状態の安定している患者にいきなり何かを注射するのは非常に不自然です。しかも彼は、被害に遭っていない住人たちの元へ戻ってきたときにはマスクを取ってしまいます。検査官は何も住人たちの検査をしていません。唾液感染か、空気感染か、調べてもいないのにマスクを取るのはおかしい。<br /><br />　しかも、感染者が暴れ出し、彼らを閉じ込めたときには既に「唾液で感染する」と断定していました。つまり、この検査官には検査をするまでもなく、この病が何であるか分かっていたということです。検査官にはこの病気が唾液感染であり、空気から感染しないことが最初から分かっていました。それなのに、保健局はいきなりアパートを丸ごと封鎖し、住人たちを閉じ込めている。なぜ、こんな不合理な処置をするのでしょうか。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-hyouron.up.seesaa.net/image/rec.E383ACE38383E382AF2C11.jpg" width="252" height="190" border="0" align="" alt="rec.レック,11.jpg" /></div><br /><br />★感染した犬のマックス<br /><br />　検査官は獣医に預けられたマックスの症状について住民たちに話します。マックスはジェニフェルの愛犬でした。そして、そのマックスが発狂したような症状を発症したのは昨日のこと…。ジェニフェルの唇をよく見ると、引っかかれたような傷があることに気が付きます。<br /><br />　ジェニフェルはマックスに噛まれていました。しかし、イスキエルド夫人とマックスの接点が考えられません。夫人は孤独な生活をしていました。近所づきあいもしない夫人がなぜ発症したのか。犬と人間。それぞれが、同じ日に体調を崩し、凶暴化する。こんな偶然があるわけがありません。これは明らかに人為的なものです。マックスとイスキエルド夫人、それぞれにある行為がされた。<br /><br />　最上階でアンへラが発見したテープレコーダーにはワクチンについての言及がありました。たくさんの実験器具が並び、手術台や点滴装置まであるあの不気味な最上階で行われていたのは、医学実験でした。それはテープの声の主が明らかにしているように、ある病を治すワクチンの研究だったのです。<br /><br /> ワクチンは病原体を弱めたものを体内に注入して抗体を作り、病にかかりにくくするというものです。弱くしたとはいえ、病原体を体内に入れるわけですから、ワクチン接種によって病気になってしまう人は一定の確率で発生します。完全なワクチンでも100%ではないのですから、ワクチンが不完全だったらなおさらその危険性が高まり、発症してしまうでしょう。テープの声の主によれば、ワクチンには致命的な欠陥がありました。酵素の突然変異により、人に感染するというのです。<br /><br />　マックスとイスキエルド夫人にされたのは、恐らくワクチンの接種でしょう。注射をされたマックスとイスキエルド夫人では、体の小さいマックスに最初に症状が出ました。そして、次にイスキエルド夫人に。3番目がマックスに噛まれたジェニファーです。<br /><br />　ジェニファーは高熱が続いていました。母親は娘は扁桃炎だと主張しますが、そのときの彼女は非常にヒステリックです。また、ジェニファーの父親はその薬を買いに外に出たことになっています。「いつものお薬が飲めないのはなぜ？」とアンヘルがジェニフェルに尋ねると、母はすかさず「主人がいないからね」と割り込みました。なぜ、母はジェニフェルのインタビューに割り込んだのか。別にアンヘルが酷い質問をしたわけでも、難しいことを聞いたわけでもありません。<br /><br />　恐らく、父親が買いに行っているのは薬、ただし、扁桃炎のジェニフェルがいつも飲んでいる薬ではない、別の薬です。マックスに噛まれたジェニフェルは感染者になりましたが、凶暴化するまでに潜伏期間がありました。その間、ジェニフェルは発熱症状を起こし、これがいつもの扁桃炎に思われたのですが、手持ちの薬では熱が下がらず、症状が改善しなかった。そこで、父親が別の薬を飲ませようと買いに出かけたというところが真相でしょう。<br /><br />　マックスの異常な病気、そしてイスキエルド夫人の伝染病騒ぎがあり、母親はジェニフェルがいつもの扁桃炎ではないことにうすうす気が付いていました。だから、母親は他に原因を求めようとしました。例えば、アジア系家族の寝たきりの父親です。彼女は寝たきりの老人が今回の伝染病の元かもしれないと激しく主張します。彼女にはアジア人に対する偏見もありましたが、それ以上に母親はジェニフェルに疑いの目が向けられることを非常に恐れていました。だから、アンヘルのジェニフェルに対するインタビューに割り込み、ジェニフェルの病気が扁桃炎であることを声高に主張し、あのように感情的に反応したのです。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-hyouron.up.seesaa.net/image/reEFBD83.E383ACE38383E382AF2C6.jpg" width="276" height="149" border="0" align="" alt="reｃ.レック,6.jpg" /></div><br /><br />★ジェニフェルの母親が知っていたこと<br /><br />　もっと、考えてみましょう。感染者になっている可能性があると知っても、母親はジェニフェルを手放しません。マックスの末路を聞いた彼女はますますジェニフェルを強く抱き、放そうとしませんでした。マックスの症状、そして、マックスに噛まれた痕の残る娘の唇。母親がジェニフェルの唇に残る傷に気が付かなかったわけはありませんから、母親はジェニフェルがマックスに噛まれて感染したことを覚悟していたでしょう。しかし、彼女はそれをまるで信じたくないかのように、拒否した。<br /><br />　母親だから、でしょうか。もちろん、それはあるでしょう。しかし、彼女の他の側面を見てみる必要があります。命が助かるかどうかの瀬戸際にあって、訴えてやると息巻いていたのは彼女でした。新聞社に洗いざらい話すという彼女が全くアンヘラたちのカメラにその内容を明かさないのは、新聞社から金銭を受け取ることを期待しているからでしょう。家族を抱え、決して経済的にゆとりがあるようには見えない彼女はお金が入る話に関しては熱心なところがあるようにみえます。<br /><br /> 「上の階に何かあるのよ」と、最上階の謎について、具体的に指摘しているのは彼女しかいません。あとは、この伝染病騒ぎに深く関与していたと推測できる研修医のギレムくらい。老夫婦の妻も、「誰かが悪いことをした」とまで言いつつも、最上階については何も言っていませんし、他の住人たちも同じです。なぜ、ジェニフェルの母親だけが最上階について知っているのか。<br /><br />　結論、ジェニフェルの母親はワクチンの接種について知っていたということです。彼女は恐らく金を受け取り、マックスにワクチンを試験的に接種する試みについて同意した。もう1人、イスキエルド夫人についても同じ、彼女はお金を受け取って、接種に同意した可能性があります。彼女は孤独な人間でした。身よりもなく、友人もおらず、近所付き合いもしない彼女は、失敗するかもしれないこのワクチン接種の実験体として理想的だった。彼女に何かあっても、詮索されにくく、簡単に葬ることができるからです。<br /><br />　ジェニフェルの母親にとって予想外だったのは、マックスから娘のジェニフェルに感染してしまったことでした。後悔しても、もはや手遅れ。彼女はアパートの封鎖が始まる以前から興奮状態にありました。母親は自分に対する怒りとジェニフェルに対する罪悪感から人一倍、ヒステリックな状態におかれていたと考えられます。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-hyouron.up.seesaa.net/image/rec.E383ACE38383E382AF2Cd.jpg" width="256" height="192" border="0" align="" alt="rec.レック,d.jpg" /></div><br /><br />★誰が知っていたのか<br /><br />　ギレムが最もこの惨劇に深く関与した者の一人であることは間違いない。そして、1階の若い女。彼女はなぜ、皆と一緒におらず、わざわざ2階に上がり、イスキエルド夫人の部屋に行ったのでしょう。カギのかかったドアを開けてイスキエルド夫人の部屋に警察官らが入り、警察官が噛みつかれたときにはその若い女はいませんでした。彼女はその騒ぎが起きた後にイスキエルド夫人の部屋に入ったということです。彼女はイスキエルド夫人の部屋にどんな用があったのでしょうか。少なくとも、彼女はイスキエルド夫人に何が起こったのかを知っている人間だったと思われます。そうでない限り、あの部屋へわざわざ行こうとは思わないでしょう。<br /><br />　その他にどこまでが、"ぐる"だったのか。まず、警察官。警察官は外に出ようとする消防士やアンヘラらを必死になって止めようとします。イスキエルド夫人の事件が起きた後でも、仲間の警察官が死にそうになっていても、外に出ようとはしません。それどころか、警察官は銃で威嚇までして、皆を外に出さないようにしようとしていました。おそらく、警察官はアパートを封鎖することまでは聞かされていました。ただし、伝染病だの、ワクチンだのという計画の詳細は知らなかったでしょう。彼らは、閉鎖したアパート内の住人を統制するために送り込まれたのです。<br /><br />　彼らは消防士たちよりも先に警察が到着し、既にイスキエルド夫人の部屋のドア前に張りこんでいました。ずいぶんと早い到着です。いったい誰が警察に通報したのでしょうか。消防士たちを呼んだのは老夫婦の妻です。しかし、警察を呼んだのは誰か、明らかにはされません。警察を呼んだ者がいるとすれば、その者はなぜ、救急車を呼ばないのか。イスキエルド夫人は体調が悪いだけかもしれませんし、もし、そうならば、救急搬送が必要でしょう。そもそも、警察から消防署に通報がなかったのはなぜか。<br /><br />　答えは一つ、誰も通報していないからです。少なくとも、警察に緊急ダイヤルを介して通報した者はいない。病院に送られたマックスの死が当局に報告された時点で、このアパートは隔離されることが既定路線になっていました。一人の検査官として途中から入ってきた男は単なる検査官ではありません。彼は、寝たきりの父を自室に残してきたというアジア系家族の妻の訴えを聞いて、「全員を下に集めろと命令したろ！」と警察官に怒鳴ります。住人は消防士たちが到着したときにはすでに階下に集められていました。<br /><br /> 思えば、一人の老女が部屋の中で騒いでいるからと言って、アパートの全ての住人を1階に集めるのはやり過ぎです。しかも、その命令はイスキエルド夫人の部屋に入る前、彼女の状態が分かる前に出ていた。警察官が消防署に通報することなく、消防士よりも早く到着していたことも考え合わせれば、当局は最初から、アパートを隔離するつもりだったということが推測できます。消防士とともにアンヘラが駆けつけたときには既に、住民は下に集められていました。ということは、イスキエルド夫人の安否を確認する前から、このアパートの住人たちの行く末はすでに決定していたのです。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-hyouron.up.seesaa.net/image/reEFBD83.E383ACE38383E382AF2C4.jpg" width="252" height="143" border="0" align="" alt="reｃ.レック,4.jpg" /></div><br /><br />★屋根裏の子供、アンヘラを襲った女<br /><br />　最上階の部屋にいたのは、天井裏の子供とやたらに背の高い女でした。カメラマンのパウロは子供に顔を引っ掻かれ、女に殺されました。子供の奇声はアンヘラが暗闇へと引きずり込まれていく直前にも聞こえています。人間離れした背丈を持つ女と奇声を発する子供。彼らは何者でしょうか。<br /><br />　この部屋で行われていたのはワクチンの研究です。この部屋にあったのは大量の実験器具、膨大な枚数の壁に張られた写真と新聞の切り抜き、そして、キリスト像や十字架。写真は10歳前後の女の子の写真が多いようです。特徴的なのは、どの写真の女の子も、キリスト教の洗礼式の服装をしていること。さらに、いずれも目が潰されていたり、塗りつぶされたように顔の部分が黒くなっているものが散見されること。これだけの写真に同じキズが付けられているということは、この写真を見る者にその部分に対するコンプレックスがあるということが想像できます。<br /><br />　そして、新聞の切り抜きの記事の多くは「とりつかれた少女メデイロス」に関するものでした。そして、アンヘラの再生したテープレコーダーからは「"メデイロスの少女を殺せ"と教皇庁が」言ってきたという部分があります。そして、テープは「早く抹殺すべきだった」と続けていました。キリスト教圏でとりつかれるといえば、悪魔憑きでしょう。そして、部屋にはたくさんの十字架やキリスト像、聖人画、キリストやマリア像の写真。メデイロスの少女の切り抜きや写真が貼られた壁には、写真の上から大きな十字架がかけられていましたし、切り抜きや写真の間にもキリスト像の写真が混じって貼られています。<br /><br /> この部屋の持ち主が信心深い人だったとしても、あまりに多すぎます。これらは悪魔を寄せ付けないためにおかれていたのでしょう。さらに、アンヘラが再生したテープには「早く抹殺すべきだった。私が犯した大罪だ」というくだりがありました。つまり、この部屋にいた女は「悪魔にとりつかれたメデイロスの少女」であり、研究内容は悪魔憑きという病気に関するワクチン、あるいは薬の開発であったと推測できます。これらを研究していた男は教皇庁の命令があっても、少女を殺さず、しばらく研究を継続し、いよいよ追い詰められてからメデイロスを封印する決心をしたようです。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-hyouron.up.seesaa.net/image/rec.E383ACE38383E382AF.jpg" width="289" height="163" border="0" align="" alt="rec.レック.jpg" /></div><br /><br />★一枚の写真<br /><br />　大量の写真の中で、一枚だけ、離れた場所に貼られている写真があります。入口から一つ奥の部屋の正面の壁左のほうに、左側に男と少女が2人で写る写真が貼られていました。男は黒い服、そして少女はやはり白い洗礼服を着ています。恐らく、男は研究をしていた男、そして、一緒に写るこの少女はメデイロスではないでしょうか。さらに、テープレコーダーの近くにあった赤い手帳から落ちたのは3歳に満たない幼児の写真でした。この幼児は幼いころのメデイロスかもしれない。わざわざ手帳に挟んでいたということは男と心情的に何らかの近い関係にある子供であることが推測できます。<br /><br /> 研究をしていた男はローマ教皇庁の命令を受ける関係にありました。奥の部屋には司祭服がありました。薄汚れていますが、光沢のある生地に房のついた白い服。手前にキリスト像が置かれているところからすると、教会の儀式の際に着用する服であると推測できます。この部屋で研究していた男は聖職者、あるいは教会関係者であり、少女は教区の住民の子供、もしくは男と血縁関係にある子供ではないでしょうか。男は少女を救えると信じていたし、救うつもりで研究を続けていました。しかし、研究は失敗した。<br /><br /> テープレコーダーの記録によると、「酵素が突然変異」してしまったようです。そして、突然変異した酵素を含む薬を使用すると、イスキエルド夫人やジェニフェルのような症状を発症し、しかも、人に唾液により伝染していく。悪魔つきの病気を治すはずの治癒薬は、人に恐ろしい感染症を引き起こす悪魔の薬になっていた…というわけです。<br /><br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-hyouron.up.seesaa.net/image/rec.E383ACE38383E382AF2Ca.jpg" width="288" height="168" border="0" align="" alt="rec.レック,a.jpg" /></div><br /><br />★天井裏の子供<br /><br />　天井裏の子供はワクチンの被検体にされた子供ではないでしょうか。そして、メデイロスが異様な背丈を持っているのも、研究により開発された何らかの薬を投与されたからかもしれません。最初は少女を助けるつもりだった男の研究は多くの人間を犠牲にしました。彼の仕事はワクチンあるいは治癒薬を作るという少女とその他の人を救うことになる仕事のはずだった、しかし、今の彼はメデイロスを凶暴化させ、子供を犠牲にするだけ。<br /><br /> どちらが悪魔でどちらが神なのか、もう分からなくなっている。たくさんのキリスト教聖物の中に、ひときわ大きなマリア像の写真がありました。マリアの顔だけがアップして写されている大きな写真です。哀しげな眼を下に向けるマリア様は何を見ているのでしょうか。<br /><br /> 恐らく、この写真はキリストを抱くマリア（ピエタ）の一部だと思われます。十字架に磔にされ、絶命したキリストを十字架から降ろし、膝に抱くマリア。磔にされたキリストは人間の罪を全て背負って死んだとされます。それを抱くマリアは息子を失って悲嘆する一方、人間が我が子に対してした残酷な業を赦している。マリアが示すのは愛と赦しです。<br /><br /> 研究をしていた男は悪魔に憑かれた少女に愛情を持って接していました。しかし、救えなかった。多くのキリスト教関連の聖物のなかで、唯一の聖マリア。罪の赦しを聖マリアに乞う、男の気持ちが垣間見えるような気がします。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-hyouron.up.seesaa.net/image/rec.E383ACE38383E382AF2Ce.jpg" width="270" height="146" border="0" align="" alt="rec.レック,e.jpg" /></div><br /><br />★人間と悪魔<br /><br />　男は全てを封印したつもりでした。しかし、その封印は解かれました。あるいは、失敗した。最上階に入り、ワクチンを持ち出した者によってメデイロス事件の恐怖は解き放たれました。それが誰かは分からない。少なくとも、ギレムはそのことを知っていました。<br /><br />　未知のワクチンを試してみたくなったのか、試す必要がある、と考えられたのか。閉じ込められたアパートで、消防士の一人は「俺たちはまるで実験動物のようだ」と銃を突きつけて脱出を防ぐ警察官に叫んでいました。<br /><br />　アパートの住人たちは10歳に満たない子供から70歳を超える老人まで、幅広い年代で構成されています。これは偶然だったのでしょうか。さらに、異国の地で、他に血縁のなさそうなアジア系の家族、同居の母を亡くした一人暮らしのセザール、さらに高齢の老夫婦、と他に身よりのなさそうな人々が集められている。これも偶然でしょうか。彼らは、最初からワクチンの被験体にされるため、格安の家賃でこのアパートに集められたのではないか、そう考えることすら可能です。<br /><br />　新しい薬を作るための壮大な人体実験。薬は悪魔を滅ぼし、人を救うために開発されていたはずなのに、いつの間にか、多くの人間たちが犠牲になる。悪魔の悪行を防ぐための必要な犠牲、とアパートの住人たちは切り捨てられてしまったのか。人間はときに傲慢です。悪魔に誘惑されなくとも、自ら悪魔の道へと堕ちることはある。人が人の道に外れるのに悪魔は必ずしも必要ではありません。怖いのは傲慢さを悪魔のせいにして自らを省みないことなのかもしれません。誰の心にも、弱さという悪魔が潜んでいるのですから。<br /><br />　<strong><a href="http://eiga-kaisetu-hyouron.seesaa.net/article/167611260.html" target="_blank">→[REC/レック2]の『解説とレビュー』はこちら</a></strong><br /><br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-hyouron.up.seesaa.net/image/rec.E383ACE38383E382AF2C12.jpg" width="288" height="162" border="0" align="" alt="rec.レック,12.jpg" /></div><br /><br /><div style="text-align:center;"><span style="font-size:x-small;">All pictures in this article belong to CASTELAO PRODUCTIONS. S.A..</span></div><br /><a name="more"></a>

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<title>フェイス・オフ</title>
<description>映画：フェイス/オフ あらすじ※レビュー部分はネタバレあり　　愛息子を殺されたFBI捜査官ショーン・アーチャーは息子を殺した宿敵キャスター・トロイを追い詰め、逮捕することに成功する。しかし、キャスターは爆弾によるテロを計画していたことが判明し、爆弾の起動を止めるための捜査が始まった。キャスターの弟ポラックス・トロイから爆弾の設置場所を聞き出すため、アーチャーはある任務を引き受ける。　それは、キャスターの顔と体をアーチャーに移植し、アーチャーがキャスターとして刑務所のポラックス..</description>
<dc:subject>『は行』の映画</dc:subject>
<dc:creator>なお</dc:creator>
<dc:date>2010-10-22T19:40:34+09:00</dc:date>
<content:encoded><![CDATA[
<strong><span style="font-size:large;">映画：フェイス/オフ あらすじ</span></strong><br />※レビュー部分は<strong>ネタバレ</strong>あり<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38395E382A7E382A4E382B9E383BBE382AAE383952C2.jpg" width="238" height="150" border="0" align="" alt="フェイス・オフ,2.jpg" /></div><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38395E382A7E382A4E382B9E383BBE382AAE383952C4.jpg" width="116" height="160" border="0" align="" alt="フェイス・オフ,4.jpg" /><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38395E382A7E382A4E382B9E383BBE382AAE383952C24-e38a7.jpg" width="115" height="160" border="0" align="" alt="フェイス・オフ,24.jpg" /><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38395E382A7E382A4E382B9E383BBE382AAE383952C24.jpg" width="115" height="160" border="0" align="" alt="フェイス・オフ,24.jpg" /><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38395E382A7E382A4E382B9E383BBE382AAE383952C8.jpg" width="116" height="160" border="0" align="" alt="フェイス・オフ,8.jpg" /></div><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38395E382A7E382A4E382B9E383BBE382AAE383952C25.bmp" width="94" height="140" border="0" align="" alt="フェイス・オフ,25.bmp" /><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38395E382A7E382A4E382B9E383BBE382AAE383952C6.jpg" width="134" height="140" border="0" align="" alt="フェイス・オフ,6.jpg" /></div>　<br /><br />　愛息子を殺されたFBI捜査官ショーン・アーチャーは息子を殺した宿敵キャスター・トロイを追い詰め、逮捕することに成功する。しかし、キャスターは爆弾によるテロを計画していたことが判明し、爆弾の起動を止めるための捜査が始まった。キャスターの弟ポラックス・トロイから爆弾の設置場所を聞き出すため、アーチャーはある任務を引き受ける。<br /><br />　それは、キャスターの顔と体をアーチャーに移植し、アーチャーがキャスターとして刑務所のポラックスに接触するという計画だった。アーチャーはポラックスから爆弾の設置場所を聞き出すことに成功するものの、キャスターが病院から逃げ出してしまう。しかも、キャスターはアーチャーの顔を自らに移植し、関係者全員を殺害してしまったのだ。これで、アーチャーがキャスターになり済ましていることを知る者はいなくなってしまった。<br /><br />　キャスターはアーチャーになり済まし、FBI捜査官としてポラックスを釈放し、爆弾の解除作業にも成功する。キャスターはロサンゼルスをテロから救ったヒーローとして一世を風靡していた。一方、キャスターにFBI捜査官の仕事を乗っ取られ、家族も奪われたアーチャーは、キャスターから家族や仕事を取り返すため、脱獄することを企てる。<br /><br />　ジェット機が倉庫に突っ込み、ボートが大爆発して火柱を上げ、銃撃戦がスローモーションで展開する。その他、鏡を使った対決シーンの演出、2丁拳銃など、ジョン・ウー監督らしい演出や、派手で豪快なアクションは見もの。一方で、単なるアクション・ムービーに終わらないストーリー展開、人物の心理描写にも注目したい。娯楽要素とメッセージ性に富んだ大作に仕上がっている。<br /><br /><p><br /><iframe src="http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?lt1=_blank&bc1=FFFFFF&IS2=1&bg1=FFFFFF&fc1=ADADAD&lc1=ADADAD&t=naokonh-22&o=9&p=8&l=as1&m=amazon&f=ifr&asins=B00472MESS" style="width:120px;height:240px;" scrolling="no" marginwidth="0" marginheight="0" align="left" frameborder="0"></iframe><br />【映画データ】<br />フェイス/オフ<br />1997年(1998年日本公開)・アメリカ<br />監督 ジョン・ウー<br />出演 ニコラス・ケイジ,ジョン・トラヴォルタ,ジョアン・アレン,<br />アレッサンドロ・ニヴォラ,ジーナ・ガーション<br /><br clear="left"/></p><br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38395E382A7E382A4E382B9E383BBE382AAE383952C5.jpg" width="280" height="200" border="0" align="" alt="フェイス・オフ,5.jpg" /></div><br /><br /><strong><span style="font-size:large;">映画：フェイス/オフ 解説とレビュー</span></strong><br />※以下、<strong>ネタバレ</strong>あり<br /><br />★自分とは誰か<br /><br />　自分とは何でしょうか。ショーン・アーチャーとは。分かるようで、分からない。彼は、FBIテロ対策チームのメンバー。そして、容疑者を厳しく尋問する捜査官。キャスター・トロイを追う男。イヴの夫。ジェイミーの父親。そして、亡きマイケルを守り切れなかった父親。「自我」は我が心の中にある、誰にも触れられない自分だけのもののように思えるけれど、実は、他者との関係性の中からかたどられていきます。だから、周囲の環境や、周囲にいる人々の影響をとても受けやすい。他者との関係性を通して、人間は自分というものを認識しているのです。<br /><br />　鏡を見たアーチャーは愕然としました。鏡にはキャスターの顔。あの憎むべき男の顔が映っているのが見えます。そして、その顔は自分の顔だと主張しています。自分が話せば、向こうも口を開き、自分が怒れば、向こうも表情を歪めます。キャスターの顔をもつ自分。顔を取り換えるだけ、中身は入れ替わるわけじゃない、そのはずだったのに、顔が変わった自分は何かが違う。顔をとりかえるという計画であることはもちろん、百も承知でこの極秘作戦を引き受けたアーチャーでしたが、手術の結果、取り換えられた顔は彼の中にある何かを壊していきました。<br /><br />　刑務所に入れば、アーチャーは犯罪人キャスターとして扱われます。刑務官に足蹴にされ、囚人たちからは袋叩きにされてしまいます。アーチャーはキャスターを演じなくてはならないのに、当初は自らの受ける扱いに茫然として全く抵抗することができないでいました。しかし、アーチャーはキャスターの弟、フォラックスの視線を感じます。<br /><br />　フォラックスはアーチャーを凝視していました。アーチャーはその視線を感じ、思い出します。自分は「キャスター・トロイ」であるということを。彼は囚人たちを殴り飛ばし、デュボフという囚人を突き倒しました。そして、トレイを振り上げ、彼ののど元へと振り下ろそうとします。「俺はキャスター・トロイだ！」と叫び、周りはやんややんやの大喝采。そのときのアーチャーは完全に殺人者へと変貌していました。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38395E382A7E382A4E382B9E383BBE382AAE383952C7.jpg" width="280" height="151" border="0" align="" alt="フェイス・オフ,7.jpg" /></div><br /><br />★揺らぐ自我<br /><br />　鏡を見たときにアーチャーが受けたショック。それは自分が崩壊していくことへの恐怖でした。しかし、この恐怖はデュボフに死につながる暴力を振るおうとしたアーチャーには存在しません。アーチャーの行動はまさに犯罪者キャスター・トロイの名に恥じぬ振舞いでした。ここで重要なのは、その振舞いをしているのが、ショーン・アーチャーその人だということです。キャスターの外見を持ってはいるが、中にいるのはアーチャー。アーチャーはキャスターを演じる必要がありました。<br /><br />　しかし、デュボフを殺そうとしたときのアーチャーは一体本当に、演技だったのか。アーチャーにはそれが演技であると言い切る自信はありません。あのときのアーチャーの心には確かに殺意が芽生えていたからです。そのことを自覚したアーチャーは自らに対する恐怖を覚えました。<br /><br />　アーチャーはもともと、激しい気性の男でした。寡黙で真面目な捜査官である一方、容疑者に対しては容赦ない尋問を加えます。特に、彼は殺された息子マイケルの記憶について、他人に触れられるのを極度に嫌がっていました。また、息子を殺したキャスター・トロイに対しては人一倍の憎しみを持っていました。キャスターの恋人のサーシャに対しては、彼女の息子を引き離すと脅しつけて尋問します。サーシャの兄のディートリヒは、尋問中、マイケルの死を使ってアーチャーを挑発し、銃を突きつけられていました。<br /><br />　あのときのアーチャーにはFBI捜査官であるという自制心が働いていました。FBIの建物内にある尋問室で、アーチャーにはFBIの一員であるという意識があります。アーチャーはディートリヒに対してしたように、我を失うことがあっても、その後、それについて深く考えることはありませんでした。最後の一線は越えてはならないという暗黙の了解が自己の中にあったからです。<br /><br />　しかし、刑務所という殺伐とした環境、そして、捜査官という身分を失い、キャスター・トロイという犯罪者を演じることになったアーチャーはその一線を失いました。そのことに気が付いたときのアーチャーの恐怖はすさまじいもの。アーチャーはこのデュボフの一件以来、自分自身というものの不確かさに不安感を抱くようになります。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38395E382A7E382A4E382B9E383BBE382AAE383952C19.jpg" width="243" height="179" border="0" align="" alt="フェイス・オフ,19.jpg" /></div><br /><br />★殺意と自制心<br /><br />　脱獄した彼はディートリヒら古くからの仲間のいるアジトへと逃げ込みました。そこで差し出されたのはあの黄金の2丁拳銃。キャスターのシンボルともいえる、ド派手な拳銃をアーチャーは手に取ります。拳銃はキャスターの極悪性を象徴するもの。これを身につけるということは、また一歩、本物のキャスターへと近づくことになります。<br /><br />　アーチャーは差し出されたコカイン入りの酒を飲み、意識が高揚し、朦朧としはじめます。彼はこれからの計画として、アーチャーの自宅を襲う計画を語り、自宅のセキュリティナンバーまで喋ってしまいました。「死んだ息子の誕生日だよ…泣ける話だろ？」<br /><br />　キャスターの仲間と馬鹿笑いするアーチャーはもはやキャスターその人。アーチャーを捕まえてどうするんだと尋ねる仲間に、「顔を剥がしてやるのさ！」さすがの悪党どももこれには沈黙してしまいます。アーチャーはもはやキャスターに対する殺意を隠しません。薬の力を借りたことで、アーチャーの心は完全に自制心を失っていました。キャスターに対する憎しみ、復讐心、怒り、全てがアーチャーの心を支配していきました。<br /><br />　トイレに立ったアーチャーが見たものは鏡。そこに映るのはキャスターの顔を持つ自分の姿。「これは俺じゃない…俺…」と繰り返すアーチャーは、我に返っていきます。憎むべきキャスター。息子を殺したキャスター。今、俺はその男と同じところに立っている。犯罪者となろうとしている。<br /><br />　捜査官という立場がある以上、タガが外れても、一線を越えずに済んでいたアーチャー。それは自らの立場や同僚の存在、そして、職場という場所によって律されていたからでした。しかし、追われる犯罪者の立場に陥ったアーチャーを止めるのは自分自身しかいません。やろうと思えば、どこまでも落ちていくことのできる犯罪者という立ち位置で一線を越えないためには、自分のしていることを自覚し、そして強く自らを律する心が必要でした。<br /><br />　鏡の前で自分自身と戦っているアーチャーに女の声がかかります。「死んだんじゃなかったの？」アーチャーは「死んでないさ、おれはおれだ」。おれはおれ。アーチャーはアーチャーであり、キャスターではない。これは彼女の問いに答えたものであると同時に、アーチャー自身に対する答えでもありました。まだ、アーチャーは死んでいない。まだ、壊れてはいない。アーチャーは危ういところで、自分自身の変化に気が付くことができたのです。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38395E382A7E382A4E382B9E383BBE382AAE383952C15.jpg" width="288" height="172" border="0" align="" alt="フェイス・オフ,15.jpg" /></div><br /><br />★サーシャとの出会い<br /><br />　アーチャーに声をかけてきた女はサーシャでした。彼女はアーチャーをキャスターだと思い込んで話しかけています。キャスターとサーシャには5歳の息子アダムがいました。最初、アダムの存在を聞いたアーチャーの顔は不穏な表情でした。アーチャーの心をよぎったのは何でしょうか。マイケルを殺された怒り、そして、憎むべき敵の息子がいるということ…アーチャーはもしかしたら、アダムをキャスターとの闘いに利用できるかもしれないと考えたのかもしれません。<br /><br />　そのとき、ふらりとアダムが部屋に入ってきました。アーチャーはアダムを見て、まるで毒気を抜かれたかのよう。アダムを抱きしめ、マイケルと乗ったメリーゴーランドのことを思い出します。涙を流すアーチャーにはマイケルへの思いに加え、さっきまでアダムに対して考えていたことへの後悔があったのかもしれません。そして銃撃戦。激しい弾の雨の中、体を張ってアダムをかばうアーチャーは完全に父親として行動していました。<br /><br />　ディートリヒが撃たれ、絶命してしまいます。いまわの際の言葉は「おれたち、楽しかったよなぁ…」。ディートリヒはアダムやサーシャを狙ったキャスターの弾に被弾したのでした。キャスターは昔の仲間に対しても容赦しません。しかし、ディートリヒはキャスターを友人として信頼していました。かつて、アーチャーがディートリヒを取り調べた際、彼はマイケルのことを持ち出して、アーチャーを逆上させた男です。しかし、彼も人間。体を張って妹サーシャを逃がし、友人を信頼する人間でした。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38395E382A7E382A4E382B9E383BBE382AAE383952C11.jpg" width="288" height="192" border="0" align="" alt="フェイス・オフ,11.jpg" /></div><br /><br />★アーチャーの変化<br /><br />　アーチャーは傲慢な人間でした。キャスター・トロイらを逮捕した翌日、アーチャーを拍手で迎え、ねぎらうFBIの同僚たちに皮肉を言い、容疑者をまるで、相手がモノであるかのように扱って厳しい尋問を加える。確かに、トロイ兄弟の逮捕には多大な犠牲を伴いましたし、死者も出ています。また、テロを食い止めるためなら容疑者に対して厳しい態度をとることも必要でしょう。<br /><br />　しかし、アーチャーの場合は、全てが、自分自身の都合で回っている。アーチャーの過去も理解したうえで、キャスターの逮捕を祝ってくれるFBIの同僚たちの気持ちなど、彼はまったく汲み取ろうとしませんし、アダムの父であり、仲間であるキャスターをかばいたいという兄ディートリヒや妹サーシャの気持など察しようという気持ちすらありません。<br /><br />　また、家庭でもそうでした。仕事優先で、妻や娘のことなどはすべて後回し。妻は日記で夫の不在を嘆きますが、アーチャーにはそれに気が付く余地すらありません。これらすべての根本にあるのは息子の死。息子を亡くしてからというもの、アーチャーはマイケルの死にとりつかれていました。何事にもすべて、息子の死が先に立ちます。息子の死、それに続く後悔、そして、息子を殺したキャスターに対する復讐心。アーチャーはこうした自分自身の気持ちを優先しすぎ、周囲の人間の気持ちを全く考慮しようとしない人間でした。<br /><br />　ディートリヒやサーシャと深く知りあうにつれ、アーチャーは変化していきます。他の人間の気持ちをくみ取るということ、そして、彼らにも、愛や友情があり、守るべきものがあって生きている、一人の人間であるということ。アーチャーは、倒れるディートリヒを支え、壁にもたせかけてやりました。<br /><br />　アジトでの銃撃戦、鏡越しにキャスターとアーチャーは対峙します。「2つばかり、俺の気にいらないものがあるんだ」とキャスター。それはアーチャーの顔と体でした。敵として見てきた男の外見で生きる人生は深刻な心理的相克をもたらします。アーチャーが感じたものと同じ感情をキャスターも抱いていました。<br /><br />　「元に戻ろうぜ」というキャスターの言葉に対して、アーチャーは「失ったものはもう戻らない」と言い返します。次の瞬間、2人が撃ったのは鏡の反対側にいる相手。それでいて、鏡に映るのは銃を撃つ、敵の顔を持つ自分。彼らは鏡の反対側にいる相手を狙いつつ、自分自身をも撃っていたのです。憎いのはキャスター、そしてキャスターの顔を持つ自分自身。マイケルの死に固執して、今を生きている家族の幸せを犠牲にしてしまった自分自身。鏡に映った自分の姿を撃つことは、このような事態を招いてしまう決断をしたアーチャー自身に対する、アーチャーによる制裁でもありました。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38395E382A7E382A4E382B9E383BBE382AAE383952C16.jpg" width="248" height="166" border="0" align="" alt="フェイス・オフ,16.jpg" /></div><br /><br />★父親として<br /><br />　アーチャーは変わっていきます。サーシャをかばうため、葬儀に来るなと言うアーチャー。アダムの消息をサーシャに言われるより先に尋ねたのはアーチャーです。彼は心からアダムに気遣うようになっていました。<br /><br />　キャスターとアーチャー、サーシャ、そしてキャスターの手下たちがそれぞれに銃を突きつけ合う場面、サーシャはアーチャーをかばいました。彼女は息子をアーチャーに託して死んでいきます。「坊やのことをお願い。大切な子なの。わたしたちみたいな人間に育てないで…じゃあね」。<br /><br />　サーシャはアーチャーがキャスター本人でないことに気が付いていました。そして、葬儀に来た彼女はあのアジトでの銃撃戦の日、自分と息子を撃とうとした男がキャスター本人であることに気が付きます。そんな男にはアダムを託せない。そして、それ以上に、サーシャはアーチャーを評価していました。身を張ってアダムを守ってくれたアーチャー、そして、何より、マイケルを亡くした彼は失う辛さを知っている。サーシャは血のつながった父親よりも、より父親らしい、父親にふさわしい男としてアーチャーを選んだのです。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38395E382A7E382A4E382B9E383BBE382AAE383952C21.jpg" width="270" height="198" border="0" align="" alt="フェイス・オフ,21.jpg" /></div><br /><br />★キャスター・トロイ<br /><br />　キャスター・トロイは冷酷無比な犯罪者でしょうか。しかし、彼はそうではありません。彼は人を愛し、大切にすることのできる人間。ただし、彼は、自らの目的を完遂することを何よりも優先する男でした。アーチャーの愛息子マイケルを謝って射殺したときのことです。キャスターはマイケルに弾が当たる恐れがあることに気が付き、いったん、照準から目を離しました。<br /><br />　しかし、結局、彼は狙撃を決行し、マイケルは死んでしまいます。彼はFBI捜査官としてかつてのアジトを襲撃したとき、仲間を撃ち殺すことにためらいはありません。サーシャに対しても、その幼い息子に対しても。彼は友人ディートリッヒも手にかけました。<br /><br />　今のアーチャーとしての生活を守るため、このときのキャスターは何よりも、アーチャーの殺害を最優先していました。また、キャスターは弟が屋根から転落したときも、まず、アーチャーを仕留めることを優先しました。弟の安否を確かめるのはその後。彼は弟を愛していました。ただ、何を優先するかについて、キャスターなりの優先順位があるだけ。<br /><br />　キャスターは最後の最後までそうでした。キャスターはアーチャーの家族を彼なりに愛していましたが、結局は逃げるため、彼女らを人質にとります。キャスターは死ぬまで、自らの優先順位を崩すことはありませんでした。この自分自身を何よりも優先するキャスターの生き方は結局、キャスターから親しい人を遠ざけていきました。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38395E382A7E382A4E382B9E383BBE382AAE383952C23.jpg" width="235" height="189" border="0" align="" alt="フェイス・オフ,23.jpg" /></div><br /><br />★アーチャーとしての生活<br /><br />　キャスターはアーチャーらの計画により自らの顔を失いました。彼は医師を脅して、アーチャーの顔を自らの顔に張り付け、アーチャーとして生きることにします。家族も、仕事も、全て、アーチャーのものを引き継ぐ。当初、キャスターはアーチャーの人生を全て乗っ取ることができるということに魅力を感じていました。自らの宿敵であるアーチャーが持っているものを全て横取りできる。アーチャーは悔しがるでしょう。いい気味です。キャスターにとっては非常に気持ちがいい。アーチャーに対する優越感でキャスターは一杯になっていました。<br /><br />　アーチャーにあって、キャスターにないもの、それは社会的な名誉です。確かに、キャスターは犯罪者としては成功していました。しかし、それは社会的名誉ではない。キャスターはあくまで非合法な裏の世界での成功者だったからです。キャスターはFBI捜査官としての権力と成功、そして絵にかいたような中流階級の庭付きの家、妻と娘という生活に一種の社会的ステイタスを感じていました。思い切り楽しんで、飽きたら終わり、その程度に考えていたかもしれません。<br /><br />　1000万ドルよりも名声が欲しいと、キャスターは自ら仕掛けた爆弾の起動を止め、爆発を阻止します。彼は2秒前に爆発を止めたのですが、マスコミには1秒前に爆発を止めたと発表しているところに、キャスターの名誉欲が感じられます。<br /><br />　このもくろみは大成功。彼は一躍時の人となり、マスコミに大きく取り上げられる有名人になりました。そして、アーチャーの妻イヴに豪勢なロブスターのディナーを用意し、仲睦まじい夫婦生活を満喫し、娘とはタバコを吸っては何かと話をする仲になります。すべては完璧…犯罪に明け暮れ、危険と背中合わせの生活をしていたころとは違う穏やかな生活がそこにはありました。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38395E382A7E382A4E382B9E383BBE382AAE383952C22.jpg" width="256" height="188" border="0" align="" alt="フェイス・オフ,22.jpg" /></div><br /><br />★キャスターの変化<br /><br />　「疲れた…」と言って帰ってくるキャスター。イヴの肩を揉み、日記を盗み読んだことを告白します。気軽に飛び込んだアーチャーの生活はキャスターを魅了していました。彼は本気でした。イヴに対して、「もっと優しい夫になるよ」といったのは嘘ではありません。少しの間だけ、アーチャーの生活を楽しむだけなら、イヴの日記を読んだことを告白する必要はありませんし、「君まで失うんじゃないかと思うと…家族は君ひとりだ」などと言う必要もないでしょう。<br /><br />　アーチャーが脱獄した今、キャスターにはとりあえず逃げるという方法もあったはず。しかし、キャスターはアーチャーとして生きることに固執します。弱音を吐くことのできるのが、家庭。殺伐とした犯罪者の世界を生きてきたキャスターにとって、「疲れた…」と言って帰ってこられる場所があるのは今までに感じたことのない、幸せでした。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38395E382A7E382A4E382B9E383BBE382AAE383952C18.jpg" width="165" height="225" border="0" align="" alt="フェイス・オフ,18.jpg" /></div><br /><br />★ジェイミーの心を開くキャスター<br /><br />　キャスターにとって、アーチャーの家族は本物の自分の家族のようになっていました。ぐれているジェイミーを気遣う気持ちは本物です。乱暴されそうになったジェイミーをボーイフレンドのカールから助けるキャスターはまさに父親でした。<br /><br />　「何を突っ張ってる？マイケルが死んでからずっとそうだ。自分の顔を必死で作り変えて」と派手なメイクや髪型をしているジェイミーを諭すキャスター。ジェイミーはマイケルの死が忘れられずにいました。それはマイケルが死んだことがショックだったことももちろんありますが、それよりも大きかったのは父親アーチャーの変化です。マイケルを失ってからというもの、とりつかれたようにマイケルの思い出を追いかけ、家庭などないかのように振舞うアーチャー。<br /><br /> アーチャーはマイケルを守れなかったという自分自身への罪悪感への償いとして、キャスターを捕まえることに情熱を傾けていました。もう1人の子、娘のジェイミーのことなど、眼中にないように見えます。ジェイミーは寂しかったのです。今は亡き弟のことしか頭にない父親。死んでしまった者に張りあうことはできません。<br /><br />　ジェイミーは父親に、家族の元へ帰って来て欲しかった。父親の関心を引きたい、父親に自分自身の存在をアピールしたいというジェイミーの気持ちは、彼女の派手な行動として現れていました。派手なメイク、奇抜な髪形、停学処分。しかし、父親のアーチャーはジェイミーを責めるばかり。「私は私だよ！って言っても分かんないだろうけどね！」というジェイミーの言葉には、マイケルとの過去に囚われ、娘を省みようとしない父に対する不満が現れているのです。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38395E382A7E382A4E382B9E383BBE382AAE383952C13.jpg" width="280" height="193" border="0" align="" alt="フェイス・オフ,13.jpg" /></div><br /><br />★夫婦<br /><br />　イヴやジェイミーとの生活は順調でした。しかし、キャスターの幸せは長くは続きません。脱獄したアーチャーが迫って来ていたからです。夜中に家を抜け出したイヴを追って、病院にやってきたキャスターはイヴの近くにアーチャーがいないことを確認してほっとした様子を見せます。<br /><br />　「ウソついて本音を隠して実の夫婦みたいになってきた」と言うキャスター。キャスターにとっての妻に当たる人はサーシャです。彼女とは息子がいるほどの長い関係でした。しかし、そのサーシャとも、このところは疎遠になっています。女遊びが派手なキャスターはいろいろな女と遊び歩き、サーシャの元へはめったに戻ってきません。<br /><br /> 一方のアーチャーも、妻イヴが日記に「もう2カ月も愛し合ってない」「ディナーの約束をすっぽかされた」と綴っているように、すっかり、冷めた夫婦関係になっていました。キャスターとサーシャ、アーチャーとイヴ。キャスターの知る「実の夫婦」とはこんな関係。ドライで、隙間風が吹いている。まるで、一緒にいることが義務になってしまっているような関係。この2つのカップルはまさにそんな関係を続けていました。キャスターとアーチャーが顔を取り換えるまでは。<br /><br />　夫婦とは本来、愛情と信頼の上に成り立つもの。しかし、長い年月が経ち、さまざまなすれ違いを積み重ね、互いを思いやる余裕や配慮がなくなれば、その関係にはきしみが生じてきます。夫婦とは、本来、一緒にいてくつろげる関係、温かい関係のはず。血液型を分析し、キャスターがアーチャーを装っていることが判明しても、イヴはアーチャーに銃を構え、容易には信用しませんでした。<br /><br />　キャスターのかけてくれた優しい、愛情のこもった言葉やしぐさ、そして彼を夫だと思い込んで過ごした1週間。目の前の男が言っていることは嘘なのだと思いたいイヴの気持ちが強かったからです。互いの立場を変え、入れ替わった2人は夫婦たるものが、本来どんな関係であるかを再び知ることになりました。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38395E382A7E382A4E382B9E383BBE382AAE383952C20.jpg" width="185" height="252" border="0" align="" alt="フェイス・オフ,20.jpg" /></div><br /><br />★親子<br /><br />　葬式に向かうとき、姿を見せないジェイミーをキャスターは心配します。「ジェイミーは？」とたずねるキャスターに、イヴは「私の財布から50ドル盗んで消えた」。キャスターは無言ですが、くそっといった悔しそうな表情を見せます。キャスターは本気でジェイミーに立ち直ってほしいと思っていました。そして、そのために、彼女と話す時間を持ち、彼女を諭してきたはずなのに、イヴから50ドル盗むとは…。この表情からも、キャスターがジェイミーを思う気持ちが本物だったことが分かります。<br /><br />　ただし、この50ドルはイヴの嘘でした。彼女は既に、アーチャーとキャスターの顔が交換されていることを知っています。イヴはジェイミーを安全な場所へと逃がすための方便として嘘をついたのです。しかし、ジェイミーが銃撃戦のさなかに教会へとやってきてしまいました。ジェイミーなりに、何かを感じ取ったのか、心配になったのでしょうか。<br /><br />　彼女はキャスターに銃を突きつけるアーチャーに出くわします。ジェイミーは真相を知りません。アーチャーもキャスターもどちらも、ジェイミーの父親のアーチャーだと叫びます。キャスターのマイクロチップは外れ、既にキャスターはアーチャーの声を失っていました。キャスターもアーチャーも声はキャスター。果たして、ジェイミーはどちらを選択するでしょうか。彼女はアーチャーに向かって発砲しました。<br /><br />　キャスターの顔を持つ男が本物のキャスターなら、自分が父親のアーチャーだと叫ぶのは不自然です。銃を突きつけ、主導権を握っている今の状況下では、そんな嘘をついているよりも、さっさと2人とも射殺する道を選んだでしょう。また、今まで父親だと名乗っていた男の声が別人の声に変わっていることを考えると、ジェイミーがキャスターが嘘付きだと判断する余地は十分にありました。しかし、ジェイミーは偽物のアーチャーであるキャスターを父親だと判断します。<br /><br />　父親とは何でしょうか。生物学的に父親かどうかは血縁で決まります。しかし、人間が成長する上で、本当に必要な「父親」とは、自分を愛してくれる人であり、自分を思ってくれる人であり、守ってくれる人であり、自分が尊敬できる人です。それは血液型やDNAで決まる問題ではない。この点において、キャスターは立派に父親としての務めを果たしていました。娘の話を聞き、娘と一緒の時間を過ごしたこと。時間にしたら、ほんのわずかな時間ではあったけれど、キャスターはジェイミーの心を開くことに成功していました。ジェイミーはキャスターを信頼していました。　<br /><br />　一方、アダムの母、サーシャはアーチャーを父として選択しました。判断した理由はジェイミーと同じ。アーチャーが父親としてアダムを愛し、守ってくれると信じたからです。キャスターも、アーチャーも、共に、入れ替わったそれぞれの家庭で、本当に「父親」になっていました。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38395E382A7E382A4E382B9E383BBE382AAE383952C12.jpg" width="278" height="189" border="0" align="" alt="フェイス・オフ,12.jpg" /></div><br /><br />★キャスターの死<br /><br />　アーチャーとの激闘の末、キャスターは追い詰められ、絶体絶命の危機に陥ります。アーチャーと死闘を演じ、両脚を負傷した彼に、もはや逃げる力は残っていませんでした。彼は捕まるか、それともここでアーチャーに殺されるか。どちらかの道しか残されていません。彼はアーチャーを挑発します。<br /><br />　「あんた、鏡を見るたびに俺の顔を見ることになるんだぜ！」そして、キャスターは顔にナイフをあてて、切り裂いていきました。それを見た瞬間、アーチャーは引き金を引きます。何度も何度も。彼はアーチャーに確定的な殺意を抱いたのです。アーチャーは最終的にキャスターの股間を蹴りあげて、モリを握っていたキャスターの手を離させました。キャスターの腹部にモリが刺さり、キャスターは絶命します。<br /><br />　キャスターはかつて知らず、そして知ることもなかったはずの人生を知ってしまいました。愛情のある温かい人生が送れるかもしれない、イヴやジェイミーとの生活を通して、キャスターが一瞬でもそう思ったことがあったのは間違いありません。<br /><br />　しかし、それはアーチャーという男の人生。どうやっても、キャスターのものにすることはできませんでした。それを決定づけるのが、アーチャーの顔と体をもつ自分。これはキャスターの"新しい人生"を阻む最大の要因でした。どうがんばっても、キャスターに残されているのは、仲間と大金を追いかけ、殺人をもいとわずに犯罪を繰り返す人生。<br /><br /> サーシャは「私たちみたいな人間」と言っていました。サーシャには可愛い息子がいました。彼女も息子を愛していたし、今の環境が息子にとって良くないことも全部分かっていました。にも関わらず、彼女は麻薬が身近にあり、犯罪者たちがたむろするようなところで暮らすことをやめられない。なぜなら、他に生きる道はないからです。彼女は他に生きていく道を知らないし、他に頼れる人もいない。結局、どんなに顔を取り換えても、キャスターもサーシャの言う「私たちみたいな人間」の一人なのです。ここまで人生を歩んできて、今さら、道は変えられない。<br /><br />　キャスターは、鏡越しの決闘の際、お互い元の姿に「戻ろうぜ」とアーチャーに呼びかけたことがありました。キャスターは本心、戻りたかったわけではない。しかし、顔を取り換えた今の生活は永遠には続かない。キャスターにはイヴと共有する過去がないからです。アーチャーとイヴの慣れ染めをしらないキャスターは、ロブスターを食べられない、ベジタリアンのイヴにロブスターのディナーを出してしまう。<br /><br /> 特に、マイケルの墓参りをしたとき、キャスターは二人のずれを感じていました。「あの男に殺されなければ今頃…」となくイヴの気持ちに寄り添うことは、キャスターにはできません。そして、鏡を見るたびに映るアーチャーの顔。このさき、ずっと心理的葛藤に悩まされるのはあまりに辛い。キャスターにはいずれは元の生活に戻るしかないことが分かっていました。<br /><br />　そして、最後の決戦、アーチャーに追い詰められた彼には捕まるか、死ぬかの選択が迫ります。もはや、元の生活に戻るという選択肢も消え去った。そして、刑務所には行きたくない、となれば…。キャスターは自分に残された最後の道、死を選びました。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38395E382A7E382A4E382B9E383BBE382AAE383952C10.jpg" width="280" height="169" border="0" align="" alt="フェイス・オフ,10.jpg" /></div><br /><br />★自分を殺したアーチャー<br /><br />　キャスターを殺したアーチャーは意識が遠のき、救急搬送されることになります。隣のストレッチャーにはこと切れたキャスターが横たわっていました。アーチャーは静かに彼の手を取り、結婚指輪を外します。死んで横たわる男の顔は自分の顔。彼はその顔に一瞥を向けた後、自らも並んで横になります。アーチャーの顔をしたキャスターはアーチャーの過去そのものでした。<br /><br /> アーチャーはキャスターという犯罪者と戦い、また、自分自身とも戦っていたのです。キャスターはもちろん、マイケルを殺した殺人犯。そして、アーチャーが戦っていた自分とはマイケルの記憶から抜け出せない自分自身であり、その自分のせいで、犠牲を強いた家族に対する罪悪感や後悔、哀しみが具現化したものでした。キャスターを倒すことで、自分自身の過去を断ち切る。アーチャーが横たわるキャスターを見る視線にはもはや、憎しみはありません。そして後悔も。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38395E382A7E382A4E382B9E383BBE382AAE383952C3.jpg" width="273" height="184" border="0" align="" alt="フェイス・オフ,3.jpg" /></div><br /><br />★未来へ<br /><br />　アーチャーはマイケルの記憶に囚われていました。マイケルの記憶は忘れてはならない大切なもの。しかし、その記憶に囚われ、そこから逃げ出せなくなってしまえば、それは不幸な出来事しか生みだしません。マイケルの記憶に囚われるということは、キャスターへの憎しみからも逃れられないということ。常に怒りを内に秘め、キャスターへの復讐心を抱いていれば、他のことなど気が回りません。家庭はほったらかしになり、娘や妻とも疎遠になる。そして、職場では孤立する。何もかも、マイケルの死、あるいはキャスターに対する憎しみを起点に考えるようになる。<br /><br /> もう少し、弾道が左だったら、マイケルは生きていたと妻に呟くアーチャー。もう少し左だったら、アーチャーが死んでいた。それだって、マイケルが死んだと同様の悲劇を家族にもたらすことに頭が回っていません。そして、今回の事件を引き起こした顔の入れ替え計画だって、キャスターの犯罪を止めるためなら、何でもするというアーチャーの決意が起こしたもの。結果的には、アーチャーの言葉を借りれば「何をしても償いきれない」ものを家族に残してしまいました。<br /><br />　「心臓のすぐそばに…傷があったんです…もういりません」。顔と体を元に戻す手術を受ける際、医者にアーチャーはこう告げます。心臓のすぐそばの傷はマイケルが殺されたときにできた銃創痕。そして、その傷痕はもういらないと言う。<br /><br />　アーチャーとマイケルの決別です。これはマイケルを忘れるということではありません。マイケルの記憶を糧にして、未来へと歩いていくということです。アーチャー家にはアダムという新しい家族も増えました。すっかり更生したジェイミーは弟ができたことを喜んでいる様子。過去を共有することは家族のつながりをより強いものとしてくれます。しかし、過去を変えることはできない。一方で、未来はこれから切り開いていくもの。未来にはまだまだ新しい可能性がたくさん広がっています。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38395E382A7E382A4E382B9E383BBE382AAE383952C9.jpg" width="288" height="124" border="0" align="" alt="フェイス・オフ,9.jpg" /></div><br /><br />★フェイス/オフの意味<br /><br /> 「フェイス オフ」（face off）とは対決するという意味。素直にアーチャーとキャスターの対決という意味にとればいいでしょう。フェイス・オフはアイスホッケー用語でもあり、試合開始時のほか、一時試合を中断した後の試合再開という意味でも使われます。アイスホッケーでのフェイス・オフは、2人の選手が対峙し、その間に審判がパック（いわゆるボールにあたるもの）を投入して行います。<br /><br />　本映画のアーチャーとキャスターの対決も、一度はキャスターの逮捕というかたちで決着がついているので、その意味では、試合再開の意味の方が近いかもしれません。あとは、顔を拭きとると言う意味でも「face off」を使います。顔の表面を剥がして他人に移植し、またその顔を取り去ったという意味では、顔を拭うと言う意味のface offの意味もかけてあるのでしょう。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38395E382A7E382A4E382B9E383BBE382AAE383952CEFBC91.jpg" width="252" height="185" border="0" align="" alt="フェイス・オフ,１.jpg" /></div><br /><br /><span style="font-size:x-small;"><div style="text-align:center;">All pictures from this movie belong to The Walt Disny studios.</div></span><br /><br /><a name="more"></a>

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<title>羊たちの沈黙</title>
<description>映画：羊たちの沈黙 あらすじ※レビュー部分はネタバレあり　若い女性が殺され、生皮を剥がれるという連続殺人事件が起きる。犯人&quot;バッファロー・ビル&quot;の心理を探るべく、精神科医ハンニバル・レクターのもとへ一人のFBIアカデミー訓練生が派遣された。彼女の名はクラリス・スターリング。これが初めての任務となるクラリスは意気込んでいたが、レクターは精神科医であると同時に、多くの人を殺した殺人者でもあった。&quot;バッファロー・ビル&quot;を知っているというレクターは情報を与える見返りに、クラリスの過去..</description>
<dc:subject>『は行』の映画</dc:subject>
<dc:creator>なお</dc:creator>
<dc:date>2010-10-17T21:11:52+09:00</dc:date>
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<strong><span style="font-size:large;">映画：羊たちの沈黙 あらすじ</span></strong><br />※レビュー部分は<strong>ネタバレ</strong>あり<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382BDE382A62Csaw2C24.jpg" width="20" height="134" border="0" align="" alt="ソウ,saw,24.jpg" /><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382BDE382A62Csaw2C25.jpg" width="20" height="134" border="0" align="" alt="ソウ,saw,25.jpg" /><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E7BE8AE3819FE381A1E381AEE6B288E9BB992C22.jpg" width="180" height="134" border="0" align="" alt="羊たちの沈黙,22.jpg" /><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382BDE382A62Csaw2C25.jpg" width="20" height="134" border="0" align="" alt="ソウ,saw,25.jpg" /><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E7BE8AE3819FE381A1E381AEE6B288E9BB99.jpg" width="139" height="222" border="0" align="" alt="羊たちの沈黙.jpg" /></div><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E7BE8AE3819FE381A1E381AEE6B288E9BB992C25.jpg" width="200" height="200" border="0" align="" alt="羊たちの沈黙,25.jpg" /></div><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E7BE8AE3819FE381A1E381AEE6B288E9BB992C2.jpg" width="205" height="121" border="0" align="" alt="羊たちの沈黙,2.jpg" /><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382BDE382A62Csaw2C24.jpg" width="20" height="145" border="0" align="" alt="ソウ,saw,24.jpg" /><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382BDE382A62Csaw2C25.jpg" width="20" height="145" border="0" align="" alt="ソウ,saw,25.jpg" /><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E7BE8AE3819FE381A1E381AEE6B288E9BB992C23.jpg" width="180" height="134" border="0" align="" alt="羊たちの沈黙,23.jpg" /><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382BDE382A62Csaw2C24.jpg" width="20" height="134" border="0" align="" alt="ソウ,saw,24.jpg" /><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382BDE382A62Csaw2C25.jpg" width="20" height="134" border="0" align="" alt="ソウ,saw,25.jpg" /></div><br /><br />　若い女性が殺され、生皮を剥がれるという連続殺人事件が起きる。犯人"バッファロー・ビル"の心理を探るべく、精神科医ハンニバル・レクターのもとへ一人のFBIアカデミー訓練生が派遣された。彼女の名はクラリス・スターリング。これが初めての任務となるクラリスは意気込んでいたが、レクターは精神科医であると同時に、多くの人を殺した殺人者でもあった。"バッファロー・ビル"を知っているというレクターは情報を与える見返りに、クラリスの過去を話すように要求する。<br /><br />　FBIアカデミー訓練生のクラリス・スターリングを演じるのは若きジョディ・フォスター。ハンニバル・レクターを演じるのはアンソニー・ホプキンス。2人の名優が息詰まる心理戦を展開する。クラリスとレクターの対話を通して少しづつ明らかになるバッファロー・ビル事件の真相。そしてクラリスの深い心の闇。彼女の過去はどのようにバッファロー・ビル事件に関連してくるのか。必死に犯人を追うクラリス、そしてレクターの全てを見通すかのような存在感は圧倒的だ。<br /><br /><p><br /><iframe src="http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?lt1=_blank&bc1=FFFFFF&IS2=1&bg1=FFFFFF&fc1=ADADAD&lc1=ADADAD&t=naokonh-22&o=9&p=8&l=as1&m=amazon&f=ifr&asins=B003N25MX2" style="width:120px;height:240px;" scrolling="no" marginwidth="0" marginheight="0" align="left" frameborder="0"></iframe><br />【映画データ】<br />羊たちの沈黙<br />1991年・アメリカ<br />監督 ジョナサン・デミ<br />出演 ジョディ・フォスター,アンソニー・ホプキンス,<br />スコット・グレン,テッド・レヴィン<br /><br clear="left"/></p><br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E7BE8AE3819FE381A1E381AEE6B288E9BB992C13.jpg" width="297" height="218" border="0" align="" alt="羊たちの沈黙,13.jpg" /></div><br /><br /><strong><span style="font-size:large;">映画：羊たちの沈黙 解説とレビュー</span></strong><br />※以下、<strong>ネタバレ</strong>あり<br /><br />★レクターの手掛かりから解決へ<br /><br />　「殺人に駆り立てられる理由は？」と問うレクター。この問いこそが、殺人犯"バッファロー・ビル"へと近づく最大のヒントとなりました。レクターの借りていた倉庫で瓶に入れられた男の首を始まりとしたレクターによる、クラリスの誘導はこのヒントで終わりを告げます。後はクラリスがバッファロー・ビルを追い詰めるだけ。<br />　殺人に駆り立てられる理由は「極度の切望」だとレクターは言います。そして、その切望は「毎日見てることで始まる」。ということは、バッファロー・ビルの近くにも、極度の切望を抱かせるものがあったということ。それは何でしょうか。女友達。もしくは顔見知り。バッファロー・ビルが頻繁に顔を会わせていた知り合いの女性が被害者となっている…ここまで気が付いてしまえば簡単。初めの被害者の女性は重りを付けられ、発見が遅れていました。なぜか。最初に見つかってしまえば、彼女の周辺が徹底的に調査され、犯人が露呈してしまう可能性があるから。通りすがりの女性たちを殺し、死体が発見されたのちに、顔見知りの彼女の死体が混ざって発見されれば、顔見知りの彼女は一連の連続殺人事件の被害者の一人という扱いになり、バッファロー・ビルへとつながる線が薄くなる。<br />　重りが付けられていたのは決して偶然ではありませんでした。クラリスは被害者の友人の女性からバッファロー・ビルへとつながる手掛かりを得、ついに真犯人の家を突きとめました。<br />　レクターの与えた手掛かりは非常に遠まわしなようで、実は核心をつくもの。クラリスはレクターの誘導に乗っているだけで、犯人を突き止めることができるようになっていました。なぜ、レクターはクラリスへこれほどの手掛かりを与えたのでしょうか。レクターとクラリスの心理を探っていきましょう。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E7BE8AE3819FE381A1E381AEE6B288E9BB992C8.jpg" width="292" height="215" border="0" align="" alt="羊たちの沈黙,8.jpg" /></div><br /><br />★ハンニバル・レクターとの面会<br /><br />　クラリスは成績優秀なFBIアカデミーの訓練生でした。頭脳明晰な彼女は野心家で、FBIで成功したいと強く願っています。そんな彼女が与えられた任務は精神科医で殺人者レクターの分析でした。彼女の上司はクロフォード。クラリスはクロフォードの下で働くことをかねてより希望していました。この仕事が成功裏に終われば、出世への道が開けてきます。クラリスはがぜん、意気込んでこの仕事を引き受けました。<br /><br />　レクターは最初の面会で、彼女の精神状態を分析しました。気が強く、野心家で、出世の機会を狙っている…クラリスはレクターと初めて会ったとき、レクターから視線を外しません。レクターはクラリスが芯の強い女性であると見抜きました。また、バッファロー・ビルについてのクラリスの分析を聞き、彼女が明晰な頭脳を持っていることを知ります。そこで、レクターは最初、断っていたクラリスの質問事項書を受け取りました。もとより、レクターはそんな質問に答えるつもりはありません。しかし、ここで、質問事項書を受け取っておけば、クラリスはまた面会にやってくるでしょう。<br /><br />　レクターはクラリスを挑発しました。両親や生まれ、育ちについて、田舎町の炭鉱労働者だの、貧しい育ちだのと並べたてます。クラリスは怒り心頭に発し、席を立ってしまいます。これは捜査官としてはあるまじきことでしょう。クラリスはレクターの精神分析のためにここへ来ているのですから、レクターに何を言われようが、受け流しておくのが本来であるはずです。また、そうした訓練もアカデミーで受けているはず。にも関わらず、クラリスはレクターのあからさまな挑発に耐え切れず、その場を逃げ出してしまった。<br /><br />これは、クラリスが両親、あるいは今までの育ちについて何らかの過去を持っていることを意味します。それは最も、クラリスが触れられたくない部分であり、だからこそ、レクターの言葉にクラリスは耐えきれませんでした。精神科医であるレクターはクラリスの反応を見て、クラリスの過去に何があったのかを知りたいと思うようになります。<br /><br />また、若いクラリスが仕事で成功したいと思っていることもレクターには分かっていました。彼は「昇進のチャンスをやろう」とある情報を教えます。これはレクターにとってクラリスは久々に興味のわく人間だったからです。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E7BE8AE3819FE381A1E381AEE6B288E9BB992C4.jpg" width="215" height="292" border="0" align="" alt="羊たちの沈黙,4.jpg" /></div><br /><br />★小羊たちの悲鳴<br /><br />　クラリスの上司、クロフォードはレクターにバッファロー・ビルの捜査のためにレクターの精神分析をしているということを知られたくないと考えていました。しかし、レクターは既にそのことをお見通しです。しかし、クロフォードは真の目的がばれたらレクターは黙り込んでしまうと思っていましたが、レクターはバッファロー・ビルについての情報を話しはじめます。これにはクラリスの情報を教えるという取引が成立していました。レクターはクラリスのことを知りたいと考えていました。彼女の生い立ちを聞き出し、彼女の深層心理の分析をしたいレクターは、クラリスの欲しがるバッファロー・ビルの情報を少しずつ話しはじめます。<br /><br />　レクターはクラリスの提示した条件をはなから信用していませんでした。条件のいい病院に移送され、自由に散歩ができるなど、そんな条件が出せるわけがない。レクターはこのクラリスが提示した条件が嘘であるとドクター・チルトンに明かされてもそれほど驚く様子はありません。そして、これを機にクラリスとの面談を断ることもしませんでした。レクターにとって重要なのは、取引のもう一つの条件、つまり、クラリスの情報と引換えにバッファロー・ビルの情報を教えるという条件だったからです。<br /><br />　レクターはドクター・チルトンとバッファロー・ビルの捜査に協力することで合意します。これはレクターなりの考えがあってのことでした。レクターは傲慢なドクター・チルトンを嫌っています。毛頭協力するつもりはありません。しかし、レクターはドクター・チルトンがクラリスとライバル関係にあることを知っていました。<br /><br />　ドクター・チルトンは見栄っ張りな男でパフォーマンスが大好きです。クロフォードやクラリスがレクターの分析をしていることを快く思っていないのも、自分の管轄に踏み込んできて、レクターの分析という手柄を先に取られてしまうのが悔しいからです。最初、クラリスの面会を快諾したのはレクターの分析などできるわけがないと思っていたから。しかし、その思惑とは裏腹にレクターはクラリスとの面会を継続しています。ドクター・チルトンはクラリスに手柄を取られると焦っていました。<br /><br />　レクターはこのドクター・チルトンの焦りを利用します。まずは、協力すると見せかけて、自らを監視の緩い拘置所へと移送させることに成功しました。警察署内に臨時に設けられた大きな鳥籠のような牢で、レクターは久々に開放的な気分を味わい、クラシック音楽を楽しんでいます。一方、ドクター・チルトンはレクターを協力させたことにすっかりご満悦。記者を集めて得意げに喋っていました。彼は後にレクターの情報がガセネタだと分かって恥をかくことになるのですが。レクターはドクター・チルトンの性格を見越した上で、脱出計画に利用し、また、さんざんレクターを侮辱してきた彼に恥辱を与えることに成功したのです。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E7BE8AE3819FE381A1E381AEE6B288E9BB992C3.jpg" width="324" height="238" border="0" align="" alt="羊たちの沈黙,3.jpg" /></div><br /><br />★父の死、小羊の死<br /><br />　クラリスはレクターに「今までで最悪の経験は？」と問われ、「父の死ね」と答えています。クラリスは10歳のときに警察署長だった父を強盗に撃たれて亡くしました。確かにこれはクラリスにとって不幸な出来事でした。しかし、彼女の心にさらなる淀みを生む要因がありました。それは「小羊の死」です。預けられた親戚の家で、助け出した小羊を守り切れず、殺されてしまったという経験。人は本当に辛い出来事を「辛い」とは言わないものです。特に、クラリスのように、気の強い人間ならばなおさら。<br /><br />　クラリスは男ばかりの現場で働く女性です。アカデミーでも、捜査現場でも、男たちはクラリスを好色な目で、あるいは好奇のまなざしで彼女を見ます。アカデミーではランニング中の男たちがクラリスをわざわざ振り返って見ているシーンがありましたし、バッファロー・ビルの被害者の死体検分に行ったときには地元の警察官たちに取り囲まれ、気まずい雰囲気が漂う中でクラリスは平気な様子を装っていました。<br /><br />　上司のクロフォードですら、地元の警察官と別室で交渉をする際の言い訳に「この種の性犯罪について女性の前では…」とクラリスが女性であることを利用します。クラリスは警察官たちを現場から追い出しますが、FBIと地元警察の縄張り意識というだけでなく、女性に追い出されるのが不服そうな警察官たち。レクターの隣房のミムズに屈辱的な行為をされたことだって、クラリスが男性だったらされなかったはず。このようにクラリスはいつでも、男たちと張り合わねばなりませんでした。馬鹿にされないように、なめられないように、とクラリスは常に気を張り、高圧的な態度で男たちに接します。<br /><br />　クラリスが気が強いのは、そうしていなければ潰されてしまうから。クラリスだって、人間です。弱い部分はある。しかし、その弱みを他人に見せないように、常に強気で振舞っていました。初対面のレクターに両親や育ちについて挑発され、逃げ出したのはクラリスにとって、それが心の暗部だったからです。父親の死、そしてそれに続く暗い少女時代はクラリスの心の存立を脅かす暗い過去でした。クラリスはそれを誰にも話したことはなかったでしょう。他人にそれを話すということは弱みを握られるも同然、そうクラリスは考えていました。だからこそ、レクターに親や育ちといった過去をそのものずばり突かれたことは衝撃でした。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E7BE8AE3819FE381A1E381AEE6B288E9BB992C19.jpg" width="327" height="185" border="0" align="" alt="羊たちの沈黙,19.jpg" /></div><br /><br />★尊敬し、愛した父<br /><br />　クラリスは父親を尊敬し、愛していました。幼いころに母を亡くしたクラリスにとって、父親は唯一の肉親であり、また、警察署長をしていた父親は誇れる父親であったのです。成長したクラリスは、将来の仕事として警察関係の仕事を選択しました。FBI捜査官の道です。そこには2つの意味がありました。1つは父親を殺した犯罪者を追い詰める仕事をしたいという気持ち。もう1つは父親への憧れ。<br /><br /> 父親と同じ職業を選ぶ。世間的に、両親のしている仕事と同じ職業を子供が選択することは良くあることのように思えます。両親が尊敬できる人でなければ、子供は親と同じ職に就きたいとは思わないでしょう。子供は親の影響を受けて育つものであり、また、親がその子供にとっての手本であるから、子供は親と同じ職業を選択するのです。<br /><br /> クラリスの場合もそうでした。彼女は父親と同じ職業を選択します。これはクラリスにとって、父親の影響がどれだけ大きかったかを示しています。また、クラリスは父親の死後、施設で育つという経験をしていました。このような比較対象があると、過去の記憶は美化されやすくなります。父親の死後、親戚の家から施設に送られたことは、父親と過ごした年月をより一層、幸せな子供時代として際立たせました。<br /><br />　一方、親と同じ職業を選択したということは、子供に一定のプレッシャーをかけることになります。親子の結びつきが強い場合、子は親に認めてもらいたいと思うものです。しかし、親が死んでしまっている場合には、よく頑張ったねと自らを認める言葉をかけてもらえる相手はいません。どこまで、自分を追い込めば良いのか。ストイックに自らの限界を追い求めてしまいがちです。クラリスは亡き父親を永遠の理想像において、がむしゃらに成功を追い求めていました。<br /><br /> クラリスの父親は警察署長の地位にありました。クラリスはFBIで捜査官になり、活躍したいという思いが人一倍強い女性でした。だから、クロフォードはあえて、アカデミー訓練生であるにもかかわらず、成績優秀で野心のあるクラリスをレクターの分析という困難な任務に指名したのです。クラリスは父親という憧れをもって、FBIの仕事を選択しました。それは夢の実現であると同時に、彼女に仕事での成功というプレッシャーをかけていたのです。<br /><br />　女性であること、父親の記憶、そして、レクターの分析という初の任務を成功させれば、昇進への道が開けるということ。様々な要因が重なり合い、クラリスを圧迫していました。そして、「小羊の死」。夢にまであらわれるこの記憶はクラリスを根本から揺さぶる暗部でした。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E7BE8AE3819FE381A1E381AEE6B288E9BB992C14.jpg" width="292" height="215" border="0" align="" alt="羊たちの沈黙,14.jpg" /></div><br /><br />★小羊の死<br /><br />　納屋で悲鳴を上げる小羊たちは屠殺されるのを待っていました。そのなかの一匹の小羊を抱いて逃げ出した幼いクラリスはすぐに保安官に捕まり、施設へ送られ、小羊は屠殺された…。クラリスは父親を亡くし、続いて小羊も失くしました。父親と小羊。全く違うもののように思えますが、クラリスにとってはどちらも同様の価値を持っています。父親は犯罪者によって生命を奪われました。小羊も親戚の人に殺されました。どちらも、クラリスには手の及ばないところで命が失われたのです。<br /><br /> 父親の死を経験したクラリスにとって、生死は重要な問題でした。悲鳴を上げながら死んでいく小羊はクラリスにとっては家畜ではありません。彼女はその命を守ろうとした。そして、守り切れなかった。父親の死は突然でした。クラリスの知らないところで強盗に撃たれて亡くなった。クラリスにはどうしようもありませんでした。クラリスは立ちすくむ小羊、沈黙する羊でした。無力、あまりに無力だったのです。<br /><br /> そして、再び、試練のときがやってきます。今度のクラリスには小羊の命を守れる可能性がありました。しかし、できなかった。小羊の命は奪われます。父のときのように。クラリスは無力でした。クラリスは再び、沈黙し、小羊のように立ちすくむしかなかったのです。助けようとした者を守れなかった記憶。父の記憶と相まって、小羊の死はクラリスに深い傷を残しました。残るのは深い喪失感と、自分の非力さへの後悔です。<br /><br />　クラリスは新しい小羊を求めていました。幼いころの記憶を埋め合わせるため、助けを求める小羊が必要でした。そして、今度はそれを守ってみせる。クラリスはレクターの指摘通り、キャサリンを助ければ、この記憶を上書きできると考えていました。今度こそ、どんな手段を使っても、キャサリンを助けなければ。<br /><br />　バッファロー・ビルの手口で特徴的なのは、殺してから皮をはぐというもの。小羊たちも、殺されてから皮を剥がれ、ラムスキンとして皮細工の材料になります。暴力事件の被害者のことを"小羊"と形容することもある。神のいけにえとされるのも小羊。キャサリンはバッファロー・ビルの圧倒的な暴力性を前に身動きがとれない羊です。恐怖に足がすくみ、ただ、クラリスを見上げていたあの小羊たちのように、彼女も逃げ出せずにいる。そして、いずれ、殺されて皮を剥がれる運命…。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E7BE8AE3819FE381A1E381AEE6B288E9BB992C12.jpg" width="208" height="284" border="0" align="" alt="羊たちの沈黙,12.jpg" /></div><br /><br />★小羊の悲鳴<br /><br />　クラリスはキャサリンを助けることに成功し、バッファロー・ビルことジョン・グラントを射殺しました。クラリスは昇進し、正式なFBI捜査官に任命されます。「小羊の悲鳴は止んだかな」と問う電話のレクター。<br /><br />　しかし、小羊の悲鳴が止むことはありません。人間の記憶は消えることはありません。ただ、その記憶を和らげることができるのみ。FBIの仕事を続ける限り、クラリスは新たな小羊に出会い続けねばなりません。そして、あの喪失感と後悔を再び味わわないために、再び、クラリスは戦わねばなりません。殺された小羊は永遠にクラリスの記憶の中に生き続けます。そして、悲鳴を上げ、助けを求め続けます。小羊を助けるためならクラリスは手段を選ばない…犯罪者を射殺しても。クラリスは小羊を助けるためなら手段を選ばないでしょう。小羊の記憶ゆえに、クラリスはこれからも犯罪者を殺してしまうことになるかもしれない。<br /><br />　レクターは精神科医です。キャサリンの救出が成功しても、クラリスの記憶が消えることがないことなど、よく知っている。「小羊の悲鳴」の記憶はレクターとクラリスだけが共有する秘密の記憶です。レクターはバッファロー・ビル事件を脱獄、ドクター・チルトンへの復讐、そしてクラリスの秘密を知るという3つの目的のために存分に利用しました。全てを手にしたのはレクターだけです。クラリスは事件の真相のために過去をレクターに差渡しました。これで必要ならば、レクターはクラリスを操作し、手玉に取ることができるでしょう。<br /><br /> また、レクターはクラリスとの電話で「これから古い友人と食事でね」と言っていました。レクターに後を付けられていたドクター・チルトンの運命は言わずもがな、です。クラリスのFBI捜査官としての人生は綱渡りのようなもの。小羊の悲鳴のなかで危うい精神バランスを保ちながら進んでいくことになるのです。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E7BE8AE3819FE381A1E381AEE6B288E9BB992C24.jpg" width="303" height="169" border="0" align="" alt="羊たちの沈黙,24.jpg" /></div><br /><br /><div style="text-align:center;"><span style="font-size:x-small;">All pictures in this article from this movie belong to Orion Pictures Co. and Warner Bros..</span></div><a name="more"></a>

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<title>ナイト＆デイ</title>
<description>映画：ナイト＆デイ あらすじ※レビュー部分はネタバレあり バニラ・スカイでの共演から9年、トム・クルーズとキャメロン・ディアスのコンビで送るアクション・ムービー。コミカルな場面が多く、気楽に楽しめる映画になっている。 ジューン・ヘブンズは飛行機に乗るため、空港内を急いでいた。何とか飛行機に乗れた彼女はロイ・ミラーという男に出会う。すっかり意気投合した2人。しかし、ロイは政府機関のエージェントだった。ロイの持つ「ゼファー」という永久エネルギー源を巡り、争奪戦が行われていたのだ。..</description>
<dc:subject>『な行』の映画</dc:subject>
<dc:creator>なお</dc:creator>
<dc:date>2010-10-17T20:00:57+09:00</dc:date>
<content:encoded><![CDATA[
<span style="font-size:large;"><strong>映画：ナイト＆デイ あらすじ</strong></span><br />※レビュー部分は<strong>ネタバレ</strong>あり<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E3838AE382A4E38388EFBC86E38387E382A42C8.jpg" width="200" height="107" border="0" align="" alt="ナイト＆デイ,8.jpg" /><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E3838AE382A4E38388EFBC86E38387E382A42C7.jpg" width="160" height="253" border="0" align="" alt="ナイト＆デイ,7.jpg" /></div><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E3838AE382A4E38388EFBC86E38387E382A42C7-c16a6.jpg" width="160" height="253" border="0" align="" alt="ナイト＆デイ,7.jpg" /><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E3838AE382A4E38388EFBC86E38387E382A42C2.jpg" width="220" height="160" border="0" align="" alt="ナイト＆デイ,2.jpg" /></div><br /><br /> バニラ・スカイでの共演から9年、トム・クルーズとキャメロン・ディアスのコンビで送るアクション・ムービー。コミカルな場面が多く、気楽に楽しめる映画になっている。<br /><br /> ジューン・ヘブンズは飛行機に乗るため、空港内を急いでいた。何とか飛行機に乗れた彼女はロイ・ミラーという男に出会う。すっかり意気投合した2人。しかし、ロイは政府機関のエージェントだった。ロイの持つ「ゼファー」という永久エネルギー源を巡り、争奪戦が行われていたのだ。この騒ぎに巻き込まれたジューンはロイとともに逃避行を繰り広げることになる。<br /><br /> とても気楽に見られる映画。とにかく、楽しんでみることが絶対条件。この映画で考えたら負けです。解説や解釈なんて要りません。というわけで、今回のレビューはとても短く（いつもの4分の1にもいきません）気楽に書かせて頂きます。<br /><br /><br />【映画データ】<br />ナイト＆デイ<br />2010年・アメリカ<br />監督 ジェームズ・マンゴールド<br />出演 トム・クルーズ,キャメロン・ディアス,ピーター・サースガード<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E3838AE382A4E38388EFBC86E38387E382A4.jpg" width="225" height="165" border="0" align="" alt="ナイト＆デイ.jpg" /></div><br /><br /><strong><span style="font-size:large;">映画：ナイト＆デイ 解説とレビュー</span></strong><br />※以下、<strong>ネタバレ</strong>あり<br /><br />★簡単なあらすじ―ロイとの出会いから結末まで―<br /><br /> ジューン・ヘブンズは妹の結婚式に向かう途中、ロイ・ミラーと名乗る男に出会う。ロイ・ミラーは元エージェントで、「ゼファー」という永久エネルギーを有する物体を持っていた。この「ゼファー」をジューンのキャリーケースにロイが仕込んだことから事件が巻き起こっていく。<br /><br /> ロイの本名はロイ・ナイト。彼は家族を捨て、友人とも連絡を断つことを条件にCIAと契約を結んだエージェントだった。ロイはゼファーを狙うFBIエージェント、フィッツジェラルドからゼファーを守るため、ゼファーを開発したサイモンという青年、そしてジューンと共に逃避行をする。<br /><br />　フィッツジェラルドはこのゼファーをスペインの武器商人アントニオに売るか、もしくはサイモンを拉致してアントニオに引き渡し、大金を得る計画を立てていた。スペインでの途絶なカーチェイスの末、ロイは、ジューンとサイモンを助けることを優先し、ゼファーをフィッツジェラルドに渡す。<br /><br /> フィッツジェラルドはこのゼファーを持ってヘリに乗り込むものの、ゼファー自体に設計上の問題があったため、ヘリごと爆発。ゼファーともども木端微塵になった。<br /><br />　ロイの上司、イザベルによって、ロイは再び、エージェントとしてCIAに連れ戻されそうになるが、ジューンの機転によって助け出され、2人はジューンの夢だったホーン岬までのドライブへと走り出していく…。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E3838AE382A4E38388EFBC86E38387E382A42C5.jpg" width="225" height="165" border="0" align="" alt="ナイト＆デイ,5.jpg" /></div><br /><br />★ジューンの周りのズレた人々<br /><br />　ジューンの周囲の人々はどうも、彼女としっくりきていません。エンジニアで車の改造が大好きなジューンは妹の結婚式のため、父の遺品である車を完全に改造して結婚祝いにするつもりでした。父と妹と3人でよく部品を買いに出かけたものよ、とジューンは家族の思い出を幸せそうにロイに語ります。<br /><br />　ジューンはロイの（ゼファー」騒ぎに巻き込まれ、飛行機をどうにか不時着させて命からがら脱出し、何とか妹の結婚式にたどり着いたというのに、肝心の妹は「パパのGTOを売りたい」。妹はパパのGTOよりも、夫と暮らす新しい家が欲しいようです。ジューンは家族の思い出を懐かしく思い出し、理想の家族像を描いています。ところが、妹はジューンが思っているほど、家族に思い入れはないようです。<br /><br />　さて、ジューンには、ジューンに想いを寄せるロドニーという男友達がいました。飛行機の墜落に巻き込まれ、次々に起こるアクシデントに悲鳴を上げたい気分のジューンはロドニーに相談しようとするものの、ロドニーは自分のことばかり話していて、まったくジューンの話を聞こうとしません。ジューンが話そうとしていても、ロドニーは勝手に何か別のことを喋っている。<br /><br />　ロドニーはジューンに結婚を申し込みたいようですが、果たして、今の状況がその場面なのかどうか…。ロドニーはどうも頼りありません。ロイがジューンに追いつき、ロドニーと同じテーブルについても、ロドニーは愛想よくロイの相手を始めます。ジューンがロイが問題を起こすトラブルメイカーその人だとロドニーに合図しているのに、まったくロドニーには通じません。あげくの果てに、ロイがジューンに手錠をかけて連れ出したときにロイは負傷。<br /><br />　ロドニーは悪い人ではないのだが、どうも要領がわるく、なんともつまらない男。ロイに負傷させられたおかげで、ロドニーはジューンを守ろうとして怪我した男としてヒーロー扱いされ、今や、街の英雄になっていました。次にジューンが会ったときにはロドニーの横にはぴったりと美女が寄り添っていました。ロドニーはどうやら単純すぎる男のようです。<br /><br />　というわけで、ジューンの周りの人間たちはジューンとすれ違いっぱなし。助けてくれたのは結局、ロイだけ。ロイは話も面白いし、やることがスマート。命からがらの脱出劇の後、自宅で意識を取り戻したジューン。彼女が朝起きると、「会えてよかったよ、ジューン」のメモ。キッチンに行けば、焼かれたオムレツとともに、冷蔵庫に「朝食を食べろ」のメモ。ジューンはそんなロイに助けられて悪い気はせず、彼と逃避行を続けることに。元はといえば、ロイのせいで巻き込まれたハプニングなのだけれど、ジューンも途中からしっかり楽しんでいる。<br /><br />　ジューンの妹は結婚します。父も母もいないジューンにとって、唯一の肉親である妹の結婚は喜ぶべきである一方、ちょっと寂しいもの。自分も素敵な男性と出会って結婚したいと思っているジューンにとってロイとの出会いはまさに運命でした。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E3838AE382A4E38388EFBC86E38387E382A42C6.jpg" width="225" height="165" border="0" align="" alt="ナイト＆デイ,6.jpg" /></div><br /><br />★ナイト＆デイ<br /><br />　武器商人のアントニオに自白剤を飲まされたジューンが話すことと言えば、ロイのことばかり。「彼といると何でもできるように感じる」とジューン。熱に浮かされたように、愛について語り続ける。うんざりしたアントニオはジューンを殺せと部下に命じますが、ジューンは全く動じない。なぜなら、ロイが助けてくれると信じているから。実際、このとき、ロイはアントニオの屋敷の屋根の上に立っていた。というわけで、やっぱり助けてくれるロイ。<br /><br />　ロイの本名はマシュー・ナイト。そして、この映画のタイトルは「ナイト＆デイ」。そのままならば、昼も夜も、一日中というような意味になりますが、英語タイトルの綴りはKNIGHTになっています。これは「騎士」の意味のナイト。騎士と過ごす日々という意味でとった方がこの映画の内容にぴったりでしょう。ジューンはナイトに守られるお姫様。ロイを信頼しきっているジューンの幸せそうな顔はまさにそんな感じです。<br /><br />　一方で、倒れて病院に運び込まれたロイをイザベラらCIAから取り返したジューンはロイを守るナイトそのもの。ロイとジューンは互いのナイトであり、守られる人でもある。2人は共に運命の人を見つけました。愛し合う2人の理想像がここにあります。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E3838AE382A4E38388EFBC86E38387E382A42C4.jpg" width="243" height="179" border="0" align="" alt="ナイト＆デイ,4.jpg" /></div><br /><br /><div style="text-align:center;"><span style="font-size:x-small;">All pictures in this article from this movie belong to Twenties Century Fox Film.</span></div><a name="more"></a>

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<title>SAW -ソウ-</title>
<description>映画：SAW -ソウ-　あらすじ※レビュー部分はネタバレあり　浴槽の中で溺れそうになり、目を覚ましたアダムは見知らぬ部屋にいることに気が付き、恐慌状態になった。どうして自分はこんなところにいるのか？！薄汚い洗面室のようなこの部屋にはもう1人、男が座っている。彼の名はローレンス・ゴードン。外科医だ。どうやら2人はこの地下室に監禁されたらしい。部屋を見渡したアダムはさらに驚愕する。中央には血だまりが広がり、そこに横たわる男の死体。2人の片足は部屋の隅の柱に鎖で繋がれており、逃げ出..</description>
<dc:subject>『さ行』の映画</dc:subject>
<dc:creator>なお</dc:creator>
<dc:date>2010-10-15T19:59:12+09:00</dc:date>
<content:encoded><![CDATA[
<strong><span style="font-size:large;">映画：SAW -ソウ-　あらすじ</span></strong><br />※レビュー部分は<strong>ネタバレ</strong>あり<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382BDE382A62Csaw2C24.jpg" width="20" height="229" border="0" align="" alt="ソウ,saw,24.jpg" /><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382BDE382A62Csaw2C25.jpg" width="20" height="208" border="0" align="" alt="ソウ,saw,25.jpg" /><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382BDE382A62Csaw2C3.jpg" width="127" height="195" border="0" align="" alt="ソウ,saw,3.jpg" /><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382BDE382A62Csaw2C26.jpg" width="60" height="100" border="0" align="" alt="ソウ,saw,26.jpg" /><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382BDE382A62Csaw2C22-709e1.jpg" width="110" height="100" border="0" align="" alt="ソウ,saw,22.jpg" /></div><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382BDE382A62Csaw2C22.jpg" width="110" height="100" border="0" align="" alt="ソウ,saw,22.jpg" /><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/saw1_3.jpg" width="110" height="100" border="0" align="" alt="saw1_3.jpg" /></div><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/saw1_3-2c607.jpg" width="110" height="100" border="0" align="" alt="saw1_3.jpg" /><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/saw2C13-7c6a5.jpg" width="60" height="100" border="0" align="" alt="ソウ,saw,13.jpg" /><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382BDE382A62CSaw2C2.jpg" width="127" height="195" border="0" align="" alt="ソウ,Saw,2.jpg" /><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382BDE382A62Csaw2C24.jpg" width="20" height="208" border="0" align="" alt="ソウ,saw,24.jpg" /><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382BDE382A62Csaw2C25.jpg" width="20" height="229" border="0" align="" alt="ソウ,saw,25.jpg" /></div><br /><br />　浴槽の中で溺れそうになり、目を覚ましたアダムは見知らぬ部屋にいることに気が付き、恐慌状態になった。どうして自分はこんなところにいるのか？！薄汚い洗面室のようなこの部屋にはもう1人、男が座っている。彼の名はローレンス・ゴードン。外科医だ。どうやら2人はこの地下室に監禁されたらしい。部屋を見渡したアダムはさらに驚愕する。中央には血だまりが広がり、そこに横たわる男の死体。2人の片足は部屋の隅の柱に鎖で繋がれており、逃げ出すことができない。<br />　やがて、2人はテープがあることに気が付く。その内容は"ジグソウ"と名乗る男からのメッセージだった。<br /><br />　シチュエーション・スリラーの最高峰、SAW(ソウ)。ショッキングな映像が多いことでも有名なSAWだが、それ以上に張り巡らされた伏線を読み解くのが楽しい。SAWに隠されたその秘密を探っていこう。<br /><br /><p><br /><iframe src="http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?lt1=_blank&bc1=FFFFFF&IS2=1&bg1=FFFFFF&fc1=ADADAD&lc1=ADADAD&t=naokonh-22&o=9&p=8&l=as1&m=amazon&f=ifr&asins=B002JXBHKI" style="width:120px;height:240px;" scrolling="no" marginwidth="0" marginheight="0" align="left" frameborder="0"></iframe><br />【映画データ】<br />SAW -ソウ-<br />2004年・アメリカ<br />監督 ジェームズ・ワン<br />出演 ケイリー・エルウィス,リー・ワネル,ダニー・グローヴァー,<br />トビン・ベル<br /><br clear="left"/></p><br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382BDE382A62Csaw2C20.jpg" width="259" height="194" border="0" align="" alt="ソウ,saw,20.jpg" /></div><br /><br /><strong><span style="font-size:large;">映画：SAW -ソウ-　解説とレビュー</span></strong><br />※以下、<strong>ネタバレ</strong>あり<br /><br />★SAW -ソウ-<br /><br />　SAWにはどういう意味があるでしょうか。のこぎりという意味でのSAWはもちろん、です。ゴードンの足を切るのに使われたのこぎりです。そして、「see」の過去形としての、「saw」があります。その意味は「見た」。ジグソウは中央の死体を演じ、ゲームの全てを見ていました。その意味の「見た」。<br /><br />　そして、もうひとつ、観客の視線もあります。SAWの観客は見ています。SAWの結末を決定づける重要な場面、例えば、映画の冒頭で、浴槽の排水溝にカギが吸い込まれていくのを。そして、結末、「GAME OVER」と表示されるのを。<br /><br />　観客はアダムとゴードンの運命、全てを見たのです。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/saw2CE382BDE382A62C1.jpg" width="315" height="208" border="0" align="" alt="saw,ソウ,1.jpg" /></div><br /><br />★アダムとゴードンの生死は如何に？<br /><br />　アダムとゴードンは死んだのでしょうか、生き抜いたのでしょうか。この点については明らかにされていません。ジグソウは地下室の扉を閉めて歩き去っていきます。残されたアダムは暗闇の中、片足を鎖でつながれ、銃創から出血した状態で放置されます。<br /><br />　ゴードンはどうでしょうか。彼は片足首を切断し、深手の傷を負いつつ、地上へ助けを求めに行きました。ゴードンは優秀な外科医ですし、足首を切断する前に止血をしています。だから、いずれ出血は止まり、助けを呼びに行けたとも考えられます。一方で、ゴードンは蒼白な顔をしていました。足首を切断した後の彼の表情はもはや死人のようです。声は弱々しく、もはや一息に喋る力すらありません。明らかに死相が出ていました。<br /><br />　しかも、です。ゴードンはジグソウの提示した条件を履行できていません。ゴードンがアダムを撃ったのは、期限の6時を過ぎてからですし、そのアダムは死んでいません。ジグソウは6時までにアダムを殺さなければ死ぬことになる、とテープに録音していました。その言葉通りなら、ゴードンはタイムアウトで死んでいなくてはなりません。実際、ジグソウの仕掛けた他のゲームでは、時間切れで死亡する被害者がいました。それなのに、ジグソウのルールを破ったゴードンが助かるというのでは、ジグソウのゲームが不成功だったことになります。しかし、ジグソウの堂々の退場シーンでは「GAME OVER」と出てきます。ゲームの世界で、「GAME　OVER」と言えばそれはプレイヤーの死を意味するはず。ジグソウのゲームのプレイヤーはゴードンです。ジグソウのルールにのっとって考えるなら、ゴードンは助からなかった、と考えるのが自然でしょう。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382BDE382A62Csaw2C10.jpg" width="252" height="212" border="0" align="" alt="ソウ,saw,10.jpg" /></div><br /><br />★ゴードンの死<br /><br />　ならば、ジグソウがゴードンに追いついて彼を殺したという可能性はあるでしょうか。この解釈はあまりに不自然です。まず、ジグソウは直接に手を下しません。それなのに、ゴードンに限ってジグソウ自ら手を下すとするならば、ゴードンについてのみ、例外を認めることになってしまいます。しかも、仮にジグソウが殺人を犯したとするならば、それは映画"外"の出来事ということになります。<br /><br />　映画"外"のことについて、例外をありにして解釈することは原則としてできません。特に、ゴードンの事件は一連のジグソウによる殺人事件の続きとして起きた事件と設定されています。そして、ゴードン以前の事件についても、映画内である程度詳しく紹介され、ゴードンの事件がジグソウによる連続した事件の一つであることが強調されていました。それならば、ゴードンの事件についても、これまでのジグソウのルールが適用されると考えるのが自然でしょう。映画の"外"で起きたことについて考察する場合は、映画"内"で提示されたルールに従って解釈するのが筋です。<br /><br />　ジグソウのルールとは、ジグソウによって提示された条件をクリアできれば生き残り、さもなければ死が待ちうけているというものです。そして、ジグソウは被害者の死に関して直接に手を下しません。これらによれば、ゴードンはジグソウの手によらずして失血死したと考えるのが妥当でしょう。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382BDE382A62Csaw2C4.jpg" width="300" height="195" border="0" align="" alt="ソウ,saw,4.jpg" /></div><br /><br />★アダムは死んだのか<br /><br />　アダムはどうでしょうか。映画の冒頭、浴槽の排水溝にカギが吸い込まれていくのが映っています。アダムの足は浴槽の栓につながるチェーンに絡まされていました。アダムが目を覚ましてもがけば、自然にチェーンが引っ張られ、浴槽の栓が抜けてカギは排水溝へと流れてしまうようになっていたのです。<br /><br />　これは何を意味するでしょうか。アダムの足が浴槽の栓のチェーンに絡んでいたのは単なる偶然でしょうか？<br /><br />　仮に、アダムの足が意図的にチェーンに絡められていたとしたら…それは、ジグソウには初めからアダムを助けるつもりはなかったということです。アダムの場合、ゴードンがジグソウの条件に従えば、ゴードンに殺される結末が、ゴードンがアダムを殺さなかったとしても、カギは既に排水溝へと流されてしまったあとで、アダムは逃げ出すことはできないという結末が用意されていました。いずれにしてもアダムを待ち受けていたのは死だったということになります。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382BDE382A62Csaw2C15.jpg" width="296" height="199" border="0" align="" alt="ソウ,saw,15.jpg" /></div><br /><br />★アダムの謎<br /><br /><br />　地下室に閉じ込められた2人の男。1人はゴシップ写真屋のアダム、もう1人は外科医ローレンス・ゴードン。彼らが直面している目下の難題は、双方の足首につながれた鎖を外し、脱出すること…、ではありません。ジグソウが二人に提示した条件をよく見てみましょう。ゴードンは「6時までにアダムを殺せば逃げられる」、アダムは「逃げるか、それとも逃げるために何かをするか」。すなわち、ゴードンはアダムを殺せば逃げられるます。一方、アダムは生きるために何をすればいいのか分からない。この2人は似たような状況に置かれていますが、生き残るためにすべきことはそれぞれ違っています。この違いは何を意味しているのでしょうか。<br /><br />　ゴードンは患者であったジグソウの恨みを買って、今回のゲームに巻き込まれました。では、アダムはなぜ、この部屋に監禁されたのでしょうか？「SAW」を見ている限り、アダムがジグソウ事件に関係したといえるのは、タップの依頼を受け、ゴードンの写真を撮っていたということだけです。しかし、ただそれだけなら、アダムが監禁され、殺害対象とされる理由にはならないように思えます。<br /><br />　どうやら、アダムの言動のみからでは、ジグソウとのつながりを探るのは限界があるようです。それでは、アダムの行動はどうでしょうか。<br /><br />　アダムの行動には不審な点が多数あります。例えば、アダムがいきなり服をめくり、腹を調べたこと。なぜ、彼は急に自分の腹が気になったのでしょうか。そして、ゴードンに対するジグソウの命令がアダム殺害だったにも関わらず、さほど驚くそぶりがないこと。溺れかけて浴槽から起きあがったとき、その後、テープがポケットに入っていることに気が付いたときまではパニック状態だったアダムが、死の宣告を受けたときはなぜ淡白な反応をするのか。さらに、テープレコーダーを最初はゴードンに渡さなかったのに、2度目にゴードンが要求したときはあっさりと投げて寄こしたこと。そして、なぜ、彼の名前は「アダム」なのか。彼の名字は？<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382BDE382A62Csaw2C17.jpg" width="271" height="189" border="0" align="" alt="ソウ,saw,17.jpg" /></div><br /><br />★アダムの過去<br /><br />　これらの問題点をすっきりと説明するには、アダムには何らかの秘密があったと推測するのが適当でしょう。ゴードンの過去はアダムとの会話を通して次第に明らかになっていきますが、アダムの過去はほとんど語られません。最初から最後まで、映画を通して分かるのは、彼の職業くらいです。ゴードンの場合は、その生活ぶりや家族、不倫、仕事の詳しい内容や経歴、仕事ぶり、ジグソウ事件の犯人と疑われたことなどはつぶさに明らかにされるのに、アダムの場合はブラックボックス。アダムはどこかから急に現れた異邦人のようです。明らかに、アダムにはゴードンに話していない過去があると考えてよいでしょう。<br /><br />　そして、この事件に巻き込まれた以上、アダムにはジグソウと何らかのつながりがある。アダムとこの事件を仕組んだジグソウにはどんなつながりがあったのでしょうか。<br /><br />　ジグソウが自らの姿を現したのは、ゴードンが助けを呼びに部屋を後にしたのちのことでした。ジグソウは自らの姿をアダムにのみ、さらします。ジグソウはゴードンではなく、特にアダムに対して、自らが現場に最初から最後までいたことを教えたかったと解釈できる結末です。そして、ジグソウはアダムの鎖を外す鍵がバスタブの中にあり、それが既に排水溝に流れた後と知って絶望するアダムを見たかったとも解釈できます。<br /><br />　アダムの絶望を知って、ある種の喜びを感じる、それは復讐心に他なりません。そして、ある人に復讐心を抱くということは、その人と何らかの深い関係を持っていたと考えるのが自然でしょう。つまり、アダムとジグソウはこれが初めての接触ではありません。ジグソウとアダムは、今度の事件が起きる前に、何らかの関係を持っていたことが確実です。<br /><br />　では、ジグソウとアダムにはどんな関係があったのでしょうか。アダムは写真家でした。それも、金さえもらえば、盗撮でも何でもする類の写真屋です。彼はタップに頼まれて、ゴードンの後を付け、写真を密かに撮っていたことをゴードンに告白していました。ここから推測できるのは、これがアダムにとって初めての盗撮の仕事ではないだろう、ということです。アダムはこのような仕事を他にもしたことがあるのでしょう。<br /><br />　さらに、思い起こされるのはジグソウ事件の被害者で、放火犯のマークの事件です。ジグソウはマークにこうメッセージを残しました。「君は病気だそうだが、写真では元気そうに見えるな」。ここから分かるのは、ジグソウがマークを直接に観察したことはないということです。ジグソウは写真から、マークの様子を推測している。<br /><br />　ジグソウが自ら、マークの写真を撮りに出かけたのでしょうか。もし、そうであるならば、ジグソウはマークを直接見る機会があったはずですから、「写真では元気そうに見える」などという必要はないでしょう。<br /><br />　しかも、ジグソウは末期の癌に冒された病身です。タップの相棒、シン刑事を罠にはめて殺した後、立ち去るジグソウは足を引きずっていました。アダムに種明かしをした後に立ち去るジグソウも、ふらふらした様子です。このジグソウ自身がマークを尾行し、写真を撮る体力があるのか疑問です。<br /><br />　従って、マークの写真を撮ったのはジグソウではありません。ここで注目すべきはアダム。彼は写真を撮るのが仕事、尾行して盗撮する仕事を手掛ける男です。ジグソウがマークの写真を撮ることをアダムに依頼していたとしても不思議ではありません。つまり、アダムの依頼人にはジグソウとタップという2人のジグソウ事件関係者がいたと結論付けることができます。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382BDE382A62Csaw2C7.jpg" width="198" height="270" border="0" align="" alt="ソウ,saw,7.jpg" /></div><br /><br />★アダムの恐怖<br /><br />　アダムはジグソウの共犯者でした。当然、ジグソウの手口についても熟知していた。浴槽で溺れかけ、目を覚ましたアダムは自らの置かれている特異な状況を知り、即座にジグソウの関与を疑いました。目の前には、ついさっきまで尾行して写真を撮っていたゴードンがいます。ゴードンはジグソウの次のターゲットだったはず。ということは、アダムはジグソウのゲームのプレイヤーとしてではなく、ゲームの一部として用意されたに過ぎない…。<br /><br />　アダムは慌てて服をめくり、腹を確認します。以前、ジグソウがアマンダの事件で使った手口を思い返したからです。あのときは、プレイヤーのアマンダは目の前の"死体"、実際には生きていた男の腹をナイフでかっさばくことを強要されました。アダムはジグソウを裏切ったことを自覚しています。だから、ジグソウのゲームであの腹を裂かれた男と同じ、死体役をやらされるのではないかと疑ったのです。<br /><br />　腹に何も異常がないことに一安心した彼ですが、今度はポケットに入れられたテープに気が付きました。ジグソウはいつも、被害者に対してメッセージを送ります。テープに気が付いたアダムは再びパニックになりました。これはやはり、ジグソウのゲームだ…ここで、アダムは自分がジグソウのゲームに参加させられたことを覚悟しました。かくして、テープの声はジグソウの声。だから、ゴードンのテープで「アダムを殺せ」とジグソウが命令しているのを聞いても、さほど驚かなかったのです。ジグソウを裏切った自分には死が宣告されることを予期していたからです。<br /><br />　彼はまた、ジグソウが現場でゲームの進行を見守る男であることも知っています。だから、アダムは地下室の窓がマジックミラーになっていることに気が付いたとたんにガラスを割りました。ガラスの向こうからジグソウが見ているかと思ったからです。<br /><br />　ただし、アダムはジグソウと面識はありませんでした。会ったことがあるならば、背格好で中央の死体がジグソウであることを疑ったかもしれません。しかも、ジグソウは顔をアダムの方に向けて横たわっていました。いくらメーキャップをしていたとはいえ、ジグソウの手口を熟知するアダムは、ジグソウがどこかでゲームの進行を見ていることを察知していますから、死体をジグソウと見抜く可能性があります。<br /><br />　ジグソウのメーキャップは、必ずしもアダムから顔を隠すためだけではなかったでしょう。ジグソウは死体の役を演じていました。ジグソウは死んだ顔をしていなければなりません。ジグソウがメーキャップをしていたのは、中央の死体を演じるためという理由も大きかったと思われます。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382BDE382A62Csaw2C6.jpg" width="270" height="198" border="0" align="" alt="ソウ,saw,6.jpg" /></div><br /><br />★ジグソウの怒り<br /><br />　アダムはジグソウのゲームの片棒をかついでいたことを知っていたでしょうか。答えは、もちろん、です。ジグソウは被害者を拉致し、ゲームに参加させる前の下準備に、アダムの写真と報告を使っていました。アダムは恐らく、写真を撮り、被害者の生活パターンを調べてジグソウに報告していたのです。ジグソウはそれを受けて、拉致のタイミングを計り、ゲームを開始すします。アダムとジグソウは実質的な共犯関係にありました。アダムが自らの依頼人の正体に気が付かなかったわけがありません。ジグソウからゲームの詳細を知らされてはいなかったでしょうが、ジグソウ事件が報道され、自らが写真を撮っていた人間が次々に殺されていくのを知っていれば、ジグソウの正体など、おのずと推測できます。アダムはジグソウが自らの依頼人であることを知って、沈黙していたのです。<br /><br />　アダムは金さえもらえば、沈黙を守っていました。しかし、あるとき転機が訪れます。タップの訪問です。相棒のシン刑事を殺されたタップは警察を辞めてまでジグソウ事件の捜査にのめり込んでいました。そのかいあってか、タップはアダムにたどり着いたのです。タップがどこまで、アダムとジグソウの関係を掴んでいたのかは分かりません。タップはアダムからジグソウの情報を引き出そうとしました。アダムがここで、情報提供を拒んでいれば、ジグソウのゲームに巻き込まれることもなかったでしょう。しかし、アダムはタップの依頼を受けました。アダムはタップにジグソウの情報を流したのです。<br /><br />　ジグソウはこの事実を知りました。ジグソウはアダムに激怒します。これは裏切りです。アダムはジグソウに嘘をつき、ジグソウを売ろうとしている…ここで思い当たるのはアダムとイヴの物語です。天上の楽園で暮らすアダムとイヴは神にリンゴを食べてはならないと言われていたのに、蛇の誘惑に負け、リンゴを口にします。怒った神は彼らを地上へと追放しました。アダムは神を裏切ったのです。その制裁は死。地上へと追放されたアダムには寿命という死が与えられることになりました。<br /><br />　ジグソウは自らを神に等しい存在と考えていました。命を無駄にしている者たちへ制裁を与える神。その神を裏切ったアダムには、死の制裁を与えねばなりません。ジグソウはアダムに対して死のゲームを用意しました。結末は死。どうあがいても、アダムには死しか残されていないのです。だから、先に指摘したように、ジグソウのメッセージも、ゴードンに対するものとアダムに対するものでは微妙に違います。ゴードンには「アダムを殺す」という、命の助かる道が明らかに示されている。ゼップにも「ゴードンの妻子を殺す」という道が示されている。これに対し、アダムに対しては具体的に何も示されません。アダムはこのゲームで死ぬことが初めから決まっていました。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382BDE382A62Csaw2C11.jpg" width="280" height="188" border="0" align="" alt="ソウ,saw,11.jpg" /></div><br /><br />★ゴードンに知られてはならない<br /><br />　アダムはゴードンに対して、ゴードンの写真を撮るように依頼してきたのはタップであると告げています。しかし、これは半分の事実しか告げていません。タップ以外にも、ゴードンの追跡を依頼していた人物がいました。それは、ゴードンを次のターゲットと見定めていたジグソウです。アダムは金でジグソウを売りました。アダムはタップに次のターゲットがゴードンであることを教えたのでしょう。だからタップはゴードンの自宅前のマンションの一室を借り、ゴードンの動静を窺っていました。タップがゴードン宅前で張り込みをしていたのは、ゴードンがジグソウではないかと疑っていたからではありません。ジグソウの次のターゲットであるゴードンを見張っていれば、ジグソウが姿を現すと踏んでいたからです。<br /><br />　また、アダムがテープレコーダーをゴードンに渡すのを渋ったのもここに理由があります。アダムのテープには何が吹き込まれているか分かりません。ジグソウの共犯者であったことがばれてしまう内容が吹き込まれているかもしれない。仮にそうなら、アダムはテープの再生を停止し、ゴードンに聞かせないようにする必要がありました。だから、何かと理由を付けて、アダムはゴードンにテープレコーダーを渡さなかったのです。しかし、その心配は杞憂に終わりました。テープの内容だけでは、アダムがジグソウと共犯関係にあったことを推測するには足りません。だから、アダムはテープの再生後に、ゴードンに再びテープレコーダーを要求されたときには素直に渡したのです。<br /><br />　アダムは絶対に、ゴードンに対して、自分がジグソウの共犯者であることを知られてはなりませんでした。もし、ばれてしまえば、ゴードンは躊躇なくアダムを殺す恐れがあったからです。アダムは最後までこの秘密を守り切りました。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382BDE382A62Csaw2C8.jpg" width="284" height="208" border="0" align="" alt="ソウ,saw,8.jpg" /></div><br /><br />★ゼップ<br /><br />　病院の清掃係、あるいは雑用係のゼップ。彼もまた、ジグソウのゲームに招かれた一人でした。ゼップの巻き込まれたジグソウのゲームは、ゴードンの妻子を殺せ、さもなければゼップは死ぬ、というもの。しかし、アダムが途中でテープレコーダーを止めてしまったため、再生されるテープのメッセージが聞けるのはここまでです。「ただし、ルールがある…」とジグソウは続けていました。ゼップがゴードンの妻子を殺す場合には何らかの条件が付されていたことが推測できます。ではそのルール、あるいは条件とは何だったのでしょうか。<br /><br />　まず、1、ゼップが妻子を殺すのは6時以降であること、です。これはゴードンのゲームで、アダムを殺す期限が6時以降に設定されていたことに由来します。さらに、2、ゴードンの妻子殺害はゴードンがアダムを殺せなかったときに限る。そして、3、ゴードンがアダム殺害に失敗したときは、ゼップは妻子及びゴードンを殺さねばならない。というルールだったと思われます。<br /><br />　そうであるとするならば、ゴードンを射殺しようとしたゼップの「遅すぎる…それがルールだ」という言葉も難なく説明できます。「遅すぎ」たのはアダムを殺すというゴードンの決断のことでした。<br /><br />　また、ゼップはゴードンの妻子を殺そうとしてあえなく失敗しています。彼は逃げる妻子を追いかけるものの、すぐにあきらめ、ゴードンのもとへと急ぎました。しかし、仮に、ゴードン殺害に成功したとしても、ゼップは妻子の殺害に失敗しており、どのみちジグソウのルールに反しています。しかも、妻子を放っておけば、警察に通報されてしまうでしょう。それにも関わらず、ゼップがゴードンを殺害することを優先したのはなぜでしょうか。<br /><br />　それは、なにより、ゼップ自身の命を助けるためです。恐らく、ゼップはこう、ジグソウから脅されていました。「お前の体は遅行性の毒に侵されている。時間が経てば、死ぬ。ルールに従えば、解毒剤をやろう」。ゼップには警察に通報されるかどうか以前に、毒による命の危険が迫っていました。<br /><br />　さて、この解毒剤の場所が問題でした。解毒剤を持っているのはゼップに毒を盛ったジグソウです。ゼップはあらかじめ、いざというときにゴードンを殺せるように、ジグソウからゴードンの監禁場所を聞かされていました。さらに、これまでのジグソウの犯歴を考えれば、ジグソウ本人はゲームの現場にいて、状況の進行を生で見ているはずであることが容易に推測できます。すなわち、ゴードンのいる場所にジグソウはいる。そう考えたゼップは、ゴードンを殺して解毒剤をもらうために、妻子の殺害を早々にあきらめ、ゴードンの監禁場所へと急いだのです。<br /><br />　ゼップがゴードンの妻子の殺害をあっさりあきらめたのは、ゴードンのアダム殺害が失敗した今、ゴードン殺害が必須条件になったからです。ジグソウが見ているはずの監禁場所でゴードンを殺せば、妻子の殺害失敗がジグソウに知られる前に解毒剤を得られるはず、そうゼップは考えました。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382BDE382A62Csaw2C19.jpg" width="308" height="209" border="0" align="" alt="ソウ,saw,19.jpg" /></div><br /><br />★ゼップの心理<br /><br />　ゼップはこのゲームを楽しんでいました。ゴードンの家に侵入し、アリソンと娘のダイアナを縛り上げ、恐怖におののく彼女らに銃口を突き付けるゼップはこの状況をたっぷりと楽しんでいました。彼女たちの頬に銃を向けて小突いているゼップは支配する者の優越感をたっぷりと味わっていました。6時が過ぎても、ゼップはすぐには妻子を殺しません。ゼップの口ぶりは死のゲームに怯える被害者には到底見えません。ゼップの顔が画面に映るまで、妻子を監禁しているのがジグソウであるかと疑う人は多かったのではないでしょうか。ゼップはまるで、このゲームを仕掛けた張本人であるかのように、死と恐怖のゲームを楽しんでいました。<br /><br />　ゼップとはどういう人でしょうか。彼の仕事は病院の雑用の仕事です。表に立つことはなく、常に裏方の仕事をやる。医師や看護師から命令され、使われる。また、人はゼップの仕事に対して、あるいはゼップその人に対しても、敬意を払おうとはしません。<br /><br />　それはゴードンの態度からも明らかでした。入院患者を名前で呼ばないゴードンに対し、ゼップは脇から口をはさみます。これに対してゴードンは、「当院では雑役係と患者の絆が深い」。これは明らかな嫌みです。場違いな発言をするゼップに対して、ゴードンがいらいらしていることが良く分かります。ゴードンはゼップを無視し、「続ける、患者は…」と相変わらず「患者」という言葉を使って話し続けていました。<br /><br />　このように、ゼップに対して小馬鹿にする態度をとるのは、ゴードンだけではないのかもしれません。医学生に対して実習講義をしている最中に、まったく関係ないことを言いだして横やりを入れるゼップは明らかに場の空気から外れています。ゼップは周囲の人間に溶け込みにくく、人からバカにされやすい性格であることが推測できます。<br /><br />　ゼップはそんな日常が大いに不満でした。誰だって、人からバカにされていると思えば、不快に感じます。ゼップも例外ではありませんでした。不当に低い社会的評価に甘んじ、人から軽んじられているという意識は、彼の精神面に影を落とします。その暗い心はジグソウのゲームにおいて、ゼップから残酷な一面を引き出してしまいました。<br /><br />　縛りあげられ、悲鳴を上げてもがくゴードンの妻子は今や、ゼップの手中にあります。彼の好きにできる。生かすも殺すも、ゼップ次第。いつも支配される側だったゼップが、命令し、支配できる立場に立てたのです。権力を持てない者が、突然に権力を得た快感。ゼップ自身に迫る生命の危機は別にして、ゼップはジグソウのゲームを心から楽しんでいました。<br /><br />　以前から、ゼップはジグソウの事件に注目していました。ゼップが毒に冒されていると信じ込んだのはジグソウが以前にも遅行性の毒という手段を使ったことがあったからです。また、ゴードンの元へ行けば、ジグソウがいるとゼップが思ったのも、ジグソウはゲームの現場をその場で見ていたというこれまでの事件を想起したからです。すなわち、ゼップは自らがゲームに巻き込まれる以前から、ジグソウの事件に興味を持っていたことが分かります。<br /><br />　なぜ、ゼップはジグソウ事件に興味を持っていたのでしょうか。<br />　<br />　それは、ゴードンがジグソウではないかとの嫌疑をかけられたからでした。ゼップのことを軽んじるゴードンに対して、ゼップは日ごろから不満を持っていました。また、優秀な外科医として成功し、妻と娘のいる幸せそうな家庭を持つゴードンに対して妬みも感じていました。しかし、完璧なゴードンの生活に影が差したのが、ジグソウ事件の嫌疑でした。ゼップはうっぷんが晴れる気持ちだったでしょう。そして、ゴードンを陥れようとするジグソウにゼップは興味と親近感を持ったのです。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382BDE382A62Csaw2C5-855d9.jpg" width="284" height="208" border="0" align="" alt="ソウ,saw,5.jpg" /></div><br /><br />★毒は本当にあったのか<br /><br />　本当に、このような遅行性の毒があるかどうかは定かではありません。本当は、ゼップは何の毒にも冒されていなかった可能性があります。しかし、ゼップはジグソウの犯した以前の事件を思い出し、毒を盛ったというジグソウのメッセージを聞いて、毒を盛られたと思い込んだのです。<br /><br />　以前の事件とは、放火犯マークの事件として映画中に取り上げられていたものです。しかし、この事件でも、マークは毒で死んだのではありません。彼は解毒剤を探そうとして失敗し、焼死しています。従って、この事件でも、本当にマークに毒が盛られたのかは定かではありません。<br /><br />　また、ゴードンとアダムの中央に横たわる死体は遅行性の毒に冒され、頭を撃って自殺したとジグソウは告げていました。これは嘘で、死体はジグソウ本人だったのですが、いずれにしろ、毒は盛られていませんでした。<br /><br />　ジグソウの事件では何度も毒が登場します。しかも、決まって、即効性ではなく、遅行性の毒です。しかし、毒によって死んだ者は一人もいません。これにならえば、ゼップの事件にも、遅行性の毒なるものは存在しなかった可能性があると言っていいでしょう。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382BDE382A62Csaw2C6.jpg" width="270" height="198" border="0" align="" alt="ソウ,saw,6.jpg" /></div><br /><br />★狂気の中の生きる希望<br /><br />　「SAW」という映画にはいろいろな謎があります。それは簡単に解けるかもしれないし、あるいは難しい問題かもしれません。しかし、そのいずれを理解するうえでも欠かせないのは、アダムもゴードンもパニックだったという事実です。彼らは突然の監禁に驚愕し、命の危険に怯えていました。さらに、人殺しを命令され、あるいは殺されることを知らされています。そんな中で彼らが取りうる行動は限られていました。<br /><br />　そもそも、片足をつながれ、自由が著しく制限された状況下では、できることは著しく制限されます。片足だけ、というのがポイントです。両手足を縛られ、、文字通り、手も足も出ない状況なら、彼らは脱出することをあきらめ、神に祈ることしかできなかったかもしれません。しかし、拘束されているのは片足だけ。立ち上がることもできるし、一定範囲を歩き回ることもできます。しかも、両手は完全に自由。<br /><br />　ジグソウはこの不自由でいて、完全に動けないわけではない状況を作り出すことでアダムとゴードンに脱出の希望を持たせることに成功しました。逃げることができ「そうな」状況なら、人間はもがきます。しかも、五体満足、ベストな条件で逃げ出すことを望むでしょう。拉致されて監禁されるという、ただでさえ冷静でいられない状況の中で、生き残る希望を持たせ、その希望に向けてもがくしかない状況をジグソウは作り出しました。優秀な外科医であり、長時間の外科手術をこなす理性と冷静さ、そして理性を備えているはずのゴードンですら、我を失ってしまうほどの過酷な環境を作り出すことに成功したのです。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382BDE382A62Csaw2C12.jpg" width="280" height="210" border="0" align="" alt="ソウ,saw,12.jpg" /></div><br /><br />★偽りの神<br /><br />　ゴードンには無傷で脱出できる方法がありました。それはアダムを殺すことです。しかし、ゴードンはアダムを殺すというジグソウの条件を最後まで蹴りました。これはゴードンの譲れない一線でした。彼は医者としては冷静で、合理的な男でした。これは「患者」という呼び方を巡るゼップとの一連のやりとりの中で端的に現れています。ゴードンは医者として有能だったし、優秀な男でしたが、患者は患者としてそれ以上にも、それ以下にも扱う気はありませんでした。<br /><br />　その点は非難されるべきかもしれません。患者もひとりの人間である、と。患者にもっと気を遣うべき、と批判される余地はあります。ただし、ゴードンは人間として、自らに最後まで忠実でした。これは自らの命が脅かされても変わりません。アダムを殺すということは人を殺すということです。人を殺すということは、医者であるという以前に、人間としての倫理性を問われる行為でした。<br /><br />　ジグソウはゴードンに医者としての道徳を問いました。死期の迫った患者にも、人間として生きる権利がある、患者はモルモットではない、と。一方、ゴードンは自らに人間としての道徳を問いました。人間には人を殺す権利はない。<br /><br />　ジグソウの行為はゴードンに対する報復行為でした。確かに、ジグソウには、患者をモノのように扱い、人としての尊厳を認めないゴードンを非難し、不倫していたゴードンの私生活を正し、家族を省みないゴードンに生きるとは何かを知らしめるという意図がありました。しかし、このようなジグソウの目的は報復行為を正当化する後付け論理に過ぎないのではないでしょうか。<br /><br />　ジグソウはこの世に生きる価値のない者たちに生死の意味を知らしめる裁きの神を演じていました。しかし、ジグソウがジグソウになったその契機は死に至る病にかかったこと。その本質は死の病にかかったジグソウの生への執念であり、他人の生に対する妄執です。<br /><br />　死の淵に追い込まれたジグソウは生きることにとり付かれていました。また、自分の残り少ない命を思うと、他に無駄にされている命があるのに、という思いが強くなっていきました。その前提には、自らの命には意義があるというジグソウの自己評価があります。彼は命を与えもするし、奪いもする万能の神を演じることで、残り少ない自己の命に高い意義を見出していました。<br /><br />　生きるべき命が不当に短く、価値のない命が不当に長らえる。これは、世の中の不条理であり、正されねばならない―。ジグソウは他人の生殺与奪を握ることで、その矛盾を正せると思い込んだのです。<br /><br />　人には生きる権利があります。そして、自らの人生をどう生きるかの決定権も。その人生における選択に誤りがあったとしても、それがその人の人生です。人生には間違いがつきもの。過ちも愚かさも、全てを包含するところに人生の豊かさはあります。失敗のない人生や、挫折のない人生など、きれいすぎてつまらない。他人がその選択に口を出すことはできる。非難をしてもいい。しかし、間違いを犯した者の人生全てを奪うというかたちで罰することは許されるべきではありません。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382BDE382A62Csaw2C16.jpg" width="286" height="176" border="0" align="" alt="ソウ,saw,16.jpg" /></div><br /><br />★生きる価値のある者<br /><br />　ジグソウにあるのは、自らが正しいという、ある種の醜い思い込みです。ジグソウは死の病に冒され、それがもたらす狂気の渦のなかに沈んでいました。<br /><br />　患者を軽くあしらい、不倫をし、家族を省みないゴードンはジグソウにゲームを仕掛けられるまで、決して褒められた男ではありませんでした。ジグソウはそのようなゴードンに憤怒して今度のゲームを仕掛けたのですが、それは皮肉にもゴードンの真髄を明らかにしました。彼は自己が生きるためだけに他人の命を犠牲にしなかったのです。<br /><br />　ゴードンもアダムも死を前にしてパニックでした。ジグソウは前頭葉をガンに冒され、偏執的な生への執念のとりこになっていました。タップは相棒のシン刑事をジグソウに殺され、復讐心とジグソウへの執念に凝り固まっていました。SAWの人々は皆、精神的に何らかの恐慌状態にあったのです。しかし、狂っているのとパニックになっているのは違います。狂気のなかでも、一線を踏み越えられずにいられた者は最も生きるに値します。<br /><br />　ジグソウは死の恐怖を他人に転嫁し、タップはジグソウ逮捕への執念に絡みとられ、ゼップはジグソウのゲームにより暴力性を開花させました。<br /><br />　その中で、ゴードンは踏みとどまりました。彼は生きるに値する価値がある者でした。しかし、皮肉なことにも、ゴードンはジグソウのゲームによって、命と引き換えにようやく自らの価値を知ることとなったのです。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E382BDE382A62Csaw2C23.jpg" width="300" height="221" border="0" align="" alt="ソウ,saw,23.jpg" /></div><br /><br /><span style="font-size:x-small;"><div style="text-align:center;">ALL pictures in this article from this movie belong to Lions Gate Films Inc..</div></span><a name="more"></a>

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<title>ブロークバック・マウンテン</title>
<description>映画：ブロークバック・マウンテン あらすじ※レビュー部分はネタバレあり　1963年、アメリカ・ワイオミング。ブロークバック・マウンテンでの仕事にジャック・ツイストとイニス・デル・マーという二人の若者が雇われた。二人はこの山で過ごすうち、互いに愛情を持つようになる。やがて、季節が過ぎ、山での仕事が終わった二人は再会を約束することなく別れた。互いに結婚し、家庭を持った二人はそれぞれの人生を歩み始める。子供も生まれ、日常の生活に追われる日々を送っていたイニスだったが、ある日、ジャッ..</description>
<dc:subject>『は行』の映画</dc:subject>
<dc:creator>なお</dc:creator>
<dc:date>2010-10-02T20:30:59+09:00</dc:date>
<content:encoded><![CDATA[
<strong><span style="font-size:large;">映画：ブロークバック・マウンテン あらすじ</span></strong><br />※レビュー部分は<strong>ネタバレ</strong>あり<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38396E383ADE383BCE382AFE38390E38383E382AFE383BBE3839EE382A6E383B3E38386E383B32CFOCUS20FEATURES.jpg" width="193" height="283" border="0" align="" alt="ブロークバック・マウンテン,FOCUS FEATURES.jpg" /></div><br /><br />　1963年、アメリカ・ワイオミング。ブロークバック・マウンテンでの仕事にジャック・ツイストとイニス・デル・マーという二人の若者が雇われた。二人はこの山で過ごすうち、互いに愛情を持つようになる。やがて、季節が過ぎ、山での仕事が終わった二人は再会を約束することなく別れた。<br />互いに結婚し、家庭を持った二人はそれぞれの人生を歩み始める。子供も生まれ、日常の生活に追われる日々を送っていたイニスだったが、ある日、ジャックからの4年ぶりの手紙を受け取る。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38396E383ADE383BCE382AFE38390E38383E382AFE383BBE3839EE382A6E383B3E38386E383B3.20.jpg" width="206" height="280" border="0" align="" alt="ブロークバック・マウンテン.20.jpg" />　　　<img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38396E383ADE383BCE382AFE38390E38383E382AFE383BBE3839EE382A6E383B3E38386E383B3.19.jpg" width="206" height="280" border="0" align="" alt="ブロークバック・マウンテン.19.jpg" /></div><br /><div style="text-align:center;"><span style="font-size:x-small;">イニス・デル・マー(ヒース・レジャー)　　　/　　　ジャック・ツイスト(ジェイク・ギレンホール)</span></div><br />　イニス・デル・マーを演じたのはヒース・レジャー。ヒースは2008年に「ダークナイト」でジョーカーを演じた。狂気と哀しみを内に秘めたジョーカーと、イニス・デル・マーの役柄は全く違うように思えるが、両者に共通するのは、追い詰められ、ぎりぎりの淵に立たされた人間の苦悩である。ヒースは「ブロークバック・マウンテン」で、ジャックとの愛に揺れる青年の葛藤と苦悩を繊細に演じることに成功した。28歳にして夭折した彼の才能は惜しいというだけでは言葉足らずだ。<br /><br />　ジャック・ツイストを演じるのはジェイク・ギレンホール。「遠い空の向こうに｣(1999)では、宇宙ロケットを作るため、失敗を繰り返しながらも仲間と夢を追いかける少年を演じていたことが印象的だった。それから6年後、「ブロークバック・マウンテン」でイニスへの愛と現実の激しい落差に追い込まれていく青年の不安定な心理を絶妙な演技で魅せてくれ、演技派俳優として目覚ましい成長を遂げた姿を披露している。<br /><br /><a href="http://eiga-kaisetu-hyouron.seesaa.net/article/170421602.html" target="_blank">■「ドニー・ダーコ」『解説とレビュー』はこちら</a><br /><a href="http://eiga-kaisetu-hyouron.seesaa.net/article/128776341.html" target="_blank">■「遠い空の向こうに」『解説とレビュー』はこちら</a><br /><br /><p><br /><iframe src="http://rcm-jp.amazon.co.jp/e/cm?lt1=_blank&bc1=FFFFFF&IS2=1&bg1=FFFFFF&fc1=ADADAD&lc1=ADADAD&t=naokonh-22&o=9&p=8&l=as1&m=amazon&f=ifr&asins=B000EXZA1W" style="width:120px;height:240px;" scrolling="no" marginwidth="0" marginheight="0" align="left" frameborder="0"></iframe><br />【映画データ】<br />ブロークバック・マウンテン<br />2005年(日本公開2006年)・アメリカ<br />監督 アン・リー<br />出演 ヒース・レジャー,ジェイク・ギレンホール,<br />アン・ハサウェイ,ミシェル・ウィリアムズ,ランディ・クエイド,<br />リンダ・カーデリーニ,アンナ・ファリス,ケイト・マーラ<br /><br clear="left"/></p><br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38396E383ADE383BCE382AFE38390E38383E382AFE383BBE3839EE382A6E383B3E38386E383B3.17.bmp" width="320" height="180" border="0" align="" alt="ブロークバック・マウンテン.17.bmp" /></div><br /><br /><strong><span style="font-size:large;">映画：ブロークバック・マウンテン 解説とレビュー</span></strong><br />※以下、<strong>ネタバレ</strong>あり<br /><br />★理想郷、ブロークバック・マウンテン<br /><br />　現実と理想。その二つが完全な一致をみせることはまず、ありません。現実と理想のはざまに落とされ、叶えられぬ夢を見て苦悩する日々。イニスとジャックの二人もその苦しみを味わった者たちでした。<br /><br />　ブロークバック・マウンテンには蒼く連なる峰々があり、人を遠ざける深い森があり、とうとうと流れる川がありました。外界から閉ざされた美しい自然のなかで、若者たちはブロークバック・マウンテンという一つの幻想を見ました。それは儚い夢のようで、掴みどころのないもののようでありながら、現実世界に生きる彼らを縛りつけ、苦しめる、断ち難い苦難の鎖ともなりました。「夢」や「理想」、そして何より「愛」をブロークバック・マウンテンに置き去りにせざるを得なかった二人の目の前には「現実」という高い壁が立ちふさがったのです。<br /><br />　ブロークバック・マウンテンには自由がありました。純粋さ、美しさ、現実からの解放…母なる大地は二人にありのままの自分でいることを赦し、全てを包みこんで受け入れてくれました。外界から隔絶されたこの地だけでは全てのくびきから解放され、イニスとジャックは自らの感情に対して素直になることができたのです。ブロークバック・マウンテンでは、いわゆる「常識」は存在しません。既成概念から解放されたこの世界では、自らの振舞いが妥当であるかどうかは他人に判断されることはなく、自らの心だけが自分自身を先導していくことができるのです。イニスとジャックの関係が世間的にどう評価されるか、それが許される関係なのかを全く考慮する必要がなく、ただ、純粋な気持ちのままに生きることのできる世界、それがブロークバック・マウンテンでした。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38396E383ADE383BCE382AFE38390E38383E382AFE383BBE3839EE382A6E383B3E38386E383B3.10.jpg" width="250" height="216" border="0" align="" alt="ブロークバック・マウンテン.10.jpg" /></div><br /><br />★既成概念の支配する世界<br /><br />　しかし、このありえないほどの自由な感覚は山を降りたイニスとジャックにある種の恐慌状態をもたらしました。それは不安や恐怖でした。山を下りれば、そこは社会の目が光る現実の世界です。イニスとジャックの関係が一体、どのように評価されるかは誰かに聞くまでもなく、明らかなことでした。山を降りた2人は、恐ろしい秘密を抱え込んでしまったことに気が付いたのです。この今まで経験したことのない不安にどのように反応し、対処するかはイニスとジャック、それぞれに異なっていました。イニスは常に抑制的、ジャックはより素直な反応を見せました。その違いはやがて、二人にすれ違いを生じさせていきます。<br /><br />　山を降りた地上の世界はブロークバック・マウンテンとは正反対の世界でした。この世界には、「常識」なるものが存在し、既成概念の枠から外れた者は容赦なく断罪されます。1960年代、保守的で閉鎖的なアメリカの田舎町で、イニスやジャックのような同性愛の関係に対する風当たりは強く、同性愛者は孤独感や疎外感を味わうのみならず、はては生命の危険すら覚悟しなくてはなりませんでした。<br /><br />　イニスやジャックには「男性」という枠の中でのみの自由が許されていました。男らしい振舞いや嗜み、行動が要求され、｢家族」という枠組みの中でも夫、あるいは父親として生きることが要求されます。自分の振舞いがその枠から外れてはならない。この枠組みに忠実であろうと努力したのはイニスでした。彼はカウボーイという自らの選んだ職業に忠実であり、家族に対しては良き夫、良き父親であろうと努力していました。しかし、その努力を重ねるたびに、イニスの心は悲鳴をあげていました。世間的に見て良き男性であろうとするために、イニスは最も痛烈で、真摯な感情を押し殺していたからです。<br /><br />　それは、愛でした。ジャックへの感情は紛れもない愛でした。その感情はとても自然で、嘘偽りのないもの。純粋で無垢な愛でした。しかし、世間はその「愛」という感情にまで枠をはめようとします。同性同士の愛は世間一般の「愛」の既成概念からは大きく外れるものでした。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38396E383ADE383BCE382AFE38390E38383E382AFE383BBE3839EE382A6E383B3E38386E383B3.7.jpg" width="284" height="208" border="0" align="" alt="ブロークバック・マウンテン.7.jpg" /></div><br /><br />★「自由」な社会<br /><br />　アメリカは自由の国であることを国是としています。自由な国において、人には自由に生きる権利があるはずです。とりわけ、「愛」という人間の生存において最も核心的な感情の部分においては。しかし、社会には倫理、道徳、あるいは常識と呼ばれるものが存在しています。その枠におさまっている限りでは自由を享受できますが、既成の枠からはみ出す者に対しては有形無形の容赦ない非難が加えられることになります。<br /><br />　社会の多数派に共有されている既成概念から外れた者は少数派です。少数派に対しては多数派から偏見の目が寄せられ、それは少数派に対する差別感情へと発展していきます。かくして、蔑まれた少数派には社会的、あるいは実力による制裁が加えられ、少数派は排除されるのです。これはある社会的な集団において保持されるべき既成の価値観を守るために起こる、一種の"浄化作用"といってもいいでしょう。<br /><br />　社会は例外を好みません。なぜなら、既成の枠からはみ出た例外の存在は既成の枠内にいる多数派を混乱させ、不安にさせるからです。一般に言う、「自由な社会」には限界があり、「自由」の定義は思っているよりも、狭いのです。<br /><br />　これはアメリカ社会に限った話ではありません。どの社会、コミュニティにも程度の差はあれ、当てはまる話です。確かに、時代、あるいは場所によって、「自由」の定義は変わるでしょう。1960年代初頭を時代背景に持つ「ブロークバック・マウンテン」では、同性愛の存在すら口にするのがはばかられるアメリカの田舎町が舞台になっています。しかしながら、現在では同性愛そのものの存在は認められ、そこから一歩進んだテーマが議論の対象とされるようにはなってきています。同性愛者の存在すら、社会的には認められなかったイニスやジャックの時代とは変わってきたといえるでしょう。<br /><br />　このように、時代によって「自由」の定義が変わりはすれど、世間一般で容認される「自由」はあくまで、予測可能な範囲においてのみ、です。人は予測不可能な選択肢の可能性を認めようとはしません。社会は急激な変化を好みません。既成の価値観が覆される恐怖や、未知の可能性に対する恐怖は想像しやすく、世間一般に漠然と共有されやすいからです。<br /><br />　今では、同性愛者の存在を前提にして、その受容の程度についての議論が起きています。同性愛者の法的な結婚を認めるか、同性愛者のカップルが養子をもらうことを認めるべきか…。法律婚あるいは養子といった問題は多数派の異性愛者に取って、「普通でない」事態です。これまでなら、ありえない、想定外の出来事です。同性愛者の結婚・養子といった選択肢はまだ、多数派の人々の不安をかきたてます。この意味において、既成の価値観の持つ重み、それが揺らぐことで社会に与える強い影響はジャックやイニスの時代と何も変わっていません。<br /><br />　イニスやジャックの時代、同性愛はタブーでした。同性愛については黙して語らず、同性愛者であることを公言することは社会的な死を意味していました。同性愛に対する理解や認容度は低く、同性愛を認めるという選択肢は世間一般の選択肢にすら、なってはいなかったのです。時代は下り、欧米では同性同士の法律婚の是非が議論されるに至っています。カリフォルニア州では2008年6月から同性婚が可能となりましたが、その後、同性婚の是非を問う住民投票が行われ、同年11月に同性婚反対派が勝利しました。その後、再度の住民投票を仕掛ける同性婚賛成派の動きもあり、状況は流動的です。<br /><br />　人々の選択肢の中に、少なくとも、同性愛の是認という選択肢は入ってきたといってもいいでしょう。同性愛の存在、そしてその容認という点については人々が予測しうる射程に入り、「自由」の一つとして認められうるということです。しかし、その先の法律婚となると、まだ二の足を踏んでしまう。一般的な「自由」に対する思考の中に、同性法律婚はまだ、選択肢には入っていないからです。<br /><br />　「ブロークバック・マウンテン」は同性愛をテーマにした映画です。しかし、この映画の主眼は「自由そうでいて、実は不自由な社会」、に向けられています。「自由な社会」で許される自由は実はとても狭いのだ、ということを自覚しないまま、その既成の枠の中で生きることに満足している人間のどれだけ多いことか。「ブロークバック・マウンテン」は既成の価値観が疑われないままの「自由な社会」に対して一石を投じています。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38396E383ADE383BCE382AFE38390E38383E382AFE383BBE3839EE382A6E383B3E38386E383B3.8.jpg" width="315" height="231" border="0" align="" alt="ブロークバック・マウンテン.8.jpg" /></div><br /><br />★叶えられた夢、そして崩壊<br /><br />　ジャックは金を稼いで独立するためにブロークバック・マウンテンに働きに来ていました。彼の父は元ロデオの人気選手で、ジャックもロデオの選手です。イニスはカネを貯めてアルマと結婚するための資金にしようと働きに来ていました。彼は兄も結婚し、居場所がない、と語ります。ジャックも、イニスも、現実世界では肩身の狭い思いをしている男たちでした。カネはなく、社会的な地位もなく、稼げる仕事口もない。彼らが口にする「独立」あるいは「結婚」は自らに「男」としての社会的なステイタスを与えるために社会一般に必要とされる典型的な人生の道しるべです。ジャックもイニスも、独立、あるいは結婚という目標を口にすることで、現在の自分をなんとか社会の枠内に位置づけようとしていました。<br /><br />　この言葉通り、後にイニスはアルマと結婚し、子供をもうけます。ジャックもラリーンと結婚し、彼女の実家の事業に携わるようになりました。しかし、安定したはずの彼らの暮らしは徐々に崩壊していきます。ブロークバック・マウンテンに来た時に語っていた夢はそれぞれが叶えたはずなのに、その夢は二人を幸せにできなかったのです。<br /><br />　2人のすべてはブロークバック・マウンテンにありました。あの山で過ごした日々が彼らの真実でした。その感情に背いて行動しても、どこかに無理があり、きしみが生じてきます。テキサスの牧場主になるというジャックの計画にはイニスと別れるという本意とは正反対の決断が必要でした。たとえ、ジャックがその決断をしたとしても、ラリーンとの結婚の二の舞になるだけで、やはり、またイニスのもとへ、ブロークバック・マウンテンのもとへと帰ってくるのではないでしょうか。本音を押し隠しつつ、それと異なる気持ちを装っても、また失敗するだけ。<br /><br />　ジャックの亡き後、ジャックの父親はイニスに、ジャックがテキサスに牧場を持っている男と牧場の経営を一緒にするという計画を持っていたと語り、「あいつの考えはいつも中途半端に聞こえる」と言っていました。ジャックは本当にイニスと別れてやり直すつもりだったのか。<br /><br />　「中途半端に聞こえる」ジャックの話は、彼自身が心のどこかで、その話が実現しないものであることを理解していたからでした。同性愛に対する風あたりの強い当時の状況下において、男2人で経営する牧場の夢が実現しないことは、その相手が例え、イニスであっても、テキサスの男であっても同じでした。ジャックにとって、愛する人と暮らし、共に牧場を営む夢は永遠に実現しない夢であり、それを知って語る夢であったのです。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38396E383ADE383BCE382AFE38390E38383E382AFE383BBE3839EE382A6E383B3E38386E383B3.14-359eb.jpg" width="278" height="206" border="0" align="" alt="ブロークバック・マウンテン.14.jpg" /></div><br /><br />★「強い男」としての理想像―カウボーイ、ロデオ、そして父親<br /><br />　ジャックの部屋にはカウボーイの置物が置かれていました。ジャックが子供時代を過ごした部屋に<br />置かれた小さな置物。これはジャックの男らしさへの憧れであり、男性としてこうあるべきというステレオタイプが具象化された置物でした。<br /><br />　カウボーイという職業は男性を強く意識させる職業です。カウボーイハットを被った男が颯爽と馬にまたがり、草原を駆け抜ける…カウボーイのイメージは男らしさを集約しています。ジャックの父親はロデオの人気選手でした。荒々しく跳ねる馬を乗りこなすロデオもやはり、男性を強く意識させる競技です。そして、その競技で栄誉を得た父親はジャックにとって強い影響力を持つ存在であり、男性としての理想像でした。<br /><br />　ジャックが無意識だったにせよ、彼の成長過程には父親という存在が強い影響を及ぼしていました。ジャックは常に父親のように、あるいは父を越える"男らしさ"を求めて成長してきました。しかし、父親にならってロデオに出るようになっても父親はジャックに関心を向けず、父子関係は冷え込んでいます。これはジャックがロデオで優勝し、金持ちの娘と結婚し、独立の夢へと近付いても同じでした。<br /><br />　父親のように、と思い、その理想に近づいても認められないジャックは報われない思いをしてきたでしょう。同時に、男らしさのイメージとかけ離れた、同性愛者であるという事実はジャックに父親への裏切りにも似た気持ちを抱かせました。父親はジャックの死後、「あいつの話はいつも中途半端に聞こえる」と語りますが、これはジャック自身の問題のみならず、父親が息子に対して十分な信頼を置くことができなかったことにも由来しています。父親はジャックに対して、常に懐疑的でした。<br /><br />　また、父親は息子が同性愛者であるという事実に直面することを拒んでもいました。これは父親とジャックの関係を決定的なものにしました。結局、父親への憧れ、あるいは押し付けられた男性としての理想像はジャックの感情を圧迫していきました。ジャックは死後に家の墓に入ることを望みませんでした。それは、ありのままの自分を受け入れてくれない父親に絶望していたからです。ジャックは一番自分らしくいられる場所がどこであるかを分かっていました。<br /><br />　父親はジャックの遺言を受け入れず、遺骨をブロークバック・マウンテンへ散骨することを許しません。父親にとって、イニスとの思い出のあるブロークバック・マウンテンは息子を変えてしまった憎むべき地です。ブロークバック・マウンテンへの散骨を認めることは、父親がジャックが同性愛者であることを認めたことになる―彼は彼は息子が死んだ後も、「男」であることを息子に望んだのです。<br /><br />　これはイニスも同様でした。イニスは幼いころ、父親に、父親が殺したとおぼしき同性愛者の男の死体を見せられ、「男」としてあるべき姿を父親に見せつけられます。イニスの父は、"同性愛者を断罪する強い男"、あるいは"良き社会秩序を守る男"を男らしさとしてイニスに提示しました。イニスは父の示したこの男性像に縛り付けられ、成長していきます。イニスの父も、ジャックの父と同様、息子に"男らしさ"を求めていました。<br /><br />　共に、強い男性像を理想として成長し、"男らしさ"の象徴たるカウボーイという職業を選択したイニスとジャック。自らを"男らしさ"に縛り付けるようにして生きてきた二人は、ブロークバック・マウンテンというこの外界から閉ざされた地において、初めて本物の自分自身に向き合うことができたのです。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38396E383ADE383BCE382AFE38390E38383E382AFE383BBE3839EE382A6E383B3E38386E383B3.4.jpg" width="284" height="208" border="0" align="" alt="ブロークバック・マウンテン.4.jpg" /></div><br /><br />★現実と理想、二人の選択<br /><br />　しかし、山から下りた現実の社会は無情でした。事務所の駐車場で立ち話をするイニスとジャックには二人を吹き飛ばさんばかりの強烈な風が吹き付けています。この風はこれからの二人に対する世間の風当たりの強さを象徴しています。イニスはアルマと結婚し、子供をもうけるものの、仕事や家事、育児、金のやりくり、慣れない土地での生活に追われることになりました。ジャックはロデオで優勝し、金持ちの娘と結婚するものの、義父には嫌われ、なかば使用人のような扱いを受けます。<br /><br />　現実に疲れた彼らは再び、ブロークバック・マウンテンへと戻ってきました。あの理想郷は今度も彼らを優しい包容力をもって迎えてくれます。しかし、この関係は世間に明らかにされてはならない関係でした。山を下りれば待ち受けている厳しい現実。理想と現実、落差の激しい二つの世界の繰り返しに、イニスもジャックも疲れ始めます。しかし、二人はこの現状をどうすることもできませんでした。彼らはこの苦しみから逃れるために、現実世界で別の愛情関係を作ろうとします。イニスは酒場で出会った女と、ジャックはテキサスに牧場を持つ男と。しかし、その結末は失敗が目に見えているものでした。<br /><br />　イニスとジャックの別れは突然でしたが、これは予見されていたものでもありました。常々、二人の関係について「どうしようもない」と言っていたイニス。ジャックも、そんなイニスをなじりつつも、現状を「どういしようもない」ことが分かっていました。現実を生きる自分と、理想を生きる自分。この乖離に悩まされたイニスは、「あなたは誰なの」となじる女性の恋人に「最初からこうならなければ良かったと思うだろ？」と問い返します。しかし、これは彼女に向けられた言葉ではなく、イニス自身に投げかけた言葉でした。<br /><br />　ジャックとの関係が最初からなかったならば、これほど苦しむことはなかったかもしれない…社会が押し付けてくる決まり切った価値観から逃げ出す心づもりができない限り、このジレンマから逃れられる術はありません。イニスにはその覚悟はありませんでした。しかし、結局イニスはジャックに葉書を出します。かつて、ジャックが葉書をよこして、離れていた二人を結びつけたように、イニスは二人の気持ちを再び結びつけようとしたのです。<br /><br />　返ってきたのはジャックが死んだという知らせでした。イニスはすぐさま、真相を悟ります。ジャックは殺された、恐れていた悲劇が起きた…。<br /><br />　しかし一方で、これは予測された悲劇でもありました。同性愛者であることを隠そうとしなければ、命を狙われる恐れがあることはイニスが一番よく分かっていました。ジャックもイニスも同じように悩み、ジャックは同性愛者である自分自身に正直であることを選びました。その代償が命になるかもしれないことは、覚悟していたでしょう。一方、イニスは現実を優先しました。彼はジャックとの関係を大っぴらすることはできませんでした。実直なイニスは子供のため、生きることを望みました。二人はそれぞれに悩み、それぞれの決断を下したのです。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38396E383ADE383BCE382AFE38390E38383E382AFE383BBE3839EE382A6E383B3E38386E383B3.2.jpg" width="315" height="231" border="0" align="" alt="ブロークバック・マウンテン.2.jpg" /></div><br /><br />★「何も変わらない」、イニスの誓い<br /><br />　ジャックの部屋には、二人が出会ったときに着ていた服が残されていました。ジャックのブルージーンズ地のシャツの下にはイニスがブロークバック・マウンテンで無くしたはずのシャツがかかっていました。イニスはこの服をジャックの母親からもらい受け、自宅へと持ち帰ります。息子とイニスの関係を理解していたジャックの母親はこの服をイニスに持っていてもらうことを望みました。彼女がイニスにジャックの部屋を見ていくように、と遠慮がちながらも熱心に勧めたのはそのためでしょう。<br /><br />　この重ねがけされた2枚のシャツはジャックの真意、イニスに対する愛情の現れでした。小さなトレーラーで暮らすイニスはクローゼットのドアの内側に、ブロークバック・マウンテンの写真とともに重ねた2枚のシャツをかけています。<br /><br />　結婚の報告に来た娘を見送ったあと、外に誰もいないか確かめてから、クローゼットを開け、「ジャック、俺は誓うよ」と呟くイニス。ジャックのシャツの上に、自分のシャツを重ねてあるのは、真実、イニスを愛していたジャックへの返答でしょう。二人がここまでくるのにはあまりに多くの出来事がありました。しかし、それらの出来事を全て捨象してしまえば、残るのは裸の真実ひとつのみ。<br /><br />　それは、ジャックがイニスを愛し、イニスがジャックを愛したということです。現実世界の様々な出来事に目を曇らせ、ときに見失ってしまいそうになる愛。しかし、ブロークバック・マウンテンでは二人は素直な自分に向き合うことができる―シャツとともに掲げられたブロークバック・マウンテンの写真は今こそ真実の愛を掴んでいるというイニスの心、そして二人の心はブロークバック・マウンテンに共にあるというイニスの心を意味しています。<br /><br />　かつて、「俺たちはどうなる？」と尋ねたジャックに「何も変わらない」と答えたイニス。ジャックの死後も、二人の愛は明かされることはなく、何も変わらない日常が流れていきます。イニスはジャックのシャツやブロークバック・マウンテンの写真を誰にも見られないように、非常に気を配っていました。二人の関係はずっと秘められたまま、時が過ぎていくのみです。当時のジャックはこのイニスの態度に耐えきれませんでした。しかしイニスには、二人が平穏なときを一緒に過ごすためには、現状を変えることはできないことが分かっていたのです。<br /><br />　結末、イニスがジャックに誓ったのは、永遠の愛情であり、そしてまた、自らの決断の通りに生きるということです。そのために、イニスがジャックへの愛情を押し隠して生きなくてはならないとしても、自らの決断を変えることはないでしょう。「何も変わらない」のはジャックに対する愛情であり、その愛情を内に秘めて生きるというイニスの決断であるのです。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38396E383ADE383BCE382AFE38390E38383E382AFE383BBE3839EE382A6E383B3E38386E383B3.13.jpg" width="320" height="240" border="0" align="" alt="ブロークバック・マウンテン.13.jpg" /></div><br /><br />★「幸せな」人生<br /><br />　何も知らなければ、そのまま、生きていくことができるでしょう。ジャックもイニスも、ブロークバック・マウンテンを知らなければ、自らの生活に何ら疑問を抱くことなく、一人の男として、平凡な人生を送っていたかもしれません。<br /><br />　それとも、このような考え方は間違っているでしょうか。「一人の男の幸せな生活」を勝手に規定して、一定の枠の中に縛り上げてしまっている社会一般がおかしいのではないでしょうか。平凡な人生といいますが、彼の人生が「平凡」であるかどうかを一般的に判断してしまうのはあまりにおこがましいといわねばなりません。<br /><br />　「平凡で幸せな男の人生」とはすなわち、仕事に就いて、結婚して、子供をもうけて、やがて孫に囲まれて老いていくという人生を暗に指しているように思います。そのような、人生を送ることが幸せであるかのように言ってしまうのは、やはり、「平凡な人生」＝「幸せな人生」という図式を無意識のうちに頭の中に描いているからでしょう。<br /><br />　今あるものに満足し、何の疑問も持っていなければ、絵にかいたような人生を「幸せな」人生として思い浮かべることができます。しかし、今の社会に疑問を持ち、苦痛を感じるようになってしまったイニスとジャックには「幸せな」人生を思い描くことは困難なことでした。<br /><br />　イニスとジャックは互いへの愛情を内に秘めながら、既成の価値観に縛られたこの社会で生きるうえで、それぞれの選択をしました。それは、それぞれがそれぞれに、「幸せな」人生を求めた結果でした。<br /><br />　イニスは不自由であっても、社会の枠内で生きることを望み、ジャックはその生き方を望みませんでした。ジャックは既成の価値観を否定し、それから逃れようともがいていました。一方で、イニスは社会が押し付けてくる価値観を受け入れようとしました。それは双方にとって苦しみでした。ジャックは逃げるために苦しみ、イニスは受け入れるために苦しんだのです。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38396E383ADE383BCE382AFE38390E38383E382AFE383BBE3839EE382A6E383B3E38386E383B3.18-184eb.jpg" width="313" height="199" border="0" align="" alt="ブロークバック・マウンテン.18.jpg" /></div><br /><br />★多数派の"制裁"<br /><br />　この映画はイニスの選択、ジャックの選択のいずれも否定していません。この映画が非難の目を向けるのは、既成の価値観を受け入れるか否かの苦渋の選択を迫り、さらに選択を"誤った"者に対して制裁を加える社会の在り方に対して、です。既成の価値観を受け入れることを拒んだジャックに対しては死という容赦ない裁きが下されました。この「死」には文字通り、ジャックのように命を奪われることもあれば、社会的な「死」を意味することもあるでしょう。<br /><br />　社会的な「死」とは、地域コミュニティから分断され、あるいは家族、親からもつながりを断たれるということです。同性愛者であることが知られ始めたジャックは町の酒場で冷たい対応をされ、蔑みの視線を向けられていましたし、後で分かることですが、父親は同性愛について強い拒否感情を持っていました。<br /><br />　2010年9月末、アメリカニュージャージー州で男子学生が自殺する事件が起きました。彼は同性愛者で、ルームメートに恋人と会っているところを盗撮され、映像をネット上に公開されたのが原因とみられています。<br /><br />　ルームメートは自殺した学生に制裁を加えたのです。ネット上で彼の盗撮映像を視聴した不特定の人々と共に。自殺した学生は1人の人間として生きる権利を持っていました。彼には愛する権利もありました。その彼の人生をゲームでもするかのように弄び、葬ってしまったことに対して、盗撮した学生、それを楽しんだ者たちは同様に責任を持たねばなりません。<br /><br />　盗撮をしたルームメートは被害者のことを心底嫌って、このような事件を起こしたわけではないかもしれません。ただ、彼は、同性愛者のルームメートが「自分とは違うところのあるやつだ」と思っていただけかもしれません。同性愛であることを面白おかしく扱う風潮があることは否定できない事実です。そして、そのような感情が生まれるのは、彼らは自分たちとは違う、異質の人間だという意識が心のどこかにあるからです。「自分とは違う」というそのちょっとした感情が寄り集まって多数派を形成したとき、事態がエスカレートしてしまうことがあります。<br /><br />　彼らは、被害者の学生に対して、「懲らしめてやろう」というような気はなかったかもしれません。しかし、結果的には、異質の者に対して、そのプライベートを晒し、社会的生命を断ち、結果的には命を失わせるという"罰"を加えてしまったのです。<br /><br />　社会を構成するのはそこに暮らすひとりひとりの人間です。彼らには、個々人の生き方について、人を裁く権利はありません。分かり切ったことなのに、相変わらず、社会は有形無形の力を行使しようとしたがります。意識的であれ、無意識的であれ、そのコミュニティに暮らす人、ひとりひとりの意識が少数派を裁くのです。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38396E383ADE383BCE382AFE38390E38383E382AFE383BBE3839EE382A6E383B3E38386E383B3.6.jpg" width="315" height="231" border="0" align="" alt="ブロークバック・マウンテン.6.jpg" /></div>　<br /><br />★多数派の"安住"、そして受容<br /><br />　自分の考え方や価値観と異なった人々の中で生活することは予想以上に大変なことです。些細なことですれ違い、いちいち議論する必要が出てきますし、何より、相手が自分の考え方を理解してくれるかどうか、保証の限りではありません。既成の価値観はその面倒な作業を省いてくれます。ある社会で暮らす人々には「暗黙の合意」があり、その社会で醸成された価値観を前提に社会が回る。人間はとても便利で、合理的なシステムを作り上げてきました。<br /><br />　しかし、これはその反面として、システムから外れた者を排除するシステムとしても機能します。システムから外れた、既成の価値観とは異なる考え方や生き方をする彼らを、社会は容易に受け入れることはできません。これまで、安全に機能してきた暗黙の合意が破られ、社会に混沌が生まれるかもしれないからです。今までの暮らしに一応の満足を見ている者たちは変化を望みません。彼らも何らかの不満はあったかもしれないが、それを押し殺して、現在の価値観に順応することで今の暮らしを作り上げてきました。従って、彼らは今ある価値観をぶち壊してまで、新しい価値観を持つ者を受け入れる勇気と気迫に欠けています。<br /><br />　このように、多様性を認めることはとても難しいことです。多数派の中で安住することは実に楽で居心地がいい。これは今も昔も変わりません。そしてこれからもそうでしょう。多数派の"安住"は人間の営みがそこにある限り、ずっと続くでしょう。これを非難することはできません。それが人間社会の在り方として自然なことであり、合理的なシステムでもあるからです。<br /><br />　しかし、多数派と異なる者たちを受け入れる心構えと準備はしておかねばなりません。自分と異なる人々を受容することは不安です。しかし、だからと言って、彼らを理解する努力すらせず、ただ否定し、拒否し続け、あるいは白眼視するだけならば、「ブロークバック・マウンテン」の悲劇は再び繰り返されるでしょう。それがとりわけ、人間の自然な感情に起因するものであるならば、余計に。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38396E383ADE383BCE382AFE38390E38383E382AFE383BBE3839EE382A6E383B3E38386E383B3.16.jpg" width="303" height="177" border="0" align="" alt="ブロークバック・マウンテン.16.jpg" /></div><br /><br />★愛とは、普遍的で、自然なもの…<br /><br />　ある日、トレーラーで一人暮らしをするイニスのもとに、娘が訪ねてきて、結婚の報告をします。一生を共にできる最愛の人を見つけた娘。イニスは彼女を祝福し、結婚式に出席することを約束します。これからの人生に胸を膨らませ、希望に満ちた顔で結婚報告をする彼女の表情とどこか寂しげなイニスの表情の対比は胸に迫ります。<br /><br />　イニスの娘が掴んだ愛はイニスとジャックの愛と何か違うでしょうか？<br /><br />　愛は愛。その普遍的で、自然な感情はすべて尊ばれるべきもの。同じ真摯な愛でありながら、祝福される愛と、そうではない愛があってよいものか。その愛が異性との愛であれ、同性との愛であれ、その真摯な感情にはまったく、差がないはず。<br /><br />　イニスの娘はこれからの人生を愛する人と共に歩み、そして、イニスはジャックの記憶とともに生きていくことになるでしょう。全ての思い出をあの美しい場所、「ブロークバック・マウンテン」に残して…。<br /><br /><div align="center"><img src="http://eiga-kaisetu-hyouron.up.seesaa.net/image/E38396E383ADE383BCE382AFE38390E38383E382AFE383BBE3839EE382A6E383B3E38386E383B3.11-dd407.jpg" width="308" height="206" border="0" align="" alt="ブロークバック・マウンテン.11.jpg" /></div><br /><br /><span style="font-size:x-small;"><div style="text-align:center;">All pictures in this article from ｢brokeback mountain｣ belong to FOCUS FEATURES.</div></span><a name="more"></a>

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